恐れていた襲撃
朝早くに目が覚めてしまった雅彦は、事務所の休憩室から出て、5枚切りの食パンにスライスチーズを置いてオーブンで焼いたパンと、カートリッジタイプのコーヒーメーカーで淹れたスタバのコーヒーを飲みながら、事務所の下にある作業所に向かった。
事務所はちょっとした段差を利用して建てられており、重機などのメンテが一応可能な作業所が事務所の真下に建てられていた。
ここに自分の愛機を停めていたので、昨日やってもらった改造具合を眺めに来たのだ。
それにしてもゴツい。
ボディの主だったところ全てに波板を張っているのだから厳つくなっても仕方ない。
チェッカープレートというのを知らない方は、よく床に貼られているバッテン模様の凸凹がある鉄板をご存知ないだろうか?
あれは鉄板を作るメーカーで微妙に紋様が違っていて、マニアの間ではどこどこのメーカーの板が好き、なんて会話が出てきたりする。
今回はアルミという柔らかい素材の波板を貼った訳だが、アルミの地肌そのままだと銀色でメチャメチャ目立つので白色に塗ってもらっている。
だがそれもスプレーとかではなく、刷毛塗りなので塗装が厚い処や薄い処、塗り残しや刷毛の跡などが至る所に残っているが、まあ作業を急がせてしまったので致し方ないところかな。
まあどうせ山で酷使していたら細かい塗装なんてすぐボロボロになるのでひとまずはこれでオッケーだ。
なぜ表面がツルツルの鉄板を使わずに凸凹の波板を貼ったのかというと、悪路をゴリゴリに攻めていたりすると、たまに車が横転したり、ボンネットの上を通らないと車の反対側に行けなかったりする場合がある。
だから「ボディは足場だから滑らない方がいい」というわけだった。
こういう考えは一般の人には本当に理解して貰えないが、赤ん坊の頃からこの手の車で、ある意味エリート教育を受けてきた雅彦は一般人の常識は持ち合わせていないのであった。
ガチャガチャと車をいじっていると、弟の比呂も起き出してきていて、一緒にクルマを弄りながら少し会話をしていた。
雅彦「ヒロも早くランクルを買えよ、欲しいものがあるやろ?」
比呂「おれは兄貴やとうさんみたいなゴリゴリのクロカンはしないから、出来るだけ乗り心地のいいクルマにしたいな」
乗り心地がいいといっても、未舗装路しかなく悪路ばかりの異世界の道路事情を考えたら必然的にタイヤはマッド系、クルマは駆動系や操舵系に強度のある物にしておかないとあちらの世界で泣く羽目になる。
雅彦「自衛隊が使ってる高機動車とか手に入ればいいんやけどなぁ」
防衛庁の装備品を一般にも売却してくれたらいいのだが、そんなツテはそもそも無いし、実際、あの高機動車とか異世界に持ち込んだら走破性は意外と低いみたいなんで苦労しそうだ。
比呂「そもそもあの車、オートマしかないんでしょ?」
そう言えばそうだった。却下。
オートマなんかに乗ったらオレ様のテクニックの半分も使えないじゃないか。
まあ、ヒロのクルマだけど。
比呂「ランクル80系(ハチマル系と呼ぶ)はどうなの?」
雅彦「あぁ、ええと思うけどな。日本の林道とかで使うにはクルマがデカすぎるけど、アチラは見渡す限りの平原が広がっていたりするんで、逆にフルサイズのクルマの方が使えるかもな」
比呂「ナナマル系で でっかい奴、ないの?」
雅彦「あるで、75(ナナゴ)とかトルーピーとかトルーパーとか言われている奴。
日本で正規で売られてなかったから逆輸入か並行輸入車になるけど、あの車なら後ろだけで、10名人を乗せれるで。
クルマの長さが俺の車より2メートルくらい長いんじゃなかったっけ?
比呂「そこまで長いダックスフンドみたいな車は要らないな、やっぱりハチマルがいいわ」
雅彦「ハチマルは足回りが良いからある意味、ナナマル系より走破性高いしな、いいんじゃね?
あ、どうせ買うならオーストラリアからの逆輸入のハチマルにすればいいじゃん?
それなら右ハンドルだし、マニュアル車が多いし、燃料タンクも二つ付いてるから航続距離がオレらのナナマル系の1.5倍は走るで」
そういえば親父の知り合いで隣の県の人が逆輸入のハチマルをアレコレと改造していたヤツを売り出していたな、割高だったけど。
雅彦「良さそうな奴に心当たりがあるから、今度聞いておくわ」
そんな会話をしていたら、雅彦の携帯に親父からスカイプ通話の呼び出し音が鳴り響いた。
あちらの世界には携帯の基地局がないから一般通話は出来ないが、Wi-Fiのアンテナは伸ばしているのでスカイプとかインターネットはそのまま使えるのだ。
雅彦「うーい、親父 元気してっかー?」
秀明「車のエアタンクを満タンにさせて、武器を満載にしてこちらに来い、戦闘服にも着替えて来いよ、あと比呂にも伝えてくれ」
ただならぬ様子なので、分かったと手短かに電話を切って比呂にその話を伝えた。
比呂は事務所に駆け上がり、迷彩服とヘルメットなどを装着していく。
雅彦は言われた通りに作業場にあるコンプレッサーを稼働させて二つのタンクにエアを充填させながら、事務所に戻って装備を整えた。
比呂はガンロッカーからライフル銃と親父の日本刀や弾丸などを掻き集めて長いバックに詰め込んでいく。
装備を付けた雅彦はクルマに戻り、インパルスを積んでクルマのコンプレッサーでエアを充填させながら上の事務所で比呂と武器類を拾い異世界へと向かった。
あちら側の世界の丘の上に着くと親父もお手持ちのタイガーパターンの戦闘服とバンダナ、防弾チョッキなどフル装備をしていて、丘の端の方で双眼鏡を覗いて下の様子を見ていた。
クルマのエンジンを切り、武器の入ったバッグを親父に渡すと、ライフル銃は比呂に渡し、親父が持っていたショットガンを雅彦に手渡しながら、自分は日本刀を腰に差した。
秀明「見つからない様に下を見てみろ、真っ黒な騎馬兵が二十騎ほど村の正門に来ているぞ」
これは、恐れていた敵国の襲撃イベントではないか?!
それにしても早過ぎる、あと一週間、いやあと数日も有れば村の入り口を塞ぐ土木工事も出来たのだが、これでは無防備な村がまた直接襲われてしまうじゃないか!
激しい怒りを覚える雅彦。
それを制するように秀明は言った。
「とりあえず手を出すなよ、守衛の二人は門の中に立て篭もった内側から鍵を掛けたみたいだ、今のところ村に被害者は出ていない」
怒声を放ちながら、手に持った斧やハンマーなどで門をガンガンと打ち付ける音が響いてくる。
上から観ていると、村人たちも武器になるような物を手に門の裏に集まってきており、内側から必死で支えようとしていた。
だが、門は木製でお世辞にも頑丈とは言い難い代物なので敵の騎馬兵たちに破られるのは時間の問題に思えた。
…………………………
ここで少し時間を遡り、ヴィルマの視点で物語を展開したいと思う。
いつものようにイングリットと一緒のベッドで寝ていたヴィルマは起き出して朝食をとって仕事に向かった。
内側から門を開けようとした時、門の外からガチャガチャという音が微かに聴こえてきた。
いち早く察知したイングリットは門の横の壁に飛び乗り、ヴィルマも後に続いた。
遥か前方を凝視すると、畑の先にある橋を数十騎の真っ黒な甲冑を着た騎馬兵が渡ってきているのを確認した。
遂に恐れていた時が来てしまった!
ヴィルマはイングリットに敵発見を知られる鐘を鳴らさせておいて、敵の騎馬兵を見続けていた。
「カン!カン!カン!カン!」
ヴィルマの後ろで鐘が鳴り響く。
ヴィルマは胸の鼓動が急激に早くなり、槍を持つ手が震えるのを感じた。
村の中は途端に慌ただしくなり、訓練通りに子供や老人は村の中央の広場に集まり避難する準備を始め、大人の女たちは槍や弓矢を手にして門の裏に集まって来ていた。
エマ「ヴィルマ!敵はどれくらいいるの?!」
ヴィルマ「分からない!最低でも20人いる!全員馬に乗っている!」
震える声を絞り上げてそう答えた。
恐怖で顔色が青ざめているエマを見て、怖いのは自分だけではないとは思ったが、他の人のことを気遣う余裕は今のヴィルマには無かった。
イングリット「全員で門を内側から塞いで!なんでもいいから塞ぐ物を持って来て!」
この中では唯一と言っていいほど冷静に見えるイングリットは村長に代わりそう指示を飛ばした。
村人のうち数名が広場などに走り、ベンチや燃料用の丸太などを集めて門の裏側に詰め込んでいく。
そうこうしているうちに敵の騎馬隊が門の前に集まってきた。
ヴィルマ「そこで止まれ!貴様ら、この村に何しに来た!」
震えそうになる声をなんとか押さえ込んで大声を張り上げて敵兵に話かけた。
敵の隊長と思われる兵士が「今年の徴税に来た!すぐ門を開けて我々を中に入れよ!!」と叫んだ。
ヴィルマ「ふざけるな!我々は貴様らに従属はしていない!ここで帰るなら許してやるから大人しく帰れ!」
ものすごく通る声で、その強盗紛いの一団に対し、門の横の壁の上で一喝した。
敵兵「貴様!何年か前、俺に犯された女じゃないのか?!また犯してやるから大人しく門と股を開けろ!!」
下品な恫喝に笑い声が漏れる敵の一団。
ヴィルマは槍を振り回し、ビシッと敵兵を槍先で指して「やれるものならやってみろ!貴様の粗◯ンなど知ったことか!」と逆に恫喝した。
その物言いに激怒した敵の一団はヴィルマに対して矢を射掛け始めた。
ヒラリと飛び降り矢を避けるヴィルマ。
今度はスピアやジャイアントハンマー、柄の長さが2メートルほどもある戦斧を使い、外側から門を破壊しようとする敵兵たち。
村人たちは門の裏側から必死に門が破られないように全員で押さえ込んでいた。
「助けて!マサヒコ、助けて!」
ヴィルマは心の中で必死に雅彦たち日本人に助けを呼んでいた。
この門が破られてしまうと、またあの時の様に何人にも襲われてしまう、今度はそれだけで終わらず奴隷として売り飛ばされるかもしれない。
やっと、やっと希望が見えてきたのに、こんなところで諦めるのは嫌だ!
そう思ったとき、門の外で「ドシャ!!」という大きな音がして、男どものうめき声と「なんじゃこりゃ!?」という悲鳴にも似た叫び声が響いた。
顔を上げたヴィルマは隣で門を支えていたイングリットと目を合わせた。
この目は大きく見開かれたいて、喜びに満ちていた。
「ニホンジン?」
それだけでここにいた全員が分かった。
ニホンジンが助けに飛び込んで来たのだ!イングリットとヴィルマはまた壁によじ登り外の様子を見て驚いた。
先日乗せてもらったクルマが敵の騎馬兵が集まっていた中に突っ込んで来ていて、跳ね飛ばされた騎兵が数騎、糸の切れたマリオネットの様な姿で地面に転がっていたのだった。
門の中からは歓声が巻き起こった。
白いそのクルマはそこから急加速でバックし、畑の方に向かい、タイヤをドリフトさせながら急停車した。
そのクルマに向かい、殺意を復活させた敵の弓兵が射撃を開始する。
たちまちクルマに矢が数本突き立ったが、お構いなしに急加速で敵騎兵を追いかけ始めた。
門の周辺にいた騎馬兵は散開し、雅彦の73から逃げる態勢を取ろうとする。
走りながら運転席のドアを開けて、何やら筒のような物を隙間から出したと思ったら「バシュ!!」と大きな音がした。
吹き出した煙状の物が騎馬兵に当たるとその兵士は体勢を崩して派手に落馬した。
明らかに動揺する敵の騎馬兵たち。
丘の上からはさらにもう一台のランクルが駆け下りてくるのであった。
(続く)
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