強のはじまり
比呂「この戦いは二度とも完璧に敵を撃退出来たけど、兄貴はこの後どうなると思う?」
二度目の攻勢で完膚なきまでに撃退されたドラゴニア軍は今日はやたらと静かになっていたので、彼らの野営地が一応目視出来る関所跡の横の崖の上で比呂は雅彦に対して言った。
雅彦「このまま、冬まで粘ってもいいんだぜ?
どうせ敵軍はあと二週間もしたら人の食べ物が尽きるんじゃないの?」
地球での中世ヨーロッパでは冬の間は軍の維持が困難なため、本国に戻ったり、食料の調達が比較的楽に行える所で越冬するのが定番であった。
目の前にいる軍隊は正規軍だけで約千人、奴隷などが200人ほどいるのだが、攻めてきた軍の野営地付近では一面の草原が広がるだけの土地なので、馬の牧草の調達は容易かもしれないが、人の食料を現地調達するのは困難に思えた。
比呂「森の中に入れば野生の動物を狩れるかもしれないけど、さすがに千人以上の大所帯を長期間養うのは困難だろうね」
雅彦「奴らの保有してる食料を焼き払うことは出来んのかな?
ヒロの持ってる軍事用ドローンでなんとか出来そうにない?」
比呂「あぁ、俺の『ゲルラッハ』のことな。
あれは最大で20kgもの積載量があるけど、今は農薬に限定されそうだな。
火炎瓶とか搭載しようとするなら、かなり改造しないとダメだわ」
雅彦「なんでゲルラッハなんだ?その厨二病なネーミング、やめーや。
銀○伝に出てくる帝国側の政治家のゲルラッハのことなんか?」
比呂「銀○伝ってなんだ?
違う、違う、鉄血宰相ビスマルクの師匠にあたる人の名前をとってゲルラッハにしてるだけ」
雅彦「マジか、戦略大好きな割に銀○伝知らんのな。
ま、触れないでおこう。
とりあえず撤退を促進させるつもりなら手は二つだけよな。
敵将を56(ころ)すか、食料を焼き払うか」
比呂「そだね。ゲルラッハで爆撃したら、この世界では初の航空機による爆撃で、かつ初の無人攻撃機での爆撃になるね!」
雅彦「でも、それをするには時間が必要、と。
でも、ランクルで敵本陣を直接急襲して敵将や食料を狙うのはかなりのリスクが伴うと言うことだな」
比呂「あぁ、アイアンバール作戦のことな。
あれは乾坤一擲、最後の手段で使いたい必殺の一撃なんで、この場面では使いたくないな。
それよか持久戦に持ち込んで、敵の食料を切れるの待った方がいいわ。
俗に言う処の『ファビアン戦術(遅滞作戦)』な」
雅彦「アイアンバール作戦は最低でも一度は平和な時にでも予行演習しときたいかな。
多分出来るけど。軍事作戦に『たぶん』は無いもんな」
比呂「前線に張り付く兄貴には悪いけど、俺としてはしばらく戦闘を継続してもらいたいんだけどな。
できたら奴らのデータを取りたいから、いろんな戦術を試して欲しいんだよな」
雅彦「今回のはどうだった?」
比呂「火炎瓶があそこまで強力とは正直思わなかったな。
あそこで亡くなっている兵士の大半は火炎瓶による火傷が原因でしょ。
前にも言ったけど、殺すのは目的ではないから今後は使用を極力控えたいな。
だけど、今回みたいに盾を前面に押し出してきて、防衛ラインを突破するために丸太で橋を架けようとする敵には容赦なく使うべきだよな。
丸太や盾、それから今後出てくる可能性のある破城槌を焼き尽くすには火炎瓶は必要だから。
って事で、次回はまた別の新兵器を試したみたいんだが、『例の爆弾』はいつでも使える準備済ませてるよね?」
雅彦「おう、崖の上のパーツボックスに入れてるんでいつでも使えるで。
これを使うのは、やっぱり夜だよな」
比呂「そうだね、夜の方が効果は高くなるけど昼でも最初はかなり効果が高いハズだよ。
上手く使えば、敵の半分くらいは一気に戦闘不能に陥るだろうし、後遺症も残らない非殺傷兵器になるからな。
定期的に敵の真ん中にポンポン放り込んでやるだけで良いので使い易いと思うで。
使い方は火炎瓶と基本的に同じ。
使う時に吸湿剤を入れておいたパーツボックスから取り出して導火線に火を着けて投げるだけだわ。
火炎瓶や手榴弾と違い、敵に当たる必要はないけど、爆弾の方を敵が向いていると効果絶大だわ。
これは次回、早速使ってもらいたいわ」
雅彦「オッケー、オッケー。
それにしても、これはよく思いついたな。
小さいし軽いから火炎瓶より長距離流れるのはいいよな。
オレでも崖の上からだと50メートルは投擲できそうだわ。
まあ、敵の付近で爆発しても必ずしも効く訳ではないってのが少しネックだけど、離れている兵士も油断すると行動不能になるので、要は使い方よなぁ」
比呂「それと、これは数日内で用意するけど、原理的には『新型爆弾』と同じ効果を与える兵器をランクル73に取り付けれるようにするわ。
これはマグネットで取り付けれるので鉄の柵やバンパーなど、付けやすい場所に付けてくれたらいいわ。
こちらは爆発させずにランクルから引っ張ってきた直流24ボルトで動くようにするから期待しといて。
ただ、現状では耐久性が期待出来ないからそれは勘弁な。
これの改良は川北電機の開発の人にでも相談してみるから、案外 既に市販の非殺傷兵器として実用化されてるかもしれんしな」
雅彦「ランクルで敵に突撃をする時にも併用出来そうやね。
まあ、頼むわ。アイツら今度は奴隷を前面に押し出してくる可能性もあるんで、火炎瓶とカプサイシンバッサー改だけだと、奴隷も殺してしまわないといけないかもしれんからな」
比呂「わかったわ。
あ、もう少ししたら、村に戻っておいてくれん?
例の傭兵部隊の処遇を決めないといけないから。
ここは俺が見てるから、軽トラで戻ってやって」
その頃、スピスカ=ノヴァの北の森で敵の迂回攻撃を迎撃しているマルレーネ率いる特殊部隊は、キャスター隊の二人を前線に監視役として残したままで、他の6人は先日、投降してきた傭兵部隊を武装解除して村の付近まで帰ってきていた。
武器は森の中にある洞窟の中に置いているだけなので、彼らに返還するときは取りに来させればよい。
傭兵たちは拘束はされていなかったが、マルレーネが最後尾で付いてきていたので、彼らに怪しい動きをしたら即座に攻撃するような体制を整えていたのだ。
その事は当然、傭兵部隊のリーダーであるゲルハルトも心得ていたので大人しく歩いていたのだった。
森が終わり、開けた土地に出ると、畑の間の道に見慣れない鉄製と思われる戦車?に一人の男が乗っていて、その横には全身黒ずくめの女性と思われる人が乗り、後ろの荷台にも同じ格好をした女性が乗っていた。
これは秀明のランクル70で、左右のドアは外され、外からでも運転席に座る雅彦のほぼ全身が見えていた。
軽トラで戻っていた雅彦が秀明のランクル70に乗り換えて来ていたのだ。
雅彦はショットガンを手に持ち、また後部の荷台に立っているイングリットは雅彦のクルマに載せていたインパルス消火銃を手にしていた。
またランクルの後ろにはドイツ軍のまだら迷彩を着たエマ、アレクシアが来ていた。
雅彦はクルマから降りて、傭兵隊の前に進んで行った。
その後ろをエマ、アレクシアが続く。
傭兵隊長のゲルハルトは「ドドドドドド…」とアイドリングを刻む見慣れる戦車に目を奪われていた。
「なんだあの戦車、見たことない形をしてるし、変な音を出してるぞ。ありゃ、モンスターが何かなのか?」
続いて戦車から降りてきた男は、後ろで控えている驚異的な強さで我々を追いかけ回した部隊のリーダー(マルレーネのこと)が言っていた「我らの導き手で、神の使い」って奴なのか?
あのヘンテコな戦車から降りてきた緑と茶色のマダラ模様のおかしな服に身を纏った男なんだろうか?」
などと思った。
横に並んでいる歴戦の兵たちである傭兵たちも意外過ぎる風景に動揺が隠せない様子だった。
てっきりあの女の話では「我々の導き手で神の使い」って言うくらいなんで、神々しい姿をしているのか、それとも邪教の教祖っぽい毒々しい姿でもしているのかと思っていたら、変な服は着てるが、陽気な感じの人懐っこい感じの男が出てきたので肩透かしを食らったのだ。
「いやいや、それでもあれだけの妖術とか、闇や濃霧の中でも正確に我々を監視し、狙撃する力を与えたのがこの男達だということは、間違いなく侮れない異質な存在であることだけは間違いないんだぞ」
当初の予想は外れたが、これまで見たことがない異様な服や装備、武器などに溢れていることは間違いがなかった。
マルレーネが持つ弓はこちらの世界で見たことがないくらい長い物であったし、その威力や正確さは度肝を抜かれるほどだった。
また、降伏を申し出た時、闇の中から姿を現した敵のリーダーと思われる女は、森の風景に溶け込むような不思議な服を全身に包んでいた。
他の兵士も模様や形は少し違うがどれも森に溶け込むような服を着ていて、またこちらも見慣れない特殊な形をした弓を手にしていた。
中には弓の両端に滑車が付いた物や、クロスボウなのだが弓が鉄製であったり、クロスボウの上に黒い筒みたいな物が載っている物など見慣れない武器を手にする兵士たちがいた。
彼女達に狙撃された傭兵に刺さっていた矢などは木などで出来た物ではなく、表面がツルツルの異様に軽い素材で出来ていたり、意味の分からない文字が刻まれていたりと、これだけで異常に技術が進んだ相手を敵に回しているのだということが分かったのだ。
「これは敵に回すのはあまりにリスキーだ。早いとこ味方にした方がいいわ」
それがゲルハルトたちが降伏した理由だったのだ。
ゲルハルトは皆の前に一歩踏み出し、
「我々は『Braune Axt(茶色の斧)』という傭兵団で私が隊長のゲルハルトだ。
単刀直入に言うと、我らを雇って欲しいんで代表の方と話がしたい!」
その言葉はアレクシアから翻訳機越しに雅彦に伝えられた。
エマ「この村の代表をしているエマと言います。こちらに控えているお方が、本当の我々の主です。
残念ながら我々の言葉はまだよく分からないので、私が通訳してお話させてもらいます。
こちらの方の名前は『マサヒコ』です。
この様に我々の世界には無い数々の先進的な武器や道具をこちらの世界に持ち込まれました。
その武器や道具たちの脅威はあなた方も痛感したと思います」
ゲルハルト「エマさん、だっけ?この村の村長をしているんだよな?
噂では女だけの村って聞いてるよ。
その村を守るために神が降臨したってことで間違いないのかな?」
エマ「彼らは自分たちのことを神だとか神の使いだとは言っていません、我々と同じ人だと言っています。
神の使いだと思っているのは、彼らの奇跡を数多く目にしてきた我々が勝手に言っていることなんです」
ゲルハルト「神の奇跡ね、よく分からないが、彼女たちが異様に強いことは間違いなかったな。
これでも我々は北部で延々と繰り返されてきた北部同盟の国々との長年の戦いでも生き延びてきた力のある傭兵団のつもりだったんだがよ、こうもあっさりと子供扱いされたんでは商売上がったりなわけなんよ。
オタクたちを敵に回すのは得策ではないと言うことは分かった。
だから俺らを雇って貰いたいんだがどうかな?」
ゲルハルトとしては、これは大きな賭けであった。
森の中で我らを子供扱いして追いかけまくってくれた部隊だけでも歯が立たないのに、さらに我らは武器まで持っていない。
目の前には鉄の戦車や見慣れぬ武器まで持った、彼女達が神の使いだと崇めている男までいる。
おそらく彼は恐るべき戦闘力を持っているのだろう。
実際にドラゴニアの第七中隊はこの男の防衛ラインを破れずにいた。
うかつに攻め寄せていたドラゴニアの前衛部隊が鉄のイバラと泥にまみれた堀で惨敗していたのをこの目で見ていたし。
最初にこの村に来た騎馬隊を容易く撃退したのも、この目の前にいる男とその後ろに停まっている鉄の戦車の力なのだろう。
やる気になれば、我々はここで全滅する。
だから雇ってくれと言ったのはリスクのある賭けだったのだ。
それを翻訳して聞いた雅彦は、声を発した。
雅彦「お前たちが我らを裏切らないという保証はどこにあるんだ?」
ゲルハルト「あなたが神かどうかは知らないが、俺らにとって神は、『金』だ。
給料を払ってくれるなら、俺らは俺らの神に忠誠を誓うぜ」
雅彦「面白いことを言う男だな、分かった、君たちを雇おう。
で、どのくらい欲しいんだ?」
ゲルハルト「えっと、ここはビスマルク王国だから通貨はペニヒだったよな?
なら、我々をこの戦いの終わりまで雇ってくれるなら、傭兵団丸ごとで2千万ペニヒだ」
雅彦「いや、一千万ペニヒだ、と言いたい処なんだが、残念ながらこの村には金も無ければお金を使う店もないぞ。
このまま、君たちを武装解除したままで解放してもいいんだが、それでは君らも困るだろう?
そこでお互いにとって良い話になる提案があるのだが、聞く気はあるか?」
ゲルハルト「ああ、聞かせてもらうぜ」
雅彦「傭兵団まるごと俺の部下になれ。
どうせ君らに行くあてはないんだろう?
ならば君らを丸ごと買い上げてやる。
ペニヒは無いけど金塊くらいはあるからな。
二千万ペニヒ相当の金塊ならすぐくれてやる。
君らは我々の持ち込んだ武器と防具を身に纏い、私と共に前線に立ち、何百倍もの敵と戦い勝利を収める。
そして二千万ペニヒなんていう端金ではなく、もっと大金を手にする。
そして君と君たちの傭兵団は伝説の傭兵団となりおとぎ話で語られる存在になる。
これでどうだ?」
それを聞いていた他の傭兵たちもお互い顔を見交わせ、「二千万ペニヒが端金とか言ったよ」とか、「俺らもあの装備を身につけて戦えるのか?」「俺らなるの?その伝説の傭兵団とかに?」などと小声で言い合っていた。
ゲルハルト「黙れ、黙れ!お前らもう少し静かにしろ!落ち着いて考えれないだろうが!
えっとマサヒコさんと言ったよな?
俺らを丸ごと雇い入れて、あなたは何がしたいんだ?
ドラゴニアからの侵略を撃退した後は、ビスマルク王国を手に入れて、さらに全世界に侵略してこの世の全てを手に入れるつもりなのか?」
雅彦「そんな面倒なこと、するわけないよな。
やりたいならゲルハルト、お前がやればいい。
だが、俺とこの村に手を出すなら俺はお前を全力で潰すぞ」
ゲルハルト「ならマサヒコさん、あなたはこの世界に来て、何がしたいんだ?」
雅彦「愛する女と共にこの世界で平和に暮らしたい。
この村を開拓し、周囲の国と交易して豊かにさせたい。
だから、ゲルハルト、お前は俺の剣になって、俺と共に戦え。
平和な生活が手に入るまでは俺もお前らの先頭に立って戦う」
エマ越しにその言葉を聞いていた後ろで控えている傭兵の一部は「やったー!」と騒ぎ始めたが、それを大声で黙らせ、ゲルハルトは言った。
ゲルハルト「俺も一応、この野郎どもの生活を任されている男だ。
安請け合いは出来ない。
だが、ここは貴方の言葉に従おうと思う。
どうせこのままでは商売上がったりだし、武器もないんじゃ下手すると野垂れ死するだけだからな。
とりあえず俺らを使い、戦える処を見てくれ。
オレらを信用するのは戦いぶりを見た後にしてくれたらいい」
雅彦「オッケー、分かった。君らの勇猛さと強さは元より疑っていない。
オレらの世界にも君らに似た異常に強い伝説の戦闘民族がいるしな。
とりあえず、話しはまとまったな!
これからもよろしく、ゲルハルト」
雅彦は歩み寄りゲルハルトと強く握手をするのであった。
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