BLAU WALD(青い森)
侵略開始から3日目の朝になった。
前日は早朝からドンドン喧しかった敵陣も今日は動きが活発ではなさそうという報告が崖の上の見張りの子からあった。
そこで起き出してきている子を集めて、朝食の準備をした。
約半数の子は夜の敵襲に備えてもう少し寝てもらう事にしてるので、彼女たちの分も用意しなければいけないのだが、ここは戦場ということでメニューは簡単な物が用意された。
まず前日に河原に転がっていた岩を組んで作ったカマドに大きなお釜を置き、持ち込んでいた米を炊く。
こちらの水は日本のと違い硬水で飯が不味くなるので、水は日本から直接引いてきた水道水をここまで運んできていた。
(ちなみに秀明が持っている鉱山の小川などの水は鉱石の成分が多く含まれているのでこれまた炊飯には向かないのだ)
あと、冷凍食品として持ち込んでいたシャケなどの魚を石油コンロの火で調理し、大きな寸胴で豚汁を用意した。
同様の食事の用意は村でも同じ様に行われていて、食事の下準備などは村に残ったメンバーでされていた。
村での食事は、秀明たちが日本から持ち込んだ日本食がすっかり浸透していて、特に「炊き立てのご飯」の人気は絶大なものがあった。
また、村では元々ジャガイモに似た芋と、小麦粉を使ったパン、またトウモロコシなども食されていたのだが、そのどれもが日本から持ち込んだ品種は味や食感などが良かったのでこれまた好評だったのだ。
やっぱり先人たちが苦労して行った品種改良は偉大なのだなと秀明は思うのであった。
前線の様子を聞いたところ、敵の動きは今のところないということなので秀明は数々の用事を済ませるため日本に戻っていった。
その用事の一つが、以前工務店に頼んで調達してもらったWi-Fiを関所跡まで届かせるための資材一式と、比呂が「秘密兵器の材料」として調達していた数々の資材たちを受け取るためだった。
一方、昼頃になった時、前線では動きがあった。
見張りの子が、遥か彼方の森の辺りから大量の木を切り出す音が聞こえてくると報告があったのだ。
それを聞いた雅彦は「あぁ、この防衛ラインを突破するための橋などを作るつもりなんだな」とすぐにピンときた。
比呂はその頃、村に戻っていて、秀明から連絡役を任される傍らで、先日、日本から持ち込んできていた大型ドローンの操縦の訓練をしていた。
まあ訓練と言っても姿勢制御はドローン側が勝手にやってくれるので比呂はコントローラーで進む方向や高度を入力するだけなのだが、改めてこのドローンは凄いなと感動するのだった。
ドローンに付けられているカメラは広角の他にも10倍程度の望遠、さらに複数のカメラが付けられていたのだ。
まだ夜での運用はしたことがないのだが、夜に使えるのは本当に凄いことだった。
また、このドローンは大型で航続距離や時間もかなり長いため、長時間・広範囲の偵察が可能な上に最大20kgもの荷物を載せれるので、例えば農薬などを撒くことも可能だ。
(実はミ◯イルなども発射可能なのだが、ゲフンゲフン)
海の上で使用されることを前提に農業用ドローンを元に改良された物なので当然錆にも強く、何より日本製なので信頼性が高いのはありがたいことだ。
まあ、軍で使用される前提で開発されているってことはミリタリースペックを満たしている訳なので頑丈で信頼性が高いというのは最低条件なのだが。
比呂はその軍用ドローンの名前を、ここがビスマルク王国という名前であることから「ほんじゃあ、鉄血宰相ビスマルクの師匠にあたる人の名前を取って『ゲルラッハ』にしよう」と決めた。
「ゲルラッハ」から送られてくる映像は、タブレット型のコントローラーの画面以外にもテレビモニターやPCモニターで出力出来るため、比呂は自分のゲーミングPCにドローンからの映像を写しながら操縦していた。
彼の周りには多くの子供たちも集まり、モニターの画面に釘付けになっていた。
大型アンテナを設置さえすれば、半径10キロほど飛ばすことが可能なので、試しに村の上空から南の崖の上で見張りをしている女の子たちの所を見にいってみた。
速度はそれほど速くなく、せいぜい人間が小走りする程度の速さしか出ないが、森や崖などの障害物は関係ないし、目的まで直線で移動出来るので、予想以上に迅速に移動出来た。
このドローンは小型エンジンが四機搭載されているということもあり、近くにいるとかなり喧しいのが欠点なのだが、そのお陰で見張りの女の子たちにはすぐに見つかって手を振っているのが確認出来た。
比呂はドローンを軽く左右にバンクさせて彼女たちに挨拶して、そのまま南側の崖の下の草原を偵察に向かった。
しばらく飛んでいると、東の方から五騎の斥候と思われる騎馬集団がこちら側に走って来ているのを確認出来た。
比呂は彼らに見つかり難いようにゲルラッハを崖の上の方に戻し、遠方からホバリングしながら彼らの動きをしばらく観察していた。
幸い、騎馬兵は自分たちが立てる音がかなり大きい為か視野が狭いのか分からないがゲルラッハを発見することはなかった。
彼らはしばらく崖沿いに走っていたが、見張りの子たちがいる付近を超えてさらに南下して行った。
比呂は無線機で見張りの子たちに敵の騎馬兵が見えるか聞いてもらったら「見える」ということだったので、しばらく彼女達に敵の斥候の監視は任せて、ゲルラッハを北東の前線方向に向かわせた。
上空から見る村とその先の森の中を流れる小川とそれに沿って伸びる林道。
ここら辺は林道以外に人が入り込める地形ではないことが改めてよく分かった。
ゴツゴツとした起伏の激しい地形に加えて樹々が生い茂り、人が侵入するのはほぼ不可能に感じた。そのまま飛ぶと、雅彦たちがいる関所跡にやってきた。
ここには林道にユンボやトレーラーハウス、ランクル73などが停められていて、Cの字に湾曲した上の端のすぐ左に崖があり、下の端には盾を並べた弓隊の陣地があった。
ランクル73でトウセンボした先はいきなり草原となり緩やかな斜面が広がっていて、その草原は山の麓まで、いやもっともっと先まで広がり続けていたのだ。
比呂は自分の足で山の麓付近までは行ったことがあったのである程度の地形は把握していたのだが、鳥の眼で俯瞰するこの世界は、やはり極めて広大で美しいものであった。
防衛ラインを超えしばらく進むと、緩斜面の中腹あたりに敵軍のテントが大量に並んでいるのが目に入ってきた。
近寄ると矢などが飛んでくる可能性もあるし、電波が届かなくなる可能性も出てくるので、ここら辺で向きを北西の森に向けることにした。
森に差し掛かると、多くの奴隷と思われる人が、木を切り出している様子が目に入ってきた。
比呂はその様子をキャプチャーして画像を保存しながら、さらにその前の広大な森へと進ませて行った。
こちらの森のどこかにはマルレーネたち弓の名手が潜んでいるので、なるべく高度をとりながら進んだ。
そして、比呂の横でパソコンの画面を食い入るように凝視しているアレクシアにマルレーネたちにドローンが上空を飛ぶけど撃ち落とさないでくれと連絡してもらう。
こちらの森は比較的起伏も緩やかで、延々と西にそびえ立つテトラ山に沿って南北に広がっているだが、こちらには近いが緩やかであることもあり、数多くの動物やモンスターが棲みついているため、マルレーネたち狩人も主にこの森を狩場としていたのだった。
あ、そうだという感じで何かを思い付いた比呂は、アレクシアにこの森の名前があるのか聞いてみた。
すると「BLAU WALD(青い森)」という言葉が返ってきた。
ん?青森?こんな所に東北地方最北の都道府県と同じ名前の場所があるのかよ、と思う比呂であった。
しばらくは侵入した可能性のある敵兵を探しながら飛んでいたが、敵兵らしき姿は発見出来なかった。
ここで比呂はふと、もう一つのカメラの存在を思い出す。
それは「赤外線カメラ」であった。
最近の米軍採用のスマホなどにも搭載されていることが一時話題になったのだが、ゲルラッハと名付けたこの高性能ドローンにも赤外線、つまり敵兵の体温を感知し、画像として表示させるカメラが付いていた。
ドローンを使って比較的詳細な地図を作ろうという案をだしていたが、今回は戦いが始まってしまい間に合わなかったのだが、以前比呂が書いた手書きの地図に赤外線カメラで捉えた熱源の大まかな位置を描きこんでいく。
動物やモンスターという可能性もあるが、ゲレンデから森に入って約3キロ付近で50〜60個の発熱体を発見した。
「うわ、結構入り込んでるな」
早速、この情報をアレクシア経由でマルレーネに伝えてもらった。
普通のカメラに切り替えて周辺を撮影してみるが、敵を直接見つけることは出来なかった。
ということはおそらく、重装歩兵が身に付けている派手な鎧ではなく、森の中に溶け込むような色の服装をした集団だということになる。
「これは少し、苦戦するかもな」
大きな森の上をさらに西に向けて飛ぶと、正面にはテトラ山が立ち塞がるようにそびえ立っていた。
すると、しばらくしてやや南に青い湖を発見した。
その色は海などの見慣れた色ではなく、エメラルドに輝く宝石のような色をしていた。
「もしかしてこの色から取ってBLAU(青)WALD(森)って名前が付いたのか?」などと思った。
向きを南に帰ると遥か前方に我々の拠点で、かつ日本との出入り口となっている小高い丘があり、その左下には森が終わり、石の壁で囲まれているスピスカ=ノヴァの村が見えてきた。
「マルレーネたちはどこに潜んでいるんだろう?」
先程から度々、赤外線カメラに切り替えながら敵と村の間付近を上空から探すが、所々でポツポツと小さめの発熱体を見つけるが、先ほどの敵兵と思われる多くの発熱体ほど目立ったものが見当たらなかった。
たまに見つけてもよく見たら大型の鹿であったり猪であったりするのでマルレーネにドローンが見えるかと聞いたら「さっき上空でそれっぽい物を見た」との返事が返ってきた。
「あ、そうか。マルレーネたちは現行の戦闘服を着てるから赤外線カメラで見ても発見し難いんだ」ということに気が付いた。
彼女達が今着ているのは秀明が配った自衛隊や米軍、独軍などが現行で使用している戦闘服だったのだ。
それらは夜に赤外線暗視スコープなどで見られても発見され難いように設計されてる。
赤外線暗視スコープで見た時に対象物の形を見にくくするだけでなく、赤外線の放出量もおそらくは減らす技術が使われているのだろう。
ということで、マルレーネたちと敵兵の間には先程見かけた青色の湖を挟んでいたりするので、まだ交戦開始まではしばらく時間がかかると思われた。
おそらくは例の湖の周囲は侵入路が狭まるし、小川なども確認出来たので、それらを使って待ち伏せ攻撃をしたりトラップを仕掛けるなどしているのだろう。
ここに来てドローンの燃料の残りは約半分になっていた。
1時間程度飛ばしているにも関わらず、これだけまだ燃料を残していることは凄いことだと感心させられた。
これなら確かに海上艇からこのドローンを発進させて、偵察することに使うことや、場合によっては搭載した兵器で攻撃することも出来るよね、などと思った。
敵の一群が島嶼部に上陸したとして、それをこのドローンで偵察する場合などに大きな威力を発揮すると開発の田中さんは言ってたけど、正にその通りだと感じた。
今回も森に潜む敵を上空から安全に監視し発見する目的で使うのだが、最新技術を遺憾なく発揮するだろう。
実は田中技術にも「出来るだけ使用データを教えて」と言われているので、彼らに提出するレポートなどはまた秀明とかに相談しないといけないが、これだけ便利な物を提供してくれた川北電機にはマジで感謝だ。
ひとまず、燃料の補給や整備・点検もしないといけないので村に「ゲルラッハ」を戻す比呂であった。
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