アイアンバール作戦
比呂は早速、異世界に向かいアレクシアとエマの二人を見つけ、彼女たちに村の南方の崖の下と関所跡から先のゲレンデを村人たちで交替して監視してもらうよう手配した。
エマ「早速、今晩から人を二人ずつ出します」と返答してくれた。
アレクシアはより危険度が低い南方の監視をアレクシアと同年代の女の子数名で交替して監視するよう早速手配するために村から飛び出していき、エマは二十歳以上の大人の女性を交替で関所跡に監視に行かせるよう準備を始めた。
エマ「とりあえず今日の夕飯時に皆が食堂に集まった時点で発表します」とのことだった。
比呂はその後、関所跡でテントなどを設営している雅彦を見つけ、先程思いついた内容を彼に伝えた。
雅彦「…なるほど、南側の崖をねぇ。オヤジにも意見を聞きたいけど、おそらくその作戦は出来るだろうね。
確かに敵に主導権を渡しっぱなしというのは精神衛生上よくないから面白い案だとは思うぞ。
…で、どうせ作戦名まで考えたんだろ?」
比呂「ああ、『アイアンバール作戦』と名付けたわ。
雅彦「ん?ははははっ!アイアンバール作戦だって?
親父は昔、『アイアンバールカップに出たことがある』けど、その『アイアンバール』のことか?」
比呂「おー、昔、よくビデオで見たよな。
オレらがまだ子供の頃の競技だったみたいよな。
今ではもうないが、当時アレを見せられた時には『この人たち、一体何してんの?』とマジで思ったもんな。
で、アニキはアレと同じこと出来るの?」
一瞬、躊躇したのち雅彦は「おう、任せとけ!親父達に出来たことがオレらに出来ないことはないやろ!
もちろん、お前も一緒に来るんだよな?」
と胸を張って言った。
比呂「えっ?それは経験者の親父と兄貴の二人が適任でしょ?
僕は村の前線の防衛を任されますわ〜」
雅彦「こいつ、相変わらず都合のいいやっちゃ!」
といつものようにいちゃつく二人であった。
ネタバレはしたくないので軽く「アイアンバール」について説明すると、アイアンバールを直訳すると「鉄の棒」のことだが、2000年代の初め頃、実在していた「四駆を使ったある競技名」のことを指す。
ちなみに親父(秀明)がまだ若かった頃にはその競技に出ていて、競技自体の成績は悪かったそうだ。
この競技は二人一組で参加するもので、二人で協力していかねばならないものなのだが、親父は彼独特のこだわりがあって「四駆で走るときは全て自分一人で何でもするもんだ!」という独自理論があったため、二人一組での競技でも実質自分一人だけでやっていたそうだ(笑)
話は少し脱線するが、秀明は四駆で遊ぶときは「単独行」に異常にこだわっていた。
スタックして身動きが出来なくなったとき脱出するのも自分一人、クルマが壊れた時、修理するのも自分一人、たとえクルマが転倒してもリカバリーするのも極力、自分一人で行っていた。
だから何かあったとき、周囲の人が手を貸そうと寄ってきたら「自分一人で何とかするから手を出すんじゃねぇ〜!」とよく叫んでいたものだった。
効率を重視するなら確かに皆で作業を分担してやればリカバリーが速いことは誰にでも分かることなのだが、「自分の技能を磨くことを追求する」ことが最大の目的だった親父は、四駆で遊ぶときは極力 単独行にこだわっていたわけだ。
だから、彼の周りにも同じような考えをもつ人がいくらか集まってはいたが、マイナーな遊びのさらにドマイナーなこだわりや流儀を知る人は他にはほとんど居なかったわけだ。
今では知っているのは雅彦の世代では彼くらいだろうと思われる。
まあそんな訳でアイアンバールという名を比呂があえて持ち出したのは、古の競技内容に似せた「あること」を作戦内容に盛り込んだからであった。
答えが早く知りたい方はアイアンバールカップで検索したら、おそらくまだ探索結果に出てくるだろう(笑)
…そんな訳で、今回の防衛戦では「アイアンバール作戦」という物も実施されることになった。(多分)
この提案は夜、村の唯一の宿屋の食堂に皆が集まった際に秀明にもアイアンバール作戦について説明されることになる。
彼ら日本人三人は、食堂の隅のテーブルに着くとビールを手に持ちながら早速、打ち合わせを始めた。
秀明「…作戦内容は理解した。
まさか異世界に来てまでそんな事をするようになるとは思わなかったな。
現場を見てみないとなんとも言えないが、まあおそらくなんとかなるレベルだろうと思う。
最初にこの村を偵察した時に村の南の崖を見たことがあるからな。
逆に誰かが『そんなの出来ないわ』と言われたら意地でもやりたくなるもんだろ?」
秀明は雅彦を見ながら言った。
雅彦「おうよ、さっきチラッと現場を見てきたけどなんとかなりそうだぜ。
まあ、あそこまで高低差がある所ではやったことないからそこだけ不安だが、道具さえ事前にしっかり準備しておけば出来るのは間違いないやろね」
秀明「ほお、言うようになったな。
ほんじゃ、俺は助手席で寝とくから一人でやってくれな」
雅彦「おうおうおう!お得意の『個人商店理論』か?
ここに来てそれは辞めてくれよ!」
個人商店理論というのは、例の四駆乗りは全てなんでも一人でやるべきだ!という秀明独自の流儀のことだ。
ここから二人は比呂にも分からない専門用語の羅列による打ち合わせに突入した。
秀明「で、要る道具は何がある?」
雅彦「幅広のトウロープが最低でも5本、S字フックは10個、10メートルの予備ワイヤーが5本、それとチルホールのTu-13が一つ、これは親父のヤツのを使わせてくれ。
ワイヤーは20メートルので良い。
あと同じチルホールも軽いX-13を二個持っていく。
これは10メートルワイヤーだな」
秀明「行きはそれでいいとして、帰りは例のディーゼル発電機が要るぞ。
なんせエンジンをかけられないからな」
雅彦「やっぱりダメかな?あの距離ならエンジンかけっぱなしでいいんでない?」
秀明「まあ無理やろ、行きもそもそもエンジンオイル抜かないとダメなのに、帰りも当然同じことしないとダメだろ」
雅彦「そーかー、それだとちょっと面倒になるから時間もかかるなぁ」
秀明「それで、雅彦くん、どのくらい時間かかると思う?」
雅彦「う〜ん、そうだなぁ。行きが30分、帰りが20分ってところかな?」
…こんな感じで二人の打ち合わせは続くのだった。
比呂はこの二人の様子を見ながら、「この二人は本当に仲がいいな」と思った。
自分はアニキほど、親父に連れられて山に走りに行っていない。
それに実際、アニキほど四駆で山を走るのが好きか?と言われるとかなり微妙だ。
どちらかと言うと自分の脚で走っていたり、ゲームとかしている方が好きだ。
(特にFPSとか戦略系のゲーム好き)
だが、この二人と一緒にいると本当に退屈しない。
こちらの世界への道を拓いたのはアニキだが、おそらくアニキだけではこの村を護り切ることは不可能だろう。
銃の使用許可を持ち、元々鉱山を所有していてありとあらゆる知識と経験を持つ親父の協力がなければ先日のドラゴニアの襲撃の際にも間違いなく犠牲者が出ていたことだろう。
まあ、自分も貴重な戦力になっていることは間違いないのだが、それでも今回発案したアイアンバール作戦は自分で発案しておいて言うのも何だが、かなりのリスクを伴う。
さっきは自分は前線に残るとは言ったが、これは四駆や彼らの流儀に詳しくない自分ではかえって足を引っ張りかねないという考えがあったからだ。
親父もアニキもそれは理解しているだろう、だからこそこの二人は一見すると嬉々として取り組もうとしているかのように作戦の実行に集中しているのだ。
「下手をすると死ぬかもしれない」
一瞬、そのことが頭をかすめてドッと冷や汗が背中を流れた。
アニキや親父のどちらかでも欠けると、今のこの楽しい雰囲気が永遠となくなるかもしれない。
そのことだけは絶対に避けねばならない。
だから、自分は自分なりに出来ることを最大限やるだけだ。
ここで比呂は話し込む二人の間に割って入った。
比呂「分かってると思うが、この作戦はとてつもないリスクを伴う。
だから準備はするけど本当はしたくない。
どちらかと言うと『最後の手段』くらいに思っておいて欲しい。
正に起死回生の一撃、これがアイアンバール作戦だ」
珍しく真剣な眼差しで力説する比呂の様子にふと我に返る二人。
雅彦「大丈夫、大丈夫。アニキとお父さんを信じなさい」
ニヤッと笑いながらそういう雅彦だった。
隣の親父も不敵な笑みを浮かべている。
あぁ、そうだよなぁ。昔から「四駆乗り」って生き物は困難があるからこそ、わざわざそこに突っ込んでいく生き物だったよなぁ。
じゃあないと、わざわざクルマでも人でも通過出来ないような難所に突っ込んでいったりする訳ないよな。
頼もしいんだかバカなのか分からないけど、やっぱりここはマトモな人間であるオレがしっかり目を光らせておかねばならないよな、と思う比呂であった。
比呂「どうも二人は難所があればわざわざ面倒臭い方を狙って突っ込んでいく様にしか見えないからなぁ。
それにこの作戦立案はオレなので、オレに作戦決行の判断はオレの責任で行わせてもらう。
…異論はないよね?」
「お、おう?」
あまりの迫力に気圧される二人であった。
比呂「それにこの作戦の実行に不可欠な物がある、その到着は一週間後だわ」
雅彦「なんだ、それ?なんか必要なものが他にあったっけ?」
比呂「あるよ、『偵察用ドローン』だ。
広範囲の偵察が可能な様に農業用のドローンに高性能カメラを搭載したヤツがたまたま中古で売りに出されていた。
なんでも地図の作成などでも使われていたヤツらしいよ」
あーー、といいながら頭に手を当てながら秀明は言った。
秀明「あー、偵察用ドローンなら川北電機で海軍に納入しているのと同じヤツを一機、中古だけど貰えることになっていてだな、明日にでも届くハズだわ。
言うのを忘れてたな(あはは)」
比呂「は?そんなのあるの??海軍でドローンとか使ってたっけ?」
秀明「あぁ、ナイショみたいだけどな。
ただ、こちらの世界にはGPSがないから、遠距離飛ばし過ぎると帰って来れなくなるから要注意な」
ここで秀明は、先日川北マテリアルの社長と飲み歩いた話と、川北電機の現会長に話を通してもらったということを雅彦と比呂に伝えた。
雅彦「は?なら、比呂とかが前に言っていた軍事産業とのコラボが出来たってこと?」
秀明「まぁ、そうなるかな。
出来たら川北重工とも組みたいんだが、そちらとの交渉はまだ出来てないわ」
雅彦「なんでそんなこと出来るんや?アチラは何を期待してるの?」
秀明「そりゃもちろん『金』よ。
まあデカい会社だけど国内の電機メーカーはどこも不景気でなぁ、大口のスポンサー様の言うことにはなかなか逆らえないわけよ」
雅彦「ということは、川北電機の大株主にでもなったってこと?」
秀明「いや、まだ株までは買ってない。
だが、こちらの世界で採れる金から得られる利益をグループ内で循環する仕組みは整いつつあるわけよ。
まぁ、新たな会社興したり、他のグループ企業との打ち合わせや条件の擦り合わせなんかもあったんで頭痛かったわ」
…この人は本当に底が見えないな、そう思う息子二人であった。
秀明「とまあそういうことで、かなり大型のエンジン付きドローンだぞ、20kg程度の荷物も載せれるから、改造が捗るよな、ヒロ?」
パチンとウインクしてみせる秀明。
比呂「んじゃあ、オレが注文したヤツは無駄だったのか?」
雅彦「いや、そういうことはないやろ。
村の北部に広がる山と森の防衛戦用にも使える訳だし、敵の主力が来そうな関所跡の防衛ラインの付近の偵察にも使えるだろうしな。
場合によっては、爆弾抱えさせて敵の司令部に突撃させてもいいんじゃね?」
中東とかで自爆テロの代わりに最近流行始めたドローンを誘導ミサイルの代わりに使う方法のことね。
比呂「まぁ、できんことはないかな?オヤジの含水爆薬と点火装置を載せればいいだけだからなぁ…」
ぶつぶつ呟きながら、頭の中でどういう構造にしような悩み始める比呂。
雅彦「まぁ、それでも高いんだろ?なんか別の物を載せて司令部や敵指揮官に直接ぶっかけてやればいいんじゃね?それならドローンは何度でも使えるでしょ」
比呂「まあ、それはそうだな。
とりあえず親父が手配してくれた大型ドローンはアイアンバール作戦の確度を上げるために使わせてもらう。
航空写真を撮るために使われていたってことはマジでありがたいわ、徹底的に情報を収集するから、それが出来てから作戦を実行するか決めます」
お、おう。と返事をする二人。
秀明「で、誰がドローンの操作をマスターするかな?話の流れでいうと当然、ヒロってことになるよな?」
あ…と顔に縦筋が入る比呂であった。
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