異世界 痴漢撃退用催涙スプレー
「仕事に戻りたくない!」と喚き散らかす雅彦は後ろ髪を引かれる思いで本来の仕事のトラックの運転手の仕事に戻っていった。
それと入れ違いに比呂は翌日の早朝から異世界側に出向いていた。
こちらの世界と異世界とでは約3時間ほど時差があり、日本で朝5時だとしたら、異世界は朝8時くらいの太陽の傾きになっていた。
比呂は親父のランクル70に食べ物や自分のゲーミングパソコン、護身用の武器のショットガンなど、必要そうなものを積んで異世界側に出かけた。
親父には自分の通勤用の軽四を押し付けた。
(親父は久々のオートマの軽四だ、と妙に喜んでいたが)
親父は「知り合いに会うため出掛けてくる。緊急時にはSkypeで連絡してくれ」と言い残して出掛けて行った。
日本側はまだ薄暗かったが、異世界はカラッと晴れ上がり、すっかり日が昇っていた。
「オレも親父みたいにコチラに住居が欲しいよな」
そんなことを思いながらクルマで丘を下っていくと、守衛のヴィルマとイングリットの二人が出迎えてくれた。
事前に話が通っていたようで、持ち物チェックをされるでもなく門を通された。
面倒がなくていいのだが、自分たちを簡単に信用して大丈夫なのかな?などと逆に心配してしまう比呂であった。
中に入るとエンジン音で気が付いたのかアレクシアが比呂の車に走り寄ってきた。
彼女の手には前日、親父の秀明から事前に渡されたいたであろうスマホが握られていた。
その画面を見ながら早速日本語で「オハヨウゴザイマス」と挨拶してきた。
相変わらず飲み込みが早いな、と思って彼女の顔を見てみたらなんだか少し顔色が悪かった。
「顔色が悪いけどどうしたのですか?」と聞いてみたら、どうやら昨日は張り切って色々勉強していたのだと言う。
今日はやめておきますか?と聞いたが、是非やらせて欲しいと返事が返ってきた。
比呂「わかりました、ですが教える前にいくつか打ち合わせしたいことがあります」
アレクシア「はい、何でしょう?」
比呂「アレクシアに日本語を教えるのと同時に僕は僕らの丘の防衛の準備をしないといけません」
これは昨日、母が言っていた内容だな、と思った。
比呂「だからアレクシアさんには予め、日本語の勉強用の教材を渡そうと思っています。出来るだけその教材で日本語の基礎を学んでおいて下さい」
アレクシア「はい、わかりました!その教材というものはいつ貰えるのですか?」
アレクシアは少し不安を感じていた。
昨日はつい日本語を教えて欲しいと言ったものの、どう考えても自分はそんな費用は持っていない。
先日渡した金塊などにそんな価値があるのかまだ分かってないからだ。
そんな不安を彼女の表情から感じ取ったのか比呂は「お金とかは要らないですよ、これは私たちにも利益があることですから」と言い、「教材は昨日注文したから3日もあれば来ると思います」と答えた。
比呂はアレクシアに向かって「そういうことでアレクシアさんには僕にいつも同行してもらい、防衛線を敷く準備を手伝ってもらいたいですが、いいですか?」と聞いてくる。
「は、はい!もちろんお手伝いします!」と返事をした。
ニコリと笑った比呂は、先日、秀明や雅彦が入っていた建物の応接間に入り、彼のパソコンを立ち上げ、画面をアレクシアに見せた。
次々画面表示が変わっていくモニターを食い入るように見つめるアレクシア。
比呂「では、アレクシアに自分たちの防衛戦術を説明しておきます」
アレクシア「はい、よろしくお願いします!」
比呂は事前に作っていた画像をアレクシアに見せた。
画面には丘や村、村の正面の畑やら道路、関所跡までが手書きで書かれた絵が表示された。
アレクシアはそんな画像をみるのは初めてだったが、なんとなく意味が分かった。
比呂「ここが私たちの丘、ここがアレクシアの住んでいる村です。
前回の襲撃はここ、関所跡に配置していた守衛が倒され、雪崩れ込んできた敵の騎馬兵 約20騎を村の男たちが村の正面の畑で迎え打ったが、一瞬で撃破されてしまったと聞きました。
前回の敵の襲撃が成功した理由は、関所跡という絶好の防衛に向いたポイントを易々と敵に抜かれたことが原因だと思われます。
そこで、我々が最優先ですべきことは、関所跡に大規模な防衛線を構築することです、ここまでは分かりますか?」
アレクシア「関所跡は村からは少し遠いのですが、それ以外の場所ではダメなのですか?」
比呂「比較的近くでは、小川を渡る橋がありますが、ここを最前線にすると敵を発見してから防御態勢に入るまでの時間が稼げません。
敵軍の数が多くて防衛線を抜かれた場合、即座に村まで敵が侵攻してきてしまうということもマイナスポイントですね」
アレクシア「村の壁を利用して迎え撃つのはダメなのですか?」
比呂「村の壁を見させてもらいましたが、高さは4エル(2メートル)程度の岩と土で作った物ですので、超えるのは比較的容易です。
敵兵が騎馬兵だけならそれでも有効ですが、今度は門の強度が問題になってきますね」
アレクシア「あの門では敵を止まれませんか?」
比呂「まず無理でしょう、私が乗ってきたクルマなら一撃で中に侵入出来る程度の強度しかなさそうでした。
騎馬兵でもおそらく短時間しか食い止めれないでしょう」
アレクシア「だから守り易いポイントで敵を防ぐというわけですね」
比呂「その通りです、ですので敵をまずなるべく遠くの地点で発見することを優先します。
関所跡でしたら時間帯や気候にもよると思いますが場合によっては山の麓辺りの敵も発見出来るかもしれません。
敵を発見したら私たちが持っている無線機で丘の私たちと村に即座に警告をします」
比呂は手持ちのハンディ無線機をアレクシアに見せて使ってみせた。
隣の部屋に行った比呂からアレクシアの待たされた無線に声が飛んでくる。
アレクシア「凄い…」
ホント、この人たちに出来ないことはないんじゃないかと思うアレクシアだった。
比呂「こんな感じで見張りの人が警告をします。これを聞いた人は村全体的に鐘などで知らせ、戦えるひとは武器を持ち、老人子供は避難します」
アレクシア「ヒロさんたちはどうするのですか?」
比呂「僕たちはランクルに乗り、関所跡に直行します。余程のことがなければ関所まで最短で10分くらいで着きます」
アレクシア「10分?」
比呂「ああ、分と言っても分からなかったですね」
と言って自分が使っていないGショックの腕時計を取り出し、彼女の左腕に取り付けた。
そして10分というのがどの程度の時間なのかを教えた。
あ、と言いながら比呂はその時計の時間をこちらの時間に合わせた。
適当に3時間程度進めただけなのだが。
またしても出てきた文明の利器に興味深々のアレクシア。
ハッとした様子で我に返ったアレクシアは比呂に質問した。
アレクシア「ヒロさん達は危険ではないのですか?」
比呂「危ないことはしないから大丈夫です。それに僕らにはコレがあります」
そうやって取り出したのは背中に背負っていたベネリのM3ショットガンだった。
彼は実際にフォアエンドをガチャっと引き、チャンバーに弾を送り込みながら、窓の外を狙ってみせた。
比呂「これは銃といって火薬の力で鉛の玉を猛烈な速度で撃ち出す武器です。これがあれば40エルの距離の鎧甲冑を着た騎士を一撃で殺すことが出来ます」
フォアエンドをガチャガチャと操作して弾を全て出し、弾を手に取りながら説明した。
比呂「これはショットシェルと言って後ろ半分は火薬、前半分は鉛が詰まっています。火薬に火が付くと激しく爆発し、猛烈な勢いで鉛の玉が飛んでいくんです」
アレクシア「狩人の弓と比べてどちらが強いのですか?」
比呂「それは圧倒的にこの銃ですね、威力だけでいうと数倍は強力です」
ほぇ〜という感じで興味深くショットシェルを見つめるアレクシアにさらに続けた。
比呂「これもありますし、また何よりもランクルという鉄の馬もあるので、敵の騎馬兵程度ならそれほど脅威ではないのです。
関所で守っている兵士は僕らが到着するまでなんとしても持ち堪えてもらいます。
敵の数が少なければそのまま撃退しますし、多ければ関所の兵士を回収しながら後退しつつ戦闘を継続します。
道には予め大量の罠を仕掛けておくので、敵がそこを通過したら罠に嵌めて敵の脚を遅らせます。
その間に武装した村人達は橋に用意した防衛拠点に集合し、撤退してくる私どものランクルと関所の兵士と合流して敵を迎撃する…この様な流れを想定しています」
比呂はパソコンの画面を指差しながらアレクシアに説明していくのだった。
ふむふむと聞いていたアレクシアは比呂に質問した。
アレクシア「もしここが敵に突破されたらどうするのですか?」
比呂「そうなったら村に立て籠もるしかなくなりますね。ですので、ここを突破されないよう、準備を整えるつもりでいます」
次に村人に配布する予定の物を紹介すると言い、比呂はパソコンの操作をしていく。
画面に映し出されたのは痴漢撃退用の催涙スプレーだった。
比呂「これを村人たち、特に壁の外に出る人には必ず携行してもらおうと思います」
そう言いながらユーチューブ動画で催涙スプレーを使っているものを実際に見せた。
比呂「敵がいくら完全防備していてもコレを浴びてしまうと涙がしばらく止まらなくなります。
大事に使えば二、三回使えるので敵と遭遇した時はこれを使って敵から逃げて下さい。
村人たちにも使う訓練をしてもらうつもりです。
完全武装の騎馬兵相手なら下手な武器を持つより効果がありますよ」
アレクシア「痴漢って何ですか?」
あ、そこかーという事で比呂は男がヤラシイ目的のために女性の体を触る行為だよ、と教えた。
その文を目にしたアレクシアはみるみる顔が真っ赤になった。
耳年増な日本のJCならまだしも、こちらの世界の14歳の女の子は初心なんだなぁと改めて関心するのだった。
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