第二次バノックバーンの戦い
四駆による突撃攻撃を警戒するドラゴニア軍であってが、実際の処、その心配はほぼ無かった。
以前の戦闘では、ゴリゴリのマッチョ派武闘集団の第二遊撃隊の面々が揃っていたが、今回、彼らは遥か西のラボチャの丘の上で休憩中だった。
最初の林道での戦闘でドラゴニア兵の群れにランクル73で突撃していた雅彦も今回は肋骨を痛めて過激な戦闘はほぼ不可能だし、貴史は戦闘不能、秀明や影山たちも東のパイネに赴いていて不在であった。
現在のバノックバーンの地にいる屠龍軍側の人間で接近戦に強い者は二郎を除くとグルカ兵を率いるスーリャくらいしか居なかったのだ。
狭い戦場とは言え、約四万のドラゴニア軍を迎え撃つのは雅彦、二郎、ヘッダ、あとは精鋭と化したグリステン兵千人であったのだ。
ドラゴニア兵一万は、南に回り込み、橋を渡ってバノックバーンに侵入をしようとしていた。
こちらを守るのは、「最強傭兵」と名高いスーリャ率いるグルカ兵73人だ。
まず動いたのは東の四万のドラゴニア軍騎兵であった。
彼らが連れてきた工兵隊が下馬したドラゴニア軍重装騎兵に守られて前線に姿を表し、大楯の後ろで湿地帯の足場を固める土木作業を始めたのだ。
当然、屠龍軍側もこの作業を黙って見ていなかった。
大量に降り注ぐ矢をもろともしない二郎のサファリから、数十メートル先の兵士たちに最大音量の「音」が浴びせられた。
ちなみに曲名は、またしても『ドラゴニア国家(仮)』であった。
ドラゴニアを嘲笑しまくったその歌詞の内容に多くのドラゴニア軍騎兵たちは怒り、攻め込もうとする動きを始めるが、部隊長と思われる兵士に制されていった。
…その動きを見逃さなかったのがヘッダであった。
エンジンを止め、林の中に偽装したユンボのキャビンの上からレミントンM700VTRを使い、目立つ動きをしている兵士を一人、また一人狙撃していった。
正体不明の攻撃を受けたドラゴニア軍の一部に動揺が広がるが、それを知らない後方の部隊からは前線に出ようとする動きがあちこちで起こった。
雅彦は上空からその様子をドローンのモニター越しに観察していた。
だが、まだ決定的な破綻は見られず、しばらくするとドラゴニア軍内の動揺は沈静化に向かうのだった。
雅彦「やるな、ドラゴニア軍。あれしきの挑発には乗らないか。
ヘッダ、どのくらいの敵の部隊長を倒した?」
ヘッダ「…十人隊クラスの隊長を三人くらい殺ったかな。
出来たらもう少し高い場所から狙撃したいよね」
雅彦「そりゃそうだ。弾はそんなに多くないから節約して使ってくれ。
とりあえず作戦通り、最前線の隊長を可能な限り減らしてくれ。
この調子なら敵軍が渡河してくるのは何時間も掛かるから、ゆっくり狙ってくれればいい」
ヘッダ「分かりました」
雅彦「イングリット!では、投石を始めさせてくれ!」
イングリット「センパイ!分かったわ!」
「センパイ」ってどういう意味だよ?と思いながら雅彦はヴィルマの方に歩いていった。
雅彦「ヴィルマ、ではヴィルマも始めてくれ。
くれぐれも怪我はするなよな」
ヴィルマ「分かってるわ、ダーリン」
コイツら、どこでそんな言葉を仕入れたきたんだ?と思ったが、そういえばヴァイキングたちを中心に日本のアニメやハリウッドの洋画を観るのが流行っていたな、と思い出す雅彦であった。




