比呂の思考
夜になり、丘の上のトレーラーハウスに戻ってきた比呂は彼のゲーミングパソコンの前に座り、ネットでアレコレと調べ物をしていた。
気になることがあり弓のことを調べていましたが、輸入物のクロスボウが異常に手が掛かることに気が付いた。
国内のショップを当たれば物自体は手に入るのだが、補修部品が入手困難だったり、注文は受け付けていても入手まで何週間もかかることがあるなど問題があるようだった(と地方在住のユーザーが嘆いていた)
元々、クロスボウを選択したのは「弓の強さ(威力の強さ)」と「初心者でもターゲットに当て易い」という点をかってのことだったのだが、完全武装の重装騎馬兵などに対して攻撃をするのであれば、火炎瓶やインパルス消火システムを使ったカプサイシン攻撃などがあるので、わざわざ弓矢で敵の甲冑の装甲を貫く必要はないのではないか?と思ったのだ。
それに一撃必殺を目指すのであれば、親父に猟銃を増やしてもらった方がよっぽど良い。
まあ、クロスボウはとりあえず一つだけ発注したのでこのまま継続してテストするとして、村人、特に非力な女性たちに持ってもらう遠距離攻撃武器を何にするかを改めて考えてみた。
まず注目したのは、競技用の洋弓と和弓の二つだった。
ちなみにだが、クロスボウの弓の強さは100kg以上の物もあるのだが、競技用の洋弓や和弓はそれほど威力が強いものはなく、まあせいぜい20㎏程度しかない。
20㎏というと大したことがないように感じるが、実際引いてみるとこれがなかなか結構重く感じる。
これは仮説なのだが、戦場では一発一発の強さよりも矢の数を多く揃えることや、弓の数そのものを増やす、連射速度を上げる、などの方がより効果的なんじゃないか?などと思った。
そこで、少々方針を変えて、フルアーマーの敵には初めから弓では狙わない、ということにして、日本で手に入りやすく、また多く出回っている競技用の弓をアレコレと試しに仕入れてみることにした。
よく調べてみると、弓の強さも重要なことは重要なのだが、「矢尻」(つまり矢の先端)の形状や素材が重要ということも分かり、異世界の村ではそこら辺はどうなっているのか明日にでも調べてみようと思う比呂だった。
で、その矢尻なのだが、洋弓の方では狩猟用の矢尻が比較的豊富に有るので、場合によっては和弓もソレを使えないか、など試してみたいことは沢山あった。
ここら辺は試行錯誤が必要なところなのだが、こういう試行錯誤は大好きだった。
こういう癖は親父の秀明から遺伝されていて、秀明なども若い頃はとんでもなく多くの試行錯誤をクルマの改造やサバゲ用のエアガンの改造、クルマの使い方やサバゲでの戦い方などあらゆる点で発揮されていた。
特に若い頃は主に四駆にハマっていたので、彼の持つランクル70(ナナマル)は、足廻りの改造だけで軽く100回はバラして組んでを繰り返していた。
四駆乗りでも比較的若い人は知らないかもしれないが、昔の四駆乗りは改造するパーツなどが今ほど豊富ではなかったので、それはそれは苦労したのだ。
純正パーツを改造品に混ぜてみたり、自分で作ったり、それはそれは涙ぐましい努力をした人が多かった。
いまだに秀明のランクル70(ナナマル)のリーフサスペンションは一枚の板ごとにバラバラの物を使ってブランドしているので本人も具体的に何がどうなっているのか説明出来ない有様だった。
秀明もそのうちの一人で、彼の鉱山の作業場には重機に混じって彼のクルマや友人のクルマがいつも何某か改造やメンテでバラバラにされていたのだった。
彼の事業が傾いてからは遊びばかりに熱中するわけにもいかなくなり、そのような風景はなくなったが、息子の雅彦が就職して最初就いた仕事はクルマの整備士だったので、今度は彼が自分のクルマを休みの日などにはそこに持ち込み、親父と一緒に改造をするようになった。
比呂はクルマのことは兄貴の雅彦と親父の秀明にはまるで敵わないが、その他の事に関しては、例えばパソコンの知識だとか、過去の戦史についての研究だとか、ネットゲーム、さらに化学などの分野に関しては極めて高いこだわりをみせていた。
そんな比呂にとってみたら異世界での戦闘に、日本で比較的容易に手に入るものを駆使して効果的に戦う方法を模索するのは、彼にとっては天職のように感じた。
先日、ホームセンターに寄った際にも、有刺鉄線以外にも使える物はないか、グルグル歩き回りながら思考を巡らせていた。
彼の中でリストに挙がった物の中では、例えば「鍛造スコップ」、これは柄の長さが40cmほどあるスコップなのだが、スコップがゴツい作りをしていてしかも鍛造を謳っている。これは長槍の先端に取り付ける物の候補として良いかもしれない。
次に目を付けたのは「エンジン草刈り機」、これは一番手前に小型のエンジンが付いた長い棒の先に回転する円盤で草を刈る農機具なのだが、これを一輪車の上に二台ほど載せて敵に回転する刃を向けて並べるだけで威嚇する効果は大きいだろう。
同じく「チェーンソー」
これはすでに親父の作業場に置かれていたので、同じような使い方を模索してもいいかもしれない。
アチラの世界でも電力事情が改善されたら、エンジンに頼らず電動の草刈り機やチェーンソーなどにしてもいいだろうが、当面はエンジン駆動だろうなぁと思われた。
それこそ戦闘が長引いてバッテリー切れで使用不可とか洒落にならない。
他にも色々あったのだが、やり出したらキリが無いので他のことも手掛けることにしていた。
それは火炎瓶の改良だ。
火炎瓶を使うにはいくつかの過程が必要になってくる。
まず保管時には金属のキャップで口が閉まっているのでそれを外す。
次に布を中のガソリンに浸る程度まで突っ込む。
最後にその布に火を付けて投げる訳だが、これはこれでなかなか難しい。
布の端に火が着いたのですぐ投げたらちゃんと爆発しないこともあったり失火することもある。
ある程度燃えたのを確認して投げないといけないのだが、火炎瓶の威力を知ってしまうと恐怖が先に出るので難しくなる。
そこで安全な点火法が出来ないか彼なりにチャレンジしてみることにした。
まず手榴弾などの点火方式で使われる薬品の化学反応を利用した方法。
これについては火薬の製造にも繋がるのだが、あまり大量に原料を調達していたら公安などに目を付けられる可能性もあるし、調達するなら親父の鉱山で既に使用しているからそれ関係の物を利用したい。
現時点で最も確実なのは親父の山で使う発破用の点火システムだ。
出来るかどうかはテストしてみないといけないが、トラップとして大量のガソリンが入ったタンクに点火システムを付けて遠隔地から爆破させることは出来るかもしれない。
ただ、これは火炎瓶の点火には使えないので他の方法を模索してみることに。
彼が目を付けたのはこれまた海外の動画サイトだったが、点火装置を家庭用の9Vバッテリーと100均などでも入手出来るライトと簡単な電気回路で作る物だった。
比呂は会社で電子機器組み立て一級を取っていたのでこの手の作業はお手の物だ。
早速、ハンダゴテなど工作機器なども購入リストに入れた。
それにしてもまあ、こんな動画をテロリストが見たらどうするつもりだ?などと思ったが、お陰で村の防御が捗るわけだからこの際はありがたく使わせてもらおう。
火炎瓶にしてもその他の爆発物についてもなんとかなりそうなので、次の事を検討してみることにした。
先日の検討会では、長さ4m程度の鋼管を日本で大量調達し、その先端に先程出した鍛造スコップや小ぶりなツルハシの先端、ナタなどを取り付けた長槍を作ることは決定していたが、肝心な運用法についてハッキリとしたことは決めていなかった。
長槍を使った戦法としては古くはファランクスが有名で、映画になったものでは「300(スリーハンドレッド)」や「TROY」などで出てきた超密集隊形で、壁のように重ねた盾の隙間から槍を突き出し、敵の矢からの攻撃は盾で徹底的に防ぎ、騎馬兵に対しては長いやりによって接近を防ぐものだ。
ただ、これら映画に出てくる長槍は基本的に2〜3mと短く、自分たちが用意しようとしている長槍よりはかなり短い。
比呂が参考にしたのは「クレヨンしんちゃん」の「あっぱれ戦国大合戦!」の冒頭で出てきた「槍合わせ」のあたりの描写で、集団で固まって敵の方に槍の刃先を向ける槍衾という戦法だった。
洋画系の映画では見たことがないのだが、日本の戦国期など扱っている映画などではたまに槍を「突く」ものではなく「叩く」使い方をしている描写がある。
先程のしんちゃんの映画も意外なことにこの描写がされていたのだが、実際に槍は横一列で息を揃えて一斉に真上に振り上げ、一斉に下に叩きつけ、を繰り返す使い方がされていた。
実際に4mほどもある棒を振ってみたら分かるが、これを全力で振り下ろされた打撃を片手で持った程度の盾で防げる訳がない。
長い槍の持つ遠心力と慣性の法則、さらに重力と人の力が合わさった打撃は当たりどころが悪いと人の頭蓋骨などカンタンに砕くことが出来る。
また槍にはもちろん「突く」攻撃も可能なので敵が柵や鉄条網などで動きが拘束されている時などは突きで攻撃しても良い。
また槍衾を作れば短い槍しか持っていない敵の騎馬兵では接近することも困難になるだろう。
もし、敵の戦術に「ファランクス」や「槍衾」などの戦術がないのであれば、これらは有効に機能するというわけだ。
ただ、これらを使うのは非力な女性たちであるので、装備の選定や戦術などはこれから試行錯誤していかねばならない。
「さあ、どうしたものかな…」
そんなことを思いながら飯も食べずに寝落ちしてしまう比呂であった。
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