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村の伝承

スピスカ=ノヴァという村は、伝承では元々は城であった場所なのだそうだ。


ただ、この場所の言葉の意味は失われていて元々の意味は村長のエマにも分からないのだという。


秀明もそういえばドイツ語っぽい地名ではないよな、とは思っていたが、「スピシー」とか「スピシュカ」などという言葉はスロバキアにあるみたいで、「城」という意味なのだそうだ。


(スロバキア語はスマホの翻訳ではイマイチよく分からない)


このスピスカ=ノヴァという村も明らかに砦の跡に作られた村で、雅彦が見つけた日本との通路も村の隣の丘の上にある。


その丘の上には日本の城でいうところの天守閣のような建物があったであろう跡があるので、昔はかなり広大な領域を壁で囲い、防衛の拠点にしていたのだと思われた。


エマが知る範囲では村は200年ほど前には存在していて、村人の先祖は南方から流れてきてここに定住したのだという。


宗教は厳密に言うとキリスト教ではなく、天使を崇拝する宗教のようだ。


村の広場のベンチの手すりにはめ込まれている金のメダルを見ると、何やら翼の生えた天使の像が刻印されていた。


エマ曰く「ミカエル様」とのことなので、ミカエル教とでも言うのだろう。


秀明はキリスト教には詳しくはないのだが、ミカエル(ミヒャエル)は有名なキリスト教の上級天使の名前なので、少なくともいくらかはキリスト教の影響を受けていることには間違いなさそうだ。


村の中心に建つ一番大きな建物は教会らしく、以前は司祭もおられて村人の信仰を集めていたのだが、二年前の襲撃で司祭も殺されて略奪され、現在はほぼ建物のみ存在しているのだという。


集会が開かれる場合や、天気が悪い日に村人が集まる際にはその建物が集会所に使われるのだそうだ。


「二年前の襲撃」という言葉が出てきたので秀明はエマにこのことを詳しく聞いた。


エマは暗い表情になり、しばらく黙り込んでいたが、スマホにタイプを始めた。


襲ってきたのは隣国のドラゴニアと呼ばれている国の正規兵だと思われるのだと言う。


というのも残された敵兵の甲冑にドラゴニアの「龍」の紋章が残されていたからだ。


「ドラゴニア」という言葉を聞いて「ファンタジー感のある単語だな」などと思いながら話を続けてもらった。


エマ「その襲撃で村の男性の大半は殺され、残って戦った女性の多くは暴行を受けました。


私の旦那は元々、村長をしていたのですがその襲撃で亡くなったのです。


そこで私が彼の跡を継いで今は村長の役目をしているのです。」


秀明は、うわっ聞いてはいけないことを聞いてしまったんだな、と思ったので、「辛いことを思い出させてしまい申し訳ありませんでした」と詫びた。


エマは秀明の言葉を読んで、首を軽く横に振り気にしないでいいと伝えた。


エマ「襲撃があってから村では緊張が続いています。先程矢を射かけてしまったのも緊張が原因です。申し訳ありませんでした」


深々と頭を下げるのだった。


秀明は「気にしないで下さい、あの矢の跡は記念に保存しておきます」と書いたらエマは笑っていた。


エマは広場の真ん中でぐるぐる走り回っているランクルを見ながら秀明に質問した。


エマ「それにしてもあの荷車はどうやって動いているのですか?馬もいないのに?」


秀明「エンジンという物が載っていて、それが出すチカラで車を動かしているんてます」


まあこんな説明では分からないだろうな、と苦笑する秀明だった。


エマ「凄いですね、千年後の世界にはあのような乗り物がたくさんあるんですね」


秀明「あれは地面の上しか移動出来ませんが、海の上や空を飛ぶ乗り物もありますよ」


ここで宇宙も…などと言ったら話がややこしくなるのであえて言わない。


「あのような乗り物は私の国だけで何千万台もあります」


はあ~とため息をひとつ吐いて、


「一度私もその世界を見てみたいですね」


と遠い目をしながら言うエマであった。


....................................


ある程度、村の人々との親睦が深まったので秀明は息子二人にそろそろ日本に帰ろうと言った。


「おう」と応じて、それぞれ帰る準備を始めた。


立ち上がった秀明はエマに対して「また来ます。その時はまた私どもの国のお土産を持ってきますので楽しみにして下さいね」と伝えた。


エマは頷きながら「楽しみに待っています」と応えた。


バーベキューや寸胴を手際よく片付けていく雅彦と比呂の二人、展開するのも早かったが、撤収準備もまた早かった。


親父の最終兵器のドラゴンスレイヤーという名前のバーベキュー用鉄板はワイヤーブラシで大きな汚れは落とされ、キッチンペーパーで綺麗に仕上げされて親父のランクルの背面タイヤに取り付けられた。


ドラム缶を縦に半分に切った中に残された炭は広場中央のキャンプファイヤーの中に入れられ、これもランクルの荷台に放り込まれた。


残された汁や多少の残飯は持ってきたビニール袋に入れられ、ランクルの後部のピントルフックに引っ掛けて持ち帰る。


細かい道具や折りたたみ椅子なども全て放り込まれて、あっという間に撤収準備は整った。


雅彦の処に歩み寄るヴィルマ。


彼に対して「次はいつ来るの?」と聞いてくるので、「早ければ3日後にまた来る」と伝える雅彦。


3日後というのは彼の次の休みの日であった。


比呂はエマの娘でもあるアレクシアの姿を探した。


アレクシアは同年代と思われる若い歳の女の子のグループ内にいたが、比呂が彼女を探しているのを察したのか、走り寄ってきた。


比呂「例の(ゴールド)はお借りします。調査が終わったら必ず返却しますね」と伝え、それに対してアレクシアは「はい、お待ちしています」と返事を書いた。


彼らの片付けが終わったのを確認した秀明は、では帰ります。と伝えた。


エマは一瞬、何か言いたそうな表情をしたが、思い直した様子で彼に対して「アウフ ヴィーダーゼーエン」とスマホを使わずに直接話した。


秀明もそれに対して同じ言葉で応えたのであった。


門に向かったヴィルマとイングリットが門を開いてくれたので、二台のランクルは丘の上にゆっくりと帰っていった。


雅彦や比呂も覚えたてのドイツ語の「さようなら」という意味の「Auf Wiedersehen! (アウフ ヴィーダーゼーエン)」を連呼しながら村人に対して手を振った。


村人たちもサヨナラを連呼して彼らに手を振って見送った。


ワイワイと村の中に戻っていく村人であったが、エマと娘のアレクシアの二人は門の外で彼らが消えた丘の上の辺りを見ながら、


アレクシア「お母さん、彼らに助けてもらうように頼めたの?」


エマ「ううん、頼めなかった」


そんな会話を交わし二人はその場で佇むのであった。






少しずつこの村(スピスカ=ノヴァ)とこちらの国(ビスマルク王国)、さらには凶暴な敵国であるドラゴニアという国家がスピスカ=ノヴァの西に迫ってきているという事が分かってきました。


村のピリピリとした雰囲気は敵国による圧力が原因だったわけですが、日本人たちはこの後、こちらの世界をどうしていくつもりなのか、それは次回で明らかになってきます。


お楽しみに!


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