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比呂の思惑

雅彦とグリステン領兵たちが、東の戦場でドラゴニア軍の東部侵攻軍と激突していた頃、比呂は第三遊撃隊の3台のランクルを率いてクロンパキーの西に広がる平原を疾走していた。


早朝にスピスカ=ノヴァを進発してからかれこれ半日以上走り続けているわけだが、比呂たちを周囲の敵軍の数の多さは益々増えていく一方であった。


キスカ作戦でゲルハルトたち第二遊撃隊を救出した処から敵軍を引きつけつつ、不用意に突出してきた敵部隊や、比呂たちを包囲しようとしてきた敵軍のみに火力を集中して逃げていた。


当初はゲルハルトたちが避難している南西のラボチャという古戦場の丘の方向を目指していたが、彼らの所に敵軍をなすりつけてしまうのはマズいので東へ、そして今は北へと進路を変えて逆時計回りに逃げているのだ。


厳密に言うと「逃げている」というよりは「敵軍の真っ只中に突っ込んで混乱させている」と言った方が適切で、ドラゴニア軍の砦などが近づいてくるとただでさえ多い敵兵が益々増えていくのであった。


だが、これこそ比呂の狙った事態であった。


比呂たち第三遊撃隊の背後には延々と彼らを追ってきていたゾンビの如き半狂乱状態の狂戦士化(バーサークド)した兵士たちが殺到していた。


比呂も彼らにはこれまで極力、火力を使わなかった。


理由は二つ、第三遊撃隊がいくら大量の弾薬を積載していたとしても10万とも15万ともいえそうな西に進出してきている大軍を全て撃ち払うほどの能力は無かったこと。


もう一つは、「あえて生かすため」であった。


比呂たちはわざと敵軍の真っ只中に突入を開始すると、敵軍と敵軍の隙間を縫うように蛇行しながら走った。


彼らが縫うようにして避けた敵軍は、クスリで狂戦士化がされていない普通の状態の兵士たちであったが、比呂たちを追っていた五万に近い歩兵たちは完全に意識が飛んでいて、比呂たちだけしか目に入っていなかった。


比呂たちが見えなくなると、自分の前を走る兵士に追随する形で走っていたため、多少の動きの速さや進路の違いはあったが、五万余りの歩兵たちはほぼ全速力でからこれ数時間も走り続けていたのである。


比呂たちを迎え撃つ部隊のほとんどはクスリを服用していないらしく、ゾンビの群れが襲いかかってくると、彼らの進路を邪魔しないようにサッと左右に展開していく。


そう、一時的にではあるが比呂たちは五万のドラゴニア兵を背景とした巨大な軍隊にも見える状態になっていたのだ。


比呂「アレクシア!最適な突入ポイントを探せ!!


前方展開している素面(シラフ)のドラゴニア軍は背後のゾンビ兵の大軍の突入を恐れて出てこない!


敵陣の付近で、俺らだけ通過出来そうなポイントを探すんだ!!」


アレクシア「わ、分かりました!!」


比呂は走りながら、これまで見てきた地形の中で、我ら四駆だけ通過出来そうなポイントが何処かに無いかを必死で思いだそうとしていた。


狙い通り、俺たちを追って来るドラゴニア軍歩兵を引き連れて敵軍や拠点へと突っ込ませる作戦はここまで上手く行っているが、肝心なゾンビ兵たちだけ突っ込ませて自分たちは無事、逃げおおせる地点が発見出来ていない。


ゲルハルトたちの話だとB砦とC砦の付近は塹壕だらけで東に抜けることは困難だという話は聞いていた。


そちらに侵入してしまうと通過不能の塹壕で足止めを食らってしまう可能性がある。


では敵軍の砦に突っ込むとして、無事に突入してから脱出は出来るものなのか?だが、これも可能性としては非常に低い。


ドラゴニア軍にはまだ知られていないかもしれないが、四駆というものは案外、走破性が低い。


四駆でのクロカンの経験がある程度ある比呂だけならまだしも、彼の後追いの2台のうち、トループキャリアはホイルベースも長く、足回りも純正そのもののため、走破性はほとんど期待出来ない。


ならどうする?


比呂は、その時、ハッと気付いた。


「突入する必要なんてないじゃないか、既に俺ら、一回似た事をしたことあったもんな」


ハチマルのハンドルを必死に操作しながら比呂はそうほくそ笑んだのであった。

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