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それぞれの宴

見張りを秀明に任せた比呂は ほろ酔い気分で騒がしい広場を避けて村の中を歩いていた。


するとそこへ、誰かを探していた様子のアレクシアが比呂を見つけて走り寄ってきた。



今回、アレクシアは母親のエマと共に槍を手に迎撃に出たのだが、門を破られないよう他の女性たちと共に門を裏側から押さえ込んでいた以外、ほとんどは恐怖ですくんでしまいまともに戦えなかった。


特に敵の重騎兵が門の裏に迫って来たときは、恐怖のあまりその場で座り込んでしまいそうになるくらい怯えて立ちすくんでしまっていた。



前回の襲撃ではエマたち大人に迎撃は任せて子供や老人たちと村の外に避難していたアレクシアは後悔していた。


大人の男達は全て殺され、母のエマも暴行を受けたことはアレクシアにとって拭いようのないトラウマであった。


「次こそは自分がしっかりして戦わないといけない」


だから、村の娘たちと共に機会を見つけては武器を扱う訓練はしていたのだ。


槍も弓矢もある程度は使えるようになっていたハズだった。


だが、実際、襲われて敵の強烈な殺意に晒された時、全く動かなくなってしまっていた。


彼女はそんな自分が許せなかった。


客観的に見て、他の村の女の子達もアレクシアと同じくほとんど戦えなかったのでそれほど悩むようなことではなかったのだが、アレクシアは村長の娘として、つまり次期村長として村を護る責任がある。


今、思い出してもその時感じた恐怖が蘇る。


背筋がスーッと寒くなり、力が抜けていく独特な感覚。


戦場に出た者なら一度は体験する感覚だ。


だが、そんな中、敵の重騎兵が目前に迫った時、彼らの目の前に立ち塞がったのはニホンジンの中でも最年長と言われているヒデアキであった。


彼は剣を鞘に収めたままの独特な構えで敵に対峙し、敵が動いた瞬間になぎ倒していた。


電光石火という言葉があるとしたら正にこの事だと思った。


隣の敵も瞬殺したヒデアキはあの強固に見えた敵兵の胸甲を背後からの一撃で軽々と貫通させてみせた。


「どうしたらあんなことが出来るの?」


アレクシアは恐怖を一時忘れ、驚きのあまりその場で目を見開いて立ちすくんでいた。


ニホンジンたちは広場に向かった。


そこには子供達を人質にとった敵兵の姿があった。


すると間もなくして、敵兵のうちの一人の頭から上が吹き飛び、右後方から「パーン!」という渇いた音が遅れて聞こえた。


振り向くと100elle(50メートル程)の距離で銃を構えているヒロの姿が見えた。


続いて「バスン!!」という音がして正面中央の兵士が倒れ込み、最後に飛び込んだヒデアキによって兵士の首が飛ばされたのだった。


ニホンジン三人による連携での人質の救出劇だったのだ。


敵の残兵を皆で協力して捜索し、村の中に敵は居ないことが分かった時は、安心したことで友達の子たちとその場にへたり込んでしまい、しばらく動けなくなってしまっていた。


そんな中、ニホンジンたちはエマたち大人の村人たちと協力して村の内外に溢れる敵兵の死体を集めて丘の向こうに運んでいた。


ここでアレクシアたちの世代の子たちも血の跡の処理や後片付けの手伝いに回った。


ニホンジンたちは、これまた見たことも無い鉄の腕を持つ巨大な鉄の機械ユンボのことを使って地面を掘り起こしたと思ったら、積み上げていた敵の死体をその巨大な爪で穴の中に運び込み、何やら液体を注ぎ込んだと思ったら火を着けた。


アレクシアがその場にいたヒロに聞いたところ、ニホンでは死者をこのように焼いて埋葬するのだそうだ。


炎が収まったところで、またマサヒコはその機械を操作して土を被せて、どこからか持ってきた高さ2elle(約1m)程の岩を盛り土の上に乗せた。


その様子を村人たちは少し離れた処から見ていたのだが、ニホンジンたちは、先ほども敵の死体の前でみせたように、両手を胸の前で合わせ、しばらく目を瞑り、死者の罪への赦しを神に祈り、召天して永遠の安息が得られるように祈っているように見えた。


アレクシアの知る常識では、敵をそもそも丁重に埋葬したりしないし、永遠の安息を祈ったりもしない。なぜなら彼らは敵だから。


だが、目の前にいるニホンジンたちは先ほどまで命のやり取りをしていた敵ですら丁重に埋葬して、さらに祈りまで捧げている。


アレクシアはこの時は、彼らは一体何してるのか、全く意味が分からずポカンと見つめていたのだ。


日本人たちの葬送も終わり、村にぞろぞろ帰っている時、アレクシアは比呂に「なぜ敵を丁寧に埋葬して祈ったのか?」と聞いてみた。


すると「日本では敵でも死んだら、その人は『仏様』という神様のひとつになる。だから丁寧に埋葬して良い神様になる様に祈るんだ」という答えが返ってきた。


アレクシアにとって「神」というか崇拝する対象はミカエル様只一人で、他の神がいるとは思ったこともなかった。


ヒロの話では日本では数百万以上の神様がいて、何にでも神が宿ると言う。


本当に理解出来なかった。


だがだからこそ、「この人たちの事をもっと詳しく、深く理解したい!」という想いがフツフツと湧き上がってきた。


彼らは先程の戦いでも全く怯むことなく、村人たちを護り通してくれた。


それに対して自分は全く役に立つことが出来なかった。


彼らのことを知れば、彼らの文化や考え方をもっと学べば彼らのように村の役に立つ人間になることが出来るようになるんじゃないかと思うのだった。


ヒロが100elleもの離れた距離があったにも関わらず敵兵の頭を正確無比に吹き飛ばした武器を使い熟すにはどうすればいいのか?


ヒデアキが彼女の目の前で見せた驚くべき剣術と素晴らしい切れ味の刀を同じように使いこなせるようになるのか?


マサヒコみたいにランクルと彼等が呼んでる鉄の車を使いこなせば敵をあのように翻弄したり跳ね飛ばしたり出来るようになるのか?


先程、目の前で土を掘り起こしてみせた、伝説の巨人の手のような機械を自分も使いこなすようになれば、村を守る助けになるのではないか?


アレクシアは以前、比呂から直接、ベネリのM3ショットガンについて説明を受けていた。


確かその時、「40エル離れた甲冑を着けた兵士を一撃で倒すことが出来る」ということを聞いたと思ったが、あれは本当に嘘偽りなくそのまま事実だったのだ。


もっとしっかり聞いていれば、自分は村にとって役立つ人になれたかもしれなかった。


もっともっと必死で学ばなければ。



…宴の後、騒がしい人混みをさけた村の外れに居た比呂を見つけたアレクシアは比呂に向けてこう言った。


「わたし、もっともっと色んなことを知りたいです!


だからヒロサン、私になんでもいいので色々教えて下さい!


私、この村の役に立つ人にどうしてもなりたいんです!」


彼女の超真剣な申し出にしばらく目を白黒していた比呂であったが、スマホに文章を打ち込み、アレクシアに対して


「分かりました、しっかり僕について勉強して下さい。そろそろ日本語の教科書が届くはずなので明日にでも渡しますね」と見せた。


またしても半泣きになりそうになるアレクシアを見て、半ば苦笑しながら彼女の頭をくしゃくしゃと軽く撫でる比呂であった。



村の中央の広場では相変わらず雅彦と村の女の子たちが雅彦のクルマのスピーカーから流れるダンスミュージックで踊り続けていた。


最初はぎこちなかった彼女たちも雅彦の動きや、スマホの中で踊っている女性の動きを見て、たちまちこちらの世界での踊りをマスターしつつあった。


ヴィルマやイングリットも抜群のリズム感を持っていて踊り続けていた。


彼女達はいつもの皮の鎧を外し、他の村娘と同じような衣装を付けていた。


それを目前で見ていた雅彦は「こりゃマジで金取れるレベルじゃね?」などと思うのだった。


彼女達は持ち前の美貌とスタイルの良さに加え、抜群のリズム感まで持っている。


見ているだけで引き込まれる程の強烈な魅力がある。


ヴィルマが自分を見る目にはそれだけで引き込まれそうになる引力があった。

 

一見、冷たそうに見える目だが、目の中に秘めた情熱は彼女の瞳をより青く染めていた。


一見怖そうにも見えてしまうヴィルマであったが、内心では雅彦に本当に感謝していた。


ただ、それを言葉に出してしまうのは本当に恥ずかしい。


だから、彼女は雅彦の前で踊りまくる。


踊って踊って踊って、自分が感じているこの情熱を彼になんとか伝えたくて踊るのだった。


今日は彼が多くの女性に囲まれていても怒ったりしない。


村を救ってくれた、そして私も救ってくれた。


そんな彼に感謝を伝える為に踊るのだ。


最初はプロポーズをしてきたマサヒコだったが、あの後は何故かグイグイ口説きにくるようなことはしない。


当然、自分を押し倒してくるようなこともしてこない。


ならば私がする事は彼を手助けし、彼を守れるような彼にとって不可欠な人であることを彼に認めさせて、もう一度彼にプロポーズを正式にさせることなのだ。


そんな、ある意味非常に健気なヴィルマの決意を全く理解していない雅彦は皆と共に踊り明かすのであった。



…その頃、エマもある人を探していた。


言わずと知れた秀明である。


少し肌寒くなってきたな、と思い始めた頃、門の隣の壁の上でたたずんでいる秀明を見つけた。


ぼんやりと星空を眺めている彼の横によじ登ってきたエマは「こんな所で一人で何をしてるのですか?」と聞いた。


秀明は「ないとは思いますが、敵が帰ってくるのを警戒して見張りしています」と答えた。


エマは、また襲ってくる可能性があるか秀明に聞いたが、先程比呂に説明したように可能性は低いと伝えた。


エマは秀明に凄く強いんですね、とお世辞ではなく感想を言った。


それに対して秀明は、若い頃は確かに一生懸命稽古して剣を奮っていたが、ここ最近はまともに剣を握ったことはない、と答えた。


実際、彼は歳の割に体力はある方で、未だに野山を駆け回る趣味を楽しむことがあるが、日本刀を握ったのは本当に数十間年ぶりで、ましてや真剣を握った人とガチで戦ったことなどはなかった。


だが、先ほどは不思議と体が思い通り動いてくれた。


いや、感覚としてはこの青江定次(あおえさだつぐ)が秀明の力を引き出した、そんな風に思うのだった。


まあ、彼らの装備も日本刀を持った秀明と戦うには相性が悪かったのも事実だ。


彼らが持っていた大型のツヴァイハンダーと思われる剣は7kgくらいもあり、甲冑も動きを遅くさせるのに貢献していたので、1kg程度の日本刀と極めて軽装な秀明と対したら、秀明の動きの速さに対応するのは困難だったわけだ。


だが、最初に秀明と戦った敵もバカではなかった。


秀明の異様な様子に気付き、重い剣を振り回すのではなく、突きという最も速い攻撃に切り替えていたからだ。


もっとも、その攻撃もあの時の秀明にはスローモーションにしか見えず、みすみす彼の間合いに飛び込んでしまっただけのことだったのだが。


やはり刀身を敵に見せないようにすることは実戦では効果が高いのだと思うのだった。


そんなことをボンヤリ考えていたら、隣で座っていたエマがブルっと震えた。


ありゃ、これはいかんなということで秀明は彼が羽織っていたフライトジャケットを脱いでエマに羽織らせた。


「えっ、こんなに暖かいんですね!ありがとうございます」


秀明は少し寒いなとは思ったが、比呂が先ほど持ってきてくれたウィスキーを取り出した。


秀明は手に持っていた紙コップにウイスキーを少し入れてエマに手渡した。


二人は城壁の上で空を見上げながら乾杯するのであった。

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