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火炎瓶、実演

ここは異世界、ビスマルク王国内の、リンツ卿が治めている(はず)の領地内の西の方に存在する山の中腹付近にある小さな村、スピスカ=ノヴァ。


日本との通路がなぜか開いてしまっている丘の上はスピスカ=ノヴァのすぐ西にある。


この丘、頂上付近に城の天守閣に当たると思われる建物の残骸が残っていて、日本との通路はその残骸の横に開いてあった。


「通路」とは言っているが見た目は特に何もなく、よそと違いがあるとしたら低い草が生い茂る中に車の轍があるのだが、あるポイントで急に轍が消えているくらいだ。


比呂は早く目が覚めたこともあり、まだ薄暗いうちから残骸の中に押し込んだ秀明のトレーラーハウスの中から出てきて、「この通路は全方位から入れるのかな?」という事が気になったので試してみることにした。


とりあえずいつも入る方向から横に大きく回り込み、「通路」と思われるポイントに北側から近づいてみた、そろそろ近づいてきたかな?と思ったが、日本側にはもどれなかった。 


結局、「通路」は上から見たら「丸」や「四角」ではなく、「面」のようになっていて、入れるのはいつも入っている西の方向にソコに入った場合に限られていた。


つまり、だ。


目には見えないが「門」みたいなものが存在していて、ソコに一方向から入っていった場合に限り、日本側に入ってしまうのだった。


日本側は林道の中に入っていくと異世界側に飛ばされてしまうので、そもそも一方向からしか入ることが不可能だった。


おそらくだが、周囲の木を全て切って、どの方向からソコに近づいたとしても異世界側に移動出来るのは一方向だろうなぁと思う比呂であった。


余談だが、日本と異世界を行ったり来たりしてると頭がクラクラして酔ったようになるので、あまり短期間で調子に乗って行ったり来たりしない方が良い。


親父の車で鉱山にある倉庫に行き、火炎瓶その他諸々を荷台に詰め込み、事務所で軽く食事を摂った。


実は親父のトレーラーハウスにはキッチンが付いていないので食事を作るのは日本側の事務所に戻ってこないといけない。


ちなみに水道と電気、ネットも丘の上まで引っ張っているが、トイレが無いのとスマホがあっても通話は出来ない。


もし、村で便意を催してしまうと、村にあるトイレを借りねばならず、日本人の感覚では「ゲッ」と思う体験をしなければならない。


先日、その初体験をした比呂は「村に日本からポータブルトイレを必ず持ち込もう」と固く決意するのであった。


米は近所の農家から大量に買っていることもあり、いつ来てもここは白いご飯は食べ放題なのは良いところだ。


飯を食べ終えた比呂は「あ、試しにつくってみよ」ということで、塩むすびを10個ほど作って重箱に詰めてあちら側に持っていくことにした。


因みにオカズは現地で作る予定だ。


重箱とオカズの材料になる物をクーラーボックスに詰め込み、それもクルマの助手席に投げ込んで異世界に向かった。


異世界側はちょうど朝の9時ごろになっていて、比呂はいつものように丘をクルマで降っていった。


村の正門にはすでに守衛のヴィルマとイングリットが出ていて、槍を使った訓練を村の外でしていた。


比呂を見つけると二人は走り寄ってきて、「オハヨウゴザイマス」となんと日本語で話しかけてきた。


二人に話を聞いてみると、昨晩、村人たちが集まって日本語の勉強会をしたのだそうだ。


驚くことに、日本語を学びたいという子たちがたくさんいたわけだ。


アレクシアとしても日本語の基礎を学ぶついでに希望者全員で学べるので都合がいいのかもしれない。


とりあえずランクルで門を通らせてもらい、教会の建物の前に停車させたら、エンジン音を聞きつけたアレクシアが比呂を見つけて駆け寄ってきて、先程のヴィルマたちと同じように比呂に日本語で挨拶してきた。


比呂もアレクシアに対して日本語で挨拶する。


もちろん話し合いとかはスマホの翻訳機能を使うが、簡単な日本語は彼女に直接その場で教えていくという感じにして、比呂も逆に彼女からドイツ語を教えてもらうということにしていた。


比呂はアレクシアと話し合いをして、有刺鉄線の設置や火炎瓶の使い方の説明と実演などを本日はする予定だと伝えた。


アレクシア「それならすぐ皆を集めます」


と言ったかと思うとどこかへパタパタと走って行った。


すると村中の女性たちがワラワラと教会に集まってきた。


その数、およそ20名。


狩人(イェーガー)の子や老人を除いた村の全ての大人を集めました!」とのことだったのだが、本当に男性が一人もいない。


集まった女性たちは平均年齢がおそらく二十代後半くらいで、アレクシアと同じ世代の若い子も数名いた。


服装はどれも質素な中性ヨーロッパの民族衣装という感じでイメージしていたよりややシンプルなデザインが印象的だ。


何度も言うがそれにしても皆さん、美形揃いだ。


「ここはモデルの事務所か外タレの事務所か何かですか?」と言われても仕方ないほどだ。


身長は日本人女性と比べてそれほど違いはないのだが、中には親父くらいの170程度の人や140台の小柄な女性も混じっていた。


目の前のアレクシアは150台中盤くらいで平均的な背丈だ。


こうしてみると178センチの比呂は完全に頭一つ大きいことがよく分かる。


ひとつ比呂が気になったのが、集まった彼女たちの目が異様にランランとした光を讃えていたことだった。


これは後になってアレクシアから聞いたのだが、村の人の大半は比呂たち日本人を半ば崇拝していて、比呂と会うことを皆、心待ちにしていたのだという。


見た目、表情がない比呂も心の中ではやり難いなぁと思うのだった。


比呂は爆発物を使うので村の外の可燃物がない所に移動して火炎瓶の実演をするとアレクシアに伝えて、皆でそこに移動した。


人の歩く速度でランクルを運んだ比呂は丘の麓辺りに着くと、荷台から火炎瓶を入れたクレート(酒瓶などを入れて運ぶ樹脂製の箱)を下ろして火炎瓶を取り出した。


比呂が書き込み、翻訳した内容をアレクシアが読み上げ、集まった村の女性たちにこれからする事と、火炎瓶の危険性を伝えた。


比呂はこの時の為に、親父が持っていた防火服を着込んでこの場所にいた。


秀明曰く、消防団にいた時の装備らしいのだが、ガソリンはマジで危険なので比呂もそれらを触るときは防火服と消火器は必ずセットで持ち歩いていた。


比呂は火炎瓶を触る人は必ずそれらを装備することを伝えた。


で、キャップを外して布切れを瓶の中に突っ込み、取り出したライターで布に火を付けて、ある程度燃えたのを確認して10Elle(約5メートル)離れた地面に火炎瓶を投げた。


着地した瓶は割れて中のガソリンがぶち撒けると同時に勢いよく爆発した。


5メートル離れていても強烈な熱が伝わってくる。


村人一同が「おおっ!!」という驚きの歓声を上げた。


半径2メートルほどを強烈な炎が焼き、数分燃えた後で鎮火した。


比呂「このように敵が甲冑を着ていてもこの火炎瓶は倒すことが出来る強力な武器になる。


しかし、近い敵には使えないので、使うときは必ず10elle (5メートル)は最低でも離れたところに投げてください」


比呂は着ていた防火装備一式を脱いでアレクシアに着せた。


そして、皆を代表して彼女に火炎瓶の投擲の実演をしてもらう。


火を点けるのには100円ライターを使っていたが、そもそもコレの使い方が分からず苦労するアレクシア。


そこで比呂は荷台から先日、まとめ買いしていたライターを参加者全員に配り、使い方を実演しながら点火されていった。


今までは家事で火を使うときは火打ち石を使うか、火種を持ってくるか、隣の家から借りねばならなかったのだが、これがあれば誰でも一発で火を点けることが出来る。


参加している女性たちは口々に何か言いながらシュボシュボやっていたが、おそらく「おーすごい」とか「何これ便利ー」とか言っているのだろう。


年頃で言うと20台後半の女性が「Wieviel kostet das?」(これいくら?)と聞いてきたので「100 yen」と答えた。


こちらの世界の100ペニヒが我々の世界の100円です、と付け加えて言ったら、「そんなに安いの?!」という反応が返ってきた。


ちなみに火打ち石を行商人から買うとしたらどのくらいか聞いてみたら1000ペニヒと言っていたので、おそらくは円とペニヒは同じ程度の価値なんだろうと思われる。


本当の事を言えばお互いの世界での平均給料なども考えねばならないのだが、この村ではそもそも給料が支払われる仕事はかなり稀で、比較すること自体がナンセンスなのだろう。


まあそっとしておこう。


また「Was ist das?」(これは何ですか?)という質問が出たので「100 Yen Schriftsteller(シュリフトステラー)」と答えた。


シュリフトステラーってのが独語のライターって意味だが、改めて訳してみて思ったのが商品名に値段まで付いているのも珍しくもんだ。


そういえば親父の秀明は、発展途上国に出張に行く時は100円ライターと5円玉と50円玉を大量に持っていくの言っていたが、これらが喜ばれることが多いのだそうだ。


その言葉を思い出した比呂はサイフから5円玉を取り出して皆に見せたら結構驚いていた。


硬貨はこの世界にもあるが、硬貨の真ん中に穴が開いているのはこちらの国にもないのだそうだ。


盛大に脱線したので、アレクシアに火炎瓶に火を点けて投げてもらった。


ビクビクしながら火を点けたがすぐ投げようとするので、少しだけ待たせて、布に完全に火が移ったのを確認させてから投げさせた。


ここで比呂は割れないように瓶の中に樹脂を詰めておいた練習用の瓶を取り出し、同じように瓶の口に布を詰め込んで火を点けて投げる訓練を参加者全員にやってもらった。


樹脂で固めているとはいえ硬い地面に落とすと割れてしまうかもしれないので地面の柔らかそうな草地に投げてもらった。


皆、それぞれ苦戦しながらもなんとか出来た。


比呂「爆発する範囲が非常に広く、一度火が着いたら水を掛けた程度ではカンタンに消えないので本当に使う際には注意して下さいね」


と翻訳した文章を読み上げたら「はーい!(ja!)」という返事が返ってくるのだった。


今回は火炎瓶実習の回でした。


日本ではまずありえない実習ですね。(苦笑


次回は更に防御用の道具の説明や実演などを行なっていきます。


お楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[一言] 少し落ち着いたら是非ともクーゲルシュライバーを登場させていただきたいです(笑)。
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