ヨンニイとナナゴウ
丘の南側でドラゴニア軍騎馬兵を和弓による榴弾と成形炸薬弾で撃退し続けていた二台のランクルの元にも遥か彼方の空で炸裂した新型爆弾の炸裂音が届いていた。
それほど、新型爆弾の威力が強力だった。
「火薬」という武器には炸裂する高い圧力で四方に破片を高速でばら撒く物理的なダメージ以外にも、「閃光」や「爆音」による心理的ダメージを敵に負わせるという効果があった。
弓で飛ばせる程度の爆音で慣れた馬や人でも、TNT換算で約50キロクラスの爆破は、それまでの攻撃の比ではなかったのだ。
興奮剤を使って狂戦士化して挑んでくる兵士ならまだしも、馬は本来、臆病な生き物である。
火薬がそもそも存在していないこの世界では、雅彦たち屠龍軍との戦闘以外で「火薬」と対する機会がないのでそもそも慣れる機会が少ないばかりか、50キロクラスの炸薬の爆破などは再現不可能なとんでもない迫力と威力のあるシロモノだった。
ドラゴニア軍も屠龍軍が使用する「火薬」に対する備えをある程度していて、騎馬兵や歩兵の重装甲化や、軽装弓騎兵をより遠距離で戦闘させるために、弓の強化や矢尻の強化などが行われていた。
また、馬への訓練も行われていて、耳の隣でいきなり
「バン!!」と物と物をぶつけて驚かせることを繰り返して炸裂音に慣れさせることを繰り返していた。
この戦場で、曲がりなりにもヴァイキングたちが放つ榴弾に対応出来ているのは訓練の成果でもあったのだ。
丘の南で多数のドラゴニア軍騎馬兵と対するランクル二台は、「ほぼノーマルで装甲が施されていないランクル75トループキャリア」と、「装甲どころかボディの外板さえなく、乗員がほぼ剥き出しのランクル42」であった。
両車とも、屠龍軍内でも屈指の打たれ弱さを誇る(?)クルマであったのだが、その弱さは「多数の榴弾」と「腕の良い射手」、「極めて高い機動性」で補っていたのだ。
全長が5メートルを越すトループキャリアは動きは軽快とは言い難いものではあったのだが、4.2リッターのノーマル状態のノンターボディーゼルエンジンは扱い易い上にトルクも太く、荒野で使用しても安定した走行を可能にしていた。
高い機動性で敵軍との距離をほぼ一定に保ち、離れた距離から一方的に広範囲に破片を撒き散らす榴弾と、高い貫徹力を発揮する成形炸薬弾の二種類を使い分け、迫り来るドラゴニア軍騎馬兵を翻弄し続けたのだった。
もう一台のランクル42(ヨンニイ)は全長4メートルを切るほど小柄であったが、ボディの上半分は撤去され、フロントウインドのみが残っていて、乗員は頑丈なロールケージで保護されていた。
それ故に矢や剣などに対する防御力は皆無に近い状態であったが、こちらのエンジンは手が入れられていて、3.4リッターの3B型エンジンはターボ化が図られていて、驚くほどの高機動性を獲得していた。
このランクル42は前後のホーシングは70系の電動デフロック付きホーシングに替えられていて、驚異的な走破性も兼ね揃えていたある意味「化け物」であった。
比較的軽量なシャーシとボディ、粘り強さとパワーと頑丈さを兼ね揃えたエンジン、使い易い電動デフロックを装着した足回り。
1980年代のクルマであったが、未だ現役のクルマは数々のオーバーホールと改造により、高い戦闘力を獲得していたのだ。
トループキャリアからの攻撃はルーフから上半身を出して行われていたが、ヨンニイでは助手席から完全に身を乗り出し、曲芸のような体勢で矢が放たれ、また後部の荷台でも弓兵が矢を放っていた。
彼らの「機動力」と「榴弾の速射」に、ドラゴニア軍騎馬兵は数では圧倒しておきながら、犠牲と損害を一方的にだし続けるのであった。




