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エマの演説

(みなもと) 比呂(ひろ)はアレクシアに自分が考えた防御戦術を伝え、そして彼女を窓口にして母親で村長のエマや、他の村人などに防御について協力を要請することになった。


アレクシアは比呂と行動を共にすることで、合間合間に日本語を使いながら覚えてもらうことにした。


比呂は母親と同居していたのだが、今回のこともあって、実質的に家を出た状態になっていた。


母親には「友人の家でしばらく寝泊まりする」と嘘をついてたのだが、実際は母親と犬猿の仲となってしまっている父親の小畑(おばた) 秀明(ひであき)が経営する鉱山の事務所で寝泊まりしていた。


秀明は彼の住処のトレーラーハウスを異世界側に持って来ていたが、秀明がここに居ない間は可能な限り比呂に住んでもらうようにしていた。


理由は「この村がいつ隣国の軍隊や野盗から襲われるか分からないから」だった。


比呂は丘の上のトレーラーハウスに戻る際にもアレクシアに非常時には自分や他の日本人に連絡をしてもらう意味で、ハンディ無線機を渡していた。


夜になりトレーラーハウスに引き揚げた比呂を遠巻きに見ていた村人たちはアレクシアを取り囲み、根掘り葉掘り彼(比呂)や他の日本人についての情報を聞きてきた。


「やっぱりこうなったか」と苦笑するアレクシア。


村の女性たちの大半は、ニホンジンたちは「神の使い」だと思っていて、気軽に声をかけて良いものかどうか迷っていた人が多かった。


ニホンジンの中でもヴィルマたちにプロポーズをしたマサヒコは声を掛けやすい雰囲気があったのだが、先程来ていたヒロは何となく声を掛けづらい雰囲気を漂わせているので、彼女たちの「神の使い説」をさらに強化させる結果になっていた。


アレクシアは村の女性たちがあまりにも話しを聞きたがったので、母親のエマも呼んで、教会の広間に集まりこの際だから彼女やエマがニホンジンから直接聞いた情報を村人たちにも共有しておこうということにした。


エマは村人の前に立って話を始めた。


「彼らはニホンと呼ばれている国から来ている異世界人で、こちらの言葉ではニホンのことはJapan(ヤーパン)というのだそうです。


私は彼らから「スマホ」と呼ばれている道具を預かっていますが、彼らの世界をコレを通じて見たことがあります。


彼らの住む世界は私たちの世界と比べて一千年ちかく文明が進んだ世界なのだそうです。


人々の多くはクルマと呼ばれている鉄の荷車を持ち、あの日に我々に振る舞われたような美味しい食事を毎日食べ、そして何よりも非常に安全な世界で暮らしているのだと聞きました。


私たちの世界のような野盗など存在せず、ましてや敵の国の軍隊に攻められて殺されるということもない世界なのだと聞きました」


それを聞いた村人たちから質問が飛ぶ。


「私たちがあちらの世界に避難することは出来ないのですか?」


エマ「以前、子供達がニホンジンたちが丘の上で消えた後にそこに入ろうとしたそうなのですが、全く入れなかったそうです。


皆さんの中には彼らは神の使いだと信じている者も多いと思うのですが、仮にそうだとして、我々が神の世界に行くのは普通に考えても無理だと思いますね。


神の住む世界に我々普通の人が入ることを神が喜ぶとは思えないですから」


そういうと村人はシンと静まり返った。


エマ「これは私の考えなのですが、彼らに対しては最大限の敬意を持って接してもらいたいと思います。


人か、神の使いか、この際関係ありません。


彼らは口には出しませんが、明らかにこの村を救おうとしています。


この世界に彼らが来た目的は分かりません。


ですが、この村を一方的支配したり搾取したり、女達を奴隷のように扱うことは望んでいないことはハッキリしています。


彼らは私たちと対等な関係を望んでいるのです。


彼らは確かに素晴らしい道具や技術や知識や武器を持っています。


しかし、万能ではありません。


崇拝しておけば勝手に助けてくれるような存在ではありません。


彼らは私たちを直接助けないとは言いましたが、私たちが自ら助けることは手を貸してくれます。


実際、この村を守る準備を急ピッチで始めています。


早ければ明後日にでもニホンから送られてくる「神の道具」が皆さんに配られると思います」


おー!!と歓声を上げ、大喜びする村人たち。


エマ「ではヒロから聞いたこれからの戦い方をアレクシアの方から説明します」


アレクシアは立ち上がり、皆の前に立ち発言を始めた。


アレクシア「ヒロの提案した村の防御プランは2段階に分かれています。


まずファーストステップは関所跡を修繕し、あそこに守衛を新たに置き、敵の侵入をあそこで足止めします。


敵を発見した場合、村とニホンジンたちに連絡を飛ばします。


このポータブル無線機というものを使えば離れた場所でも話をすることが出来ます」


おーー!!とまたしても歓声を上げる村人たち。


アレクシア「連絡があった場合、ニホンジンは例の白い鉄の馬で関所に駆けつけてます。


そして敵が強い場合は、守衛を回収しながら後退し橋まで戻ってきます。


私たちはその時間を利用して橋に武器を持って集合し、ニホンジンたちと連携して敵を防ぎます。


武器については詳しい話はまだ聞いていませんが、かなり強力な武器を用意すると言ってました」


おおーー!!! 


ノリノリの村人たちであった。


アレクシア「もう、皆さんいい加減にしてくださいね!


橋の上での戦いでは、決して接近戦はしません。


私たちは敵を接近させないよう防ぎながら、ひたすら離れた処から敵を攻撃し続けます。


敵の騎馬兵と接近して戦うのは非常に危険です!


ですので、敵の脚を止め、私たちと距離を置くためにニホンジンにこれを用意してもらいました」


そう言って彼女が取り出した箱には、トゲが大量に付いていた針金の束がはいっていた。


アレクシア「これは有刺鉄線というものです、我々の言葉ではStacheldraht(シュタッハルトラハト)と言うそうです。


ヒロさんは、これはアチラの世界で戦争の歴史を変えた革新的な発明品だと言っていました」


禍々しい見た目にドン引きする村人たち。


アレクシア「これを柵に巻き付けたり、足元の高さに張り、敵の騎馬兵や歩兵を寄せ付けなくするのだそうです。


ひとまず明日以降、橋の周辺に柵を立てて有刺鉄線を張っていきます」


何人かは有刺鉄線に触り、トゲの鋭さを確認したり、「これは全部、鉄で出来てるの?!」などと感動していた。


こちらの世界では鉄そのものの埋蔵量はかなり多いのだが、加工する技術レベルは低く、また精錬に必要な燃料は石炭に依存していて産地はスピスカ=ノヴァから離れているので鉄製品はかなり高価なものであった。


それがこれには鉄が大量に使われていて、しかも複雑な見たこともない形状をしているので驚いていたというわけだ。


ひとしきり触ってみた村人たちは元の席に戻り、アレクシアは話を続けた。


アレクシア「シャタッハルトラハトで敵を足止めしている処を攻撃する方法はいくつかあります。


柄の長い槍、弓矢などなんでもいいのですが、敵は甲冑を付けているということもあり、私たち女性ではなかなか有効な攻撃は出来ません。


そこで使うのはコチラです」


そう言って彼女が取り出したのは茶色のガラスの瓶だった。


アレクシア「これは火炎瓶(カエンビン)と呼ばれている武器です。


私たちの言葉ではFlammenflasche(フラーメンフラッシェ)と言うのだそうです。


この瓶の中には燃える水が入っていて、火を付けて投げると広範囲にわたり燃え上がります。


私もまだ使ってる処を見たことはないので分かりませんが、非常に危険なものだから触らないよう言われています。


敵の騎馬隊も止まってしまえばタダの的なんで、これで燃やし尽くすのだそうです。


これらは明日にでもヒロが実演をするそうなので、またその時は村の外に集まって欲しいと言っていました」


人々は口々に楽しみだ!とか、これで私たちも救われるのでは?などと話始めた。


エマはアレクシアに代わり皆の前に出て続けた。


「2年前のあの忌まわしい襲撃で、夫や許婚、父や兄を失った者は多くいます。


また自分自身も忌まわしい暴力を受けたものも多くいます。


私もその一人です。


全ての男性を失った私たちの村は滅びる一歩手前まで来ていました。


だけど、ニホンから彼らが来て、その驚くべき技と道具と武器を我らに与えてくれるようになりました。


真っ暗闇で先の希望が持てなかった時代は終わろうとしてます。


しかし、まだ気を抜いてはダメです!


彼らが神だとしたら、その神は「自分ことは自分で身を守れ」と言いました。


だが、こうも言いました。


「貴女が自らの身を守ろうと努力するなら、我々も喜んで手を貸します」と」


ここで感極まってしまったのか、一瞬、口に手を当てて言葉を詰まらせたエマだったが、すぐに持ち直して言葉を続けた。


エマ「私たちは戦います!あの日殺された村の男達の仇を取るわよ!!」


村の女たちはその言葉を聞いて立ち上がり、大歓声を上げるのだった。



…ひとしきり盛り上がったあと、一人の女性がアレクシアに向かって質問した。


「ところでニホンジンは皆、独身なの?」


あ、しまった。


今回集まってもらった主旨はそちらだった!


ということで、先程比呂から聞いていた日本人たちの情報を村人たちに教えるアレクシアであった。


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[一言] ほぉ、フラーメンフラッシェねぇ。存じませんでした。 私はモロトフ カクテルと覚えています。
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