異世界和弓と毒矢
秀明は届いていた弓矢の中から、アーチェリー用の狩猟用の矢尻を付けた和弓の矢を取り出して、再びダンボールの的を目掛けて矢を放った。
「バスン!!」
今度は先程よりかなり重い音が響き、ダンボールを10枚ほどぶち抜いて止まった。
矢の先が重いためか途中からカクッと角度を変える軌道で飛んだが、狙ったとこらへんには問題なく飛んでくれた。
マルレーネは秀明の方に近寄ってきて、彼が持つ和弓を貸して、というジェスチャーをした。
和弓を受け取った彼女は、自分の弓と矢筒を秀明に渡して和弓に矢をつがえた。
現代の弓の引き方は和弓と洋弓はずいぶんと違うのだが、マルレーネは元々、弓の右側、親指の上に矢を置いて矢を放っているようだったので、和弓と同じだった。
先ほど見たのを参考に見様見真似で秀明と同じような所作で矢をつがえて引き絞る。
弓力が少し軽いこともあり、スッと引いたと思ったら一瞬のタメの後、スパッと矢を放った。
すると、先程の秀明の時と同じような軌道で矢は目標に当たった。
マルレーネは秀明に向かって「弓は軽いのに矢は不思議と早く飛ぶ、なぜ?」と聞いてきた。
そこで「弓と矢が長いことで、効率よく矢にチカラを伝えているので軽い割に矢が早いんだよ」と教えてあげた。
…まあ、彼は和弓については素人に毛が生えた程度なのでどこかで聞いた程度の知識だったのだが、マルレーネはその説明を聞いて大いに納得したようだった。
秀明の感覚的なものなのだが、ロングボウは矢を放つと一気にトップスピードで発射されるのに対し、和弓は加速しながら弓から押し出されるようなイメージがある。
和弓は矢を放つ時、左手をくるっと甲側に回転させ、矢が弓に当たらないようにして放つのだが、その回転も矢を押し出すチカラに上乗せされるような感覚があった。
マルレーネ「ヒデアキ、この弓を私にくれませんか?大事に使いたい」
秀明「もちろんいいですよ、その為に用意したのですから。
だけど、明日以降、もっと近代的な弓が入ってくるけど、それらを使ってみて決めてはどうですか?」
マルレーネ「いや、私はこれがいい。こんなに手にしっくりきた弓は生まれて初めて出会ったから」
とにかく気に入ったようだった。
彼女は自分の矢筒に矢を10本ほど入れて、それを肩から斜め掛けしたために、紐で胸が強調されてしまう。
「見事なパイスラやないか!」こころのなかでそう叫び声を上げてしまった。
マルレーネは弓に矢をつがえて的を狙った。
パシッ!と放ったかと思ったその瞬間、目にも止まらぬ速さで次の矢をつがえ、放ち、あっという間に10本の矢をほぼ同じポイントに命中させた。
「おーー!!!」
教会の広間に集まっていた全ての人は歓声を上げた。
思わぬ称賛を浴びて顔が真っ赤になるマルレーネだった。
それにしても初めて持つ弓で、しかも威力のある矢をこの速さで連射出来るのは、マジで凄い。
狩人の子たちは皆、こんなことが出来るのか?とマルレーネに聞いたら、ここまで速いのは自分だけ。でも皆、かなり速いし正確だ。と答えがあった。
おそらくだが、関所跡に向けて攻めてくる敵の主力は重装歩兵などなので、先日の兵士みたいに普通の矢では装甲を貫通しないだろう。
だが、そこを避けて森の中を大きく迂回して攻めてくる部隊はおそらくは軽装歩兵であろう。
彼らに対してこの弓術は相当有効だろう。
試しに秀明はマルレーネに聞いてみた。
「狩猟に毒は使っているの?」
すると「もちろん使っている」とのこと。
ただ、毒の種類ははっきり分からなかったが、獲物を殺すほどの毒ではなく、かなり意図的に弱毒化しているとのことだった。
強い毒だと使っている人間が誤って死ぬことがあるからだ。
毒で殺すのではなく、痺れさせて動きを弱らせて、その後でゆっくり仕留めるのだそうだ。
これは好都合だ。
今回、迎撃で使う戦術は現代戦に通じる考え方で、敵を殺さずに敢えて怪我を負わせ戦闘不能にさせることで救助したり、後送したり、治療したり、場合によっては軍人年金を支給して養ったりさせることで、敵の戦力を減退させる方法だ。
毒を使うにしても、殺してしまうより、痺れさせたり治療が必要な程度にしてやることで戦力を効率よく落とさせることがこちらにとって都合が良いのだ。
秀明「その毒はすぐ手に入るのですか?」
マルレーネ「群生地があるので、手に入れたいならその場所を教えます」
とのことだった。
流石に日本ではアレコレ手に入れ易いとはいえ、毒になりそうな成分を探すのは面倒だし、下手なことして警察沙汰にでもなるとマズい。
こちらの世界で入手出来るものは極力、こちらで調達したいところだ。
お手軽に矢尻に毒を付着させる方法には、動物の死骸や糞尿を矢尻に付ける方法もあることはあるのだが、それは臭い上に不衛生なので、こちら側に疫病が蔓延する可能性があるので今回はパスだ。
教会のホールでは、ほとんどの村人たちが集まってそれぞれが思い思いにファッションショーみたいなことをして、次々と服を着てお互いの姿を評価し合っていたり、
秀明たちが日本から持ち込んでいた弓矢を手に取りながら、早速マルレーネから弓矢の使い方を学ぼうとしている者など色々いた。
エマは秀明に近寄り話しかけてきた。
「先程の弓はすごいですけど今でも戦いで使用されているのですか?」
秀明「いえ、弓矢は我々の世界ではもう戦いでは使わなくなりました。使うのは全てコレです」
そう言って取り出したのは先日、比呂が使って活躍したスナイパーライフルだった。
「これの登場で弓矢や日本刀は戦場では使われなくなりました。今から200年前の話しです」
まあ厳密に言うと少し違うが、当たらずとも遠からずといったところか。
エマ「では、この弓は何のために残っているのですか?」
秀明「スポーツとして残りました」
エマ「スポーツ?スポーツとは何ですか?」
ああ、中世ヨーロッパでスポーツの概念はないのか。あれ?でも古代ギリシャでオリンピックが始まったよな。地域差もあるのかな?まあそっとしておこう。
秀明「えっと、技を磨き、自分自身を鍛えて他人と技を競い合う遊びです」
説明って難しいな、と思うがエマはなんとなく理解してくれたようだった。
エマ「遊びを通じて軍事訓練をするんですね」
ん〜軍事訓練って訳ではないのだが、彼女たちからみたら確かにこのスナイパーライフルやショットガンや日本刀や和弓やランクルは「武器」には違いないので軍事訓練に見えるのも仕方のないことなのかな、などと思った。
まあ、俺らのことが分かってきたらそのうちコレも分かるだろう。
エマ「それにしてもその機械は便利ですね、話すだけで勝手に翻訳してくれるなんて凄いです」
秀明「ホントそうですね、最初から持って来れば良かったですね」
エマ「だけど本当はヒデアキサンとこのような機械を使わずに自分の言葉で直接話したいです」
…おや、なんだろうこの空気。
秀明「そうですね、こんなことになると分かっていたなら学生の頃にドイツ語(Deutsche)を習っておけばよかったですよ」
エマ「Deutscheと言うんですか?私達の使っている言葉は?」
秀明「そうです。私たちの国はJapan、言葉はJapanischと言うらしいですね」
エマ「どういうことでしょう?」
秀明「僕らは自分たちの国のことはヤーパンとか呼ばないからです。僕らは自分たちの国の名は…」
ここで秀明は自動翻訳機を外し、自分の声で「日本」と言った。
エマはそれを聞いて、ああそれだから彼らは自分たちのとこをニホンジンと言っていたのか、と納得した。
秀明「私たちの世界ではドイツという国があり、その国の人が主に今でもドイツ語を話します。
人口で言うと約一億人くらいです」
たしかドイツ国内だけでなく、デンマークの一部とかオーストリアとかスイスの一部も独語を話していたハズだ、あとオランダは上方ドイツ語とか誰か言ってたっけな?
ドイツが確か8000万人ほどだから一億人くらいで多分間違いないだろう。
エマ「一億人ですか!では日本語を話す人はどのくらいいますか?」
秀明「1億三千万人くらいいます。結構多いですよ」
エマは以前、秀明から見せてもらった都市の画像を思い返しながら、あんな街がたくさんある国なら一億とかいう想像出来ない数の人がいても確かにおかしくないと思った。
一度、この目でその国と世界を見てみたい。
そう思うエマであったが、ひとまずは迫ってきている凶暴な敵の侵攻を食い止めることが先だと頭からを切り替えるのだった。
エマ「実は私の方からも戦いで提案があるのですが、よろしいですか?」
エマはそれまでの温和な表情から一転、キリッとした表情で秀明に言うのであった。
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