戦(いくさ)の準備 その3
秀明の鉱山に残っていた比呂は、次々に届く通販サイトで注文していた商品の受け取りと開封で大忙しだった。
比呂が注文した覚えのある商品が大半だったが、中には「なんじゃこりゃ?」というものも多く含まれていた。
代表格が中古のトレーラーハウスであった。
中身はほとんど入ってなかったのだが、親父が持っている寝るスペースと机が入る程度の小さな物ではなく、全長6メートル、全幅2メートル程度の中型サイズの物だった。
そして、布団など明らかな中身と思われる商品が出てきたので、開封しては中に放り込んでいった。
オヤジのトレーラーハウスではトイレとかキッチンは付いてなくて、基本的には日本側に戻って来なければならなかったが、
これならある程度はその場で滞在可能になりそうだ。
また届いた中には他にもデカイ物があり、業者が数個のタンクをトラックの荷台に載せて届けてきた。
一つは軽トラの荷台にそのまま載せれるサイズの水用のタンクで、たまに田舎の農家が水を散布するために載せている物。
二つ目は簡易浄化槽で排気用の電動ポンプも付属されていた。
後になってオヤジから聞いて分かったのだが、異世界側の丘の上に設置して、トレーラーハウスから出た糞尿をこれで処理するつもりだと言う。
三つ目はこれまた冬になると街中を軽トラに載せて走っているのを見かける燃料用のタンクで、数百リットルは入りそうな物だった。
大物が次々と届くので物によっては外に置いてブルーシートで覆い、これまた大量に届いた業務用のラップで周囲をグルグル巻きにして保管することにした。
ただ、扱いに困ったのがニッサン製のエンジンフォークリフトが届いたことだ。
リフトは雅彦が得意としていたが比呂は使ったことがなかったので試しに軽油を入れて事務所前の駐車場で乗り回してみた。
エンジンはキーを回したら掛かったが、どうやって動かせばいいんだ?と適当にハンドル周りのレバーをイジってみたら、ハンドルの左に生えてるレバーで前進後退を、インパネの左に生えてるレバーはパーキングレバー、インパネの右側に二本生えているレバーは左が爪自体の上下、右が爪の先端の角度を変える物だった。
ペダルは二個なのでオートマ車と同じ。
自分は苦手だが、オヤジやアニキとかは左足ブレーキとかしそうだな、などと思いながらアレコレと物を実際に運んだり、持ち上げたりして遊んでみた。
そうこうしていたら、親父が手配していた工務店が作業を始めるので宜しくと言ってきた。
比呂も詳しくは聞いていなかったのだが、一般道から鉱山に入りしばらく未舗装路を走ると右側に比較的広い空き地がある。
昔はそこにも採掘した鉱石を一時的に山積みしていたそうなのだが、ここに巨大な倉庫を建てるのだという。
これも後に親父から聞いたのだが、ここにはちょっとした物流倉庫を建てて、トラックで搬入してきた商品をここで一時的に保管するのだという。
そこで常温用のオープンバースとチルド管理しないといけない商品用のクローズバースの二つが有る、かなりまともな物流倉庫にするのだという。
これがあれば、商品の仕入れを一般業者にさせておいて、仕入れた商品は全てここに納品させておけばいい。
本当の事を言えば業者に異世界まで直接運ばせたら一番ラクなのだが、内緒にしないといけないため、これはある意味で苦肉の策とも言える。
とりあえず今後はある程度村の「食事」と「衣料品」と「生活必需品」と「医薬品」などは日本側から支援しなければならないので、かなり大規模だがこのような施設まで整えることにしたのだ。
最近、秀明があちこち飛び回っていたのはコレの見積もりや打ち合わせがあったというわけなのだ。
肝心のお金はどこから出ているのかというと、手付けは秀明の投資用の資金だが、村から運び出された金塊などで補填される予定だ。
これは当然、エマたちスピスカ=ノヴァの住人の許可を得ているし、逆に言うとそれらがないとアチラの生活は成り立たないので村としては是非ともお願いしますという感じで懇願されたのだった。
雅彦たちもキッチリとした状況を把握している訳ではなかったのだが、平然と敵兵が襲撃してくる状況からしてみると、明らかにスピスカ=ノヴァは軍事的にも孤立していると考えた方がいい。
敵国からの侵略や賊の襲撃の危険性の高い地域で旅商などが来て交易してくれる訳がないし、先日の襲撃から逃れた兵がいるので、敵の本格侵攻まであり得る状況なので雅彦などは村の入り口を徹底的に塞ごうとしている訳なのだ。
交易路を完全に遮断するのだから、補給は日本から行わねばならない。
で、この物流倉庫はそのための拠点となる予定なのだった。
完成は半年ほど先なので当面は面倒な作業が続くが、どのみち異世界側を本格的に開拓したり、敵国からの脅威を排除したり、金脈の採掘などを本格化させるのであればどのみちこれは必要となってくるので早めに手を打ったというわけだ。
また、武器や防具、催涙スプレー、防犯ブザーなど村人たちに配る物がある程度揃ったので、親父のランクル70の荷台に載せれるだけ載せて、スピスカ=ノヴァに行こうとしたが、時差を忘れていてアチラの世界ではすっかり夜になってしまっていた。
門も当然閉められていたが、比呂の乗るランクルが接近したら門が開かれ、昨日食事をとった宿屋の食堂に招かれた。
今日も村人の多くはここに集まって皆で食事の準備をしていたみたいで、村で普段食べられているジャガイモやトウモロコシを調理した物に日本から持ち込んだ食材や調味料で味付けをアレンジした食べ物が次々と用意された。
ここで比呂の目を引いたのが村の女の子の中に、明らかに日本から輸入した衣服を着ている人がいだことだった。
親父の秀明や雅彦がいたので今日、お互いにどんな作業をしていたかの報告をそれぞれ行った。
まず雅彦だが、関所跡の周囲に塹壕を掘りまくって、さらに鉄条網を設置するところまではなんとか終わらせた。
林道の出口に関所跡があるのだが、そこから開けた地形になっていて、弧を描くように溝を10メートル間隔でとりあえず三重に掘って、その間に鉄条網を敷設した。
厳密に言えばユンボや車がかろうじて通れるスペースはまだ手付かずなのだが、これにいくらかトラップを敷設したら完全に溝を切って塞ぐ予定だ。
現在は鉄条網をアコーディオンカーテンみたいにして塞いでいるとのこと。
親父の秀明は今日、軽トラを買ってそのまま色んな物を買い込んで、それらは教会に運び込んだということだった。
帰りの便で金塊を運び出すので、それはまた明日にでも村人に手伝ってもらう予定にしているのだそうだ。
比呂も今日、秀明の鉱山に届いた商品について彼らに説明した。
雅彦「おお、オレの愛車が着いたか!」と喜んでいたが、フォークリフトのことだったみたいだ。
比呂「あのリフトはどこに置く予定?」
雅彦「おう、ここに持ってくるで。あれがあるのとないのとで出来ることが随分違ってくるからな」
村の中で重量物を運搬することに使えるし、今、村の周囲の壁の上に絶賛設置中の有刺鉄線の敷設にも使える。
こちらの有刺鉄線は螺旋状に設置するのではなく、適当な間隔で鉄の杭を壁の上に打ち込み、その間にピンと張る方式にしている。
今日なども村人はほぼ総出でこの準備をしていたわけだ。
なお螺旋状にしなかったのは単に有刺鉄線の量を節約する為だった。
この敷設も今までならハシゴをかけて一々昇り降りしながらの作業となるので効率が悪かったのだが、これからはリフトの爪にパレットを挿してそれを足場にしてやり、パレットの上に資材や人を乗せたまま移動させながら作業出来る。
唯一のネックはフォークリフトは丘を下れるがおそらく自力で登れないことだ。
秀明「4トントラックも丘を自力で登れないだろうしどうしたもんかね?」
雅彦「なら自分に一つ考えがあるわ、廃車扱いになっているランクル74(ナナヨン)を一台、引っ張ってこよう」
秀明「そんなもの何に使うんだ?」
雅彦「坂の上に設置しておいて、牽引用のウインチとして使うんだよ。知り合いの74が売りに出されているけど、あまりにボロボロなんで車検が通せないんだわ。でもまあこちらの世界で使うならまだ使えるだろうし、昔懐かしいのPTOウインチがまだ着いてるからいいんじゃね?」
PTOというのは、パワーテイクオフの略で、エンジンの力をそのまま使ってウインチを駆動させるタイプのものの事を言います。
雅彦や秀明のランクルのウインチは電動モーターで駆動するタイプなのだが、これはそういうモーターなどは存在しない。
エンジンが回り続ける限り動くのである意味非常に
タフなのだがいくつか欠点もある。
代表的なのは負荷がかかり過ぎるとシェアピンと呼ばれるヒューズになるピンがドライブシャフトの中で破断してウインチやワイヤーを一応保護してくれるのだが、この強度が必要以上に弱く、いとも簡単に破断してしまうことだった。
秀明も初めて乗ったランクルにはこのPTOウインチが搭載されていて大雪の中それを使ったことがあるのだが、ご多分に漏れず破断してしまい、身動きが取れなくなったことがあったのだ。
詳しく説明すると長くなるので端折るが、復旧させるのに大雪の中で三時間ほど悪戦苦闘したことがあるのだ。
秀明「PTOウインチか〜、嫌な思い出しかないなー(遠い目)」
雅彦「だけどあのクルマのシェアピンは五寸釘でドーピングされてるから簡単には折れないらしいよ、俺も実際山で使ってるのを見たことがあるけど普通にウインチングしてたわ」
秀明「まあそういうことなら使えないことはないか、丘の上から4トントラックを引っ張り上げたりするには十分使えるかもな。ワイヤーは50メートルあるしな」
雅彦「そういうこと、なら早速明日にでも連絡して買い取って来るわ、オヤジも付いて来て」
秀明「おお、分かったわ。で、誰のクルマだっけ?」
雅彦「俺の知り合い若い人。あちらは親父の事、知ってたで」
まあ、この業界にいて秀明のことを知らない人はよほどのモグリか、最近クロカンを始めたかのどちらかなのだが。
比呂「今はそれより早く、村の女の子達に武器や服や防具を配って、訓練した方がいいんじゃないの?とりあえず鉄パイプ製の長槍は出来たけど、恐ろしいほどの破壊力があるよ」
雅彦「どんな感じだった?」
比呂「直径20センチの丸太を一撃で叩き割ったで。あの一撃喰らったら鉄製の鎧着ていても即死するんじゃないかな?」
秀明「そりゃ凄いな。問題は村の女の子たちにそれが扱えるかどうかだな」
比呂「それなんよ、測ったわけじゃないけど重さが10キロを軽く超えるからなぁ。とりあえず教会に10本運び込んでいるから、手が空いた人に使ってもらいたいね」
雅彦「他にはどんな武器が届いた?」
比呂「これまた10本ほど和弓が届いてたで。弓の数え方って何だっけ?」
秀明「一張り、二張り、だな。いっちょうでもひとはりでもどっちでもええわ」
比呂「ほうほう、でだな、和弓なんだけど俺は使い方がさっぱり分かんないわ、親父は知ってるの?」
秀明「昔、道場に置いてたからよく遊んでたぞ。弓道は習ったことないからほとんど我流だけど、ある程度なら教えれるわ」
この人、ホントになんでもやってるなと思う雅彦と比呂であった。
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