名前だけ主人公
高速を大型トラックでぶっ飛ばしながら、この物語の主人公はハンドフリーにしたスマホで通話していた。
相手は女の子とかではなく、親父の秀明だった。
秀明はアチコチとの交渉などで県外を飛び回っているらしく、先日、川北マテリアルとの交渉も成功して具体的な打ち合わせに現地に飛んだ後は、ある物の調達で今度は東京の業者にまで会いに行っているのだそうだ。
こんな感じで今は秀明と弟の比呂は全力で異世界側を支援する準備を整えているのだが、この物語の主人公のハズの雅彦は相変わらずトラックドライバーを辞めれずにいた。
それでも3日働けば1日休みという他人から見ると羨ましい環境にいたし、雅彦たちの事情を知らない同僚とかには陰で散々な事を言われていたりする。
まあ、そんな陰口など全く意に介さない雅彦であったが、この業界からの足抜けの為にアレコレと手を打って準備をしていた。
そのうちの一つが「親父の会社の跡を継がないといけないが、親父の調子が最近すこぶる悪い」というもの。
もちろん親父こと秀明はピンピンしているが、心の中では手を合わせていた。
次に「親父の会社では月の手取りが50万円は下らない」というもの。
現在、雅彦は中距離ドライバーをしていて県外には毎回出ているのだが、毎日家に帰れる仕事をしていた。
走るコースにもよるのだが、市場で荷物を積み込む際はフォークリフトやプラッターを使う。
プラッターというのは立って操作するリフトのことで慣れるまで結構操作が難しいタイプの物だ。
ちなみに積む場所は複数あるのでそのたびにエンジンのリフトだったり、電動リフトだったりで操作が違う場合がある。
ちなみにエンジン付きのフォークリフトもメーカーによって操作方法が全く違うので、慣れない頃はウインカーを出すつもりがクルマが後ろに走ったりとギャグみたいなことが起こったりもする。
積んだ後はウイングを閉じて出発、荷物の卸先に着いたら庫内のレールに付いているジョルダーというスライダーレールで荷物をゲートまで引っ張り出して、工場内のリフトを使って下ろす。
ただ、下ろすだけで終わりではなく、ラップで包まれている荷物を解いて届ける先ごとにカゴ台車に載せていき、決められたところに台車を置いていく、という仕事だった。
12トン積みのクルマということは、手で下ろす量も軽く10トン以上あるのでこれはこれでかなりの重労働になる。
またセンター内も荷物でごった返していて、殺気立って仕事をしている者が多く、たまに怒声が飛び交うようなほのぼの系の職場だが、基本的に中の人は皆、仲が良かったりする。
雅彦はかなり陽気な性格で、市場やセンターなどでもワイワイ楽しく仕事をしているし、彼は基本的に歳上から可愛がられる傾向があるので、雅彦も楽しく仕事はしていた。
雅彦の所属する会社も若いドライバー、特に大型やリフトの免許を持っていて「まとも」に働ける男の子は極端に少ないので、彼を辞めさせまいと必死になっているのだが、雅彦もどうにかして辞めてやろうと知恵を絞るわけだ。
そこで「親父の体調が優れないので辞めないといけない」だとか「親父の会社では手取りが50万を下らない」などと噂話を流して外堀を埋めるのであった。
まあ、結局は「近いうちに辞めないといけないよね」ということで後継者をトラックに横乗りさせ仕事を教えながら走るわけだが、物覚えの悪いオッサンに教えなければならなくなり、イライラする雅彦であった。
また異世界だのという話を隣に人がいるところでするわけにもいかないので、こうしてたまに独りになった時を利用して、親父や比呂に連絡し、お互いのイメージを合わせておこうとしていたのだ。
で、雅彦は彼なりにランクルの改造や中古リフトの調達、それと4tトラックの調達など独自に動いていた。
ランクルの改造は主にアルミの板をボディに貼り付けていく大工仕事を知り合いの車屋にやらせることなのだが、
親父に頼まれた中古のエンジンリフトと中古の4tトラックを探す方は大体目処が立った。
エンジンリフトなんてものは大体どこも使い潰すので市場に出てくるものは高い物しかなかったりするが、たまたま付き合いのある会社の社長に電話したら「おう、雅彦。新品のリフト買うから30万ならニッサンのリフト売ってやってもいいぞ」と言っていたので即決で話をまとめておいた。
そのリフトは彼も何度か乗ったことがあるので程度は大体掴めていた。
また、4tトラックって何に使うのか?と親父に聞いたら「異世界に運び込んだ大量の食料品を保管する手段として中型の保冷車が一台欲しい」ということだったのでこれまた知り合いに話を聞いて回ったが、最近はどこもレンタルってことで自社で購入していないのでこちらは苦労することになった。
まあ、中古で売り出している業者は社長から紹介してもらったので安く買える目処が立ち、翌日仕事帰りに寄って現物を見させてもらった。
するとそれもニッサンUDの4トンで、後ろには保冷機とパワーゲートが付いているモデルだった。
パワーゲートは一枚物でトラックの後部ゲートに跳ね上がるタイプにすると決めていたので動作確認をして、とりあえず試乗ついでに後ろの保冷機がちゃんと冷やすのか確認させてもらった。
ゲートは左右観音開きの二枚物、その閉じた扉の後ろにパワーゲートが立って塞ぐわけだ。
パワーゲートというのは電動ポンプで油圧を上げて後部の荷台までゲートを上下させ荷下ろしや荷積みをラクにさせる物で街中を走るトラックにもよく取り付けられている装備だ。
で、そのパワーゲートには大きく分けて二種類有り、雅彦が今回購入した一枚物の跳ね上げと呼ばれている物と、二枚に分かれて折り畳み式になっていて、リアのオーバーハングの下に格納される物の二つのタイプがある。
今回、その格納式を選ばなかったのは、異世界側が起伏の激しい地形が多いので、格納式だと小さな段差でその高価なゲートがボロボロになってしまうからだった。(ちなみに格納式パワーゲートは単品で200万円近くもする)
ちなみに雅彦が仕事で使っている大型もニッサンUDなので「なんでどれもこれもトヨタではなくニッサンなんだ?!」と愚痴をこぼしていた。
もっともリフトではトヨタブランドのものがあるが、トラックではトヨタブランドはなく、関連会社の日野がソレに当たる。
ちなみに雅彦や秀明が乗っているランクルのエンジンは日野系のエンジンだったりする。
そんなこと言いながらも別にトヨタの信者でもなんでも無いので、値段もまあまあ良いことだし、こちらも即決しておいた。
親父曰く、「金はこちらで振り込んでおくから、それぞれをうちの鉱山に届けさせてくれ」とのことだったので手配も済ませておいた。
まあ、そんなこんなで物語序盤では「プロポーズ騒ぎ」以外、出番の少ない名前だけ主人公の雅彦であったが、会社を辞めた後はこれまでの鬱憤を晴らすかのような活躍しするようになる。
…活躍する予定だ。(笑
「えっ、この物語の主人公って雅彦だっけ?」と言われてしまいがちな長男の雅彦君の物語でした。
この物語は「異世界もの」ではあるのですが、現代日本とも繋がっていて、特に物語の前半では日本側では主人公たちは何をしているのかを詳しく伝える必要があるのでしばらくお付き合い下さい。
このように日本人たちはそれぞれのスキルや経験を活かして異世界攻略を進めていきます。
秀明は異世界との入り口である鉱山の持ち主で、息子達にクルマなどの趣味や生き方そのものを教え込んだ張本人。
雅彦はそんな親父の教えを強く受け継ぎ、さらに現役のクロカン乗りとしてこれから異世界で実戦を経験していきます。
また次男の比呂はそんな兄貴を彼の知識や技術やスキルで裏から支えていきます。
それぞれ、得意な分野があり、それぞれ独自の理由があり異世界へのめり込んでいくことになるのです。
物語はここから急激に進んでいきます。
お楽しみに!
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