異世界の言葉の秘密
村のリーダー、つまり村長と思われる人物が人の輪の中から出てきた。
年の頃は三十代後半で、長い髪を先で一つに括り、右前に流していた。
彼女は周囲の若い子たちと違い、ややムッチリとした体型をしていたのだが、なんですか、この世界の住人は美人でしかも、「で◯パイ」しか居ないのですかい?と突っ込みを入れたくなるほど誉高い世界に思えた。(感動)
「ヤベエよ、この村の人、皆とんでもない美人だよ」と思わず親父に連絡してしまう比呂であった。
そんなことは御構い無しの雅彦は、村長だと思われる女性に対し、自分を指差して「みなもと まさひこ」と自己紹介した。
そして誰が教えたでもないのに深々とお辞儀してみせた。
試しに手持ちのホワイトボードに「masahiko」と書いて見せてみると、なんとその文字が読めるようだった。
その村長と思われる女性は、雅彦からホワイトボードとマジックを受け取って「Emma」と書き、自らも「エマ」と名乗った。
なんと、アルファベットが通じるのかよ。
ただ、英語でマイネームイズ エマ、と名乗ったのではなく、マインナーメ…なんとか エマと発音していた。
ん??よく聞き取れなかったけど、英語の方言か何かなんか?と思ったが元々英語が苦手な二人には英語も分かってないのでこれ以上のことは分からなかった。
丘の上でその様子を見ていた秀明も、何やら意思疎通が少しは出来ていることに驚いていた。
まあ、英語は苦手だけど何となく通じるかもしれないから、テキトー英語で押し通してやれということで、身振り手振りと英語の単語で、「自分たちは丘の上から来た」と言ってみた。
上手く伝わらないみたいなので今度は「We come from the hill」と手書きしてみた。
すると、それを受け取ったエマは、その文の下に「Wir kommen vom Hugel」と書いた。
おお!自分たちでは分からないが、彼女たちはなんとなく英語を自分たちの言葉に翻訳出来るみたいなんだな!と感動する雅彦であった。
ただ細かい意思疎通はまだ不可能なので、当初の予定通り、彼らが持って来ている商品を彼女たちや子供たちに配り、「また来ます!」ということだけ伝えて村を離れて丘の上に戻った。
その様子を見ていた秀明は「おつかれ、よくやったな、とりあえず日本に戻って作戦会議をしようぜ」と言って帰って行った。
彼らの後を追っていた子供達が数名居たのだが、丘の上に登った頃には日本人たちは消滅していた。
「えっ??」という感じで呆然と立ち尽くす村の子供たちであった。
………………………
日本に帰った三人はさっきのことですっかり興奮していたが、「とりあえず飯でも食おうぜ」ということで予め買っておいた材料を使ってすき焼きを作った。
雅彦「いや、緊張したわ、マジで。セールスマンみたいなことさせられるとはおもわなかったわ!」
比呂「兄貴、いっそのことドライバー辞めてあちらの世界で行商でもした方が向いてるんじゃね?」
雅彦「いやー、あんなに好評だとは思わなかったわ、マジで日本の技術と商品、パないっすわー」
比呂「兄貴、あんなに女にモテたことないやろ?鼻の下伸びきってたで?」
雅彦「うるさいわ!そんなこと言う悪い子はこうしてやる!」
と彼が持つ器の中から大事に育てていた肉を横取りした。
比呂「あ!やめーや!」
いつものように仲良くじゃれまくる二人を尻目に黙々とすき焼きをつついていた秀明がおもむろに発言した。
「そういえば最後に村長にホワイトボードに何か書いてもらわなかったっけ?」
デイバッグの中からホワイトボードを取り出し秀明に渡した。
秀明「ん??これはドイツ語やないかい?」
あ?と顔を見合わせる二人。
試しにホワイトボードに書かれた言葉をそのまま検索させて「ドイツ語→日本語」で翻訳すると「我々は丘から来ました」とちゃんと出てきたのであった。
異世界で使われていた言葉は、こちらの世界のドイツで使われている言葉だということが分かりました。
つまりどういうことなんだ?
ということで、この世界の謎はますます深くなっていくのでした。
ちなみに最初にLEADERという英語の単語がなぜ彼女たちに通じたのかというと、ドイツ語では Der Leiterと発音が似ていたからでした。
次回もお楽しみに!
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