巻き込まれた親父
ある日、親父の山で遊んでいたら突然、異世界と思われる世界へと繋がっていたことに気が付いた源雅彦。
繋がった先は壁で覆われた小さな村を見下ろす丘の上だった。
夕焼けの中で浮かび上がるその村と牧歌的な風景は日本では見かけられないものであった。
日本側の鉱山があった場所も田舎と言えば田舎なのだが、村の周囲を壁で囲っている所など見たことがない。
これだけでも明らかに「ここは外敵が存在する場所なのだ」と伝わってくる。
ランクルの荷台にはサバゲで使っている双眼鏡が載っていたので取り出してその村を観察してみた。
いくつかの家からは炊事の煙がたなびき、人の生活が営まれていることが分かった。
しばらく覗いていると村の正面の門の前に2人の守衛と思われる人物を発見した。
遠目にも若い女性と分かるが、二人とも髪の色が明らかに日本人とは違い、金髪かそれに近い明るい色をしていた。
彼女達は手に槍を持ち、皮鎧と思われる装備を着ていた。
村の中にも数名の人を見つけたが、子供以外は全て女性と思われた。
このまま村に行ってみようか?とふと思ったが、守衛の女性たちのただならぬ雰囲気を感じ、ここは慎重に事を進めようと思った。
丘の上から下までは数百メートル離れているので幸い、こちらの姿は見えないらしく発見されていない。
雅彦はランクルに戻り、日本側へと戻ることにした。
戻るとそこはいつもの鉱山の事務所の裏に抜ける道で、後ろを振り返っても別段おかしな様子はなかった。
さて、正直、判断に迷うな…。
どうしよう?
いつもなら割とポンポンと考えなしに事を進める傾向の強い男だったのだが、この時ばかりは慎重になっていた。
そうだ、もう少ししたら親父が事務所に来ると言っていたので彼の意見も聞いてみよう。
そういえばアチラの世界では夕方だが、こちらはまた昼間ってことは時差があるみたいだ。
仮に数時間前の世界と繋がっているとして、日本より東になるってことかな?
具体的にいうと日本とハワイの真ん中辺りか?
いや、そもそも今の地球上であんな場所があるとは聞いたことがないぞ??
試したい事があったので、雅彦はまた異世界側に戻ってみた。
当たり前のように丘の上にたどり着いた彼はポケットから携帯電話を取り出した。
…やはり電波が全く届いていない。
まぁでも動画くらいは撮れるだろうと思い、しばらく村や周囲の風景をスマホで録画してみた。
日も陰り、村の家屋からはほのかな明かりが見え始めた。
雅彦は日本側に戻り、事務所に入ってみると親父こと小畑秀明がちょうど帰ってきていた所だった。
主人公の雅彦と秀明は実の親子であるのだが、姓が違うのは事情があるのだが、またいずれ理由は説明したい。
雅彦はソファでくつろいでいる親父に彼のスマホの先程撮った動画を見せた。
なんやねんそれ?みたいな顔でスマホの画面を興味薄げに眺めていた秀明。
「この場所はどこにあると思う?」と聞いてみた。
「さあ、知らないがどこの海外だ?ヨーロッパのど田舎か?現代のものとは思えないが映画のワンシーンか何かか?」
言われてみればなるほど、中世ヨーロッパのファンタジー物の映画で見かけるような風景だ。
「いや、ここから歩いて10分の距離にあるんだぜ?親父も行ってみるか?」
何馬鹿なことを言ってるんだコイツ?と思いながらも、またどうせ四駆用のコースをユンボでイジってみたとかそんなんだろうと、秀明は雅彦の後について例の山道に入っていった。
「おいおい、普通の林道を耕したんじゃないだろうな?」と言った瞬間、目の前を歩いていた雅彦が急に消えた。
驚いた秀明はさっきまで雅彦が歩いていた所に駆け寄ったが、頭がくらっとしたと思ったら、見知らぬ場所に立っていた。
先ほどまでまだ明るかったが、急に暗い世界にいて、空を見上げると日本では見ることが出来ないほどくっきりと天の川が頭上に映し出されていた。
しばらくその壮大な風景に圧倒される秀明。
「な?変な場所に繋がっているだろ?」
屈託のない笑顔で話す雅彦。
真後ろを振り返るが今来た道はどこにもなく、ただ丘の上の草原が一面に広がっていた。
雅彦が歩いていくのでついて行くと、丘の下の村が見えてきた。
なるほどさっきスマホの動画で見せられた風景そのままだ。
「親父、どう思う?」
さすがの常識外の出来事に返答に窮する秀明。
秀明 「いつ、これを見つけたんだ?」
雅彦「いや、ついさっき。四時間ほど前、ランクルでここに来ちゃった」
秀明「体調とかは問題ないのか?」
雅彦「特に問題ないよ。それよかあの村どうしてみる?早速お宅訪問してみる?」
秀明「今行っても門が閉じられているだろう?行くとしたら日が昇ってからだが、情報があまりにも少ないし、仮に彼らが野蛮な民族だったらどうするよ?慎重に調べた方がいいぞ」
そりゃあそうだよね、ってことで2人は日本側に戻り作戦会議を開いた。
雅彦は明日、 普通にトラックに乗る仕事があるので明日は親父が異世界と思われる場所を偵察することにして、飯だけ食べて自分が住むアパートへ戻っていった。
翌日、雅彦は早速会社で上司の配車係の男を捕まえて、「親父の鉱山の手伝いをすることになったから週休三日にして欲しい」と頼み込んだ。
運送業界というのは、特に若手で大型に乗れる人材が枯渇していることもあり、配車係の上司は頑強に抵抗した。
だが雅彦はそれ以上に強引に「休ませてくれなければ会社を辞める」と主張した。
しまいには普段顔を全く見ることがない所長や社長まで出てきて説得に当たろうとするが、ガンとして首を縦に振ろうとしない雅彦。
結局、辞めてもらうと困るってこともあり、雅彦の要求はあっさり飲まれるのであった。
その日の夜、眠っていた雅彦はおかしな夢を見た。
『救ってやれ…』
草原の中で立っている男は腰に日本刀と思われる刀を差して雅彦に向かって語りかけてきた。
『お前が救ってやれ…』
風景ははっきり見えるのに、不思議と顔だけがはっきり見えないが、不思議と見慣れた雰囲気を持つ男であった。
雅彦「あ、あんたは誰だよ?救うってどういうことだよ?」
男は雅彦の言葉には反応せず、くるりと背を向けるとゆっくり歩き出しながら、最後の言葉を残した。
『お前がこの世界の最後の希望だ、雅彦よ。
我が末裔よ…任せたぞ……』
そこで雅彦は、パッと目が覚めた。
なんだったんだ、今の生々しい夢は?
真っ暗な部屋で先程見た夢の意味を思い返す雅彦だった。
ふとしたことで異世界と繋がっていたことに気が付いた雅彦、それに巻き込まれた鉱山のオーナーで彼の親父の秀明。
雅彦がさっさと休みを増やす交渉を済ませている間に秀明は何をしていたのか?
彼らならではの「異世界攻略法」を見せていきます。
次回もお楽しみに!
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