エマとヴィルマの想い
大急ぎでサバゲ用の戦闘服に着替えた雅彦は秀明のランクルの助手席に乗り込み、異世界にやって来た。
目的はいくつかあるのだが、村長のエマにこれからすることをある程度伝えておかねばならないということが最優先だ。
いつもの丘の上に出たら様子が変わっていることにすぐ気が付いた。
あれ?親父のトレーラーハウスがこちら側に来てる?!
あとネット用のアンテナもがっちりしたものが設置されてエリアがある程度は拡大してそうだ。
雅彦「親父、こっちに移住したのか?」
秀明「ああ、羨ましいだろ。
というか移住を急いだのは理由がある。
ここを村との連絡所にしようと思ったからだ」
なんでも村に異変が起こった際に、俺らにすぐ情報が伝わらなければ困るので、連絡所を設けて日本にすぐ情報が伝わるかようにしたいとのことだった。
秀明「とりあえずこれをエマさんに貸そうと思っている」
彼が取り出したのはソーラーパネルと予備電池、そしてスマホだった。
秀明「型落ちのアイフォン7だが、シムが入ってなくてもスカイプやメールは使えるだろ。
これを渡しておけば意思疎通がスムーズになる」
雅彦「何故にアイフォン7?」
秀明「俺はアイフォン以外使ったことないし、これが一番安い中古で手に入った防水携帯だから」
とのことだった。
秀明は雅彦と共に坂を降りて行ったが、早速 守衛をしているヴィルマとイングリットの二人が歩み寄ってきた。
雅彦「グーテン ターク!」
とドイツ語で愛想よく挨拶する雅彦に対してイングリットはすごくにこやかに、ヴィルマは少しツンとした表情で挨拶して出迎えた。
秀明は早速、スマホを取り出し、エマに面会したいとヴィルマに伝えた。
イングリットが門の中に入って彼女を呼びに行ったので、雅彦とヴィルマは少し会話を交わした。
(もちろんスマホによる翻訳で)
ヴィルマ「今日は何をしに来たの?」
雅彦「エマと話し合いをしたいのと、村の周囲を下見に来た」
下見ってどういうこと?というヴィルマに対し雅彦は、まだ村の周囲を見たことがないので見ておきたいと彼女に伝えた。
するとヴィルマは「私もついて行きたい」と言った。
すると村の中からイングリットとエマがやって来た。
雅彦はエマに挨拶をしてオマケに「Wunderschön Sind Sie (ヴンダーシェーン ズィント ズィー)」(今日もお綺麗ですね、の独語)と覚えたての言葉を言ってみた。
「私たちの言葉が上手くなりましたね」と返すエマ。
背後から強烈な負のオーラを感じた雅彦は振り返ると、すごい顔をしたヴィルマがこちらを睨んでいた。
慌てて「ヴィルマも もちろん美しいですよ」とフォローする。
すると頬をやや赤らめてツンと横を向くヴィルマであった。
危ない危ない、いつものように調子に乗ったら殺されるな、と思う雅彦であった(汗
秀明は早速エマに、今日来た目的を伝えた。
秀明「今日来たのは我々がこれからこちらの世界で何をするか伝えることと、村の周辺を下見することです」
エマ「こちらの世界で何をするか、とはどういう意味ですか?」
秀明「我々はあの丘に住もうと思っています。
そこで、あそこに住む許可を貰いたいのです」
エマ「私どもとしてもそれについては大歓迎です」
秀明「ですが、タダで住まわせて貰おうとは思っていません」
エマ「どういうことでしょうか?」
秀明「こちらの世界の通貨は持ち合わせていないので、代わりに食料品や生活用品を収めることで使用料の支払いをしたいと思います」
それを読んだエマはしばらく考えた後にスマホに入力した。
エマ「ありがとうございます。私どもに異論はありません」
秀明「それと、これは私どもが勝手にすることなのですが、敵国からの襲撃や略奪が横行していると聞いたので私どもは自衛のために独自の防衛体制を敷くつもりです。
ですので防衛線を構築するためにこれから下見をしたいと思いますからご協力をお願いします」
その文を見たエマはハッとしたような表情をして、スマホを胸の前に当て、目を瞑り感謝するような素振りを見せた後でこう続けた。
エマ「それなら私どもも防衛に協力したいと思います」
ヴィルマは何のことか分からないような表情をしていたが、雅彦には親父がなぜそんな回りくどい言い方をしたのか理解出来た。
日本の最新の武器や技術を使えば、おそらく敵の騎馬兵20騎程度なら撃退することは訳ないと思われる。
可能な限り、ライフル銃やショットガンをかき集めたり、場合によっては日本政府を引き込んで撃退してもらえば良いからだ。
だが、それだともし日本とこの異世界との「道」が塞がった際に、この村はどうなってしまうのか?
おそらく独自の防衛力を持たなかったため、敵国などから攻め滅ぼされるであろう。
「守るのに手は貸すけど、守るのはあくまでも自分自身がすべきこと」
親父はそう言いたかったのだと思う。
また、丘の使用料を払うというのも、お互い依存する関係とか支配するような関係にはしたくないという思いがあるからだと思った。
今の力関係なら村の外の丘に勝手に日本人が住み着くことに反対はしないだろうし、お金を取ろうともしないだろう。
我々が日本から大量の食料や日用品を仕入れることが出来るので、逆に有り難いと思っているハズだ。
彼女たちが以前言っていたように街からの交易が絶ってしまっているのでおそらく食料品などは不足しているだろうから尚更だ。
今なら日本人が村を武力や優位な文明の力などを使って支配することは容易いハズだ。
だが、「それはしない」と親父は、暗に彼女たちに宣言したのだ。
エマは娘のアレクシアを「使って」遠回しに日本人に金塊の存在を伝え、そして日本人に自分たちを助けてもらうよう動かしていた。
だから前回のバーベキューの後、日本人が帰ったとき、エマとアレクシアは「日本人たちに助けてもらいたいと頼めたのか?」というような会話をしていたのだ。
エマは場合によっては自らの「女の武器」を使ってでも日本人たちに協力してもらうようするくらいの覚悟をしていたのだ。
正直、今の状況ではほぼ詰んでしまっているようなものだ。
領主からの保護は全く期待出来ず、また交易も途絶えているので金塊などを集めたとしてもそれを食料に替える手段がほぼ無い。
村の男性のほとんどは失われ、防衛力のほとんども失われていた。
日本人たちが来る前は、次に襲撃されたら村が本当に滅んでしまい、また自分も含めて村の女たちが犯されてしまう、場合によっては奴隷として敵国に売り飛ばされてしまう、そんな絶望的な状況しか無かったのだ。
だが、そんなある日、丘の上の城郭の跡から見知らぬ人たちが現れた。
彼らは見慣れる髪の色をした異民族で、徹底的に紳士的で、かつとてつもない文明の力を備えていた。
最初に化粧品などを見せられた時は淡い期待程度だったが、2回目に彼らが訪れ食事を振舞ってくれて時、淡い期待は確信に変わった。
彼らは「車」という名前の鉄の荷車などを所有している、矢を放ってきた狩人のマルレーネに対して構えてみせた武器などはこれまで見たことも無い未知の武器だった。
鉄の荷車だけでも戦力として欲しい、いやこの日本人たちを是非味方に引き込んで村を守ってもらいたい。
この想いは抑えるのが困難になるほど強くなっていたのだ。
そんな母親の様子を感じ取っていた娘のアレクシアも母親から頼まれて、日本人たちの中で最も若そうな男(比呂のこと)に金塊の存在を伝えたのだった。
だが、エマは秀明としばらく話をしていくうちに「この人に対して変に小細工をしたり、駆け引きをしたり、女の武器を使っていくのは逆効果なんじゃないか」と思うようになった。
この人は私を村の代表として丁重に対応はしてくれているがそれはあくまで「一人の人間」としてで、「女性」としてではない。
この人の目には何やら強力な女性を拒むチカラが感じられる、そうエマの女の勘が働いたのだ。
だから、迂闊に頼めなかった。
もう少し、彼らが私たちや村をどうしたいのか、真意を探る必要がある、そう思った。
だが、先ほどヒデアキがしてきた提案は、丘を占有する代わりに対価として村が喉から手が出るほど欲しがっている食料を提供するという。
「村を支配する対価としての提供」ではなく、あくまでも丘を占有する名目上の対価として食料を分けてくれると言うのだ。
また、「自分たちが自分たちを勝手に守るだけで、村に対しては特別なにかしてあげているわけじゃない」とまで言ってきている。
つまり、ヒデアキを含めた日本人たちは「村を支配下に置いたり、一方的に依存させるような支援はしない」と言っているようなものなのだ。
村や私たち村人をひとつの集団や個人として、対等の立場で接するとヒデアキは遠回しに言っているのだ。
だから彼の言葉を見たエマは胸が熱くなるのを感じたのだった。
エマ「この人たちはとてつもなく紳士的で、欲がなく、そして愚かだ。
やろうと思えばおそらく村や私たちを支配下に置くことも出来るだろうに、それをしないばかりか、対等な人として接してくれようとまでしている際限のないお人好しだ。
だがこの場合の愚かやお人好しは悪い意味で使っているのではない。
私は初めて彼らに会ったとき神の国から来た神の使いなのか聞いたことがあるが、彼は違うと言った。でも彼らは本当は神の使いなのかもしれないね」
エマはヴィルマに対して日本人には意味が伝わらないよう敢えて現地語でそう話したのだ。
ヴィルマはエマの言葉を聞いてやっとヒデアキの言ってきたことの意味が分かった。
だが、彼女にはまだ分からないことがあった。
今、彼女の隣にいる「マサヒコ」と名乗るこの若くて見たことまでない髪の色をした、少し線の細いイケメンの男は、なぜ初めて自分と会ったときにプロポーズをしてきたのか?ということだ。
初めて会ったときや三日前に会った時着ていた貴族風の正装ではなく、彼が今着ている服はこれまで見たことまでないような緑色のまだら色の服だが、これはおそらくは彼らの国の戦闘服なのだろう。
つまり彼は「騎士」でもあるのだ。
鉄の馬を自在に乗りこなす、私にとっての「白馬の王子様」は歴戦の勇者ということなのだろうか?
ヴィルマはここ数日、マサヒコが帰ってしまい彼女に顔を見せない間、彼のことをグルグルと考え続けていた。
彼らが来る前は村は絶望感に包まれていた。
次に前回襲ってきた騎馬兵たちがまた来たら今度はもっと酷い目に遭わされる…
そんな中、「彼」は現れた。
見たこともないような正装をした彼はいきなり私にバラの花束を渡しプロポーズまでしてきた。
しばらく混乱していた、意味がわからなかった。
次に彼が来たときはなんと白の鉄の馬に乗った彼が現れた。
そしてその鉄の馬には私の名前の頭文字の「W」まで描かれていた。
(これは結局、勘違いだったみたいだが)
だが、それでも私にとって彼は明確な運命の相手だと感じた。
この暗黒の世界から抜け出して、どこか明るい世界へと導いてくれる大事な存在。
彼が行くところは何処にでも付いていきたい、そう思うヴィルマなのであった。
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