トレーラーハウスにて
千人隊の隊長は鉄条網にはまっていた負傷兵達が全て帰って来たのを確認し、救出部隊の隊長に「鉄製のイバラ(有刺鉄線のこと)を回収出来たか?」と聞いた。
答えは「敵の目を盗んで部分的に切り取って来ようとしましたが、敵に見つかり断念しました」であった。
千人隊隊長はその言葉にしばらく激怒して辺りの物や人に当たり散らかしていたが、少ししたら落ち着きを取り戻した。
千人隊隊長は彼のテントに幹部クラスの下士官を全て集めて作戦会議を開いた。
まず議題になったのは鉄条網と溝を如何にして超えるのか?についてだった。
「大楯で鉄のイバラを上から押さえ込んで、その間に進めばいい」
「でもその方法では溝を越えることは出来んぞ」
「溝の中でもズラリと盾を横一列で並べて鉄のイバラを上から押さえ込んで、その間に後続部隊が通過すればいい」
「貴様は現場に行ってないから容易く言うがそんなに生半可な代物ではないぞ!」
「それは貴様の能力が足りてないだけではないのか?」
「それなら貴様の隊に先に行かせてやるから、俺様の隊の為に整地しておけ!」
と、延々と威勢が良いだけで不毛な発言が続くのであった。
だが、これは別に喧嘩をしている訳ではなく、「ドラゴニアではいつも見かける見慣れた風景」なのだ。
とりあえずあの国では、人が多いということもあってお人好しな人は周りから押し潰される傾向がある。
だから、人々は少しでも自分が偉く見られるよう虚勢を張るし、自分が不利な時でも自己主張は取り敢えず激しく行う。
そのため、普段から大声で怒鳴るように話をする傾向があり、それらの文化を知らない周辺国の人が彼らの会話を聞くと、長閑な世間話をしていたとしてもまるで喧嘩でもしてるのではないか、と思うのだ。
だが、全く喧嘩をしない訳ではなく、実際口論になったり、取っ組み合いの喧嘩に発展する場合も多い。
だから、その場を収める能力がある者が自然とドラゴニアでは集団を率いていくことになるのだ。
また、人々はそういう実力者を自分の味方に引き入れようとして、本当に日常的に「賄賂」を使う。
また、媚びたような態度やおべっかを使うことも、全く恥とは思われていなくて、実力者や位の高い人物に対しては気の毒に思うほど彼等は腰が低い態度で接するのだ。
「人は皆、平等なのだ」と小さい頃から教え込まれている我々現代を生きる日本人から見ると「なんだこの世界?」と思うだろうが、こちらの世界ではまだそういう風習というか文化が「主流」なのだ。
雅彦たちが最初にやってきたビスマルク王国のスピスカ=ノヴァの住民は、どちらかと言うと「たまたま」我々の価値観に近かったというだけで、こちらの世界では日本的な「譲り合いの精神」などは全くと言っていいほど存在していない。
ドラゴニアで他人に譲ることは、自分は弱い存在なのでどうぞ虐めてやって下さいと宣言するようなものだ。
この時も会議はいつものように紛糾して、最終的には千人隊隊長によって強引にまとめられた。
当面の方針はこうだ。
周囲に生えている森の木を奴隷主体の工兵によって切り出し、丸太を大量に並べることで橋をかけて、そこを軍が通過するということに決定した。
この軍では、食料の運搬や橋を掛けたり土木作業を行う工兵などは奴隷を主体としている場合が多い。
前にも言ったが、ドラゴニアという国は国を統治する党員が全体の約1割、そこそこの権利と生活水準を持つ一般国民は約4割で、人口の約半分が「奴隷」によって構成されているというかなり歪な国なのだ。
今回、スピスカ=ノヴァを侵略してきた千人隊も、一般兵で構成されているのが約千人なのだが、200人程度の奴隷がいて、さらに百人未満だが傭兵もいる。
彼らにとっては身寄りのない奴隷や使い捨てに出来る傭兵は、危険な任務をする時などでは欠かすことの出来ない便利な存在であった。
今回も木を切り出す作業や、その丸太を使って最前線で橋をかける作業は奴隷兵にやらせて、後から一般兵が進軍することになったわけだ。
更に副隊長から進言があった。
副隊長「万が一のこともあるので、林道以外にも村への侵攻ルートがないか偵察隊を周囲に放ち調べさせましょう。
今回、村に加担している敵は他の場所にも『悪魔のイバラ』(有刺鉄線のことね)を仕掛けて待ち構えている可能性もあります。
ここは慎重に進めておいた方がいいでしょう」
千人隊長「ならば、村の南方に大きく迂回するルートで村への道がないか調べさせろ。
それと、我々のいるこの緩斜面の先に広がる森林地帯を通って大きく迂回するルートがあるのではないか?
傭兵隊は確か元は猟師をしていた者も多かったと思うので森の中を進ませるのは適任だろう。
彼らに村へと続く迂回路を見つけるよう指示せよ!」
副隊長「分かりました。彼等を直ぐに向かわせます」
会議はこのようにして終わり、隊長は部下たちをテントから追い出し、代わりに夜の相手をさせる女の奴隷を呼び寄せるのであった。
一方、雅彦たち、防衛ラインとなっている関所跡の裏に舞台は変わる。
初日の敵の攻勢を怪我人もゼロで抑えたのだが、翌日はおそらく有刺鉄線とぬかるんだ空掘の対策をしてくるだろうと比呂は言った。
比呂は夜になる前に日本からある秘密兵器を持ってきていた。
それは念願の比呂専用の「トレーラーハウス」であった。
これも大きさとしてはセミダブルのベッドが一つと簡素なキッチン、トイレ、風呂、それと小さいがテーブルと椅子が二脚ある、三人の持つトレーラーハウスの中では最も大きなタイプであった。
まあ、秀明のほぼベッドしかないミニマムサイズの物や、雅彦のそれプラスアルファ的なものではない、ミドルサイズの物なので豪勢な物では無かったのだが、前線での生活向上に欠かせないアイテムとして導入と改造を急いでいたのだった。
このトレーラーハウスには比呂お手製の「薪ストーブ」が強引に取り付けられていて、その小型の薪ストーブを横に見ながら雅彦たちは話し合いをしていたのだった。
守備隊の女の子たち用には冬山でも使えるテントを5個ほど日本から持ち込んでいて、守備隊の女の子たちも見張りを除いて、そこで交代で休んでいた。
現地時間では夜中の1時となっており、外は急激に気温が下がってきていた。
比呂「外気温はおそらく5度前後だと思うけど、あとどれぐらいしたら本格的な冬が来るんだろうな?」
トレーラーハウスのガラスの窓はびっしりと結露の水が張り付いていて、外の気温の低さがそれだけでも感じ取れた。
雅彦「分からないけど、この世界が仮に地球と同じように季節が進んでいるとするなら、あと一ヶ月もするとここら辺は完全に雪で閉ざされるんじゃないかな?
確かエマさんがそう言ってた気がする」
比呂「もし仮にそうだとしたら、敵は冬には越冬のために一旦は60キロ先の駐屯地に戻る可能性が高いけど、奴等がスピスカ=ノヴァで越冬をするつもりでいるのなら、壮絶なことになるかもしれないな」
雅彦「なんでだ?最悪、食う物がなくなったら戻ればいいだけだろ?」
比呂「奴らの先日の戦闘を見ただろ?中世レベルの世界で有刺鉄線と塹壕を組み合わせた防御陣地など見たことがないということは分かるけど、それでもオレが敵の将なら防御陣地に飛び込む前に下見するとか、大楯で防御を固めながら少しずつ前進していって、足元を確認すると思うで」
雅彦「つまり、敵の将はアホだと?」
比呂「いや、仮にもこれだけの軍団を指揮する人なんでそこまで言わないが、俺らの世界の先進国と呼ばれている軍隊でそんなバカなことをする指揮官なんでまずいないと思うね」
雅彦「それは日本もか?」
比呂「そりゃそうでしょ。下士官ならまだしも将官になる人は防衛大学とかで間違いなく過去の戦訓は学んでいるものだし、今回みたいな正体不明な相手と戦う場合はどうするかというマニュアルはあるでしょ」
雅彦「ふーむ、ならヒロは敵の将は勇猛果敢だとか、勇ましいことは好きだけど、慎重さに欠けるところがあると言いたいんかな?」
比呂「まあそんなとこかな。
親父なども敵のことをあまりにも知らな過ぎるので戦いながら知っていくしかないと言っていたけど、本当にそうなのかもしれないな」
雅彦「で、なんで最悪ここで大量の餓死者とか出るかもしれないと思ったんだ?」
比呂「ああ、そうだった。
敵の指揮官はおそらくだけどかなり猪突猛進型というか雑なタイプの指揮官なんじゃないかな?と思うんだわ。
最初の電気ショックに驚いて逃げ帰った兵士を容赦なく殺してたんだろ?
恐怖による統率力はあるけど、細かいところでの計画性に欠け、人の命の価値は限りなく安いと考えている、そんな感じがするんだ。
そんなヤツが、この村を落とすのに執着するあまり、撤退しないといけないところを撤退せずに本格的な冬を迎えたとしたら…
どうなってしまうのか想像するのも怖いよね?」
雅彦「この村を攻めるのに失敗し、拠点に逃げ帰ったら敵の司令官はどうなるんやろな?」
比呂「どのくらいの損失を出すかによって違いがあるかもだけど、仮に兵の大半を失い得るものがほとんど無い場合は、最悪死罪ということもあるかもな」
雅彦「うーむ、それなら意地でも撤退せずにここで粘ることもあるかもしれんよな。
だけど、多くの奴隷を持っていたやろ?
本拠地から奴隷たちを使って食糧を運搬させればいいんじゃね?」
比呂「だけど、次の攻勢で奴隷たちを先頭に押し立ててその奴隷たちが全滅した場合は?
また、本隊側がこちらの軍団に食糧供給を渋る可能性もあるよな、期日までにこの村を落とさなかったと言うことになるんで。
結局、責任問題になる可能性があるなら意地でも粘った挙げ句に…ってことも考えられないかな」
雅彦「まさか、『食糧』も武器にしようと思ってないか?」
比呂「おう、ご名答(^^)」
雅彦「マジか、この子、やることがエゲつないわ〜。
お兄さんヒクわ〜」
比呂「まあそれはいいとして、明日の敵の攻勢では、鉄条網を必ず乗り越えてくる手を敵は打ってくるよ。
勿論、対策は頭に入ってるよね?」
雅彦「ああ、当然。だけどアレを使うとなると敵の犠牲は爆発的に増えるけど、やるしかねーよな」
比呂「ああ、心を鬼にするしかないね。
だけど、こちらは一方的に侵略される側なので、この場合は敵は完全な悪、我々は問答無用で正義なんだぜ、兄貴」
雅彦「ああ、分かってる。
ここまで来たらこちらも腹くくるわ。
あ、それと森を大きく迂回するルートで攻めて来るのはいつくらいになる思う?」
比呂「早ければ明日にでも別動隊を出発させるかもな。
あと、村の南側の崖がある方面にもそろそろ敵の斥候か別動隊が姿を見せるかもしれないよ」
雅彦「だよな、ここの防御が意外に硬いと敵に分かる頃なんで判断の早い将なら動いても遅くないよな。
マルレーネ達の準備は整ってるの?」
比呂「昼に親父とのやりとりを聞いた時点では、ほぼ完了みたいだったわ。
俺もハッキリとは親父が彼女たちに何を仕込んでのか分からないんだけど、あちらは守りきれるもんかな?」
雅彦「比呂は親父のサバゲーでの戦術は知らないんだよな?
あの人自身は徹底した『芋スナ』なんだよ。
自分を有利な立場に置いて待ち続けて、遠距離から敵を狙うスタイルなんで遊びでは嫌われるタイプなんだけど、親父の場合は連携で味方に攻めさせたり、逆に撤退で敵を引きつけて罠にハメるのが得意なんで、実戦でもしアレをされたら、敵は本当に嫌になるんじゃないの?」
比呂「あぁ、俺もFPSとかするから分かるけど、ひたすら芋られたり、連携で敵を罠に嵌めるヤツはマジ勘弁だわ。
よく知らなかったけど、親父ってそういうタイプなんやなぁ(遠い目)」
雅彦「あぁ、親父らしいっちゃ親父らしいわな。
あの人、他人からどう見られるとかマジで関係なく、独自の路線を拓いて、それを突き進むクセがあるからな。
だから四駆の世界でも浮いてるし、サバゲーの世界でも浮いてるわ。
ま、サバゲの方はまだそこそこなんで、四駆業界ほど有名じゃないけどな」
比呂「兄貴、ホンマ親父の事好きやもんなぁ(ニヤニヤ)」
雅彦「うるさいわっ、悪い子はこうしてやる〜!」
深夜になっても前線でじゃれる二人であった。
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