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ドラゴニア先遣隊の蠢動(しゅんどう)

スピスカ=ノヴァでは敵軍の本格的な来襲に備えて防衛戦の準備で躍起になっている頃、強行偵察隊の逃亡兵二人は、スピスカ=ノヴァの北北東の方向、約12万 elle(エル)、つまり60kmの距離に布陣していたドラゴニア東部戦区所属の第二軍、兵力約1万にたどり着いていた。


ドラゴニアの部隊がここまで出張ってきているのには訳があって、スピスカ=ノヴァが所属しているビスマルク王国に対し、国境を越えて軍隊を侵入させることで外交を優位に進めようとしていたからだ。


本来なら今現在、ドラゴニアの第二軍が進出している辺りにはビスマルク王国の村があったのだが、散々荒らされ廃虚と化していたのだ。


第二軍の司令官は付近を統治するレンツ卿に対してプレッシャーを与えるよう本国から指示が出ており、強固な防衛力を持つパイネの付近までこうして出張ってきていた。


ちなみにスピスカ=ノヴァのある山から東方に100kmの地点にパイネという城砦都市があり、そこにレンツ卿もいる。


パイネのすぐ西にレンツ卿の私兵約5千が布陣し、ドラゴニアに対して睨みを利かせているが、スピスカ=ノヴァのような敵に近い寒村は見捨てられてしまっていたというわけなのだった。


ここ2年ほどの間で、今ドラゴニアの第二軍が駐屯している付近にはビスマルク王国の村が約15ほどあったが、尽く滅ぼされていて、村人の多くは本国に連れ去られていて奴隷として様々なことに使われていたのだった。


ドラゴニアは「王国」ではなく、ドラゴニア党と呼ばれている党による一党独裁の国であった。


国土はビスマルク王国の十数倍の広さを誇り、その国土には広大な穀倉地帯と牧草地を抱えていた。


その事で他国に比べて大規模な軍団と馬を養うことが可能となっていたのだった。


彼らが「偉大な大穀倉地帯(Kornkammer)」と呼ぶドラゴニアの国土の中央に存在する穀倉地帯は小麦、大豆、トウモロコシ、ジャガイモなどの一大生産地で、付近の国々もここで生産される穀物類の輸入に頼ることが多かったのだ。


ここら一帯の穀倉地は肥料を必要とせず、また災害や旱魃なども滅多に起こらないため、周辺諸国にとっても貴重な「台所」としての役割を長い間、果たしていたのだ。


ここら一帯は集団農場による大規模農業が盛んに行われていて、多数の奴隷たちの労働力により成り立っていた。


こちらは西方地域からの奴隷や、最近は北方諸国家から得た大量の奴隷が所属し「農奴」と呼ばれていた。


また温暖な南部では鉄鉱石や燃料となる石炭の生産量も非常に豊富で、鉄器の生産や武器や甲冑なども潤沢で、それらは軍に供給されていた。


こちらも主に南方の国から得た奴隷により鉱山や鍛冶などの労働力が賄われていたのだった。 



馬の飼料となる牧草地も国内に多くもつ為、他国に比べて騎馬兵の割合が多く、また鉄製の甲冑も他国に比べてより多く装備されている。


その為、野戦は非常に強く、重装騎馬兵による突撃と軽装騎馬弓兵による長距離攻撃と機動力は他国から非常に恐れられていた。


また、得意なのは野戦だけでなく、城攻めなども投石機やバリスタなどを多数保有しているので非常に強かった。


最近までドラゴニア北方の諸国と派手に戦っていたのだが、最近になってそれら諸国との和平が結ばれたことで、今度は東部にあるビスマルク王国や西方や南方の国にも触手を伸ばしていたのだった。


今回のスピスカ=ノヴァの「治安の悪化」もその一環であったのだ。



ドラゴニアの軍はいわゆる「国軍」ではなく、あくまで「ドラゴニア党の私兵」であった。


つまり軍は国民を守るために存在しているのではなく、「党」の利益を守るためだけに存在していた。


そのため、国内の一般市民の生活は非常に厳しく、党と軍により搾取され続けていた。


党はその国民の不満をそらせるため、他国との戦いで得た大量の奴隷を国民の下の地位に押しやり、強烈な差別意識を国民に植え付けていた。


軍にもその奴隷階級の兵は主に「盾役」や「工兵」として存在しており、使い捨てのような扱いを受けていたのだった。


ここまでの説明でもドラゴニアという国はなかなかにしてチートな国だと分かっていただけたと思うが、他国を恐れさせていたのは、いわゆる「モンスター兵器」の存在であった。


モンスター兵器に代表されるものとしては建国の立役者となった竜騎兵が使っていた「飛龍」やその他にも「火龍」、「甲龍」など攻撃力や防御力に優れた大型のモンスターや、ゴーレムなど中型のモンスターなども多数、存在していた。


幸いなことに今回スピスカ=ノヴァ付近まで出張ってきていた東部戦区の第二軍は騎馬兵と歩兵の混成部隊でモンスター兵器は存在していなかったが、残虐さはズバ抜けており、隣国にとっての脅威は計り知れなかった。


今回、逃げ帰ってきた兵士二人への処遇も残酷なもので、他の兵士への見せしめの意味もあり、鞭打ちの後、外に裸で杭に繋がれて晒し者にされていた。


それらの逃亡兵を尋問した千人隊の部隊長は、彼らから信じられないような報告を受けた。


「馬よりも早く走り回る鉄の巨大な荷車で多くの騎兵が踏み潰されたり、意味不明な水の噴射で落馬させられ、その荷車で跳ね飛ばされて殺された」とか、


「100エル(約50メートル)ほど離れた距離の狙撃で重装騎兵の甲冑が貫通して殺された」などとてもじゃないが信じられない証言が次々に出てきた。


苛烈な処遇を受けたのもこれらの証言があまりにも浮世離れしていたのも原因の一つだった。


その報告を聞いた千人隊長は、「戦車(チャリオット)が敵に混じっているのか?」と思った。


因みに少数ではあるが、ドラゴニアにも戦車は存在していた。(過去形)


戦車と言っても近代戦で登場した鉄で全体を覆われた自走可能な兵器のことではなく、馬でひく古代の戦車、つまりチャリオットのことを言う。


こちらの言葉ではStreitwagen(シュトライトヴァーゲン)という。


独語でStreit は紛争を意味するので直訳すると紛争車とか戦争車になる。


ちなみに近代戦で使われる戦車は独語ではPanzer(パンツァー)だ。



数百年前の建国当初は中央平原での戦いで主に活躍したそうなのだが、騎馬兵の運用法が確立されたことで、悪路に弱く、また騎馬兵と比べてコストが高く、機動力にも欠けるチャリオットは姿を消していったのだった。


特にその頃は鉄製品が存在してなく、車軸の軸受けやホイールなどが破損することが多く、戦力として維持するにはかなりの資金が必要だった。


だが、その威力の凄まじさは後世にも伝わっていて、ある意味で伝説の兵器という扱いになっていたのだ。


「敵にシュトライトヴァーゲンが混じっているなんて聞いてないぞ」などと思ったが、今回村を襲わせた20騎の騎兵たちは、精鋭とまではいかないが訓練を受けた正規兵であることには違いないので、それがほぼ全滅したということは無視が出来ない事実であった。


そこで、この報告を第二軍総指揮官に挙げ、自らの千人隊でスピスカ=ノヴァを襲撃させてもらうよう上申した。


スピスカ=ノヴァで襲撃を撃退してから5日後、遂に千人隊による本格的な襲撃、ならびに敵の村を奪取し、そこに砦を築くよう総司令官より指示が降りた。


スピスカ=ノヴァのあるテトラ山には金脈があることも確認されていた。


古代ではその山の中腹にスピスカ=ノヴァ=ベスと呼ばれていた山城があり、重要な防衛拠点として整備されていた時期もあるのだそうだ。


今回、襲撃したのは古代の山城の跡にある村で、以前の調査では人口百名程度のとるに足りない村だということであった。


だが、鉱物資源の豊富なドラゴニアであったが、(ゴールド)の埋蔵量は少なく、それらは東方のビスマルク王国付近に多く採掘されることは以前からよく知られていた。


ビスマルク王国にとっての主な輸出品の一つが(ゴールド)であり、(ゴールド)の存在こそが王国を支える原動力の一つであると言えるのだった。


今回の出兵の主な目的はビスマルク王国の領内深くに進出し、可能な限りの略奪をすることで大きなプレッシャーをかけ、ビスマルク王国との外交交渉を優位に進めることであったが、


東部戦区の第二軍の千人隊(Tausend Einheit)の隊長程度の下級党員にとって、そのような生温い外交政策などどうでもいいことであった。


そもそも、東部戦区というのは近年、まともな戦闘がなく、国内では「お荷物戦区」だとか「生温いお坊ちゃん軍」などと揶揄されることの多い軍であった。


というのも北方のバイキングどもが建国した諸国との激烈な戦闘を長年にわたって繰り広げていた北部戦区などに比べ、東方はこれまでは比較的、外交上の関係も良好だったし、ドラゴニアとビスマルク王国とは上層部が婚姻関係があったり、貿易額もかなり多かったことでまともな戦争を近年では経験してなかったのだ。


ここ数年で北方との戦争が一段落したこともあり、軍事費に余裕が出来たドラゴニアはそれを他方に回し、東方への攻撃が本格的に行われるようになってきたのだ。


党内の順位を上げないと美味しい目には滅多にあわないし、そもそも軍での生活は何かと苦労が多いので、さっさと軍功を挙げ昇進して、都に戻って女を侍らせた良い生活をしたい。


…このような考えをドラゴニアの千人隊隊長クラスの人物などは一般的に持っていたのだった。


理由はカンタンで、先程も言ったがこの国は党によって完全に支配されている。


美味しい目にありつけるかどうかは、党内の順位やどの派閥に属しているかにかかっているのだ。


ちなみにドラゴニア党の党員はドラゴニアの人口の1割未満である。


約半分の五割程度が一般市民で、残りの四割が奴隷階層という、極めて奴隷の数の多い国なのだ。


全体の一割の党員が国の富の90%以上を独占し、その党員の中でもトップの100人がその富の半分以上を独占するというとんでもない格差社会だったわけだ。


だから一般党員のさらに序列が最下位付近にいる地方軍の千人隊隊長などは「一般国民と比べてまだまし」程度で、それほど稼げているわけではないのだ。


ここで出世するにはいくつかコツがある。


一つ目は「強い派閥とは敵対しないこと」


二つ目は「勝ち馬に乗ること」


三つ目は「ワイロは絶対ケチらないこと」


四つ目は「決してミスをしないこと」なのだ。


多くの一般党員たちはこのような行動規範で動いている。


特にワイロの送り方は金額がズバ抜けているのが特徴で、それもあって序列上位に富が集中する結果になっているわけだ。


ただ、軍人ならではの党内序列を上げる方法がある。


それは「他人を出し抜いても軍功を挙げること」なのだ。


今回、スピスカ=ノヴァを攻めようとしている千人隊隊長なども正にソレを目指して虎視眈々と部下達を顎でこき使いながら準備を進ませていたのだった。



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[気になる点] 120万エル=60万m=600kmです。
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