MITTELERNE(中つ国)
それまで夕方になる前だったのに林道を抜けた先はいきなり真っ暗な世界となっていた。
なんじゃこりゃ??といった感じで頭の上にクエスチョンマークが2、3個飛んでいる影山の様子をニヤニヤと満足そうに眺める秀明であった。
影山「なんだここは?なんでいきなり夜になったんだよ?」
秀明「まあ、そういう反応になるよな。
ここは現地の言葉では「MITTELERNE」と呼ばれている世界だ。
夜空見てたら分かるが、ここは地球ではないな。
俺も最初は驚いたぜ、ちょうどこんな感じで雅彦に連れて来られたからなぁ」
しばらく窓から頭を突き出して満点の星空を見上げていた影山であった。
影山「こんなん、学会で発表したらノーベル賞ものやで?どんな賞になるか見当もつかないが。
金髪ネーチャンが居るって言ってたのはこのことだったのか?」
秀明「さあ、それはどうだろ?あそこに行ってみれば分かるさ」
秀明は勢いよく丘を降って村の正門を目指したのだ。
今は戦時中ということで村に残っていたのは数名の大人の女性たちと交代で村に帰ってきている見張り役の女の子や、前線から帰ってきている大人の女性たちであった。
村ではこの時間、比呂とアレクシア、エマたちが中心となり食事の用意等をまとめてやっていた。
森の中に潜んでいるマルレーネたち特殊部隊の面々には大量のレトルト食品と飲料水を持たせているのであちらは当分補給は不要だし、林道の出口で守りを固めている雅彦たち守備隊も独自に料理出来るようにしておいたので戻ってきたり、食事を用意して送る必要はなくなっていた。
正門を見張りのことに開けてもらった秀明一行は、宿屋前に直接乗り付け、中にいたエマやアレクシア、比呂や他の女の子たちや子供たちに影山を紹介した。
秀明「あー、こいつは俺の古くからの友人で影山と言います。
歳は俺と同じなのでジジイです。
一応医者なのでこれから奴には協力してもらいます」
横で大人しく紹介されていた影山だったが、最後の一言で噛み付いてきた。
影山「おいおいおい!誰か協力するって?!
誰か病人でもいるっていうのかよ?」
秀明「なんだ、やっぱり協力してくれるのか。
アリガトウゴザイマスー(棒)。
いや、まだ病人はいないのだが、これから出るかもしれないからお前を連れてきたという訳だ」
影山「は?どういうことだ?」
秀明「いや、実はここは戦場になっていてだな。
雅彦たちは今、村の防備で戦っていたりするわけよ?
今は膠着状態で比較的安全だと思うから見に行くか?
それともビビっちゃった?」
影山「いやいやいや、待て待て。
突っ込みどころが多過ぎて、さすがに全て突っ込めないわ。
まず、どこと戦争してるって?」
秀明「えっとまずここの国はビスマルク王国と言います。
村の名前はスピスカ=ノヴァね。
攻めてきている国は、隣の大国でドラゴニアという国からだわ。
今回は約一千の敵が攻め込んできているぞ」
影山「千だと?こちらの味方は?」
秀明「多くて40人ってとこかな?オレら三人入れて」
影山「三人って次男も入ってるんか?」
秀明「ああ、そうだな。
ただ、ここを見てもらえば想像出来るかもしれんが、文明レベルはうちらの世界では千年前って処かな。
電気がないのは勿論のこと、火薬がない。
火器を敵が持ってたら厄介だけど剣と弓矢の世界なのは唯一救いかもな」
秀明はその代わりにドラゴンとかワイバーンの様な大型モンスターが存在していることは言わなかった。
影山「それにしても25倍もの敵と戦うとか正気か?
剣や弓矢とか簡単に言ってるけど、剣で斬られても死ぬし、矢も当たりどころが悪いと人間なんか簡単に死ぬんだぞ」
秀明「あぁ当然分かっている。
もう既に俺も三人の完全武装の騎士たちを日本刀で倒したからな。
だから出来るだけ万全の準備を施しているんだ。
それにこちらも引くに引かない事情があるんだわ」
影山「事情とは?」
秀明「俺らが介入しないとこの村の女性たちは全員、ドラゴニアにさらわれて性奴隷にされる。
この村の中を見回ってみたら分かるけど、成人した大人の男性が一人もいないんだよ。
以前の襲撃で男たちは全員、殺されたんだけどな。
それにこの村人は全員、俺の会社の社員扱いになってるんだわ。
社長が社員を守るのは当たり前だろ?」
これは実際、その通りで、村人たちは子供達に至るまで秀明の会社、つまり川北産業(株)のスピスカ=ノヴァ事業部の一員という扱いになっていた。
村人は会社の為に利益を出す対価として、会社は社員に村での生活の安定を保証する。
この場合の「利益」というのが今のところ主に金塊で、「村の生活の安定」とは食料の提供、衣料品の提供、快適な住環境の提供、娯楽の提供、医療の提供、武器や生活必需品の提供、それから教育の実施などであった。
これはあくまでも会社と一人一人の村人との契約の話なので、村の自治などは今まで通りエマに任せる。
ちなみにエマはスピスカ=ノヴァ事業部の専務待遇でもある。
影山は一瞬呆気に取られていたが、「はっはっはっ!」と笑い、「奇抜な事をするのは小畑らしいよ。
で、俺にしてもらいたいことは医療の提供って事でいいんだな?」
秀明「あぁ、前にも言ったけどこれはあくまでも『ビジネス』だ。
ボランティアをしてくれとか身体を張って弱者救済を手伝ってくれと言う話じゃない。
前もって言っておくが、この世界は『宝の山』でもあるんだぜ」
そう言って秀明はポケットの中からビスマルク王国で流通している金貨を一枚出してきた。
秀明「この金貨はこの世界では小麦粉20キロ分くらいの価値しかないが、日本に持ち帰ると200万円くらいの価値がある。
また金はすぐ近所でも結構採れるらしいんだわ」
影山「なんという錬金術」
秀明「だろ?だからこの村に医療体制を整えてくれるのであれば、前払いで準備費用はこちらで出すし、治療費は日本で請求する2倍を会社に請求してくれたら良い。
どうだ、乗るか?」
影山「面白い、どうせ暇だったし乗ろうじゃないの。
ただ、どの程度の医療体制を入れるかによって準備費用は雲泥の差が出るぞ。
小児科、外科、内科、産婦人科くらいの機能があればいいのか?」
秀明「今の処、一番の懸念は戦闘による外傷なんだよな。
つまり外科かな?
他は後々でもいいし、最悪、緊急手術が要る場合は影山の病院に搬送するから対応してもらえたらありがたい」
影山「あぁ、それならまあなんとかなるか。
それでもある程度の処置が出来るように道具を買い揃えたり、人の手配などもする事を考えたら『億』は用意して貰わねばならないと思うわ。
出せるのか?」
秀明「ああ、そのくらいなら何とかなるわ。
要る額を出してくれたら振り込んでおく。
俺のメアド知ってるよな?また後で銀行口座情報を教えておいてくれ。
あちこちの名義から分散して振り込ませるからな」
影山「不思議に思うんだけど、この世界の存在は極々一部の秘密なんだよな?
国に管理を任せるってのはどうなんだ?」
秀明「それは俺も当初考えていたが、動く前に敵が攻めて来たからなぁ、なし崩し的に俺らが直接戦うことになったんだ」
影山「それで小畑が直接、敵兵の首を3つ飛ばしたんだっけな。
今から政治家に手を回して自衛隊に防護させたりは出来ないのか?」
秀明「うむ、で、どの政治家を信じたら良いんだ?
政治家も企業家も、軍や警察にも大量のスパイが紛れ込んでいるこの国で、この世界を他の国に売り飛ばしたり、この世界の富を日本人以外の利益に付け換えさせる連中が出てこないと誰も保証出来ないだろ?
特に左に傾き過ぎて倒れかけているマスコミの連中に嗅ぎつけられると厄介だわ、どんな誹謗中傷が始まるか想像出来るもんな」
影山「あぁ、確かになぁ。
最近のマスコミはさすがに酷いよな、真っ赤っかで。
どこの国のマスコミか分かりゃしねぇよな」
秀明「だから、行けるとこまでこの世界の存在は信頼出来る人間のみで秘匿しておいて、その間にこの村の防御体制や生活基盤をバッチリ整えてさせたいんだよ。
幸い、うちの一族の会社もいくつかこの極秘計画に計画してくれていて、全ての協力企業が儲けられる体制が整いつつあるんだわ」
影山「お前のとこの一族って確か、天下の川北財閥だっけな?
とんでもない所がバックに付いてるんだな。
それなら自衛隊や警察にやらせるまでもないかもな」
秀明「いや、最終的にはこの世界そのものの行く末は日本国政府に任せたいと思っているし、その実行部隊は日本国の自衛隊こそ適任だと思うんだよ。
あれほど精強なのに略奪や性暴力などに無縁な軍隊なんて他所には絶対ないぞ。
だが今 迂闊に動いたら「支◯軍との共同管理にしましょう」なんて言う恐ろしい政治家が出てきかねないからなぁ。
ていうか社○や民○や共○党あたりは絶対言ってくるでしょ。
ドラゴニアって国は聞けば聞くほど、その『隣国』にそっくりなんだけど、最新兵器を持つ支○軍の脅威はドラゴニアなんかの比じゃないからな」
影山「あー、たしかにそれはあるかもな。
というより日本のマスコミが主導して『日本だけで富を独占するのは間違っている』とか『支○國との共同管理にするべき』だとか『支◯こそが異世界を支配するのに相応しい』とか言い出すだろな、今の様子からして」
秀明「だろ?だからしばらくは、このままの体制で行く。
というか、その判断が出来るのはうちの雅彦だけだと俺は思っているんだ」
影山「それは何でだ?」
秀明「この世界との出入り口に初めて気付いたのは雅彦だからだ。
俺らはただ、役に立つからオマケで呼ばれているだけに過ぎないと思っているんだ。
だから、極力、彼の好きなようにこの世界でやりたい事をさせようと思っている」
影山「何でこの世界と俺らの世界が繋がっているのか分かってるのか?」
秀明「それが全く分からない。
ただ、村人が言うには以前にも日本刀を持った亡霊みたいな人が村を守ってくれたことが以前あったそうだ」
そう言いながら秀明は腰に差していた日本刀を鞘ごと取り出しテーブルの上に置いた。
秀明「これは俺の勝手な予想なんだが、この世界に我々を呼んだのはこの刀が関係してるんじゃないかと思うんだ」
影山「おぉっ!ちょっと手に取ってみてもいいか?」
影山は青江定次を手に取り、手慣れた様子で抜いてみせた。
影山「うわ、これは凄いな。
道場にいた頃、居合刀では散々練習したけど、真剣は圧倒的なオーラがあるね。
これがこの世界と我々の世界を繋げているかもっていうのはどういうことだ?」
秀明「初めて敵と対したとき、刀に助けられて敵を瞬殺した様に思えて仕方ないんだよな。
敵の剣筋がハッキリ見えていたし、体も自然に動いたからな。
現に、俺ら一族以外はこの世界とあちらを自由に行ったり来たり出来ないみたいなんだぜ」
影山「あれ?さっきは何ごともなくこちらの世界に来れたけど?」
秀明「それは俺と同じクルマに乗ってたからだな。
自分一人で日本に帰ろうとしても多分無理だぜ。
と、いうことで、この世界とあの世界を繋げているのは、うちの一族の祖先かなにかが関係している様に思ってるんだ。
だからこそ、一族の伝家の宝刀にチート能力が付与されていたりするのかなぁ?と」
影山「この日本刀ってどの位の価値があるんだ?お高いんだろ?」
秀明「まあ、300ほどだぜ。国宝級って訳じゃないけど、そこそこの価値はあるな」
影山「あぁ、いいよな。治安が悪い世界に来るのであれば、俺も一振り欲しいよなぁ、ここまで凄くなくてもいいんで。
どっかに余ってない?」
秀明「現代刀で良ければ50とか出せば結構良い奴が手に入るぞ確か。
ちょい前に和弓でよければ20本も買ったし、アーチェリーやクロスボウも結構買ったぜ。
まあ、お前は弓はダメだろうけどな」
影山「あぁ、弓はさっぱり練習したことないな。
俺も日本刀、探しておくわ。
県内の武道具店で確か真剣も売ってたよな?」
秀明「あぁ、間違って模造刀や居合刀を買うなよ。
お前の『チョコマカ剣法』だと脇差くらいの長さで丁度良いんじゃないか?」
影山「おうおうおう!面白いこと言ってくれるじゃないの?
ここで40年来の決着をつけてもいいんだよ〜?
お・ば・た・君♩」
二人の初老に達しかけている親父達の不毛な罵り合いはまだまだ続くのであった。
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