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雅彦の怒りと頭領の器(うつわ)

「村の代表に会いたい」と有刺鉄線と空堀で構築された防衛ラインの付近までやって来ていた位の高そうな敵の騎馬兵がこちら側に交渉を求めてきた。


ここで雅彦は崖の下に降りて、ランクルに乗り込み、後退しながら向きを変えて、敵の騎馬兵に運転席側を向けて、ドアを開いて敵の騎馬兵に向き合った。


ランクル73の荷台には通訳を兼ねてヴィルマが乗り込み、助手席にはイングリットが隠れて乗り込んでいた。


ランクルの後部に立ったヴィルマがスピーカーを通して大音量で敵の使者に応えた。


ヴィルマ「村の代表はここにはいないが、こちらに座られている方が我々にチカラを貸してくださっている神の使いの方だ!」


は?何を言っているんだ?と明らかに小馬鹿にしたような表情を浮かべた敵の使者は、先ほど隊長に対しておべっかを使っていた副隊長であった。


副隊長「は?何だと?神の使いだと?


女の分際で我々に生意気な口を利くとはいい度胸だ」


ヴィルマ「ふざけているのは貴様らだ。


神の怒りが落ちる前にこの哀れな兵士たちを連れてここから立ち去るがいい」


ドラゴニアは多くの奴隷を使役することで発展してきた巨大な軍事国家であったのだが、全ての宗教を弾圧し、党と党の政策を信奉するよう強制されている国でもある。


また、女性の扱いも男性からしてみると格段に下の扱いで、女は子供を産む道具で、旦那の夜の相手を従順にこなせばよい存在だと思われていた。


実際、今回攻めてきている軍にも荷物を運ぶ専門の男性の奴隷以外にも、兵士たちの夜の相手をさせられる女性の奴隷たちも多く同行させられてきていたのだ。


そんな世界で、千人隊の副隊長を拝命しているような男が村娘と思われる卑しい身分の女から馬鹿にされた様な言葉を投げかけられたのだから、頭に来ないわけがなかった。


だが、この副隊長は他の者よりは少し頭のキレる男であった。


目の前の表面が白い荷車は先程、馬にも引かれていないのに自力で動いてきていたし、荷台の黒ずくめの女も、ドアを開けてこちらを座ったまま一言も発しようとしない男と思われる人も、明らかに只者ではないと思われたのだ。


これは冷静に事を進める必要がある。


副隊長「まずは、我々の兵士を助け出したいと思うのだが、救助している最中はこちら側を攻撃しないと言うのは誠か?」


黒ずくめの女は前の席に座っている男と何やら会話をして返事をしてきた。


ヴィルマ「ああ、約束通り、救助している間は攻撃はしない。


だが、怪しい行動をとった場合、即座に射殺する」


射殺?この距離で完全武装した我を矢で射抜くと言うのか?


副隊長「出来ないことを言うでない、貴様ら農民ごときにその様な技が使えるわけがなかろう!」


その言葉をまた前席の男に伝えたかと思ったら、その男は荷車から降りてきて手に持っていた黒い鉄の筒?と思われる物を「ガチャ」と言わせたかと思ったら突然「ガーン!!」という破裂音を轟かせた。


その黒い筒から発射された矢は副隊長の足元に転がっていたドラゴニアの兵士が被っている鉄製の兜にヒットし、副隊長の後方に軽々と吹き飛ばしたのだ。


ショットガンのスラグ弾の直撃を受けた兜は貫通し巨大な孔を開けて地面に転がっていた。


乗ってきていた馬は驚いて後ろ足だけで立ち上がってしまう。


あまりのショッキングな出来事に馬の首に抱きついたまま硬直して言葉を失う副隊長。


雅彦はショットガンをポンピングしながら、日本語で叫んだ。


『貴様ごときはいつでも殺せるぞ!


無駄口をこれ以上叩くのであれば容赦なく脳髄をそこにばら撒くぞ!!』


雅彦は本気で怒っていた。


俗に言う処の「激おこぷんぷん丸」どころの話ではなかった。


あまりに理不尽な行動を繰り返すドラゴニアの将兵に対して言葉に出来ない怒りが込み上げて来ていたのだ。


この普段は温厚で怒ることなど滅多にない男の怒りは、日本語を全く介さない副隊長やその場の村の女の子たち全てに伝わった。


ヴィルマはすかさずフォローを入れる。


ヴィルマ「見たであろう?我々の神は貴様らの兜や鎧など全く苦にしない神の国の武器を持っているぞ。


我々の神がこれ以上お怒りになる前に怪我人を救出せよ」


その言葉でふと我に返った副隊長は、あぁ分かったと言って馬首を返して一目散に帰っていった。


雅彦はランクルに乗り込み、怒りに震えた手で勢いよくドアをバン!と閉めたが、助手席のあった場所でしゃがんでいたイングリットが雅彦の肩に手を当てて、落ち着くよう促した。


うん、と一つうなずいた雅彦は、先程と同じ場所にランクル73を戻すのであった。



ことの成り行きを村の教会で聞いていた秀明と比呂はヒヤヒヤしながら通訳の内容と報告を聞いていた。


比呂「ヤベェな、兄貴。


割に正義感が強い処があるからな」


比呂は彼がまだ小学生だった頃、上級生に虐められていた時、当時六年生だった雅彦が虐めていた上級生の兄の中学生と喧嘩になったことを思い出していた。


雅彦はその時、格上の中学生相手に一歩も引かず、ボコボコにされながらも比呂を庇い通したことがあった。


普段はおチャラけ気味で軽いノリをすることが多い雅彦だが、たまにだが正義感のスイッチが入ることがある。


多分、事前に「敵に恐怖感を刷り込む戦略でいくから極力、敵を殺さないでな」と言っていなかったら今回は雅彦は敵兵を容赦なく殺していただろうな、と思った。


秀明も同様の感想をもっていたが、「ある意味でこれが雅彦がこの世界に最初に呼ばれた一番の理由かもしれないな」とも思った。


先日の敵の襲撃があった際に、真っ先に村人を助けに向かったのは雅彦であった。


あの時、秀明は息子たちの身の危険を考慮して村人を救いに行くのを躊躇していたことは間違いなかったし、比呂も雅彦ほどガッツがあるタイプではない。


雅彦の持つ正義感は危ういと思う反面、こちらの世界の人々を率いていくのに不可欠な素養だと思うのだ。


彼の周りには彼の人柄とその正義感、言い換えると「義の厚さ」に惹かれて人が集まってくる。



秀明は自分自身は人を率いていったり、人の上に立つ素養はないと思っている。


実際、彼が任されていた会社の社員は全て解雇せざるを得なかったし、この歳になれば自分が何様で、自分の限界くらいは把握しているのだ。


だが、雅彦は違う。


確かに経験や能力が足りない点は多いが、秀明が見るに彼は明らかに「頭領の素質」がある。


秀明の祖父にあたる川北財閥の創始者だった男や、その子供達が持っている「頭領としての器の大きさ」を秀明は雅彦の中に見ているのであった。


初代の川北や子供達はそれぞれ、川北重工、川北マテリアル、川北電機など日本を代表するような巨大企業を多く育て上げてきた。


残念ながら秀明には、その偉大な経営者達の様な素養はなかった。


だが、雅彦はおそらくその偉大な先祖たちに匹敵するか、もしくはそれを上回る男に成長していくことだろう。


自分がこの世界に呼ばれたのはおそらく、それを手助けするためだったのだ。


秀明はそう思うので、経験を積ませるため、雅彦には敢えてリスクの高い前線に行かせているのであった。


彼にはこの世界の現実をその目で見てもらい、多くの経験を積んで立派な男に成長してもらいたい。


秀明はこの世界の可能性の高さと雅彦の成長の伸びしろの大きさに期待しているのだ。


これは何も彼だけではない。


まだ雅彦の器の大きさには気が付いていないだろうが、川北マテリアルや川北電機などという巨大企業が今、我々に協力してくれるのは、この世界の可能性の高さを買っているからだ。


それぞれの企業がこの世界に寄せている期待は少し違いがあるが、それだけこの世界は多くの魅力と可能性を秘めた世界であることは間違いないのであった。


だが、やがてそれら企業の現在のトップの者たちも雅彦の器に気付いていくだろう。


自分はその下準備をするだけなのだ。



敵方に話を戻すと、逃げ帰った副隊長は先程の出来事をまだ理解出来ずにいた。


ひとまず奴隷たちを救出に向かわせる段取りは済ませたのだが、救出隊を率いる男には先程の出来事は説明しなかった。


あまりにも常識外れな出来事だったからだ。


多分、説明すると頭がおかしいんじゃないかと思われかねない。


あの「神」だか「神の使い」だと呼ばれている男は全身を緑と茶色がマダラ状に混じった見慣れない服を着ていた。


だが、手にしていた黒い鉄の筒がこちらに向いたかと思うと爆音がして、その直後に60エル(約30メートル)離れていた鉄製の兜の中心を打ち抜き、綺麗な大穴を開けていたのだ。


穴には矢は残されていないように見えた。


なら、何が飛んで来たのだろうか?


通常であれば60エルも離れていると弓矢で我々の金属製の甲冑の装甲を一枚貫通することは困難だ。


だがあの時は貫通するだけでなく二枚の鉄板を貫通して大穴を開けていたのだ。


つまり、自分があの時、その神とやらに狙われていたとするなら今頃は死んでいたことになる。


また驚くのはその命中精度もあった。


通常、60エルも離れると敵の頭部に直撃させることは極めて困難だ。


実際、副隊長も騎馬弓術も得意で愛用の弓を持っているのだが、あそこまで一瞬のエイムで正確に的に当たることが出来るのは自分も含めてこの軍にはいないであろう。


副隊長は、これら数々の情報を見て「これは本当にヤバい相手に当たってしまったのかもしれない」と思った。


先程、敵の防衛ラインのすぐ手前まで行って分かったが、溝は三重に掘られ、溝の中や上にも鉄のイバラによる柵が仕掛けられていた。


これらの罠にはさらに多くの水が撒かれ、一度ミゾに落ちた兵士はイバラに引っかかってしまうということもあり、自力で溝から這い出ることは非常に困難だったのだ。


こんな罠を張り巡らしているものなど今まで見たことも聞いたこともない。


正に「悪魔の所業」に違い無いと思った。


ドラゴニアという国は「党」そのものを信仰させるために他の宗教は一切を否定するが、「党」の指導に従わない者は容赦なく「悪魔」の烙印を押されて弾圧されたり奴隷として一生酷使される運命にあった。


副隊長は、ハッとした表情をした。


そうだ、一般的に悪魔と我々が呼んでいたのは党に敵対する人間に対しての表現だったのだが、今回我らが敵対しているあのマダラ模様の男などは悪魔のボスなのではないか?


それなら以前にこの村に送り込んでいた騎馬兵20騎があっという間に敗北したのも説明がつく。


悪魔というのは本当に存在していたのだ。


ならば、その「悪魔のボス」を我らの手で葬り去って、彼らの持つ驚異的なチカラを全て我が物に出来たら、千人隊の隊長などというチンケな位ではなく、万単位の軍団の長の位や、本国に帰って党の上級幹部に成り上がることも夢ではないかもしれない。


「ふふっ、うちの隊長にもそれなりに働いて貰わねばならないな…」


そう不敵な笑いを浮かべる副隊長なのであった。





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