アレクシアの決意
アレクシア、14歳。
母親はエマで父親は前回の襲撃で亡くしている。
彼女は村の中でも非常に利発だということで知られていて、村長であるエマを懸命に支えていた。
彼女は先日のバーベキューをした夜に、比呂に金塊の存在を伝え、武器の調達をお願いしてきた女の子であった。
この村、スピスカ=ノヴァは危機に瀕していた。
敵国からの侵略の恐れ、という以外にも壮年期の男性という一番の労働力が欠如したことで村の活動がことごとく停滞していたことが食料危機などを引き起こす心配があったのだ。
以前は村の子供たちに小川で砂金採りなどをさせていれば定期的にやってくる旅商と金と日常品や食料などを交換したりも出来たのだが、
現在子供達は自分も含めて森や小川に入り採取などで食料を確保しなければならず、もうじきやってくる冬を越す食料が確保出来るかどうか非常に微妙だったのだ。
そんな中、突然やってきた別世界の人々はこれまで見たこともない、当然食べたこともない数々の食事を提供してくれた。
味にも驚いたが、アレクシアがさらに驚いたのは彼らの手際の良さ、道具の素晴らしさであった。
「彼らと親しくしておけば、あのような夢のような食事や道具などを私たちも使えるようになるかもしれない」
そう思ったアレクシアだった。
そうなると俄然、彼らのもつ調理器具、食べ物の内容、手にしていた武器と思われる物、それから馬も無しで動き回る鉄の荷車などに興味が湧いてきた。
色んな物が気になったけど、彼女がまず興味を持ったのがクルマの前面や側面に貼られてある透明の物体だ。
近くで観察してみると少し汚れていたが、それでも高い透明度を持つその物体はまるで水を固めて閉じ込めた物のように感じた。
そこで隣にいた日本人のヒロと名乗るその男性にその透明な物体は何ですか?と聞いてみた。
すると彼は「これはガラスだ」といいながら、手でコンコン叩いてみせた。
元々は石から出来ている物で、あちらの世界では大量に出回っているとのことだった。
凄い、あれを家の窓に差し込めば窓を開けなくても明かりを取り入れる事ができる!と思った。
その事を比呂に伝えると、日本の家では皆、そうなってますよ、と教えてくれた。
彼が手に持っている小さな箱を操作したと思ったら、見たこともない巨大な箱状の建物が写し出された。
彼曰く、こんな感じで建物の前面全てがガラスに覆われているものもある、とのことだった。
比呂はさらに東京を上空から写した写真を見せた。
そこには先程写ったビルという建物が何百、何千と建ち並ぶ信じられない光景が映し出されていた。
すごい、すごい、すごい!なんだこれ、なんだこれ!
ヒロたち日本人という人たちはこんな進んだ世界から来ているということなの?
信じられない話だが、今目の前にあるこの動く鉄の荷車などを見たら納得せずにはいられなかった。
とてつもない説得力がこうして目の前に存在しているのだ。
日本人たちが彼らの世界に帰ったあと、アレクシアはエマに「私は彼らから彼らの世界の技術や言葉を学びたい」と打ち明けた。
それに対してエマも「彼らが私たちにとって唯一の希望となりそうね、ただ、彼らが本当に私たちの味方になってくれるのか、それとも彼ら(敵国の兵士のこと)のように私たちの体や財産だけが目的だという可能性もあることはしっかり覚えておいてね」と言うのであった。
日本人二人とエマ、そして私の4人で話し合いをしているのを聞きながら、彼女はこのようなことを回想していたのだった。
すると雅彦は思い出したかのようにクルマに戻り、比呂の愛用品であるガスコンロとポット、ミネラルウォーターを応接室の中に運び込んだきた。
嬉しそうに何やら準備を始める雅彦。
あっという間に湯を沸かし、コーヒーカップを人数分取り出したかと思ったらカップの上に何かを置き、黒い粉を流し込んだと思ったら湯を注ぎ出した。
部屋の中に嗅いだことがない、いい匂いが充満する。
雅彦「お茶を出してもらったお礼に私どもの世界でよく飲まれているコーヒーというお茶を作ってみました、砂糖とミルクをお好みで入れて飲んで下さい」
手早く伝えて、彼女たちにコーヒーを勧めた。
雅彦「あ、お茶菓子にロクなものがない…いや、これならどうだ?」
と言いながら出したのは秀明の好物の瓦煎餅だった。
秀明「あ?なんでこんなものがここにあるんだ?」
雅彦「いや、うちの会社がトラックの新車を買ったんだけどメーカーが社名を入れた瓦煎餅を事務所に置いて行ったんだわ、親父が好きだと言ってたから貰ってきた」
なるほどよく見ると煎餅の上にHのマークが焼き付けられている。
秀明「お、美味いじゃないか?」
などと言いながらボリボリ食べ始めたのを見たエマとアレクシアも彼に倣って食べ始め、さらにコーヒーの渋さに驚き、砂糖というとてつもなく甘い甘味料にさらに驚く、という一連の流れを経験したのであった。
エマ「日本という国にはこんな素晴らしい物があるんですね」
これはお世辞でもなんでもなく、彼女の本心から出た言葉であった。
アレクシアも同じことを考えていた。
先日のバーベキューといい、今回といい、彼らはポンポンと食べ物や飲み物を出してくるけど、どう考えてもこれらは安いものではない。
少なくとも私たちの世界では一年に一度口に出来るか出来ないか、というほどの高級食材が次々と出てくる。
もしかして、彼らにとってこれらの食材はいつでも食べれる程度の安い代物なのだろうか?
そのような事を考えながら煎餅を口に頬張るアレクシアだった。
雅彦は一心不乱に飲んだり食べたりしているアレクシアを見て「なんか見覚えがあるな」と思っていたがふと気が付いた。
そう、ハムスターが食べている様子に似ているんだわ、と(失礼
日本では一生懸命、ネットショップとかで必要な物を注文している比呂を尻目に、異世界では美人親子と楽しいコーヒータイムを満喫する日本人親子の姿があった。
ふー、とコーヒーを飲み干したアレクシアは秀明の方に向き直り、真剣な様子で「私に日本語を学ばせてください」と頼み込むのであった。
秀明は一瞬考え込んだ様子をみせたが、「それなら貴女もよく知っている比呂に教わるといいでしょう。彼には私からそうするよう伝えておきます」と伝えた。
なるほど、こちらの世界の人に日本語を話せるようになって貰えば僕らの言うことをこちらの人々に伝え易くなる。
それにしても何でオレじゃなくてヒロなんだ?と思って秀明の方をチラッと見たら「お前は他にすることがあるだろ、ヴィルマさんの相手とか?」と人の心を読んでいたかのような事を言った。
ヴィルマの相手をしろってのは冗談だろうが、この村の防御体制を実際に整えるのはオレの仕事だろう、その時にヴィルマには手伝ってもらえたらいいな、とは思うが。
秀明「アレクシアさんは、後日、比呂にここを訪れるように伝えておきますので、後は彼から直接どうするか聞いてみてください」
そういいながら早速、秀明は比呂に対して「明日からアレクシアさんにコチラで日本語を教えてやってくれ、よろしく」とメッセージを送るのであった。
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