中世ナーロッパ最強 電気トラップ
ドラゴニア東部戦区 第二軍団所属の千人隊の侵攻が始まった。
敵前衛部隊は大楯で全身を隠しながら少しずつ前進を続けた。
敵はほぼ横一列で進んで来ていたが、その間も散発的に後方の弓隊から矢の雨が降って来ていた。
矢が狙っていた先は、崖の下の林道の入り口に見える様に停めているランクル73がターゲットとなっていたが、ボディをアルミの波板で補強しているので当たった矢もボディを貫通することは無かった。
ヴィルマやイングリットは崖の裏側で待機していたので矢は全く届かなかったし、5人の長槍隊も同様だった。
林道は崖の裏から逆Cの字に湾曲していたが、ちょうど向かい側に多くの置き盾を並べた裏側にクロスボウを備えた10人の弓隊が居たが、彼女たちにも矢は届いていなかった。
敵の最前列が鉄条網を敷いた防御ラインに差し掛かったのを見た比呂は、「兄貴、始めるで!」と号令をかけた。
雅彦は崖の下のヴィルマたちに指示を飛ばし、軽トラの荷台に設置していたジェネレーター(発電機)の出力を最大にした。
雅彦は崖の上に持ち上げていたブレーカーのスイッチをオンにした。
防衛ライン付近は雅彦たちにより事前に大量の水が撒かれていたので泥沼化していたのだが、そこに侵入していた敵兵のうち約半数が「バシッ!!」という音と共に飛び跳ねた。
突然、盾や槍を投げ捨てて、悶絶する者や、その場でうずくまる者。
敵前衛部隊は混乱した。
そこへ弓隊から容赦ない攻撃が加えられた。
慌てて逃げ出す敵兵たち。
その様子を崖上から見ていた雅彦たちは、あまりにも狙い通りに敵がトラップに掛かったので、グータッチした。
雅彦「電気がまだ無い世界で電気トラップ、これはキクやろなぁ」
比呂「ああ、敵は当分の間、何が起こったのかすら分からないと思うぞ」
比呂も満面の笑みを浮かべている。
タネを明かさなくても分かると思うが、要はそれほど強くない電流を足元に這わした複数のワイヤーに流して軽く感電させてやっただけだ。
ジェネレーターの出力のラインに繋げたワイヤーとアースを繋げたワイヤーの2つを同時に踏むと、ワイヤー間で電気が流れて感電する仕掛けだ。
ジェネレーターの出力がそれほど大きくないという事もあり出力は抑えているし、流したのも一瞬なので怪我すらしていないだろうが、前線の兵士達の多くは完全に戦意喪失していた。
コウカテキメンってやつである。
数百人もの前線の兵士達の異変に気付いた前線の指揮官と思われる騎馬兵が感電ワイヤートラップ中に入ってきたので、雅彦はまた一瞬だけトラップのスイッチをオンにした。
するとまたワイヤーが張り巡らされている一帯がビクッと硬直し、馬は悲鳴を上げて直立して乗せていた指揮官を落馬させ、泥沼に入っていた兵士たちは装備を捨てて、後退を始める者などが続出した。
雅彦は面白がって数回、スイッチをオンにしてやる。
その度、あちこちで男達の野太い悲鳴や怒号が響き渡るのであった。
ヴィルマたちも透明なバリスティックシールドの陰からその様子をポカンとした表情で眺めていた。
かくして、緒戦は日本人とスピスカ=ノヴァ連合軍の完勝に終わった。
敵はズルズルと百メートルほど後退して行ったのだった。
その様子は無線で村の残っている秀明やエマにも伝えられ、教会の中にいた子供たちや予備隊の大人たち、さらに村の北の森の中で敵を警戒しているマルレーネ率いる特殊作戦部隊に知らされた。
教会の中では子供達の大歓声が起こった。
エマ「なんで敵は簡単に撤退したんですか?」
秀明「こちらの世界ではまだ発明されてませんが、我々は電気を使って色んな物を動かしています。
この翻訳機もそうですし、無線機もそうです。
ありとあらゆる物がその電気によって動いているのですが、今回はその電気を少し強くして敵に流してやったんです」
秀明はおもむろに自分の体を手で擦り始めたが、近くにいた男の子を呼んで、指先でその子の手にそっと触れた。
するとパチッと軽い静電気の放電が起こり、その男の子は「Schmerzlich!(痛っ!)」と叫んだ。
秀明「はは、ごめんごめん。
まあこういった感じで接近してきた敵兵に『Elektriztät(電気)』を軽く流してやっただけです。
今回は敢えて出力を落としてるので死者は出てませんが、やろうと思ったら人を一瞬で黒焦げにさせることくらい出来ますよ」
その言葉に教会の中にいた全員は「シーン」と静まりかえった。
こりゃ、刺激が強過ぎたかな?と思った秀明は言葉を続けた。
秀明「今回はなるべく味方もそうですが、敵兵も殺さないようしています。
殺すのが怖いとかじゃないですよ?
敢えて殺さないことで自分たちに有利な状況にさせる為です」
エマ「以前言っていた現代戦の基本でしたっけ?わざと殺さないようにすることで敵の戦力を効果的に削ぐ、という戦い方をすること」
秀明「そうです、敵を一人殺してしまえば戦力は純粋にマイナス1ですけど、戦闘不能な状況にすればこの負傷者を助けるために敵は戦力を削がないといけなかったり、怪我の治療をすれば医療品が、食事をすれば食料を消費させることが出来ます。
仮に怪我人が出ても無視、死人が出てもお構いなしという軍隊だったとしても、目の前で大量の怪我人や逃亡者が発生したら軍の士気は間違いなく落ちます。
逃亡しようとする兵を殺す督戦隊が敵にいたとしても、完全には士気は回復しないでしょう。
短期間、無理矢理士気を回復させることは出来るかもしれませんが、それでも全体の3割程度を失えば敵は勝手に崩壊しますよ。
これは私たちの世界で起こった数々の戦争を調べて見たら分かるんです」
その頃、敵軍は軽いパニックが起こっていた。
逃げ帰ってきた逃亡兵に対し、千人隊の隊長は自ら鉄拳制裁を加えていった。
そして、盾や槍を前線に放置してきた兵士たちに無理矢理、取りに行かせた。
剣を振り回して始めた隊長の剣幕に後押しされた逃亡兵たちはダッシュで盾などを拾おうとする。
そこへ雅彦はまたしても電気トラップを発動させてた。
「ギャアッ!!」という叫び声を挙げてのたうち回るの者や苦痛に顔を苦めながらも盾などを拾い、慌てて逃げ帰る者などが続出した。
結局、全ての兵士が盾や槍を回収して撤退したが、すぐに攻めてくることは無かった。
雅彦たちは再度、お経を大型スピーカーから流して、崖から降りた。
「イェー」という感じでハイタッチを要求してくるイングリットに軽く合わせる雅彦。
崖から降りたらアレクシアが比呂に話しかけてきた。
アレクシアと同年代の女の子たちは前線には連れて来ていないのだが、アレクシアだけは本人のたっての願いで通訳として比呂について来ていたのだった。
アレクシア「ヒロサン 敵 電気 凄い」
なんとなく意味が分かる。
それにしてもこの短期間で随分、日本語の単語を習得したものだ。
比呂も極力、ドイツ語で話す様にしてるが自分で言うの何だが、語学の学習能力はあまりないと思う。
学生時代の英語の成績もあまり良くなかったし。
さっき、味方を指揮するのに兄貴はドイツ語で指示をテキパキ出していたが、自分はまだそこまでサラサラと単語が出てこない。
戦いが終わったらもっと勉強しとこうと心の中で誓う比呂であった。
比呂はヘルメット越しにアレクシアのアタマをポンポンと軽く叩いて、「お疲れ様、怪我はないか?」と日本語で聞いた。
アレクシア「はい、大丈夫。怪我 ない」
少し震えているが、そう答えるのであった。
比呂は無線で秀明に食事を用意する様手配して、軽トラにアレクシアも同乗させて村に戻っていった。
雅彦はヴィルマとイングリットに対して「Bist du verletzt?(怪我はないか?)」と聞いた。
彼女達は口々に「Kain Problem(問題ない)」と答えた。
少し離れた林道の奥にいる弓隊からも「皆 大丈夫です!」とこちらは日本語で返事が返ってきた。
軽トラで彼女たちの所を通過する際に比呂も彼女たちの様子を聞いていたみたいだった。
ヴィルマ「マサヒコ、これからどうなるの?」
雅彦「たぶん、また攻めてくる。今度は電気トラップは効かないかもしれない」
日本語で話したが何とか意味は通じたみたいだった。
雅彦やヴィルマたちは、関所跡付近で一緒に作業をする機会が多く、ここはまだネットが繋がらないこともあって、お互いの言葉を練習する機会が多かったのだ。
雅彦もなるべくドイツ語をヴィルマたちから教えてもらい使おうとしてたし、ヴィルマたちも日本語を使おうとしていた。
これは一般論だが、英語などが苦手な人が英語を主に話す地域、例えばオーストラリアなどに行くと言葉が通じなくて苦労することが多い。
アチラの人が英語で話をするのが当たり前だと思っていることが多く、ペラペラと話をするので聞き取れないことが多いからだ。
だがドイツやチェコ、スロバキアなど英語が母国語ではない地域なのだが英語もそこそこ通用する処などでは、英語を使ったコミュニケーションが案外スムーズに行くことが多い。
こちらも一生懸命に伝えようとするが、相手側も同じように一生懸命に理解しようとしてくれるからだ。
「なんとか相手の言葉を理解したい」という熱意は言葉をマスターするのに最も重要なファクターになる。
ここでは雅彦やヴィルマなどは必要に駆られていたということもあったのだが、そういう熱意が彼らの学習効率を上げていたわけだ。
雅彦はどうやったら敵を防ぐことが出来るんだろうかとか、味方に被害を出さずに完勝するにはどうすればいいのかなど常に考える必要があったのでまだそれほど真剣に言葉のマスターに集中出来ていたわけではないのだが、
ヴィルマやイングリットたちは「日本人たちのことを理解したり、彼らの持つ知識を少しでも多く吸収したい」と強く思っていたこともあって、それぞれが熱心に日本語をマスターしようと努力していた。
だから雅彦がこちら側の世界に来て、一ヶ月あまりしか経っていないにも関わらず、急激に日本語をマスターし始めているのにもこういう理由があったのだ。
特に日本語の習得が進んでいたのは、今は比呂の隣にいるアレクシアだ。
比呂は特に頭脳労働をしないといけなかったこともあり、正直それほどドイツ語を学べてなかったが、それを補って余りあるほどアレクシアの日本語能力は急激にアップしていた。
まだまだ分からない単語は多いし、比呂に教えてもらうことが多いが、日常会話程度なら単語を羅列させる事で意味が通じることが多くなってきていた。
いかに彼女が真剣に学ぼうとしているかというのもあるし、若くて頭がまだ柔軟だという事もあるのだろうが、やはり彼女は他の村人たちと比べて飛び抜けて頭が良いと思われるのだ。
これは村長のエマについても言えるのだが、秀明や比呂というどちらかと言えば「天才肌」の人間が言う突飛もない話をある程度理解出来ていることは、これはかなり凄いことなのだ。
エマは元々、男性がほぼ全滅したこの村をなんとか崩壊させずに切り盛りしてきた実績もあり、村人たちからもその能力を信頼されているのは秀明や雅彦たちにもわかっていた。
だから秀明たちも、極力村の事は口出しせず、彼女の判断や自主性を尊重していたのだ。
話が脱線したので元に戻すが、雅彦は自分の車に大量に刺さっている矢を回収して、それを後方の弓隊に取りに来させた。
ランクル73の天井には予め木の板を置いていたので、壊れていない矢が数百単位で回収出来た。
雅彦「赤壁の戦いの前哨戦での孔明の罠でこんなのあったよな」と独り言を言いながら集めていたら、ヴィルマやイングリットも敵の方を警戒しつつ、雅彦の手伝いをした。
崖の横に敢えてランクルを敵から見える様に配置することで、敵の矢の攻撃を集中させるというのは元々比呂が出した案だが、
例の「敵の矢を数万本集めてきましょう」という三国志演義での諸葛孔明がやったと言われる船に矢を射掛けさせることで敵の矢を集めたというエピソードを今回、使ってみようと発案したのは雅彦だった。
一応、日本からも数万本単位で矢を集めていたのだが、こうやって事あるごとに矢を集めるのも必要なことだ。
雅彦「智将は敵に食む(はむ)ってね♩」
緒戦の快勝で少し調子に乗っている雅彦であった。
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