戦(いくさ)の準備 その2
迎撃準備を始めて2日目、今日も関所跡の防衛ラインの構築に雅彦とヴィルマ、イングリットたち村人5名と三匹の狼たちがいた。
今日はユンボを移動させる必要がなかったため、昼前には作業に取り掛かることが出来たので、前日は一旦塞いでしまっていた鉄条網を一部開いて、先に広がる緩斜面のゲレンデ側に多数のトラップを仕掛ける準備をしていた。
トラップと言ってもカンタンなもので、ひたすら深さと幅が1メートル程度のVの字断面の溝を掘りまくるだけだ。
この作業は1時間で20メートルほどは行えるのだが、これを人力だけでやろうとするなら最低でも壮健な男性で20人は必要だろう。
関所跡は林道の出口にあり、そこからゲレンデに出ると一面、ほぼ平らな緩斜面が延々と山の麓まで続く。
関所跡から外は扇状に平地が広がるので、手前に横一列掘ったら、また数メートル先を弧を描く様に掘っていく。
完全に溝を掘ってしまうと先に進めないし、進んだとしたらユンボが戻れなくなってしまうので、少しだけ掘らずに残しておいて、二重、三重と溝の層を増やしていくのだ。
日が高いうちは遥か遠方まで見渡せるので見張りで連れてきていた村の狼たちも遥か先の方まで走って行っているのが確認出来た。
ここに常時、見張りを置いておけば、10kmほど先に敵兵が迫ったとしても発見出来るな、と思った。
雅彦がひたすら溝を掘りまくっている間は、ヴィルマとイングリットは持ってきていた鉄の杭を溝と溝との間に10メートル間隔ほどで打ち込んでいき、鉄条網を張る準備をしていた。
また残り三人の女の子たちもそれぞれ食事の用意やヴィルマたちの手伝いなどをしていた。
関所跡は片側は2メートルほど斜面を降ると小川が流れていて、その先は鬱蒼と生い茂った背丈の低い潅木の森が広がっていた。
反対に関所跡の山側は高低差でいうと20メートルほどの切り立った崖になっていて、その先も針葉樹を中心とした森が広がっていた。
雅彦は村の女の子たちに指示をして、その崖の上の木にロープをかけてゲレンデから見たら崖の裏側の林道の方にそのロープの先を垂らすようにしてもらった。
ゲレンデ側は切り立った崖なのだが、裏の林道側は比較的傾斜が緩やかなのでなんとか自力で登れる。
こうしておけば、崖の上に攻めてきた敵からは見えない裏側から登れるというわけだ。
一方、比呂はアレクシアに火炎瓶の製造法を教えて、自らは日本側の鉱山の作業場に戻り、先日 親父の秀明がホームセンターで買い込んでいた資材を使って長槍を作っていた。
4メートルの鉄パイプの先にナタや鍛造スコップなどをアーク溶接で固定していくのだが、木製の柄を取らないといけないので作業はかなり難航した。
試作した長槍を作業場の前の広場まで持ち出し、試しにそこら辺に置いていた椎茸の栽培用の木を組んでぶん殴ってみた。
長槍の重さはゆうに10キロ以上あるので、細腕の女性たちでは振り回すことはかなり困難だが、振りかぶって打ち下ろしてみると、人の太ももほどの太さのある木を軽々と粉砕するくらいの威力があった。
先端のナタは一撃で溶接部が割れてすっ飛んでしまったが、中世の戦闘で長槍は突くのではなく、縦に振り下ろしてぶん殴るという意味がよく分かった。
一撃で割れた溶接部は電流が弱かったことによる溶け込みが浅かったことが分かったので、電流を調整することでなんとか対応出来た。
よく見たら溶接機の箱に各溶接姿勢ごとの適正電流が書いてあった。
どうやら電流が弱すぎて溶け込み不良というかオーバーラップという現象が起きていたようだった。
元々、溶接は親父や兄貴は車を弄っているので得意みたいなのだが、今日は兄貴は関所跡でユンボで穴掘りだし、親父は右腕を痛めたから今日はこの手の作業はパスとのことで、またしても買い出しに出かけてしまっていた。
「どうせなら溶接の方法くらい教えてくれよな」などと愚痴りながらも作業を続けているうちに、かなりガッチリと溶接で固定出来るようになってきた。
特にナタを付けた時の破壊力は半端なく、人の腕程度の太さの丸太程度なら一撃で破断させるほどの威力があった。
また、殴ったあとに手に伝わる衝撃はマジで半端ないので、職人の店とかでよく売っている衝撃を吸収する手袋なども試してみたいなと思った。
10本程度の長槍の製作はひと段落したので、今度は親父に製作を頼まれていた鉄製の柵に取り掛かった。
これはランクルのリアバンパーに取り付け、後方の敵や障害物から車を保護する目的で付けられるものだ。
使い方としては、狭い通路にランクルを敵に尻を向けるように停めて、敵の接近を防ぎながら荷台などから敵を攻撃したり、後ろ向きに敵に突進して跳ね飛ばす、などが考えられていた。
この鉄柵はワンタッチで着脱可能にしなければならないため、クルマのリアバンパー側にもアタッチメントを取り付けねばならないが、秀明たちのランクルは普通の車とは違い、鉄製のバンパーに交換されているため、アタッチメントは直接鉄製のバンパーに溶接で固定する。
柵自体の大きさは、横幅200cm、高さ150cmほどあり、重量は軽く見積もっても300kg以上はする頑丈なものだ。
ワンタッチで脱着可能とは言え、人の手で持ち上げるのはかなり困難なため、取り付けはその作業場の天井の重量鉄骨から下ろされているチェーンブロックで吊り上げてやる。
とりあえず図面通りにバシバシ切っていった角断面の鋼管をひたすら溶接していく。
最初は溶接痕が綺麗に残らなかったが、やっているうちに溶接痕がだんだん綺麗になっていった。
「俺って天才じゃん?」などと思いながら作業を続けるのであった。
遮光溶接面をかぶってパシパシと溶接をしていた比呂の手がふと止まった。
「あ、これは使えるんじゃね?」
何かを思い付いた様子の比呂は溶接作業を放置して、倉庫内の資材を漁り出すのであった。
一方、その頃 秀明は比呂から頼まれた資材の調達の為に元住んでいた街まで出掛けていた。
特に手こずったのは丘の上からさらに一キロほども先の関所跡にもWi-Fiの電波を届かせなければならないので、そこまで届くケーブルや電源コードなどを調達することだった。
「これは想像以上に面倒くさいな」などと思いながらも、ホームセンターをハシゴしてみたが結局ダメだったので、電気工事などをしている工務店に相談してみた。
「それならうちが請負いますよ」とそこの親方などは言ってくれるのだが、なんせ異世界は部外者を入れたくない場所だ。
「設置は自分たちでやるから資材だけ注文出来るか?」と聞いたら、二つ返事でオーケーしてくれた。
「それにしてもなんでWi-Fiの電波をそんな長い距離をアンテナを引っ張らないといけないんだ?」と聞いてくるので、「鉱山の山の裏に携帯の電波が届かない場所があるから離れたところまで事務所に引っ張っているネット回線のアンテナを延長したいんだ」と説明したら、なんとなく不思議そうな表情はしてたが納得してくれたようだった。
ひとまずは資材が揃うのは一週間後ということなので事務所まで届けてもらうことにして他の物の調達に向かった。
本来ならネット通販で買えばラクなんだが、ガソリンとか古着屋で調達する物などはその場で手に取ってみないと分からなかったり、通販できない物もあるので直接出向かねばならない。
また通販だとどうしても入手までに時間がある程度かかるので、近場に売っているものなら直接出向いた方が早く手に入る。
ガソリンについては現在、鉱山に軽油を供給してくれている古くからの知り合いの業者が、中古の燃料タンクと共に納入してくれることになった。
まあ、法律面の縛りとかも色々あるので何をするにも面倒この上ない。
次に秀明が訪れたのはいつも出入りしている車の修理工場で、出迎えてくれた工場長に早速「代車にしている軽トラを売ってくれ」と交渉した。
「なんでこの軽トラなんだ?こっちの売り物の軽トラじゃだめなんか?」と聞いてくるので「四駆じゃないとダメ」と言った。
この軽トラは以前も貸してもらっていた時に目をつけていたスバルのサンバーの四駆であった。
もちろんマニュアルミッション車だ。
さきほど売り物の軽トラと言っていたヤツは二駆の上にオートマ車で、秀明曰く「こんなの山では使えない」との拘りがあった。
実際、運転の素人かそれに毛が生えた程度の人が乗るのであればオートマ車はそれなりにメリットはある。
運転がカンタンなため、地形や運転に集中出来るからだ。
だが、秀明や雅彦クラスの「バカ」が頭に付くほどのドラテクフェチからしてみると、オートマは出来ないことが多くなり、走破制は極端に落ちてしまうのだ。
例えば秀明などがよく使う「揺り返し」という技がある。
これは岩などがゴツゴツしている地形を走破したり、凸凹や段差が大きい場所を走る際に多用する技なのだが、クラッチを微妙に繋げたり離したりをすることでクルマ全体を振り子のように揺らして反動を使ってスルッと段差を越えるときに使う。
また話し出したら一晩掛かっても話し切れないほどの多くの技がマニュアル車では使えるので、秀明などは特に山や難所に持ち込むクルマはオートマ車は嫌うのだった。
工場長との話し合いの結果、30万で売って貰えることになったので、ここまで乗ってきていた比呂の軽四は置かせてもらい、そのまま持ち帰ることにした。
向かったのは古着屋と作業服屋で、特に女性向けの服と靴、手袋をこれでもかと言う勢いで大人買いしていった。
一店舗では当然済まないので、同じ系列の店をハシゴしながら購入した商品はダンボールに入れて軽トラの荷台に山積みしていった。
軽トラの荷台はダンボールの山が築かれ、購入していた荷台用の防水シートと小型のラッシングベルトでそれらを固定して鉱山に帰っていった。
秀明が古着や作業着、靴などの調達をなぜ急いだのかというと、現在の村人の格好では作業はおろか満足に戦うことはまず不可能だと思われたからだ。
先日、敵の騎士と刃を交えてみて気が付いたことがある。
それは敵の靴の性能があまりにも劣っていたことだ。
異世界ではありとあらゆる物の技術レベルがこちらと比べると劣っているが、その中でも特に酷いと思ったのが靴の性能の低さだった。
死んだ敵兵の靴を観察していて気付いたのだが、靴自体は革製なのだが、靴底はツルツルなのでこれでは適切なグリップなど期待出来るわけがない。
村の女性たちの靴を詳しく観察させてもらった訳ではないのだが、おそらく敵兵が履いていたものと五十歩百歩であろう。
先日の戦いで秀明が敵兵を圧倒的に上回る速度で翻弄出来たのも靴の違いもあったと思うのだ。
日本では安く大量に手に入る普通の靴でも異世界側に持ち込んでやればそれだけで超高性能シューズになるというわけだ。
本来なら足のサイズを全員分測って買えばいいのだろうが、日本人とは当然足の形も違うだろうし、サイズも全く分からないので、中古でもいいのでひたすら数を揃えることにしたわけだ。
靴の種類もスニーカーとかトレッキングシューズ、安全靴やらサンダルなど、手当たり次第に選んでやった。
正直、何が良いのか分からないので彼女たちに実際に履いてもらって良い物を選んでもらおうと思ったのだ。
同様の理由で作業服も必要だと思った。
革製の鎧を着ているヴィルマやイングリット、狩人の子たちはまだしも、他の村人たちはスカートひらひらのいかにも動きにくそうな民族衣装を着ていた。
普段の生活ならまだこれでも良いが、戦闘訓練だとかなんらかの作業をその格好のままするのは流石にダメだろう。
これもツナギの作業着だとか、上下がセパレートになっている物、Tシャツやジャケット、ジーパンやキュロットパンツなどなど、手当たり次第に動き易そうな服を買い込んだ。
行く先々の店で「こんなに女性物ばかり買ってどうするんですか?」と聞かれるので「海外の恵まれない子供たちに送ろうと思って」と嘘をついた。
「はー、そのうち嘘つくのが得意技になるんじゃないの?」などと思いながら、帰途に就く秀明であった。
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