神の使い
痴漢撃退用 催涙スプレーの説明を終えた比呂はパソコンを操作して次の製品をアレクシアに見せた。
画面に映し出されたのは、これまた痴漢撃退用ブザーであった。
これも村人たちに配っておき、敵を見つけたときや襲われた際には大音響のブザーを鳴り響かせるものだと説明した。
どのくらいの音なのかを聞いてきたので、丘の上で鳴らしたらここまで楽勝で聞こえるくらいの大きな音だと伝えた。
比呂「防衛線を引く準備にはまだ時間が掛かる。
そこでそれまでの間は村人にはある程度の自衛力を付けてもらい、自力で自分たちのことを守ってもらわねばなりません。
先程見せた二つの痴漢撃退グッズはもうすでに注文を済ませたので早いものでなら明日には届きます」
あ、というような感じで何かを思い出したアレクシアは比呂に質問した。
アレクシア「以前、ヒロさんにお渡ししていた金塊はどうなりました?」
比呂「それならちょうど今日、換金の目処が立ったと秀明が言っていました。
あ、彼は私の実の父親ですよ」
「えっ!!」と今日イチ驚いた声を上げたアレクシア。
「ではもう一人のニホンジンの方、マサヒコはどういう関係なんですか?」
比呂「彼は私の実の兄で今年で25歳になります」
アレクシア「ヒロさんはおいくつなんですか?」
比呂「僕は20歳です」
そう言われれば確かに親子、兄弟に見えないこともないかもしれない。
これはビッグニュースだわ!と心の中で喝采を上げるアレクシアだった。
驚いたのはヒデアキの歳だった、何と50歳をこえていると言うではないですか。
こちらの50歳はハッキリ言うともう老人で、髪が薄かったり、顔の皺も目立つものだ。
アレクシア「皆さんは歳を取らないのですか?」
比呂「日本人はあちらの世界で最も長寿ですね。平均寿命は80歳くらいです」
80歳!そんな長生きなんだ!
また日本、特に女性は歳をとっても老けて見られないのだとか。
アレクシア「そういえばヒロさんの母親はコチラには来ないのですか?」
そう聞いたらヒロはなんとなく気まずい表情をして、「ヒデアキは母と離婚してます、だからこちらには来ません」と返事を書いてきた。
アレクシア「ではニホンジンの皆さんは誰も結婚されていないのですか?」
比呂「そうなりますね」
これは更にビッグニュースだ!
ヴィルマやイングリットにいきなりプロポーズしてきたマサヒコはまだ結婚していないとは思われていたが、ここにいる人気ナンバーワン(とアレクシアが勝手に思っている)ヒロと名乗るその青年や彼ら兄弟に比べるとやや小柄だがガッチリとした体型と渋さが目立つヒデアキは、母のエマも含めて情報を欲しがっている女の子たちが村には多くいたからだ。
これを読んでいる読者の方はお忘れではないと思いますが、この村には壮年期、つまり結婚適齢期の男性は居ません。
また外界との交流も途絶された世界なので、女性たちの多くは、彼らに警戒はもちろんしていたのだが、ものすごく興味を持っていたのだった。
村では彼らが現れたその日から彼らの話で持ちきりだった。
「王族なのでは?」「いや隣国の貴族なのでは?」
などという意見が当初は大勢を占めていたが、バーベキューをした辺りから「神の使いなのでは?もしかしてミカエル様の配下なのかしら?」など言う意見まで出てきた。
この国はキリスト教の亜流になるのかどうか分からないが、天使ミカエルを崇拝する宗教が一般的だ。
自らを「ニホンジン」と名乗った彼らが丘の上に帰った後、彼らの後を追った子供達は彼らが丘の上で消えたのだという。
普通の人間がそんなこと出来るハズがない、つまり天使かもしくは神の国から派遣されてきた特殊な人なのだ、そういう意見が大勢を占めた。
そんな中、村長のエマから重大な情報がもたらされた。
エマ曰く「彼らは我々の世界より一千年以上文明が進んでいる別の世界から来ている普通の人間なのだ」という驚くべき情報であった。
彼らが私たちの言葉を知っているのも、彼らの世界に私たちとよく似た民族でよく似た言語を話す人がいるからだと言うではないか。
ここで、ニホンジンたちは「普通の人」なのか「神の使い」なのかで村の意見は真っ向から対立した。
ほとんどの女性は彼らを神の使いだと信じ、信仰の対象にするつもりなの?というくらいの勢いで崇拝していた。
彼らを普通の人だと思う女性もいくらかはいたが、大半の女性から「失礼なことをしてしまって村が見捨てられたら大変だから、どうか大人しくして!」と強く迫られていたのだった。
そんな中、女性を簡単に近付ける雰囲気のないニホンジンの中のリーダーと思われるヒデアキは、村長のエマとすでに親しい関係になってしまっている。
(本人達に全くその気はなくても、周囲からはそう見えた)
三人の中で最も人当たりの良いマサヒコは、何と出会ったその時にヴィルマとイングリットにプロポーズまでしてしまっている。
ヴィルマなどに関係を聞くと「婚約はしていない」とは言うけど、彼に手を出そうとする女に対しては容赦をしないというオーラを全身に漂わせる彼女に喧嘩を売る度胸のある人はこの村にはいなかった。
イングリットはヴィルマに遠慮しているのか特に何も動いてない様子だったけど、彼女たちは一緒に暮らす「そういう」関係なので、ヴィルマと結婚するのであればイングリットも漏れなく一緒に付いてくると周囲には思われていた。
そういう訳でニホンジンの中でも圧倒的に高い人気を誇り「信者」まで出てきているヒロと名乗るその青年は、いまアレクシアの目の前で座り、こうして自分の言うことを理解してくれようとしている。
見た目はクールでイケメンで、ヒデアキとは別の意味で近付きがたい雰囲気を醸し出すこの青年も(翻訳機を挟みながらだが)こうやって話をしてみると、血の通った一人の普通の青年だということがよく分かる。
また、彼は直接言葉に出そうとしないが、この村と私たちを何とか守ろうと必死になってくれていることが分かる。
最初の時は決死の覚悟でこの男性に助けを求めたが、この男性も自分の願いをなんとか叶えようとしてくれている、彼の行動からヒシヒシと感じるのであった。
アレクシアにとってこの「男性」は人か神の使いか、そんなことは関係ない。
今は彼について、彼の国の言葉を必死で学び習得して、彼の役に立てるようになろう。
そうする事がこの村を救う唯一の手段であると確信するアレクシアだった。
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