ヤベェ事になったかもしれんぞ
日本の鉱山に帰ってきた三人は、ランクルに積んでいたキャンプ用品などを倉庫に戻して、いつものように事務所に集まってそれぞれの情報を持ち寄ることにした。
口火を開いたのは親父の小畑 秀明で、村長のエマから聞いたスピスカ=ノヴァの歴史、自国や敵国の情報などを手短かに伝えた。
それと、あの村は二年前に隣国のドラゴニアの侵攻を受けていて、その時に村の男性がほぼ皆殺しに遭っているということを正直に伝えた。
また、村の女性の多くも暴行を受けたということも息子二人に話した。
「えっ…」
ドン引きする二人。
秀明「いいか、あちらの世界は俺らが想像しているより遥かに危険な状況に陥っているということを忘れてはいけないぞ。
とりあえず言えることは、どんなに彼女たちに魅力があっても、安請け合いは絶対にするなよ」
そんな中、この物語の主人公でもある長男で今年25歳になる源 雅彦は、
「ヤベェことになったかもしれん」と言った。
「村人一号とか二号とか言ってた最初に僕らが話しかけた守衛の女の子がいたやん?
彼女のロングヘヤーの子の方に言われたんやけど、僕が彼女にプロポーズしていたみたいなんよー、あはははは」
はっ???
とお互いの顔を見合う秀明と比呂。
比呂「兄貴、何してんの?」
雅彦「いやいや、ヒロも初めてあの子たちに話しかけた時、あの場所にいたやん?
渡したプレゼントの中に薔薇の花束があったやろ。
アレってこちらの世界では王族とか貴族とかが行う正式なプロポーズってことみたいやぞ?」
もはやどこの国の方言やねん、みたいなヘンテコな言葉でアタフタ話す雅彦であった。
秀明はそれを聞いて冷や汗が出た。
というのも、彼自身がホームセンターで村に持っていくプレゼントとかを買い出しした際に適当に買った物の中に薔薇の花束が確かにあったからだ。
おいおい、原因を作ったのは俺かよ?
確か当時の様子を思い返したら、雅彦が彼女たちに薔薇の花束をプレゼントしていたのを見て笑いを堪えていたのを思い出した。
よく知っていたハズだが、やはり文化の違いってのはおそらしい…。
比呂「アニキ、やったな。結婚しちゃえよ」
雅彦「アホか!オレは女より四駆なんだよ!」
とか言いながらまたじゃれあう二人であった。
そのいつもの様子を見ながら、こりゃマジで不味いことになったな、と思う秀明であった。
秀明「よもや彼女と正式に婚約したとかじゃないよな?」
雅彦「今はまだお互いのことを知らないから、結婚だとかはまた後でゆっくり話し合おう、と引き伸ばしているで」
とのことだった。断ってねぇのかよ。
雅彦「いや、おかげでヴィルマから頬を引っ叩かれたんだぞ!」
たしかに左の頬に手形らしき跡がクッキリと残ってしまっている。
それを見て、秀明は嫌なことを思い出してしまった。
秀明の元嫁、つまり雅彦や比呂の実の母親もなかなかにしてハッキリとした性格の女性だったからだ。
秀明は以前、雅彦に対して「お前が結婚する相手はお前のお母ちゃんみたいにキツい女性になるんだろうぜ?」と冗談交じりに言ったことがある。
その時は雅彦は「俺はオヤジと違って可愛い、優しい女の子と結婚するわ!」などと言っていたのだが、よもやこんなことで彼の予言は的中することになるとは思わなかった。
いやいや、まだくっ付くと決まった訳じゃないし、あちらの世界とこれが原因でなし崩し的にズブズブの関係になるのはあまりにも危険過ぎるぞ、と思うのだ。
秀明「まあ、その、なんだ?どんなに迫られてもしばらくは話を前に進めるなよ?」
それに対して分かったと返事する雅彦だった。
が、秀明は知っていた。
そういう女性は極めて押しが強いということを。
また魅力的だということを。
迫ってくる女性がブサイクならまだしも、モデルかと言わんばかりの強烈なスタイルで日本人が弱い金髪で、しかも性格の優しい男にとって最大の弱点のツンデレキャラとか、もうどうにもならないんじゃないか?
自分自身も過去に似たような経験をしたのでよく分かっているのだ。
(自分の時の相手は日本人女性だったけど)
まあ、とりあえずはこの話は置いておいて、次の話に進めよう。
ここで、次男坊で今年二十歳になった源 比呂が発言した。
比呂「これを見てくれ」
と彼がポケットから取り出したのは金色をした掌にちょうど収まるサイズの塊であった。
雅彦「なんだ、これ?まさか金か?」
その通り、そのまさかだ。
比呂は村長の娘のアレクシアとの顛末を二人に話して聞かせた。
村の中央の大きな建物の裏にある小さな倉庫の地下室に金と思われる鉱物が隠されていて、これらを元手にして比呂たち日本人に村を守るための武器を調達してもらいたいとのことだった。
秀明「それは本当に金なんか?」
比呂「含有量は分からないけど金であることは間違いないみたいだよ。
これらは村の特産物の一つで、元々はこれを商人に売ることで食料や生活必需品を買っていたそうだ。
ただ、最近は治安が悪化したので商人が村に来なくなってしまい、それらの入手が困難になっているらしいよ」
雅彦「これ、どうしたの?貰ったの?」
比呂「いや、借りただけ。そもそもコレが金だとしたらどのくらいの価値があると思う?」
雅彦「さあ、知らん!」
比呂「いや、知らんぢゃねえし!仮に純金で500gだとすると、今、日本での金の取引は1グラムあたり7000円程度なんで、安く見積もっても350万円もするんだぞ」
雅彦「マジか!ランクル買ってくる!」
比呂「ランクルとか買ってんじゃねえし!」
雅彦は比呂からその塊を受け取ると、案外重いんだなと感想を言った。
そりゃそうだ、地球上の鉱物の中でも最も比重が大きい物質だからな。
脳みそまでランクル菌に侵されてるのかよ、というツッコミを受けてまたじゃれ合う二人であった。
秀明は二人から金塊を受け取ると、この換金の方法を考えた。
街によくある貴金属店などでよく金製品の買取はしているが、あれはあくまでも金のインゴットや金製品を買い取るサービスなので、コレみたいな鉱物の状態での買取はおそらくしてくれないか若しくは恐ろしく安く買い叩かれるだろうと思った。
実は秀明にはこれを換金するアテに心当たりがあった。
彼の身内に電子機器などに含まれる金を抽出して金のインゴットを生産している会社があったからだ。
その会社の創業者は秀明の祖父で、今は秀明の叔父さんにあたる人が経営者になっているハズだった。
会社自体は非常にデカく、工場は全国に点在していたが、金のインゴット生産工場は瀬戸内海の島にあったんじゃなかったか?と思うのだった。
秀明の鉱山も元々は祖父が拓いたものであったが、彼の会社も一応、その祖父が一代で立ち上げた川北財閥の一員でもあった。
金のインゴットを作っている工場は川北マテリアルという会社で、金以外にもあらゆる素材を生産している会社で系列には自衛隊に戦闘機や戦車などを納入している川北重工や、何やら最近は核融合などの研究やミドリムシを使った燃料の生産などで知られている川北エナジーなどが含まれていた。
爺さんとその川北の初代が川北マテリアルの共同創業者だったハズなのだが詳しくは知らない。
まあ、あそこの社長とは葬式とかで顔をよく合わせるし、今回の話を持ち込んでも特に危なくなることにはならないだろう、と思った。
秀明「とりあえずその金塊は俺が預かるわ、金の成分検査と安全な換金先を大至急、調べてくる」
比呂「頼むわ、親父」
雅彦「あった金はそれだけ?」
比呂「いや、俺が見ただけで軽く100キロ程度はあると思う」
100キロだと!!
7億円分の金があちらの世界にはあることになるで!と驚く秀明と雅彦であった。
比呂はさらに話を続けた。
おそらくあちらの世界で金の価値は低い、少なくともあの村ではこちらの価値では14万円くらいする金が1万円程度の物としか交換出来ないようだった。
丘の横に小川が流れていて、少し上流に行った辺りは砂金が取れるらしい。
本気で採掘したらもっと出てくる可能性もある。
村長の許可が出るのなら、親父の鉱山で使ってる採掘機材やダイナマイトを異世界に持ち込んで採掘させてもらえばいいんじゃないか?と言った。
秀明はそれを聞いて、おいおいそんな事していいのか?と思った。
そりゃこの会社は一時期、完全に傾いていてリストラで辛うじて生き延びたゾンビ企業であることは間違いないのでお金が手に入るというなら喉から手が出るほど欲しい。
お金に対しては人以上に苦労させられた秀明なのでそれは本当に心の底からそう思う。
だけど、「出来るからと言って何でもしていいとは限らない」と先日彼が息子たちに言ったのもまた本心であった。
ひと昔前の秀明なら、この一攫千金の話にはすぐ飛びついただろうが、彼の人生の目的はもう金儲けではなかった。
息子二人に自慢出来るものを遺すことだったのだ。
比呂の話が本当だとして、おそらく我々が異世界の住人から暴利を貪ることは容易いことに思えた。
その7億円分の金をこちらで換金しておいて村には日本で手に入る珍しいものを数百万円分くらい渡してやればいいだけだからだ。
おそらくそれでもこれだけ文明の差があればアチラの世界では喜んでもらえるだろう。
だが、それは決してしてはいけない事だ。
少なくとも息子たち二人には見せてはいけない事だ。
秀明は言った。
「異世界で手に入る金で大金が手に入るかどうか分からないが、あくまで我々と村人の双方にちゃんと公平になる取引でいくぞ」
親父らしいな、と頷く二人であった。
「お金の問題」というものは、いつの時代もどこに住んでいても逃げることは出来ません。
特に「開拓」ともなると膨大な資金の調達は必須となってきます。
お金の問題を解決した後、開拓の物語は急激に進んでいくことになります。
次回は更に武器の調達という大事な話となってきます!
お楽しみに!
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