慎重な奴等
雅彦が彼の会社で休みを増やす交渉に励んでいた頃、異世界側では秀明が情報収集に励んでいた。
彼は自分のランクル70に必要そうな装備を積み込み、異世界に向かうと丘の頂上に車を置き、徒歩で村の人間から見つからないように丘の反対側から回り込んで薮の中から村の様子を近距離から偵察していた。
彼はベトナム戦争の頃、非公式に米軍の特殊部隊などで着られていたタイガーパターンの迷彩服を着て、自衛用に日本刀とショットガンを携行していた。
日本刀は元々彼の家に伝えられていた伝家の宝刀という奴で、ショットガンは彼の所有する山が猪や鹿などが出るため狩猟用として所有許可を取っていたものだ。
ただ、このショットガンはベネリのM3といって現在も米軍などでバリバリの現役で使われている物とほぼ同じで、実際に実弾が発射可能なものだ。
こんなところにも彼のミリタリー好きが現れているわけだが、彼は迷彩塗装を施したその銃を手に藪の中から双眼鏡で村の門にいる守衛二人を数十メートルの位置から観察していた。
髪の色は二人とも金髪で見るからに日本人ではないと分かった。
身長は特に大柄なわけでもなく、日本の女性と大きな差はなさそうに見えた。
手に持っているのは全長3メートルほどの槍で皮鎧を装着していた。
たまに門を通り、村から出入りする村人がいたが全て女性でしかも年齢は見るからに若そうだった。
村から外に出た村人たちは村の正面の平地に広がる畑で農作業をしていたのだった。
秀明は更に村の裏側に向かった。
村の外には高さ2メートル程度の頑丈とはとても言いづらい木と岩を組み合わせた壁が続いてた。
目立たない様に森の中を進んで行って、登りやすそうな木を見つけたのでそこから村の裏側付近を観察してみた。
こちらの時間で言うと昼過ぎにあたる時間だと思われるのに人の数はやはりそれ程多くない。
目に入るのは女性、老人と子供たち。
つまり「青年期以上の年齢の男性」がほとんど居ないのだ。
秀明はこれらを観察していて、この村の男たちが極端に少ないのは戦争か労役で駆り出されたのか、はたまた何らかの原因で男性のみが死滅しているかのどれかだと思った。
やはりここは今の日本の常識では計り知れない事情がある様だなと言えるのだろう。
独りでの単独行はいくらなんでも危険なので息子たちにはさせられないよなぁなどと思いながら、また丘に向けて移動を開始した。
幸い、誰にも見られなかったので丘の上に停めていたランクルに乗り、自分たちの世界に戻って行った。
鉱山の事務所に戻った秀明は、あの異世界の住民と交流出来ないかを考えていた。
あの村に限って言うと、文明レベルは良くて中世レベル。
最も脅威となる銃器の存在は確認出来なかった。
ただ、あの規模の村なのに守衛まで立てて武装させている処をみると、治安は良くないのだろうと思われた。
あと異世界ならではのファンタジー要素の代表格の魔法の存在も確認出来なかった。
もしあれば極めて高い脅威になるだろうが、これも村人と接触してみないとなんとも言えなかった。
とりあえず、村人の大半が女性であるのなら、女性に向けたプレゼントを用意して警戒感を解く戦術で行くしかないだろうと思った。
こちらの世界ではまだ昼過ぎで長男の雅彦が仕事が終わってこちらに来るまで時間があるので自分は先に準備を開始することにした。
まずは鉱山のある所から南に車で一時間ほど走った街にあるホームセンターで必要そうな物の買い出しに向かった。
彼のランクル70は主人公の持つランクルとは違い、荷台の狭いショートホイルベースなので予め荷台を空にしていたのだが、後部シートは取っ払っているので軽トラ程度の容量はある。
秀明はその空のスペースに、「つかみ」となりそうな商品を次々と入れていった。
ホームセンターの中を巡りながら、何がウケるだろうと考えていたがやってるうちに楽しくなってきた。
現代日本人と中世では圧倒的な文明の差があるので逆に言うと何持ち込んでもウケると思われるのだが、またとりあえず必需品が良さそうだろうということで適当な物を見繕っていった。
まず、手袋。
皮製品とかありふれているだろうからあちらでは存在しないであろう高性能なものを選んだ。
ガラスなどを扱う業者がよく使っている薄い割に頑丈な繊維で編まれている作業用手袋や、滑り止めのゴムが付いた軍手、ただの軍手などをポンポン カートに放り込んでいく。
次は靴下。
靴下を履く習慣があるか知らんが、まぁつま先や踵がゴツくなっている物や肌触りがツルツルの化学繊維で編んだ物などを放り込んでいく。
次に芳香剤。
何がウケるか分からないのでこれまた適当に柑橘系だとか薔薇の香りだとか女性受けが良さそうなものを適当に入れていく。
さらに石鹸、ボディソープ、シャンプー、化粧品など女性を狙った商品を次々とカートに放り込んでいった。
こんな時に女がいてくれたら良かったのにね、と思いながら荷台と助手席が商品で埋まってしまったので事務所に帰ることにした。
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