罪悪感
比呂「『国崩し』か…」
比呂は高密度EFP弾の爆破が起こった地点を見ながら、思わずそう口走った。
一キロほど離れた場所で起こったので至近距離で見たわけではなかったのだが、彼がこの世界に来て聞いた爆発音の中では最も大きなものだった。
こんな兵器が何十発もあれば、数万規模の戦場など容易く制圧出来る。
半径20メートルほどの輪の中に居た敵兵は恐らく全滅したことだろう。
あれほど騒がしかった戦場も今の一撃で静まり返っていた。
敵軍としては恐らく何が起こったのか理解出来なかったであろう。
真っ暗な闇の中で、漆黒の空から投下された爆薬によっておこされた、液体状に変化した金属製の矢が数千本、自分隊を襲ったのだから。
これまで多数の榴弾の猛攻に耐え、戦意を剥き出しにして戦っていたドラゴニア軍騎馬兵たちも明らかに戸惑っていた。
実際、今の一撃で丘の西に集結しつつあったドラゴニア軍重装槍騎兵たちは、とてつもないダメージを受けることになった。
金属の矢が降り注いだ下側では、立っている者は一人(一匹)もなく、ダメージをたまたま受けなかった者たちも呆然としている、暴れ回る馬を抑えるのに必死になっていた。
比呂のすぐそばにアレクシアが立っていたが、その顔面は蒼白でガタガタと震えていた。
戦場は人が死ぬものだし、いつかは自分も死ぬかもしれないのだからやられる前にやらねばならないことは分かっているのだが、自分でこれだけ目の前の凄惨な光景を見て複雑な気持ちとなるのに、14歳のアレクシアは自分がトリガーを引いたのだから罪悪感は凄まじいものになるだろうと想像出来た。
比呂はアレクシアの頭を撫でながら自分の方に引き寄せこう言った。
比呂「あの兵器を使わせたのは俺だ。
もし罪があるとするなら俺に罪がある。
アレクシアは俺の言う通りに実行しただけだ」
アレクシア「だ、大丈夫です、まだやれます。
ちょっと予想以上に凄い爆発だったからビックリしただけです。
今のうちに帰投させて、EFP弾を装着させますね!」
アレクシアは慌ててタブレットを操作しようとするが、その手は震えて思ったように操作出来ないでいた。
アレクシア「あ、あれ!?
おかしいな、すごく手が震えるんです」
比呂はアレクシアを背後から抱きしめた。
比呂「アレクシア、大丈夫だ。後は俺たちがやる。
落ち着くまでクルマに戻ってなさい。
敵は今さっきの攻撃でしばらく命令系統がマヒしているだろう。
コーヒーでも飲んで、落ち着いたら、また、続きをやってくれればいい。
よくやってくれた。
アレクシアのおかげでしばらく時間が稼げたよ」
比呂はそう、ゆっくり語りかけるように話し、少しでもアレクシアを落ち着かせるようにした。
アレクシア「だ、大丈夫です!
戦争をしているのに罪の意識なんでありません。
それに、この戦いは私たちの住む場所を守るための戦いでもあるんですから。
…コーヒーでも飲んで来ます!」
そう言うと、アレクシアは比呂の腕の中から勢いよく飛び出してクルマの中へと戻っていった。
ああは言っていたが、まだ幼いアレクシアにとっては衝撃的なことだったと思う。
今まで多くの戦場を駆け抜けてきて、彼女の周りでは多くの敵兵の「死」があったわけだが、それらはヴァイキングたちや雅彦たち屠龍軍の面々が行った攻撃で起こったことで、アレクシア自身が手を汚したわけではなかった。
まあ、今はまだ感傷に浸る時間はない。
一刻も早く全てのクルマが動けるようにして、この場から撤退しなければならないのだ。
比呂はまたレベッカのクルマへと戻っていくのであった。




