ファンタジー世界のお約束
関所付近の下見を終わらせた秀明と雅彦の親子二人はランクルに戻った。
そこには顔色がやや戻ったヴィルマの姿があり、もう平気です、と言っているようだった。
少し安心した雅彦は優しく彼女の肩に手を当てながら、持ってきていたアクエリアスを彼女に飲ませた。
勢いよく飲み干したと思ったら、その空になったペットボトルを見ながら不思議そうな表情を見せていた。
あ、そりゃそうか。
スポーツドリンクを飲んだのもこれが初めてだろう。
安心した秀明はランクルのエンジンを掛け、関所跡の先に広がる開かれた緩斜面にある道を進んで行った。
比呂はここまで自分の脚で走ってきたそうなのだが、彼曰く「スキー場のゲレンデみたい」だと感想を言っていた場所だ。
うむ、たしかにスキー場みたいだ。
しかも緩斜面なので初心者向きと言えるのかもしれないな、と思う秀明。
雅彦「ここにスキー場とか作ったら金儲け出来るかな?」
などと言ってるが、スキーやる前に目前の脅威を排除することが何よりも大事なことは分かっている。
それにしてもここまで来るとスピスカ=ノヴァのある山の下には延々と平野が広がっていることが分かる。
日本だと北海道にでも行かないと見れない風景だ。
基本的に高い木はあまり存在してなくて、牧草地や何かの畑が広がっていた。
雅彦「うわっ、地平線が見えるとは思わなかった」
たしかに日本の本州にいて地平線が見れる経験はないだろう。
秀明はドイツで高速鉄道に乗ったときに、ちょうどこのような風景を見たことがある。
雅彦「ここで近代的な大規模機械化農業などやって、日本に食料を輸出したら日本はさらに食料の輸出国になれるかもなぁ」などと思うのだった。
金が採れるだけでも凄いな、とは思ったがこの世界に眠っている富はそれだけではないみたいだ。
雅彦「大規模に開拓したいよなぁ、親父」
秀明「あぁ、たしかに凄いなこれは」
そのような事を言っていたが、彼自身は開拓より別にこの世界でしてみたいことがあった。
それはこの世界を隅々まで見てみることだ。
そしてその後はあの村で腰を落ち着けてのんびりとした老後を送りたい。
雅彦の興味は開拓みたいだが、それはそれで面白そうだし、秀明もそういう考えは嫌いでは無かった。
ただ、この世界をどうしていくのかは、彼自身が決めていくことだろう、自分はそれを裏でサポートするだけなのだ。
しばらく彼は平地に降りていく道を降っていった。
言葉は通じないのだが、しばらく走っていくと助手席のエマがポンポンと秀明の肩を叩き、遥か前方を指差して「パイネ」と言った。
おそらくエマが以前言っていたこの付近を収めている領主が住んでいる大きな街のことなのだろう。
試しに「ドラゴニア?」と彼女に聞いてみたら左後ろを指差した。
なるほど、敵国はあちらの方向にあるのか。
太陽の位置から考えて、パイネはスピスカ=ノヴァの東、ドラゴニアは西にあるようだった。
雅彦「親父、そろそろ戻ろうぜ」
かなり遠くまで来てしまったのでここで後戻りすることにした。
すると、遥か遠くの空に遠目にみても分かるほど巨大な飛行物体が飛んでいるのを雅彦が見つけた。
彼はヴィルマにその飛行物体が何か聞いた。
すると「ワイバーン」と驚きの返事を答えが返ってきた。
雅彦「な!ワイバーン?!そんなものがコチラには居るの?」
ついこれまで動物や獣類を見たことが無かったのでコチラの世界も自分たちの世界とそれほど変わらない生態系をしてるんだろうと勘違いしていたが、ココは異世界なのだと改めて痛感させられた日本人二人だった。
秀明は大急ぎで荷台に乗せているボックスの一つを開けさせ、中から双眼鏡を取り出してワイバーンを観察し始めた。
雅彦も親父のショットガンを取り出し、ワイバーンに銃口を向けた。
とりあえずこちらを襲う気配はないので一安心なのだが、どうみても翼の端から端まで12mはある。
ざっと第二次世界大戦の零戦くらいの大きさってことだ。
体重は軽くても1トンはあるだろうし、アレに狙われたらタダでは済まないだろうと思われた。
秀明「三十六計逃げるに如かず、だ!」
大急ぎで、かつなるべく静かに来た道を逆走して登っていった。
そのワイバーンの様子を注意していた雅彦だが、遥か遠くまで飛んでいってしまい見失った。
これは一刻も早く電波の通じるところまで戻り、エマ達にこの世界の生態系についても聞かないといけない。
秀明たちは関所跡を抜け、一気に村の前の広場にまで戻ってきた。
すると村の中からエマの娘のアレクシアが守衛のイングリットと出て来て、彼らに村の中まで来ませんか?と誘ってきた。
雅彦「ほんじゃあ、行こうか?」
ということでそのまま広場までクルマで入っていき、そこからすぐ近くにある教会だった建物に誘導された。
ここでヴィルマは守衛の仕事に戻っていった。
雅彦と秀明は応接室のような場所入り、机を囲んで椅子に座るとアレクシアがご当地のお茶と思われるものを彼らに出してきた。
飲んでみると紅茶のような風味のあるお茶で、彼女はそれにタップリとミルクを注いでいたようだった。
秀明は早速、先程見たワイバーンなどの生物についてエマに聞いてみた。
するとワイバーンは人間を襲ったりはしないが、野生の個体をあのように見ることは珍しくない、とのことだった。
雅彦は嫌な予感がしたので試しにエマに聞いてみた。
雅彦「もしかして、ドラゴンって生物っていたりします?」
エマ「はい、居ますよ。この国では滅多に見ることはないけど、隣国のドラゴニアはドラゴンを飼いならした竜騎兵が建国したことから、その名前が付いていると聞きました」
うっわー、ホントに居るんだー。
ってことは、ゴブリンやオーク、ゴーレムやトロール、エルフ、ドワーフなどファンタジー満載の生物がいるのだろうか?
エマに聞いてみたが、詳しくは知らないという前提でエルフ、ドワーフ、オーク、トロールは居るとの返事があった。
秀明は「これは早速戦術を練り直さないとダメだな」と思った。
エマの話ではエルフ、ドワーフ、トロールは私達人間と近い種族で、見た目の違いと身体の大きさの違いでそのような名前で呼ばれているのだそうだ。
ここら辺で見かけることは滅多にないが、ドラゴニアはトロールを奴隷として使役しているので戦争になると姿を見ることがあるらしいのだった。
秀明「ほんじゃトロールってのは人間の言葉を話せるってことですか?」
と聞くとおそらく話せますとのこと。
エマによると村に伝わる伝承の中にはトロールと結婚した話があるとか、身長が4elleもあったなど、いろいろ出てくるのだそうだ。
おっとこの世界の長さの単位が出てきた。
その4elleというのはどの位の高さなのかを聞いてみたら、ちょうどこの部屋の入り口の高さなのだという。
雅彦が入り口まで行って高さを見てみたら、178cmの男が手を伸ばして届く程度なのでおそらく2mくらいだと思われた。
ってことは2elle が1m ということか?
ハッキリとしたことは分からないが、長さや距離を伝えたいとき、100メートルと言いたい時は単純に倍にしてエルという単位にすれば良いみたいだった。(つまり100メートルは200エル)
今後、工作機械や建築などをこちらの世界に導入するときは度量衡の単位をメートルに統一してやればいいが、それはまだ先の話だ。
エルフやドワーフはさらに遠い所に住んでいる種族なのではっきりしたことは分からないが、エマたちの種族とエルフ族は比較的似ているのだそうだ。
「それってやっぱり耳が尖っているの?」と聞いてみたが、それは知らないとのことだった。
秀明は「いや待てよ、僕の目の前に座っている彼女たちは耳が尖ってないだけでエルフなんじゃなかろうか?」などと思った。
こちらの世界の住民はあまりにも顔が整い過ぎている。
過去に行ったドイツだとか中欧の女性たちも綺麗だと言えば綺麗だったが、ここまで綺麗な人が揃っているのは正直見たことがない。
前は単純に中世ドイツ辺りの人がこちらの世界に移住して出来た世界なのだと思っていたが、なんか根本的な所で違うのかもしれない。
秀明「それはいいとして、ワイバーンやドラゴン以外で、凶暴な獣や生物って居ますか?」
エマ「この村の近辺では狼と熊が出ますが、狩人が適度に駆除しているし、狼は飼い慣らしていたりするのでそれほどの脅威はありません」
そういえば村には放し飼いでハスキー犬みたいな犬がいたが、アレって狼だったの?
あまりにも野性味がなく、ほのぼの系だったので警戒してなかったわ、と思う雅彦だった。
(彼の中では腹を上に見せて日向ぼっこしているイメージ)
エマ「彼らは非常に賢いので、ある程度なら言うことを聞いてくれるし、今も村の周囲を監視してくれてますよ」
なるほど、便利なことこの上ないみたいだね。
戦闘力としてはイマイチっぽいけど偵察要員や癒し要員としては優秀ってことみたいだ。
雅彦「この世界で一番の脅威は何ですか?」
エマは少し考えて、こう答えた。
エマ「それは圧倒的に人です。特に我々の国の隣にあるドラゴニアは近年、戦狼外交を続けており、国境からかなり離れているはずのスピスカ=ノヴァまで彼らの兵が襲ってくるようになりました。
彼らは凶暴な上に人の数がとりあえず多いと聞きます。非常に大きな脅威です」
本来ならこの村を保護しないといけないハズのビスマルク王国も軍や守備隊の派遣などもしていないということは、すでにドラゴニアに懐柔されてしまっているか、もしくは既に滅ぼされている可能性すらある。
一旦、ここの防衛が落ち着いたら偵察に行ってみたいと思う雅彦であった。
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