押し寄せる敵軍
予備燃料は合計50リッターあったのでそれらをほぼ均等に3台のランクルに給油するところから始まり、燃料噴射ポンプのエア抜き、それらの作業と並行して、放電してしまったバッテリーの充電を行なった。
ガス欠を起こして、無理にエンジンを再スタートさせなかったため、ポンプのエア抜き作業はそれほど時間は掛からなかったが、苦労したのが比呂のランクル80と、ゲルハルトのランクル80、レベッカとヴォルフラムのランクル77とではそれぞれクルマの電圧やバッテリーの配列が違うことだ。
まずランクル77の2台は12Vのバッテリーを直列で繋いだ24V仕様。
比呂のランクル80はオーストラリアからの逆輸入車だったので、元々バッテリーが一つしかない12V仕様だったのを無理矢理二個並列で繋いだ12V仕様。
ゲルハルトのランクル80は普通の国内仕様なので普段はバッテリーを並列で繋いだ12V仕様だが、エンジンをかける時だけ24Vに切り替わる。
つまり単純に並列で12V仕様の比呂のハチマルからは、どのクルマにもカンタンにブースターケーブルで繋いですぐエンジンを再スタートさせることは出来なかったのだ。
この様に年式や輸出先などで微妙に電圧やシステムが違うのは、ある意味、ランクルの欠点であった。
ランクル70系でも後期では24Vから12Vで変わっているし、ランクル80系でもガソリン車では単純に12V仕様だったりする。
下手に繋いで充電してしまうと、最悪、バッテリーが破裂してしまうのでバッテリーの繋ぎ方を一つ一つ確認しながらケーブルを繋げていかねばならない。
比呂が三台のクルマの再スタートで悪戦苦闘している間、ゲルハルトたちは怪我の応急処置と丘の下に大量に並べていた敵兵の死体を丘の中央へ寄せてクルマが動く障害にならないようにしていた。
ここで遂に、消防車の放水の残量が無くなってしまった。
ラグナル「ヒロさん!水が切れました!!
脱出作業を急いで下さい!」
放水が切れたということは、敵兵の接近が容易になることと、敵弓兵からの矢がこちらに届きやすくなるということだ。
比呂「今、動けるのはゲルハルトのクルマだけだ!
あと10分、なんとか粘ってくれ!!」
ラグナルは比呂の言葉に頷くと、乗員にホースを片づけさせながら、自らは敵兵が大量に残していった大楯と両手剣を手にした。
比呂「アレクシア!敵軍の指揮官は見えないか?」
アレクシア「暗視カメラで見ても判別出来ません!
敵軍は、西と東でそれぞれ集結しつつあります!
数は分かりませんが、次々と増えてくるので今の段階でおそらく千騎はいます!!」
これだけ、榴弾や小型の成形炸薬弾を食らわしているのに、戦意は衰える様子がないどころか、隙さえあれば、次々と騎馬隊が突入してこようとする。
また、弓兵から放たれる鋭い矢も、また雨のように注がれ始めた。
正にキリがない。
このままだと物量と人海戦術に押し込まれてしまうかもしれない。
本来ならもっと決定的なタイミングでやりたかったが仕方ないだろう。
比呂「アレクシア!敵の最も集中しているポイントに「EFP弾」を落とせ!
投下後、すぐ離脱するのではなく上空に留まり、爆破後の動画も録画しておいてくれ!」
アレクシア「わ、分かりました!」
今、アレクシアが操作するドローンに搭載しているのは、雅彦たち日本人がこの異世界に、持ち込んでいる爆弾としては、最も強力で、最も攻撃範囲が大きいのだ。
アレクシアは上空を旋回させながら、最も敵が多く密集しているポイントを探した。
アレクシアはドローンの進路を西に設定すると、背中に流れる冷や汗を感じていた。
これまで多くの戦闘は経験してきたが、今回のように敵兵を直接攻撃することはなかった。
だが、今回は一回の攻撃で数十、いや百人ほどを一気に葬れるほどの量の炸薬が充填された、新型爆弾の投下である。
まだ14歳のアレクシアにとって、攻撃の決断は負担の大きいものだったのだ。




