えっ、なんで通じてるの?
なんだか主人公である雅彦と守衛の二人の女の子はすっかり盛り上がって化粧品を彼女たちに使わせていた。
その様子を後ろからこっそり撮影していた弟の比呂は「まるで深夜番組とかでよく見る、奥様に化粧品を使わせて売りつけている悪徳セールスマンやなあ」などと思った。
丘の上から双眼鏡で見ていた親父の秀明も「なんか心配して損した」などと思っていたが、どうやら村の中で動きがあったようだ。
彼の双眼鏡では村の中で彼らの様子を見つけた数名が門に駆け寄ってきていた。
比呂に対して無線で接近する人物が複数いるので注意するよう伝えた。
比呂もすでに気が付いていたようで、腰に隠し持っていたナイフの柄に手をかけて待ち構えた。
弟からの警告に「わかった、わかった」と軽く対応する兄の雅彦。
雅彦はたちまち、駆け寄ってきたこれまた美人な奥様?方に対して化粧品の実演販売みたいなことを始めた。
おいおい、この人 本業はトラックドライバーだよね、それも大型の。
と思う比呂であったが、雅彦の周りにはすっかり村の女性たちによる輪が出来ていて、リップを付けさせて鏡で本人に確認させたり、ファンデーションを付けさせて肌の具合を確認させたりと、本業の化粧品のセールスマンかな?という見事な働きをみせていた。
「やれやれ、アレこそヤツの特殊スキルかよ」と半ば呆れる秀明だったが、期待していなかったと言えば嘘になる。
実際彼はいわゆる「人誑し(ひとたらし)」の才能があって、例えば秀明の四駆やサバゲーなどでの友人はほぼそっくりそのまま雅彦の友達になっていた。
特に歳上の人から好かれる傾向があり、彼もまたその事を上手く活用することを自然に行ってた。
秀明も自分が持つ鉱山が昔みたいに掘れば儲かるというのであれば自分の跡を継がせたのだが、残念ながら蝋石を掘るような産業は完全な斜陽産業となっていて、価格差で海外からの輸入では全く歯が立たず、最近は全く別の事で日銭を稼いでいるのであった。
鉱山の一部を四駆のコースにしたりサバゲのフィールドとして有料で貸し出しているのもその一環だし、ネットビジネスで稼ぐ才能があったのでどちらかと言うとそれが秀明の本業となってしまっている。
そういう理由もあって彼の会社を継ぐ人は誰もいないのだが、会社経営とかするようになれば、雅彦とかいかにも営業が得意そうな男は向いているのにね、と思う秀明だった。
雅彦はあまり勉強に興味があったわけではなく、工業系の高校を出たらまずトラックの整備会社に入って整備の腕を磨いていた。
つまり、ランクルというディーゼルエンジンのトラックもどきが好きなのが高じて整備士になったというわけだ。
就職してすぐ、親父からランクル73を貰ったのでそれで野山を駆け巡っていたわけだがノーマルに近い状態で走破性が良いわけではなく、整備士という特権を利用してクルマの改造に心血を注ぐようになった。
二年ほどそんな生活を続けていたが、整備士というのは圧倒的に給料が安いということに気が付いた雅彦は、今度はいきなり大型免許を40万円ほどかけて取得して大型トラックのドライバーとなった。
あまり言いたくないが運送業界も整備業界に負けず劣らずブラック企業が多数存在する業界で、人をすり潰すような使い方を平然と行ってくる会社をしばらく転々として今の運送会社に落ち着いているのだった。
トラックドライバーの良い所は運転中は法令を遵守しておけば携帯のハンズフリーなどで常に友人とか仲間と話をしていても全く問題ないことがあった。
その為、人懐っこい雅彦にとっては天職と呼べる業種であったわけだ。
話は素晴らしく脱線したので元に戻すが、前日 雅彦はインターネットで化粧品の使い方とかを解説している動画を色々見て研究していた。
流石に女性でもないし、彼女いない歴五年で詳しいことは分からないのだが、ファンデを塗ってあげたり、リップの色を色々変えて変化を見せてあげたり、マニキュアをつけてあげたりとその程度は彼にも出来た。
気がつくと彼の周りには村の半分くらいの人が集まってるんじゃなかろうかというくらい人が集まってきていた。
大半が若い女性たち、老人と子供が少々。
…やはり壮年の男性が一人もいない。
この様子を丘の上から見ていた秀明は、やはりこの村にはなんらかの特殊な事情があるのだろうと思った。
そこで秀明は無線で比呂に指示を飛ばす。
「村のリーダーは誰か聞き出してもらえ」
そのことを雅彦に伝えると雅彦はデイバッグからおもむろに小型のホワイトボードを取り出し、頭の上に冠を乗っけた下手くそな絵を描いて「この村のリーダーな誰か?」と試しに聞いてみた。
「リーダー、リーダー だよ、わかる?」と繰り返してみた。
彼女たちが話す言葉は英語でもないようだし、まあ通用しないだろうな…と半ば諦めながら皆に聞いてみたのだが、娘の一人が「リーター?」と分かったような返事をして、その場にいた30台半ばの女性を指差して雅彦に教えてくれた。
「おい、マジかよ?」
え?英語で通じるの?その割に英語の単語がそのまま通じないし、よく分からないな。
雅彦と比呂はお互いの顔を見て頭を傾げるのであった。
ひとまず村のリーダーと思われる人物が見つかったのでヨシとすることにしよう。
さて、最初の疑問が提起されました。
英語や日本語は全く通じないのに、なぜか「READER」という単語は通じてしまいます。
この村のこの世界の秘密は何なのか、彼女たちの話す言葉は何なのか、次回で少しずつ解明されていきます。
次回をお楽しみに!
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