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槍衾(やりぶすま)とシルトロン隊形

雅彦「ゲルハルト、戦況はどんな感じだ?」


雅彦たち本隊と第一遊撃隊はクルマ全体をゲルハルトの第二遊撃隊のクルマと同様に木の枝や偽装用のシートでモフモフ状態となってクロンパキー南方5キロの地点の小さな森の中で潜んでいた。


無線に出たゲルハルトの声で戦況は良好なことがすぐにわかった。


ゲルハルト「我が主人(あるじ)、ドラゴニア騎兵の最初の攻撃は撃退しました。

予想通り、南方の橋から攻めて来ましたが、鉄条網と長槍で返り討ちです。

味方の損耗はありませんでしたぜ」


雅彦「了解、今のところ予定通りだな、引き続き頑張ってくれ」


ゲルハルト「分かりました」


無線機を置いて、雅彦は比呂に向けて直接話しかけた。


雅彦「ヒロ、予想通りに進んでいるみたいだな。

でもなんでドラゴニア騎兵はこちらの掌の上で踊ってるんだ?」


比呂「一日で60キロの距離を一気に進軍してくるとは敵は全く予想してなかったと思うぜ。

だからこそ、冷静な判断力が発揮されてないんだよ。

無理して進軍させたのは、そのためさ」


雅彦「なるほど、よく考えたもんだな」


比呂「何のことはない、歴史をほじくりかえしてみればこういう事例は結構あるんだよ。

秀吉の中国大返しとかはその一例さ。

一週間で岡山から京都に軍団が丸ごと一つ移動してくるなんて桔梗屋(きんかんあたま)はさぞ驚いたことだろうねぇ。

それで秀吉は主導権を握れたんだよ」


雅彦「200キロの距離か。大型トラックに乗っていてもあまり走りたくない距離だな。

それにしてもよく重装備の歩兵が一日30キロ平均で進めたもんだよな、俺なら無理だぜ」


比呂「足腰の強い農民兵が多かったというのもあると思うけど、案外、重い装備や武器は海路で大阪に送ったんじゃないかな?

それなら褌一丁(ふんどしいっちょう)で身軽にマラソンしているようなもんじゃないの?」


雅彦「それならまだ分かるかもな。

でも、今回の強行軍はグリステン兵士は大変だったろうねぇ。

密閉された4トントラックに多分、ギュウギュウ詰めだよ?

俺は絶対乗りたくないね!」


比呂「同感やな、発案したオレもやだもん」


雅彦「まぁ、これでクロンパキーの目と鼻の先に陣地を構築されたことでドラゴニア軍は無視できなくなりましたとさ。

で、ムキになって襲いかかってくるんだけど、有刺鉄線の鉄条網と、鉄パイプ長槍のコラボでビシバシ叩きのめされて一時後退してしまうと。

次は遠巻きにして矢による遠距離攻撃かな」


比呂「その予定だね。だけどオレらが送り込んでおいた大量の竹の束があるので、それで盾を作っておけば、一方向からの矢の雨程度は避けるのは簡単だね。

効果がないことをアピールさせれば、敵はまた別の手を打ってくるよ」


雅彦「それが敵軍が東側へ移動して、罠や柵がなさそうな所から接近戦を挑んでくる段階やな」


比呂「そーゆーことだね。そこまでは読めてるんだよ。

このまま南から力攻めしてもいいけど、下手すると敵はそれだけで壊滅するかもしれないから、さすがにそれはないと思われ」


雅彦「よし、それはまた報告を期待しよう。オレらは夜になるのを待って侵攻を開始するぞ。


全員、聞いてくれ!!


ゲルハルトたちは予定通り順調に戦っているぞ。


派手に暴れてくれているので、我らは深夜になるのを待ち、クロンパキー村へ突入する。


前回の襲撃とは違い、今回はなるべくこっそりと押し入るぞ。


アレクシアはドローンを飛ばし、敵の軍の配置や坑道の出口の位置の確認と、付近に増援などがないか調べてくれ。


我々の目的はクロンパキーにいるドラゴニアの東部戦区の第二軍の司令官を倒し、坑道内にいると思われるゴーレムを排除することだ。


今回は、おそらく四駆の侵攻を防ぐなんらかの手段が多く施されている可能性が高い。


つまり、接近戦となる可能性もあるので各員、十分注意してくれ。


また、今回はなるべく固まって戦うので、極力単独行動は取らないように。


対ゴーレム戦法は後ほど説明する」


こうして雅彦たちは夜まで休憩に入るのであった。



一方、ゲルハルト率いる第二遊撃隊の面々は森の中にランクルを隠蔽させて、木の陰から戦況を観察していた。


レベッカ「ははっ、ホントに矢の雨降らしてるよ、アイツら!」


ゲルハルト「あの程度の距離が離れてしまうと、矢は真横からは飛んで来ないのでいくらでも防ぎ様があるな。

盾の下で大人しくしとけばいい、バカ話でもしときながらな!」


ヴァイキングたちにとって戦場はいつもの職場なんでこういう雰囲気にも慣れたもんである。


他の隊員たちも寝転がって昼寝している猛者(もさ)までいた。


ある者は武器の手入れをしながら、ある者は飯を食いながら、ある者は鎧の補修をしながら時間を潰していた。


一見すると緩んだように見えるが、号令一下、即動ける体制をとっているのはさすがといえた。


「ニホンジンの旦那たちに仕えるようになって、連戦連勝、ここまで一方的な戦いが続くと負け戦が恋しくなるね」


「おー、周りの部隊が次々とやられる中、オレらの部隊だけ逃げ帰っていた頃が懐かしいぜー」


「それにしてもヒロサンだっけ?今回の戦術考えついたの。

俺は頭悪いからよく分かんないけど、ずっとこっちのペースみたいだな。

こういう時は大抵、こっちが勝つぜ。

なんなら1000エン賭けてもいいぜ?」


「バカやろ、今、負けに張る奴がどこにいるんだよ?

賭けが成立しねぇじゃねぇか。

ノータリンはどこまでいってもノータリンだな?」


「うるせえ、テメェこそあの矢の雨の中を裸で走らせるぞ、ゴラァ?!」


ゲルハルト「はいはい、バカなことする奴はヴォルフラムとタイマン張ってもらいますよー」


レベッカ「お?!矢の雨が弱まってきたよ?

敵の動きがありそうだね」


ゲルハルトは借りていた電動ドローンを飛ばして上空から敵の様子を観察することにした。


ランクルのモニターに映し出される映像からは、下馬した重装歩兵が盾を並べて接近してこようとしている様子が映し出された。


ゲルハルト「リンツ卿!下馬した重装歩兵が侵攻を開始しましたぜ、注意してくだせぇ」


リンツ「了解した」


リンツ卿は盾の陰で休んでいた部隊長を呼んで迎撃の指示を与えた。


それぞれの部隊へと戻っていく百人隊の隊長たち。


木の枝に覆われた鉄条網の柵をかわしながら盾を構えてジワジワと進んでくる重装歩兵たち。


彼らは金属製のフルプレートアーマーに身を包んでいるので多少の矢や投石などは弾き返すほどの防御力を持っていた。


敵が槍衾(シルトロン)で攻撃してくるなら、盾で防ぎつつ、接近して懐に飛び込み、槍を剣で切断してやれば長槍部隊など簡単に倒せる。


このような判断が出来るということは敵の司令官は無能ではなかった。


だが、その有能さがここでは脚をとられる原因になった。


まず彼らが接近して驚いたのは、矢が一本も飛んで来ないことだった。


これはなんかおかしいぞ?と思い始めた頃、最前列で異変が起こった。


突然転倒したりうずくまる兵士が続出したからだ。


地面には足首の高さで草の中に隠されていた有刺鉄線が真横に張られていたのだ。


これは他の有刺鉄線のように針が飛び出しているタイプの物ではなく、線自体が剃刀のようになっている物で、触れた物を切り裂くようになっていたからだった。


比較的無防備だった足首辺りを切られた兵士たちは悶絶しながら地面に倒れたのだった。


そこへ襲ってきたのが槍衾(やりぶすま)から繰り出される連続した縦の打撃であった。


盾の陰から飛び出し、横に並んだ兵士たちは全身に小枝や緑の布切れなどでギリースーツのようにモフモフになって隠蔽されていた。


ドラゴニア軍の兵士からすると、苔の塊のような者たちが槍を持って襲い掛かろうとしていたように見えたであろう。


足元の剃刀状の有刺鉄線に気を取られていると、突然頭上から振り下ろされた長槍は、慣性がついたこともあり、盾や金属製の鎧を破壊する威力を見せた。


大混乱に陥る前衛部隊。


それでも前進しようとする重装歩兵もいたが、二撃目、三撃目で次々と地面に叩きつけられていった。


このわずかな間にたちまち多くの死体の山を築いていったのであった。

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[一言] 待ってました「レイザーワイヤー」 最近、有刺鉄線と言えばカミソリワイヤー。 設置も早いし効果も中々。 台湾で対デモ用に設置するところ見てその速さに感動しました。 ついでに設置してたお巡りさん…
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