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人質 救出

村の壁に取り付いた数騎を除き、他の騎馬兵たちはヨロヨロになった馬で村の出口の方に逃げていった。


比呂はそのような彼らを見て「どうしよう?」と迷ってしまった。


これは明らかに「皆殺しにしとけ」という流れだろう。


ここで彼らを帰らせてしまうと、後日改めて村が闇討ちされるかもしれないし、我々の情報が敵に流れてしまうのは都合が悪い。


そもそも無辜の住民を犯したり虐殺したりする兵士を活かしておく意味が分からない。


比呂はクルマを停め、親父のライフル銃を取り出し、マガジンの残弾確認、スコープのカバーを取り外し、セフティを解除して車のボンネットの上に銃を固定して逃げている騎馬兵を狙った。


距離は約50m。


動く敵を狙うのは初めてだが、当たらないことはないだろう。


スコープの中に映る敵の姿はブレが酷く、最初はエンジンがかかりっ放しなのかと思うほど酷かった。


いや、これは自分自身が震えているのだ。


落ち着いて呼吸しろ、こういうのは散々、FPS系のゲームでやってきたじゃないか。


何度深呼吸しても揺れは収まらない。


ゲームと決定的に違っているのは、スコープの中に映る兵士は生きた生身の人間である、ということだった。


もしかしたら、この男も家族が居て、子供や妻などが彼の帰りを待っているかもしれない。


だが、そんな知らない人のことは正直どうなっても構わないだろう。


今、こいつらを仕留めておかねば良く知る人が彼らの犠牲になるかもしれない。


覚悟を決めて引き金を引け!


比呂は覚悟を決めて逃げる兵士の背中を狙い発砲した。


強烈なリコイルで一瞬的を見失ったが、再度スコープを敵に向けるとそこには肩の辺りに被弾して悶絶する敵兵の姿があった。


ボルトを引き空薬莢をエジェクトし、ゆっくりと次弾を装填した。


今度は手の震えも少し収まっていた。


狙いを敵兵の胸辺りに合わせ再度引き金を引く。


「ガーン!!」という発砲音が辺りに響きわたり、今度も手応えを感じたのでターゲットを追っていくと、敵兵の動きは完全に止まっていた。


排莢して他の騎馬兵を探したが、すでに橋を渡りきり、木々の奥へと姿を消そうとしていた。


比呂はマガジンを交換しながら、クルマに乗り込み、村の壁に向けて走り出した。


一方、その頃村の広場では子供をそれぞれ人質にした3名の敵兵が雅彦、秀明、ヴィルマ、イングリットと対峙していた。


雅彦たちには敵兵が叫ぶ言葉は理解出来なかったが何を言っているか想像は容易かった。


つまり、逃げたいので道を開けろ、とか馬を持ってこいとか、よく刑事ドラマとかで犯人が言っているソレだろう。


雅彦「親父、どうする?」


秀明「逃すわけにはいかん、逃げた後こいつらが何をしでかすか、想像出来るだろう?」


雅彦「ああ、いわゆる退き兵ってヤツだよな。アニメの中で主人公が言ってたことあるわ」


秀明「なんやそりゃ、凄い内容のアニメがあるもんなんやな」


雅彦はそのアニメの中のセリフを思い出していた。


「民はさらうし、襲うし、犯すし」だっけ?確か第六天魔王が言っていたな。


自分はショットガンを持っている。


親父は日本刀を持っている、だからやろうと思えば二人同時に敵を倒せるけど、あと一人手が足りない。


幸い、人質にとっている子供は背が低く、銃で狙っても子供に当たることはないだろう。


また弾も散弾(バックショット)ではなくスラグ弾なんで、弾が広範囲にばら撒く心配もない。


やろうと思えば自分のショットガンで連射して複数の敵を狙えれるが、残念なことに今のショットガンには残弾は二発しか入っていなかった。


「これは、一人一殺だな」


秀明も同じような事を考えて、比呂はどこにいるのかを探した。


すると彼方でパーンというライフル銃の射撃音が鳴り響いた。


アイツ、敵を狙撃してるのか、と。


なら三人同時に敵を倒すことも可能かもな、と思った。


雅彦「比呂が揃ったらやろう、親父」


こいつも同じことを考えていたか。


おそらく比呂もこちらに向かっているハズだ、ならばしばらく時間稼ぎをしなければならない。


雅彦と秀明は両手を上に挙げ、敵意がないとアピールした。


秀明「はい、ここでニコッと笑ってみよう。油断させちゃえ」


うむ、性格の悪い男だ。


二人して手を上に挙げてニコニコするのを見たヴィルマは呆気にとられていた。


そんなヴィルマに雅彦はウインクして、「()るからゆっくり後退して」と言ってみた。


意味が通じたのかヴィルマも構えた槍の穂先を上に上げ、敵意がないように見せた。


イングリットもそれに倣う。


ここで秀明は大声で比呂に向けて叫んだ。


「比呂!三人同時にやるぞ!準備が出来たら返事をしろ!」


遥か向こうの方で「分かった」という返事があった。


雅彦「誰でもいいから一人撃て!残りは俺らで仕留める!」


一瞬の沈黙の後、突然右端の兵士の頭部が吹き飛んだ。


秀明と雅彦はそれを合図に敵兵に襲いかかった。


まず雅彦のショットガンが火を吹き、中央の敵の胸部あたりにスラグ弾が炸裂した。


至近距離でのショットガンの一撃を受け、くの字に身体を折り曲げ昏倒する敵兵。


いきなり味方2人が何事かも分からない攻撃で倒された兵士は一瞬、呆気にとられてしまっていた。


その一瞬、五メートルほどの距離を一気に飛び込み、抜き打ち様に敵兵の右腕を切り落とした秀明。


その兵士は自分の身に何が起こっていたのかを知ることは無かったであろう。


返す刀で首を飛ばされて仰向けに地面に倒れたのだった。


人質に取られていた三人の子供たちも無事であった。


それぞれの母親と思われる三人の女性が子供達の元に走り寄り、その子たちを抱きしめて無事を喜んだ。


秀明と雅彦は横たわる敵兵の死体を見下ろしながら、「人を殺してしまった」現実を噛み締めていた。


秀明は以前「こちらの世界は本当に命の価値が軽い」と言ったことがあるが、本当にここでは簡単に人は死ぬもんだ。


彼は剣を左肘で挟み込み、左手だけで片合掌をし、先程まで敵であった兵士の成仏を祈った。


その様子を隣で見ていた雅彦もショットガンを背中に戻して合掌するのであった。


その様子を見ていたエマたちこちらの世界の住人たちは彼らの様子を見て正直驚いた。


自分が殺したとは言え、敵に向けて祈りを捧げるのはこちらの世界ではあり得なかったからだ。


エマは以前、ヴィルマに対して「彼らはとてつもなく紳士的で欲がなく愚かでお人好しだ」と言ったことがあるが、彼らの行動規範は先程まで敵であった人に対しても優しいというか敬意を払うのか、とつくづく自分たちとの考えや文化や習慣が違うということを思い知らされた。


優しい、本当に彼らは優しい。


だが今はまだ感傷に浸る時ではない、敵兵がまだ周囲に残っているかもしれないし、残された敵兵の死体を処分しなければならないからだ。


ニホンジンたちは早速、残兵の掃討をすると言って門に向かって走り去っていった。


ヴィルマとイングリットもそれに同行する。


エマは残った村人に対して、「村の中に残っているかもしれない敵兵を捜索します!五人一組でチームを作り村の中を捜索して下さい!敵兵を発見したら無理して倒そうとせず、大声で応援を呼んで下さい!」と村人に伝えた。


避難予定だった子供たちは教会に全て集め、中からしっかり鍵を掛けさせた。


そうして、村の中を全て捜索し、残兵がいないことを確認したのだった。


…こうして日本人たちにとっては初陣となる二度目の襲撃は終わった。


残された死体の数は10体、それらは村の外に集められ、装備は剥がされた上で荼毘にふした。


秀明が日本から持ち込んだユンボで掘った穴の中でそれらは焼かれ、埋葬された。


埋葬された場所は村から見ると日本人たちがやってくる丘の反対側が選ばれた。


雅彦のインパルスの直撃を受けて落馬し、負傷して捕らえられた兵士は7人いた。


三人程は逃亡したことになる。


おそらく近日中に帰国した兵からこの村での顛末が伝えられ、この村にいる我々の存在も敵の知るところとなるだろう。


つまり情報封鎖は失敗したわけだ。


残された捕虜を殺す理由は失われたわけだ。


だが秀明は彼ら捕虜の処理は村の人たちに任せることにした。


我々の感覚では、武器を取り上げられて怪我までしているのであれば野盗の真似事など出来そうにないので多少の食べ物を与えて解放すればいいかとおもうのだが、彼女たちにしてみればこの男たちは村の男性たちの仇であり、憎むべき敵なのだ。


だから彼らをもし虐殺したり酷い拷問の上で殺したとしても文句を言うつもりはなかった。


こちらの世界の常識と我々の世界のソレは違うのが当たり前だからだ。


「捕虜の処遇は村の方達に全てお任せします」という秀明の申し出を受けたエマは、村人達を集め、捕虜をどうするか話し合いをした。


その中で出た意見としては、殺した方がいいとか、もう人が死ぬのを見るのはイヤなどという意見が噴出した。


しばらく話し合いは紛糾していたが、少し収まってきたのを確認したエマは皆の前に立って発言した。


「私の意見は彼らを殺すことです。それも酷い苦痛を与えた後で無残な死を与える殺し方をすることです。


私もここにいる多くの女性たちと同じく旦那を彼らに殺されました。


そして私自身、彼らから暴行を受けました。


敵を憎む気持ちは誰よりも強いはずです。


ですが、私は敢えて殺さず解放する方を選択したいと思います。


何故か。


ニホンジンたちは捕虜の扱いを私たちに一任すると言いました。


彼等は先程まで敵であった者まで死んだら丁重に扱う人たちです。


皆さんの中にも本当は彼らは神からの使いだと思っている人が多いと思います、私もそうです。


今回の戦いで、改めて彼らの恐るべき力が示されました。


ヒデアキの恐るべき剣の腕と鋭い刃、マサヒコの操る鉄の馬の強さ、遥か彼方の敵の頭を鉄兜ごと吹っ飛ばすことが出来るヒロの攻撃、それらは我々がこれまで見たことのないものでした。


私は今回の捕虜の扱いを我々がどう選択するのか、そんな彼等に我々はどうするのか試されているのではないか?と思うのです。


我々には彼らの助けが必要です。


実際、彼らは私たちを身を呈して守ってくれました。


もし、私たちがここで捕虜を無残な方法で虐殺したら、彼らを失望させたり支援を辞めて帰ってしまうのではないか、私はそうなることを恐れるのです」


エマの言葉に村の女性たちは静まり返った。


「神の使いである彼らが我々の行いを見ている」というエマの言葉には非常に説得力があった。


エマは続ける。


「今回の襲撃では、我々は武器を取り自ら戦うことを選択しました。


自ら戦ったからこそ、彼らは私たちに救いの手を差し伸べてくれたのだと思います。


私は彼らと共存して生きていくことを選択したいと思います!」


こうして村の捕虜に対する扱いは決まったのであった。



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