オレ達の戦いはこれからだ(まだまだ続くよ)
ドラゴニア兵からの襲撃を完封した祝いの宴は深夜まで続き、雅彦を中心にした若い子たちは村の広場の中央に用意されたキャンプファイヤーの火を取り囲み、何やらガヤガヤと楽しく遊んでいる様子であった。
秀明はその輪から外れ、比呂に渡していたRemington M700 VTR というライフル銃を肩に掛けて、村の門の横の壁の上に向かった。
火から離れると肌寒くなっていたので秀明はクルマから愛用のMA-1タイプのフライトジャケットを羽織ていた。
先日もこれを羽織っていたが、そのジャケットは非常に古く、秀明の死んだ親父の形見の一つであった。
正式名はB-15Cといい、米軍でMA-1が採用される前のフライトジャケットでベトナム戦争の頃、実際に使われていた物だ。
右胸にはアメリカ空軍の記章、肩には大尉を現す階級章、左胸には「CAPT. HALL」と記載があるので、おそらくホール大尉という人が着用していたものが放出されたのを秀明の親父が買ったのだろう。
つまり、このフライトジャケットも50年選手というわけだったが、形はまんまMA-1 そのものなので古さは感じないデザインだった。
違いとしては素材に難燃性繊維が使われていないことや、防寒性能がMA-1より少し高いことだ。
実際、着てみるとズッシリと重たい。
秀明が壁の上に来たのは一応、敵の襲来がないか警戒する為だった。
この日も綺麗に晴れ上がり、星空が綺麗であった。
ここの星空は本当に何度観ても凄い。
日本で空を見上げて目に飛び込んでくるのは金星が有名だが、こちらでは金星レベルの明るい星があちこちで瞬いている。
そもそも天の川がクッキリ見えるのはすごい。
月が無くても満月の夜に近いくらい明るく見えるのだから、こちらの世界の泥棒はタイヘンだろうな、と思うのだ。
そうこうしてると比呂も騒がしい輪から抜け出してきて、親父の横に壁をよじ登ってきた。
その手にはウイスキーと紙コップが握られていた。
秀明「お、サンキュー気が利くな」
比呂「あのノリにはついていけないから逃げて来たわ」
はは、そりゃそうだろう。
クールなキャラがウリの比呂がギャルに混じってキャッキャ、ウフフしていたらこちらが驚いてしまうわ。
比呂「今日はもう襲撃はないかな?」
秀明「おそらくないだろう、逃げた奴らに忠誠心があればそもそも仲間を置いて逃げ出さないだろうよ」
なるほどその通りかもしれない。
比呂「でも近いうちに本格的にドラゴニアが攻めてくるんじゃないかな?」
秀明「ああ、敵の軍の仕組みとかがどうなっているのかは知らないが、派手に周辺諸国にちょっかいをかける戦狼外交とかしてるくらいだから、恐らくこのような局地的な敗北も許容しないだろうよ」
比呂「つまり?」
秀明「ああ、近いうちに再び本格的に攻めてくるってことだ」
比呂「親父は今回撃退した敵は何だと思う?」
秀明「お前こそ何だと思うよ?」
比呂「ただの強行偵察隊じゃないのかな?」
秀明「強行偵察隊?威力偵察のことか?」
比呂「まあそんな感じ」
秀明「本格的に敵が攻めてくるとしたらいつだ?」
比呂「早くて4、5日。遅くて10日ってところかな?こちらの世界の常識は分からないけど、中世ヨーロッパの軍の編成とか参考にするのならそれくらいじゃないの?
おそらく100キロくらい離れた所に敵の本隊がいて、逃げた敵兵が帰り着くのは明日、なんやかんやで本隊が移動開始するのが3日後くらい、一日で20キロ動くとしたらさらに5日ってとこかな?」
秀明「一日で40キロとしたら合計で約一週間か。敵の規模は?」
比呂「情報がなさ過ぎるのでなんとも言えないけど、普通に考えると1万はいるだろうね。アレクサンダー大王の遠征軍やモンゴルの遠征軍みたいな精強な軍でないことを願うばかりだね」
秀明「もしそうなら先遣隊として騎馬隊がいきなり襲ってくることもあるな、それも3日後くらいに」
ヒロの奴、戦史に詳しいだけにこういうことはよく分かってるな。
それにしても最悪、村人全てを連れて日本に避難させた方がいいんじゃないか?
避難計画とかも準備してやらねばならないかもな。
秀明「明日から忙しくなるぞ、とりあえずユンボが使える雅彦には関所跡に塹壕と土壁を作らせて、鉄条網を川も含めて設置させよう。
エマさんにも相談して関所で敵の接近を監視する役目の人を出してもらうわ。
ヒロは至急、関所跡から撤退しながら迎撃する具体的な作戦を立案してくれ。
最終防衛ラインは村の正面にある広場から林道に抜ける橋の上だ」
比呂「親父はどうするの?」
秀明「俺は日本で防衛に必要な資材の調達とクルマの改造の手配をしてくる」
比呂「ランクルも持っていくの?」
秀明「いや、ランクルの後部に鉄の柵を取り付ける段取りを済ませてくる。
鉄工所で大至急作らせて、鉱山に納品させるわ」
比呂「なるべくランクルはこちらから動かしたくないもんな、貴重な戦力だし」
その通りだ、いざとなったら彼らだけでも日本側に逃さねばならない。
おそらく彼らの性格を考えて、それは最後まで拒否するだろうが。
比呂「敵の前衛に投石機やバリスタが出張ってくるのが一番怖いかな…いや、敵にはドラゴンなどのモンスター兵器があるかもなんだっけ?」
あ、それを忘れていた。
ここは「異世界」なんだった。
地球の常識は通用しないんだった。
この際、騎馬兵とかで攻めた来られるのが一番ラクかもしれないな。
それなら塹壕と鉄条網、火炎瓶とライフル銃で完封出来そうだから。
それにしてもこの村は出口が比較的狭い林道が一本あるだけで助かるわ。
あ、そもそもこの村は城か砦の跡で、村はその城の居住区なんだっけな。
そりゃ防御に適した地形しているよね。
秀明「まあテルモピュライみたいな地形で助かったな。狭い入り口だけを塞いでおけば完封出来るんだから」
あ、というような表情をした比呂が、
「親父、それフラグ!」と言った。
「これがあの100万のペルシア兵を防ごうとしたスパルタのテルモピュライの戦いのことを言うんなら、迂回路から包囲されて結局、全滅したんだぞ」
あ!そうだった!
読者にテルモピュライの戦いを知らない方がおられるのであれば、映画「300(スリーハンドレッド)」を是非観てもらいたい。
確かに迂回路が存在する可能性もあるので、誰か周囲の地形に詳しい人を探さねばならない。
秀明には一人心当たりがあった。
秀明のランクル70に矢をぶち当てた狩人の女の子であった。
彼女なら村がある山に広がる森にも詳しいだろう。
秀明「エマさんに狩人の子達に是非会いたいと伝えておくわ、迂回路での迎撃も考えないといけないかもだわ」
比呂「分かった、迎撃プランは明日中には用意するわ、追加で手配する資材などもリストアップするから日本で手配ヨロシク。
あと、通販で発注した物が明日から届き始めるから受け取っておいてな」
秀明「ああ、くれぐれも無茶するなよ。危なくなったら雅彦連れて逃げろよな」
比呂「兄貴が俺の言う事を聞いてくれたら、な」
秀明「うーん、そうだよなぁ。とりあえずインパルスと銃二挺は置いていくわ、くれぐれも暴発とかさせるなよ。
チャンバーの弾は絶対抜いとけ、安全装置かけていても落としたら暴発するぞ」
比呂「うん、知ってる知ってる、撃つ前にチャンバーに弾を入れて、セーフティを外してから撃て、だよね」
これが規制の無いショットガンならマガジンチューブに弾を8発とか入れれるのだが、日本ではマガジンには2発までしか入れれないよう加工されているのでこういう時にホントに不便。
ここは日本じゃないんでいっその事、改造してやろか?とも思うわけだ。
比呂「そいや、バレットのM82みたいな対物ライフルとか入手出来ないんかな?」
秀明「あー、無理無理。口径がデカすぎるから日本じゃ所有出来ないわ」
比呂「ならオヤジの顔の広さを利用して、自衛隊に納入する武器を横流ししてもらえんの?」
秀明「出来るわけないやろ!そもそも川北グループとは言え、銃器を製造している会社はないわ。戦車とか戦闘機はあるけどな、あと装甲車」
比呂「それを横流しは?」
秀明「出来るわけないやろ!そもそもグループ会社だとは言ってもあちらは大企業、こちらは零細企業で格が違い過ぎるし、親父の兄弟がそれぞれ受け継いだ会社とは言え代が替わってるし、冠婚葬祭で顔見たことがある程度の付き合いしかないわ」
比呂「世の中上手くいかないもんなんだなー」
秀明「おう、こちらの金塊を換金出来るアテがあっただけマシだったがな、そもそも中世ヨーロッパとかに戦車や戦闘機持ち込んだらゲームバランス崩壊するやろ?」
そりゃそうか、と笑う二人であった。
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