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軍事秘密と作戦の下見と監視場

次の日、比呂はドローンの受け渡しと簡単な講習を受けるために日本側の鉱山に帰っていった。


彼にドローンの配達と講習をしてくれるのは川北電機の開発室の比較的、上の方の人らしい。


「オレは狩人(イェーガー)隊の訓練で超忙しいから、ヒロ、頼んだで」


という一言で秀明は比呂にドローン関係のことは全て丸投げした。


鉱山の事務所で川北電機からの連絡を待っていた比呂は、彼の携帯に見知らぬ電話番号からの電話を着信した。


電話に出たら「川北電機の田中」と名乗る男性からであった。


とりあえず、小畑氏(秀明のこと)から一刻も早くドローンを使えるようにして欲しいとの依頼があったので、社長命令で来ました、とのことだった。


もうすぐそこまで来ているということで、すぐ鉱山内の事務所まで入ってきてもらうことになり、事務所のすぐ下にある作業場の前の広場で待っていたら、豪華にドレスアップされたハイエースが到着した。


クルマを見るだけで、ある程度の収入があることが分かった。


クルマから降りてきた中年の男は、非常に温和な雰囲気をしていたが、服は川北電機の作業服を着ていた。


彼は比呂の前に進んで来ると、名刺を取り出し自己紹介をした。


名刺には「川北電機産業(株)DS事業部開発室主任技師」という肩書が書かれてあった。


田中「お父様と弊社代表からある程度の話は伺っております。


今回持ってきたドローンは海上自衛隊の偵察用無人機として弊社開発部で試作された物ですが、武装は取り外してあります」


比呂「偵察機に武装が付いてたんですか?」


田中「ええ、コントローラーにその名残がありますが、まあ気にしないで下さい」


田中と名乗るその技師は比呂にタブレット型のコントローラーを渡した。


比呂「え?これがドローンのコントローラーですか?てっきりラジコンのコントローラーやプレステのコントローラーみたいな物を想像してましたよ」


田中「ある程度のマニュアル操作も可能ですが、コイツは基本的に目的地や経由地を指定しての自動航法で飛ぶので、操作は覚えてしまえば素人でも簡単なんですよ」


田中は比呂と一緒にハイエースの荷台から出してきた直径が1.5メートルほどもある大型ドローンの四つのエンジンを掛けながら説明を続けた。


田中「このドローンは広大な海の上での使用を前提としているので静粛性より航続距離と速度を優先した設計となってます。


まあ、小畑さんから聞いていると思いますが、これは軍事機密の塊なので、くれぐれも『日本』で使わないようお願いします。もちろん他人に他言も無用に願います」


比呂「ということは『あちらの世界』のこともご存知なのですか?」


田中「ええ、ある程度の機密情報にはアクセス出来る立場にいますので」


おやおや、おれら以外にも異世界の事を知る人がいるわけなのね。


比呂の顔色を見て田中技術は言った。


田中「ご安心下さい、この事を知るのは我々の会社でも社長と私の二人だけです。


我々の会社は一般にどう見られているか知りませんが、実際は軍事産業の一翼を担っています。


つまり、日本国の軍事機密の核心部分を触れる立場にいるというわけです。


それ故に情報漏洩はいつも気を使っているわけなのですが、小畑氏と弊社社長との話し合いで、我々は御社に軍事技術やサンプル品などの提供を行い、御社からは資金提供や実験場の提供をお願いしたいと考えております」


比呂「ということは、今回提供していただくドローンはサンプル品という事なのですか?」


田中「サンプル品というか、量産前の試作品ですね。


ですのでコントローラーなどは弊社で市販しているタブレットをそのまま流用しているのですが、実際軍に納めている製品は独自設計の物を使用しているなど違いはかなりあります。


試作品はもう弊社では利用しないので、こちらで活用してもらおうと思います。


あと、これは少しお恥ずかしい話なのですが、我々の会社内にもかなりの数の産業スパイが紛れ込んでいます。


ですので『絶対にスパイが紛れ込まない実験場や実験室』の存在は弊社にとって喉から手が出るほど欲しかったのです。 


例えばここなどは他国からは実は丸見えなんですよ」


と、空を指差しながら言った。


つまり偵察衛星などで他国からは丸見えになると言いたいのであろう。


田中「あと、御社から提供して頂く資金で独自研究出来ることも弊社にとって大きなメリットとなります」


比呂「難しい話ですが、なんとか理解しました。


御社との話し合いの内容は聞かされていなかったので少し驚きました。


個人的に色々と教えて頂きたいこともありますので、ドローン以外でもよろしくお願いします」


比呂としては、異世界側に通信アンテナを立てたり、電線の敷設など素人には手に余ることを本職の人に相談したかった。


田中「またご相談下さい。


時期は未定ですが、開発室のスタッフをこちらに派遣することになると思いますので、彼らに相談していただけたらと思います」


そう言ってニッコリ微笑む田中主任技師であった。



その頃、雅彦は先日の比呂の発案のアイアンバール作戦の下見をしていた。


村の南側は、鬱蒼とした森があるのだが、クルマが一台通れる幅の道があり、そこを抜けると突然辺りは開けて遥か彼方まで見晴らせる崖の上に出る。


崖は高低差が約100メートルほどあり、大きな岩が斜面からあちこちで剥き出しになっていた。


崖はほぼ岩で覆われているので、人がよじ登ることすら困難なように思われた。


崖の下は一面、草原の大平原が地平線まで広がり、所々小川や小麦と思われる金色の穂がなびく大きな畑などが確認できた。


「おー、関所跡の先のゲレンデを降った先に広がる大平原もスケールでかいが、こっちも凄いね。


こりゃ、本気で開拓したら相当の収穫が見込めるんじゃないの?」


日本から大型のコンバインとか持ってきて、ここを耕して土の中の石とか岩とか取り出し、試しにいろんな作物を植えてみて、生育が良いものを大規模に栽培してみるのも面白いかもな。


最も今はドラゴニアとの戦をなんとか終わらせるのが先だ。



自分がいるスピスカ=ノヴァという村は、ビスマルク王国に所属しており、直接支配しているはずの領主はここから東にあるパイネという城塞都市にいるリンツ卿だという。


おそらくその城塞都市に引きこもっているであろうリンツ卿と会うにはどうしたらいいのだろうか?


ここら辺を勝手に開拓してたら当然、その領主とぶつかる時が来るだろうし、そもそもドラゴニアが1万もの兵力で攻めてきているのだから、その領主が兵を出してこの村を守ろうとするのがそもそも役目だろう。


「いっそのこと、我々が新たな国を興して独立してやろうか?」と考えることもあるが、あまりに早急にことを進ませて周囲全てを敵に回すのはあまりにもリスクが高過ぎる。


スピスカ=ノヴァの村長のエマさん曰く「新たに領主となったリンツ卿はいい人です」とのことなので、ひとまず味方としておくのが良いのかもしれないが、それにしても連絡するにしてもまずは中間地点付近にいるドラゴニアの駐屯部隊を撃滅するか、大きく迂回してパイネという街まで行かねばならない。


見たところ、地図さえあればこの大草原をランクルで渡って行くのは難しくは無さそうだが、闇雲にふらふらするのはあまりにも危険過ぎる。


こちらの人から聞いたのは、草原では牧草を餌にした動物以外にもモンスターが出没し、森ではかなりの数のモンスターや獣が出没するらしい。


スピスカ=ノヴァ付近の森も野生の狼や鹿、猪以外にもモンスターが生息しているらしいのだが、狩人(イェーガー)たちが定期的に数を減らしてくれているので、村人に被害が出ることは滅多にない。


スピスカ=ノヴァが他の街や村と交易が断たれた後もなんとか維持出来たのは、この森からの恵みが比較的豊かだったということがあるのだろう。



雅彦が崖の上に着いてクルマから降りると、見張りをしている村の若い女の子二人が駆け寄ってきた。


彼女達はアレクシアと同年代の女の子だ。


雅彦はクルマの荷台から自立型のタープを取り出して彼女たちに手伝ってもらい立てた。


また、タープの中に一人用のテントコット(足付きのベッドにテントが付いている物)を入れた。


これも組み立ては超カンタンで、雅彦が屋外でキャンプしている際はこれをよく使っている。


普通のテントみたいに地面な上に直接敷物を敷いたりするのではなく、ベッドに脚が付いているので地面とベッドの間には30センチほどの隙間があり、地面のゴツゴツなどに影響されることがない優れ物だ。


真冬はこれだけだとかなり寒いが、まだこの時期はそこまで夜も冷え込まないので見張りの女の子たちの疲労軽減になるかもということで雅彦が自分の私物を持ち込んだのだ。


ちなみに雪中キャンプをする際には、テント内部に薪ストーブを持ち込む。


これは一酸化炭素中毒に注意しなければならないが、上手く設営すればマイナスまで気温が下がってもかなり快適に過ごせるのだ。


それ以外にもランタンや折り畳みの椅子なども持ち込んできたので監視もかなり快適になるだろう。


もちろん無線機もバッチリ持たせているので何か有れば即座にエマたちや日本人にも連絡が入る。


関所跡にもテントなどを持ち込んでいるが、こちらは建物の屋根は無くなっているが、壁や床は残っているので簡単に床を掃除して普通の大型のテントを張った。


このようにして見張りの体制もほぼ整えることが出来たわけだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 防衛機密の装備を扱う人には尾行がついていても不思議ではない気もします。
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