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長年のライバル

戦時中の日本人三人の役割分担はこのような感じとなっていた。


最前線→源雅彦(みなもとまさひこ)

 

敵の主力の攻撃を防御する。前線の部隊を直接指揮する。



村→源比呂(みなもとひろ)


ドローンによる周囲の偵察、作戦の立案、全体の指揮を執る。村長のエマや娘のアレクシアを介して村との情報共有を行う。

秀明がこちら側の世界に帰ってきた場合は、日本と異世界との物資輸送や、前線で雅彦の手伝いをする場合もある。



日本側→小畑秀明(おばたひであき)


基本、日本と異世界を往復して雅彦や比呂のバックアップを行う。

日本では物資調達や川北グループなどへの交渉など多岐にわたる活動を行う。

場合によっては「政治力」を使うこともある。

秀明が異世界側に行く場合は、村の中に入りエマと共に全体の連絡や指揮をする場合もある。

森を守っている特殊作戦隊は彼の直属扱いとなっていて、給料は秀明の会社から出るようになっている。



…とまあこんな感じで、前線で張り付いて動かないのは雅彦くらいで、比呂や秀明は忙しく動き回っていたのだった。


で、ここ最近影の薄い秀明は何をしていたのかと言うと、「医者」をなんとか調達出来ないものか動き回っていたのだった。


クドいようだが、異世界の存在は他人には迂闊に話すことが出来ない。


そこで、「異世界」のことを明かしてきたのは秀明にとって信頼出来る身内などにこれまで限定して行なってきたのだ。


今の処、異世界の存在を知るのは我々三人以外には、川北マテリアルの社長と腹心の部下数名のみ。

川北電機の現社長と開発室の数名のみ。


これらにより異世界で採れた金を換金して異世界の村をなんとか維持する活動資金に充てることが出来ているし、軍事用ドローンの提供やその他諸々の技術的な支援を受けているのだが、「医療」の支援は至急必要だった。


先日までの戦闘では奇跡的に味方に怪我人は一人も出てないとのことだったのだが、戦闘が長引くにつれ、いかにこちらが万全と思われる手を打ったとしても不慮の事故や思いもかけない敵の攻撃で負傷者が出る危険性が高まる。


異世界の人間を日本側に連れ出すことは可能なことは分かったのだが、そこら辺にある病院に彼女たち異世界人を連れて行く訳にはいかない。


一人くらいは何とかなるかもしれないが、いずれ大事になる可能性が高いので、これはなんとかしないといけないと思ったのだ。


秀明には一人、心当たりがあった。


秀明にとっては長年の友人であり、因縁のライバルでもあった「影山」という男である。


歳は秀明と同じだがこれまで同じ学校であったことは一度もない。


その男とは彼らが子供の頃からやっていた「剣道」で繋がっていたのだ。


まず、彼らが最初に顔を合わせたのは小学二年生の時だった。


当時秀明が通い始めていた剣道の道場は、付き合いの深い道場があった。


距離的には5キロと離れていない道場で館長同士非常に仲が良く、お互いに出稽古などをする事が多かったのだ。


双方の道場から5名ずつ同世代の者を選んで試合することになり、秀明と影山少年は初めて戦うことになった。


両者とも当時は非常に小柄でちょこまか動くのが得意である事と、センスの良さが見込まれたのでお互い「先鋒」を任されていたのだが、試合が始まるとまぁ凄いことになった。


ひたすら動きの速さで相手を翻弄しようとするタイプが激突した訳なので目紛(めまぐる)しい試合となった。


最初の試合の結果は覚えていないが、お互いの道場は県下でも一二を争うほど強い道場で、なおかつ二人とも同じタイプの剣士、同じ先鋒、同じ戦法を使うので試合は毎回白熱して泥沼化するのであった。


とりあえず毎週のように試合があったのだが、奴(影山)と当たるのは毎回、大会の準決勝か決勝戦。


そうなるとお互いの親たちも応援に熱を浴びてくるのでお互いなんとか負けないようにするのに必死になっていった。


館長は双方とも旧陸軍の兵士で共に南方戦線で生き残った猛者で戦友同士であった。


その彼等が(半分面白ろがってなのだろうが)秀明と影山少年にありとあらゆる技を仕込んだのだった。


四年生になった頃はお互い、上級生に混じり特訓組に入れられてめちゃくちゃしごかれた。


我々が教えられた剣道は今、多くの人がやっているスポーツとして確立された剣道ではない。


ありとあらゆる汚い技を駆使して相手をねじ伏せるための剣術という「武技」であった。


相手と体当たりする際には必ず膝を相手の太腿あたりに入れる。

小手を打つ際には必ず防具から外して手を使えなくさせてから仕留める。

敵と鍔迫り合いをする際には相手の足の甲を踏む。

小柄なので相手から倒された時は容赦なく相手の足を竹刀でなぎ払う。

体勢を崩すために面を打つフリをして面の正面を突く。

場合によっては怪我をしたフリをして油断させてから相手の懐に飛び込む。

大柄な相手が馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込んできたら竹刀を相手の股間に目掛けて真っ直ぐ構えていたら、敵は自分の突撃力でイヤという程股間に突きを喰らうなどなど。


まあ、分からないようにするのもコツが要るのでここぞという時にこれらの姑息な技は使うのだが、影山との戦いでは相手も同じような技を繰り出してくるので毎回泥沼化するのだった。


このような腐れ縁というかライバル関係は中学に移っても続き、その頃には県では二人の姑息でガチャガチャとした泥仕合はある意味、名物と化していた。


秀明は結局、高校の時、部活中に上級生相手に大喧嘩となり部活を辞めたときに剣を置くことになったのだが、それを聞きつけた影山は別の高校に行っていたにも関わらず飛んできて剣道を辞めないよう秀明を説得しようとしたのだった。


高校生になった頃にはお互い、身長も伸びて先鋒でも無くなったので戦う機会は減っていたのだが、二人は最後に影山の高校の体育館で戦った。


小柄だったからこそ身に付けた姑息とも言える技の数々であったが、平均身長くらいになった二人は久々に「あの頃」の技を駆使してガチャガチャと戦った。


結局、またまた泥仕合になりどちらが勝ったのかはハッキリしないままでお互い満身創痍になるまで本気でぶつかり合いは続いたのだった。


社会人となり、双方も別々の道を進むようになりしばらく音信不通の状態が続いたのだが、ある日二人は意外な処で再会することになる。


それが「四駆で遊んでいた山」だった訳だ。


秀明はランクル70の最軽量モデル、影山は三菱ジープの最終型の55型。


影山のジープは最初に会ったときはほぼノーマルでタイヤはゲタ山という今では滅多に見かけなくなった古い低性能タイヤを履いていた。


また秀明もゲタ山に匹敵するくらい古いジープサービスという今では見かけなくなった低性能タイヤを履いていたので、双方「技」を駆使して山を走るようになっていったのであった。


昔、剣道で散々張り合っていたライバルは今度は四駆に乗り換えてまた競い始めたという訳だったのだ。



その影山は病院を経営しているという事は以前から聞いていたので、今回の「医療関係者で信頼できる協力者が欲しい」となった際に真っ先に候補に挙がったのだった。


実は最近は影山とはあまり会っていなかった。


特に秀明の家が崩壊し、彼が内向きに籠るようになってからは影山が少し遠慮していたのか、秀明の鉱山の四駆が走れるコースに遊びにくることも無かったのだ。


秀明は彼が元々住んでいた町に建つ影山の家が代々経営する、県下では中規模の病院にランクル70で乗り付けていた。


病院の裏に廻ると、相変わらずボロボロの三菱ジープが転がっていた。


「あいつは相変わらずジープを通勤に使ってるんやな」


携帯で予めアポは取っていたのでそのまま院長室に通された。


秀明「あんな汚いジープで通勤してたら患者が驚いて心臓麻痺起こさないか?」


会ってすぐジャブを放つ秀明。


影山「オタクこそ凸凹ランクルで来たんでしょ?患者に見られない処に停めてくれたんやろな?」


軽くいなす影山であった。


秀明「最近、音沙汰ないけど忙しいんか?てっきりチ◯ポと同じく勃たなくなってるのかと思ったぞ」


影山「お前こそカミさん寝取られてEDになってると聞いたから今度専門医を紹介してやろうと思ってたわ」


二人「ふっふっふっふっ…」


相変わらずである。


この二人、四十年ほど同じような感じで張り合い続けていたので、たまに会わない時間があっても会えばまたあの頃に戻って全力で張り合い始めるのだった。


秀明「あー馬鹿話はこれくらいでいいわ。

この後、時間あるか?メッチャ美人揃いの場所に連れて行ってやるわ」


秀明は影山は最近、やることが無くて暇になりつつあることをよく知っていた。


「暇だ暇だ」という彼のツイートをよく見ていたからだが、最近は飲みに出るのも面倒で飲み屋のねぇちゃんにたかられるのは勘弁して欲しいと常々呟いていたのだ。


影山「地元の飲み屋とかなら行かないぞ。ええ加減にしとかないとカミさんに怒られてるしな」


秀明「あぁ、金はかからないし、驚きの金髪美女が揃っている凄い場所があるんだわ。

今日、これからそこに行く用事があるからオマエも来いよ」


影山「なんだその胡散臭い話わ。不良中年に最近拍車がかかってきたな。

カミさん居なくなったからと言って変な外人パブとかに入れ込んでるんじゃないだろうな?」


秀明「そんな訳ねーじゃん!オレが一度でも女で狂ったことがあったかぁ?⤴︎」


影山「あるだろ、とんでもない女に入れ込んだ挙句に財産全て持ち逃げされた男がよく言うーわー」


しばらく子供の喧嘩みたいな雑な言い合いが続く。



(閑話休題)


秀明「まあ、冗談はさておき、行くか?金髪美女がいっぱい居るのは嘘じゃないぞ。

きっとムッツリな影山さんもオモテになるよ」


影山「うるさいわ!で、ホントに金髪美女とかいるんだろうな?別にパツキンの美女が好きだなんて言ってないんだからね!」


なんだコイツ金髪が好きなんか。


秀明「ああ、冗談抜きで少し相談したいこともある。とりあえず行けるなら今すぐ行こうぜ」


急に真面目な様子に変わった秀明の様子を見て「おや?」という感じに秀明を見る影山。


影山「よもや違法入国のフィ◯ピ◯人とか囲ってるんじゃないだろうな?」


秀明「そんなわきゃねーよ。で、行くのか?これはビジネスの話でもあるんだけどな」


少し考えた後で「おう、行こうぜ。よもや海外に行くとか言わないよな?」


秀明「当たり前よ。オレの車で2時間の距離だな」


影山「ふーん、ちょうどお前の山くらいの距離だな」


秀明「ま、行けば分かるさ。多分、暇だとかタイクツだとか言えなくなるぜ」


二人は病院から出てお互いの車に乗り込み、秀明のナナマルが先導して走り出した。


無線は切っていたので「こいつ、何処に連れて行く気だ?」などと思いながら街を抜けて東に向かうと、秀明の鉱山のある県道への突き進んで行った。


「なんだ結局、パツキン美女などと言いながらアイツの山やん!」と独り言を言っていたのだが、夕方になる前に秀明の山に到着した。


影山「あー、なんか騙された気しかしないー!」


秀明「まあまあ、お話はこれからですよオニイサン。

こっちのクルマに乗ってくれ」


影山「はぁ?ランクルに乗れと言うの?オレに?」


しばらくゴネていたが渋々秀明のランクルの助手席に乗り込む影山。


秀明「ほんじゃあ行くぞ。びびってジープみたいにオイルをケツから漏らすなよ?」


影山「喧しいわ!オイルが漏れるってことは中にオイルが入ってるという証明なんだよ!」


鉱山の事務所前から動き始めたランクルは四駆のコースにしている方角ではなく事務所の裏側に向かった。


影山「なんだ、雅彦が新しいコースでも作ったのか?」


秀明「雅彦が見つけたのは違いないが、作ったわけではないな」


そのままいつもの林道に入ったランクルは姿を消し、異世界側へとやってくるのだった。

※ブックマークへの追加や評価をした上で読み進めていただけましたら幸いです。


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高評価、悪評、なんでも構いません。


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