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マルレーネの破壊力

雅彦は比呂に疑問に思っていたことを聞いてみた。


「そういえば作業をしてて思ったんだが、関所跡は敵が頑張れば抜けてしまえるようなものじゃなく、いっそのことガッチリした壁を作って物理的に抜けなくなるようにすれば良かったんじゃないか?」


それに対して比呂は戦術面での考えを披露した。


「あそこは一見すると頑張って攻めれば抜けてしまえるんじゃないか?と敵に思わせるのが重要なんよ。

もし、あそこに強固な壁を作ったら、最初から敵は攻城兵器を持ち出してくる可能性があるし、下手すると攻める主力を大きく迂回してくるルートにする可能性すらある。

仮にだけど大きく迂回するルートの進路となる山の木を全て刈り取ってきたりしたら、あちらでやろうとしているゲリラ戦が出来なくなるしね。

さっき、エマさんから敵捕虜の尋問で、彼らが所属していた軍は兵力が1万いると言ってたから、その主力はなるべく迎撃し易い関所跡に集中させたいんだよね」


なるほど、最も迎撃し易い所に敵を集めて迎え撃つってことかな。


それなら関所跡は第一防衛線ってことで、徐々に撤退しながら敵を少しずつトラップなどで減らしていくことを狙っているわけか。


雅彦「ほんじゃ、明日以降は関所跡より手前の林道に罠やトラップを仕掛ける作業ってことになるのかな?」


比呂「ああ、そうなるね。それから明日は森の中のゲリラ戦による迎撃の準備も始めないといけないわ。

そちらはサバゲが得意な親父に任せようと思う」


秀明は村の女の子たちの大半な教会の方に移動したのを目で追いながら誰かが来るのを待っていた。


秀明「お、来た来た」


秀明は事前にエマから彼女たちが今日は帰ってくるということを聞いていたので、食堂の入り口からゾロゾロ入っていく異形な集団を見て声を上げた。


先頭の茶色で全身を統一したスタイルの良い女性は、最初のバーベキューの時に秀明のランクルに矢を突き立てた紅い目と金髪ショートボブが特徴的な女の子である。


秀明「そう、彼女たちに森の中の迎撃はお願いしようと思っている。弓の使い方はそれこそプロだし、彼女たちの生活は俺らで保証する代わりに村の女の子達への武術訓練を任そうと思う、まあ話はまだこれからなんだけどな」


秀明は席を立ち、狩人(イェーガー)の女の子たちが食事をとった後に話がしたいと彼女たちに言いに行った。

 

雅彦は比呂にもう一つ気になっていることをぶつけてみた。


「ヒロ、関所跡で大軍を一気にダメージを与えるってことは、やっぱり含水爆薬をあそこで使うのか?」


少し考え込んでから比呂は口を開いた。


「甘いと言われるかもしれないけど、含水爆薬は正直使いたくないんよ。

ただ、近いうちに再度襲ってくる可能性のある敵本隊は1万くらいいるらしいじゃないか。

だから、場合によっては使うのを躊躇すべきじゃないと思うんだよね。

ただ、俺が敵を極力殺したくないというのは人道的だとかそんな甘い理由だけじゃなくて、もっと別の意味もあるんだわ」


雅彦「なんだ、その別の意味って?」


比呂「敵に恐怖を与えたいんだよ、それも再起不能になるくらいのね。

敵を殺してしまえばそこで確かに脅威は減るけど、残るのは敵の屍だけ。

殺すのはいくらでも殺すよ?だけど戦後にそれを誰が埋葬するの?

兄貴がする?ユンボやブルドーザーで物みたいに一気に処分してさ。

いくらなんでも俺は嫌だよ、殺したのは前回の十数名でお腹一杯だよ。

だから、敵はなるべく殺さないようにして、恐怖と苦痛を与えて戦闘不能にさせてやる。

逃げたいなら逃せばいいし、怪我したなら敵に回収させて本国に送り返してもらえばいい。

で、本隊に戻ったり本国に戻された兵が、ここで受けた意味不明な攻撃の恐怖を周囲に語りまくれば、敵の侵攻は止まるかもしれない」


雅彦「なるほどね、"恐怖を敵に擦り込む戦術"ね。

いいんじゃない?

それならホラー映画を敵の目の前で上映させてやって、『攻めてきたらお前もこうなるぞ』なんていうイメージを敵に植えつけてやればいいんじゃね?(適当)」


一瞬、いつものギャグかと思った比呂だったが、ふと考え込み、


比呂「兄貴、天才か?!

おかげで面白れぇ方法を思いついたわ!」


雅彦「ほう、言ってみ?」


比呂「亡霊を見せてやるんだよ、それもかなりリアルな」


雅彦「どうやって?」


比呂「例えばだけど、ユンボに黒いボロボロの布をデコレートしてやって、崖の向こうでアームの先だけを動かしてやって、巨人の手か悪魔の手のように演技するんだわ。

さらに大音響を出せるアンプとスピーカーを用意して、ひたすら不気味な音楽をかけまくるとか?」


雅彦「オモロイな、こないだテレビでやっていた映画ジョーズのテーマソングとかいいんじゃね?

ダンダンダンダンダンダンダンダンって少しずつ音が大きくなるテーマソングとか敵の前で流すとオモロイかもな。

それとか、磨りガラスに爪立ててキーッと神経を逆撫でる音とか、般若心経とかをひたすら流すとか」


比呂「磨りガラスに爪立てキーー!!!ってのはこっちの神経も削られそうでパスかな?

…般若心経??」


雅彦「そ、般若心経。

観自在菩薩行深般若波羅蜜時照見五…って続くやつ。

学生の頃の書道の時間で写経とかしたとき出てきたで。

あれ、俺らにとっては普通に葬式とかで聞くお経だけど、ドイツ語が標準語の異世界でお経って、何かの呪文とかに聞こえないかな?

うちらにとってはありがたいお経が敵には心理的なダメージになるとか笑えなくね?」


比呂「なんにも知らない人が聞いたら不気味に聞こえるんなら、別に般若心経でなくてもなんでもいいよな。

なんならホラー映画のテーマソングを立て続けに流してやるとか、ゴジラの咆哮を大音響で流してもいいんじゃね?

あとデスメタルとか」


雅彦「おー、夢が膨らむな。

人を怖がらせることがこんなに楽しいもんだとは思わなかったわ」


ワッハッハと笑う二人であった。



一方、その頃 アホな会話をする兄弟を尻目に、食事をとっている狩人(イェーガー)の女の子たちと話をしていた秀明は、彼女たちと会話を始めていた。


彼女達も勿論日本語はサッパリわからないので、先ほど実戦投入した自動翻訳機を使う。


前回、あまり話をする機会がなかったが、彼女たちのリーダー格は先ほどの目の紅い女の子だった。


名前は「Malrene(マルレーネ)」という。


マルレーネ「えっ?神の国から持ち込まれた弓矢を見てもらいたいってことですか?」


いや、日本はすっかり神の国扱いってことになってるの?などと思いながら、


秀明「はい、先程大量に持ち込んできました。

これから教会で出そうと思ってます。

ただ、どれがこの村の人に使いやすいのか分からないので食事の後でいいので見てもらいたいのです」


マルレーネ「もちろん構いません、ではすぐ行きますか?」


食事中の仲間たちが「えっ?」という顔をしたので、いやいや夕食を食べてからでいいですよ、と言ったのだが、すぐの方がいいでしょうと言うので、他の狩人の子たちは飯を食べるのを続けてもらいながら、秀明はマルレーネと共に食堂を出た。


秀明「食べなくていいのですか?」


マルレーネ「我々イェーガーは獲物を狙うときは食べずに動くのが基本、だから問題ない」とのこと。


うーむ、なかなか厳しい世界なんだろうなぁと思う秀明。


秀明「では、このクルマに乗って下さい」


秀明は軽トラの助手席のドアを開けてマルレーネをエスコートした。


一瞬、えっ?という感じにドギマギするマルレーネであったが、助手席に潜り込んでちょこんとシートに収まった。


ドアを閉めた秀明は運転席に入り、エンジンを掛けてやる。


「おおおー?!」と驚くマルレーネを横目に秀明は教会を目指してクルマを走らせた。


広場を横切り、広い通りに入ってすぐ教会があるので入り口のすぐ横にクルマを停めて、また助手席のドアを開けてあげた。


おずおずとクルマから降りるマルレーネ。


荷台に載せておいた自分の弓矢を持ち直した。


秀明は荷台に満載している荷物の固定を解き、中にいたエマたちに声をかけて荷物を運び込む手伝いをしてもらった。


教会には予め、日本の古着屋や作業着屋で手に入れた服や靴などを大量に持ち込んでいたが、エマたち村人の女の子たちは、全員、それらを着ていた。


どの服を着るかはエマたちに任せていたのだが、エマは薄手のニットのセーターにぴっちりとしたジーパンを着ていた。


秀明「ほ、誉高い…!」


エマは他の女の子たちと比べるとやや肉感のある体型をしているのだが、普段着ている民族衣装は胸は強調されるデザインでそれはそれで誉高いのだが、


この体のラインが綺麗に見えるニットのセーターは、胸をはじめお腹や腰回りのラインも綺麗に見えるので魅力度が200%アップしていた。


他の女の子たちもそれぞれ身体のラインが綺麗に見える服を着ていたので、なんだか現代ヨーロッパのクラブかタレント事務所にでも紛れ込んでしまったような感覚を覚えた。


「いや、これは凄いわ。俺ももう少し若かったらなぁ」


などと独り言を呟く秀明であった。


エマ「この服や靴、すごく履きやすいし気持ちいいですね!」


翻訳機越しではあったが、エマの声は心の底から喜んでいたのが伝わってきた。


他の女の子たちもワイワイと軽トラの荷物を教会内に運び込んでいってくれた。


秀明は教会の広間に運び込まれた荷物の梱包を解いていき、和弓を組み立てていった。


その様子を興味深く見ていた村人たち。


秀明も新品の和弓を見るのは初めてだったが、見様見真似で弓を曲げながら弦を張っていった。


早速、マルレーネにも日本の弓矢を見てもらおうかと思ったが、周りにいない。


あれ?とキョロキョロしていたら、奥からこれまた黒のニットのワンピースを着て出てきた。


「ブッ!!」思わず吹き出す秀明。


なんちゅう、攻撃力の高い服を着て出てくるんだ!


元々、身体のラインがはっきり見えるレザーの鎧を着ていたわけだが、マントなども羽織っていたため、そこまでハッキリと身体のラインは見えなかったのだが、

それでも日本人離れした(実際日本人ではない)モデル級の体型はそれなりに確認出来たのだが、童貞殺しの黒のぴっちりとしたニットのワンピースを着たマルレーネはとんでもない破壊力があった。


これわ、雅彦や比呂とかが、この光景を見たら腰抜かすんじゃないか?とマジで思った。


今回、持ち込んできた靴はハイヒールとかは含まれてないので履いているのがスニーカーというのはなんとも惜しまれるところなのだが、とりあえず今はそんなことを考えてる暇はないので、頭の中を切り替えよう。


秀明はいくつかのタイプの和弓の中から最も長い物を取り出し、広間の壁にダンボールを集めて作った即席の的に向けて、試しに矢を撃つことにしてみた。


マルレーネたち村の狩人(イェーガー)の子たちが使っている弓は木で作られているもので、イギリスのロングボウが比較的似た形状をしていた。


弓の全長は1.5メートルほどだ。


ちなみに先日、村を襲ったドラゴニア騎兵が持っていた弓は、木と動物の骨や腱などを組み合わせた合成弓で、トルコ弓やモンゴル弓に似た形状をしていて、弓の全長は70センチ程度で比較的小さいのだが、非常に弓力が強く、おそらく50kgほどあるので村の女の子たちにはとてもじゃないが使えそうになかった。


秀明は昔、道場でやっていたように、弓の真ん中よりやや下を左手で握り、矢をつがえて頭の上から一気に右肩辺りまで弓を引いた。


しばらく停止した後、矢を放つと矢はダンボールの的を軽々と貫き、10枚ほど抜いたところで止まった。


次にマルレーネが自分の弓で同じ様にダンボールを狙う。


彼女の矢は秀明が持ち込んだ矢よりやや短く、引くのも右肩あたりまで引かず、くちびるの辺りまでだった。


「パシュ!」


矢を放つと、ダンボールをこれまた同じくらい貫通したが、こちらの矢尻はかなり大きめの返しが付いている金属製の物だったので明らかに破壊力が高いものだった。


先日も40メートルくらいの距離でランクル70のボディを貫通させたくらい威力があったので当たり前の結果と言える。


マルレーネは秀明に対してニッコリと微笑むのだった。

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