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バノックバーンの再現とクロンパキー村の奪還

敵の敗残兵はあちこちで見つかり、中には降伏を願い出る者もいた。


怪我をしている者は除き、投降した73名の捕虜たちはヴァイキングたちの監視の元、死体の処理に駆り出された。


特に手間がかかったのは森の中で、クルマなどで死体や動けなくなった者を運ぶわけにもいかないので、人力で森の外に運び出す必要があったからだ。


今回もスピスカ=ノヴァというか屠龍(とりゅう)軍側の怪我人は出なかったが、ドラゴニア軍側は逃げることが出来ない怪我をしている者などが多数いたので負傷者は影山氏と彼の病院のスタッフ2名が治療に当たった。


治療は森から近い場所に建てられたテントの中で行われたのだった。


捕虜に関しては、極一部を除きグリステン領主に引き渡すつもりであった。


昨日のパイネ近郊での戦いでも多数の捕虜を獲得しているし、捕虜を労働者として受け入れると言っていたからだ。


リンツ卿が捕虜を奴隷として使おうとしている事などについて雅彦はどうこう言うつもりはなかった。


他の国の事であるし、元の世界の地球だって奴隷はまだ存在しているし、形を変えた奴隷制は日本ですら残っているからだ。


まぁ、なるべく最低限の人権は守ってもらうよう誘導はしていくつもりだが、こういうのは時間がかかるもんだ。


今後、少しずつ啓蒙していきたい。



雅彦や比呂は先日、リンツ卿や商業ギルドで話し合って決めた事を実行するよう準備を始めた。


今回、二度の戦闘に参加した四台の四駆は、整備士の児玉氏の元で大至急で整備と改修がされることになった。


なんせ6日後にはクロンパキー村でグリステン兵との合同作戦が待っている。


雅彦としては、今回の作戦で森の守備をしていた特殊作戦隊も連れていきたいと思っていた。


今回の作戦は、村の中の建物を検索して残兵を掃討する作戦も含まれるし、何よりもマルレーネが望んでいたからだ。


森の守備は特殊作戦隊では最年長のランス隊の二人に任せることにして、セイバー隊とアーチャー隊の四人がクロンパキー村襲撃作戦に参加することになったのだ。


今回は10台全ての四駆を使う。


今回はグリステン兵との合同作戦だが、一つ確認しなければいけないことがあった。


それは合同作戦を行う情報がドラゴニア側に漏洩するかしないかだ。


前回の合同作戦は急遽、攻撃することが決まったので例えスパイが紛れ込んでいてもドラゴニア側に伝える時間はなかったと思うのだが、今回は一週間も間をおいているのでクロンパキーへの攻撃の情報はスパイ経由でドラゴニア側に伝わっている可能性も高いのだ。


工作員の巣窟となっていたパイネの商業ギルドの面々は雅彦の交渉でこちら側に寝返ったのだが、こちらの味方をしつつも敵側に情報を流す者もいる可能性もあった。


というか、流れるとみておいた方が無難だろう。


情報が流れる前提で動き、さらに敵の裏をかけばいいのだ。


俺がドラゴニア軍の指揮官だとしたら、より弱いと思われるグリステン兵500を合流前に叩く。


そして四駆の部隊は村に引きこもって対処すれば良いと考えるのではないか?


この事を夕飯時に比呂に相談してみたら、


比呂「同感だね。というかわざと500という少ない数字をリンツ卿に要請したのは、てっきり敵を誘い出す罠だと思っていたよ」


雅彦「まぁ、そうなんだけどね。で、当然策は考えてるんだろ?」


比呂「おう、グリステン兵を襲うドラゴニア騎兵を効率よく防ぐ手を打てばいいんだよな?


それなら、以前大量発注しておいた“物”が役に立つね。


戦いが起こる前にグリステン兵士に渡しておけばいいんで、4トントラックにその物資を載せて先行させる。


リンツ卿率いる500人の歩兵は明日の夕方にパイネを出ているハズだからこちらも明日の昼間に出れば夜には合流出来るだろう。


トランシーバーはまだ彼が持っているので連絡は困らないハズだ。


グリステン兵が俺らの設定する戦場に到達するのは2日後だ。


そこまでに俺らも万全の準備をして戦闘に参加するよ」


雅彦「設定する戦場というのはクロンパキーのすぐ近くだよな?


では彼らに防御陣地でも構築させるつもりか?」


比呂「そうだ。一見すると簡単に騎馬兵だけで蹂躙(じゅうりん)できそうな防御陣地を作ってもらう。


ドラゴニア騎兵の猛攻に耐えるだけでなく勝利させて、我らは敵の急所を急襲するわけだね。


今回の戦闘は、1314年、中世イギリスのバノックバーンの戦いを参考にした作戦を立案してみた。


これは弱小のスコットランド軍が強大なイングランド王国軍に勝った戦いだけど、よく調べてみると面白い戦いだよ。


今回、設定している戦場は前回の我々のクロンパキーへの襲撃で敵を振り切った後で通った場所なんだけど、小川と湿地帯があったでしょ?


ここら辺で湿地帯があるのは珍しいのでよく覚えてたんだけど、そこが今回の戦場になる。


クロンパキーの東、1キロあたりだね。


作戦を詳しく言うと(ゴニョゴニョ…)」


    (中略)


雅彦「へぇー、上手くいくもんかね?まあ確かにやれないことは無さそうだからやってみるか。


それだとリンツ卿に作戦を伝える役目がいるな。


俺がそこに行こうか?」


比呂「いや、ゲルハルト率いる第二遊撃隊がどうかな?と思うんだよね。


彼なら戦況に応じて独自の判断で動くことが出来るし、今回の戦闘は接近戦を含むので彼らが適任だわ。


親父の第一遊撃隊と兄貴の本隊の7台は、さらに別の任務があるからね」


雅彦「別の任務とは?」


比呂「クロンパキー村への強行突入と敵指揮官を討ち取る作戦さ。


リンツ卿率いる500とゲルハルトの第二遊撃隊はあくまで陽動作戦で、それらへの襲撃で手薄になったクロンパキー村の敵本陣を急襲するのが本作戦、最大の目的さ。


ポプラトの港湾施設が復旧されて、敵の兵站線が復活してしまう前に、クロンパキー村というチョークポイントを押さえてしまいたいんだよ。


今はドラゴニア本国から細々と送られている増援や補給物資はクロンパキーではなくポプラトに集中しているみたいだからな。


クロンパキーさえ押さえれば、スピスカ=ノヴァとパイネの間の交易ルートの安全がある程度確保出来る。


だが、クロンパキーが敵の拠点として存続した上に10万単位の敵軍か到着してしまうと、交易どころじゃなくなるからね。


今は準備を万全にするより、敵の不備を徹底して突くことが重要だと思うよ」


雅彦「クロンパキー村にいるだろう敵の司令部を叩いてクロンパキー村を奪還するとして、俺らだけで出来るもんかね?


ヴァイキングの主力はリンツ卿と一緒に戦うんでしょ?」


比呂「そこは問題ないさ。


マルレーネ率いる特殊作戦隊の半数が参加するし、占領まではする必要ないからね」


雅彦「占領はリンツ卿たちの到達を待てばいいということか?」


比呂「そゆこと。俺らは徹底して村の内部を蹂躙しとけばいいってことになるね」


雅彦「…分かった、ところでさ。戦後の話なんだけど、クロンパキーの村の防御はどうするつもりだ?


あの村って防壁で囲われているわけでなく、守りにくいと思うんだよね。


そこはプランあるか?」


比呂「もちろんあるよ、というか守れる自信がなければ奪い取ろうとはしないよ。


村の守りは、我々が関所の前で守っている手法がそのまま活かされるね。


ユンボをあそこまで運ぶ段取りが出来たら、土木工事も捗ると思うよ。


ユンボは二台あるから作業も早いハズ。


クロンパキー村までは街道を走れるから普通のトラックでも十分走れるから、ユンボの輸送や食糧の補給なんかも出来る。


あと、クロンパキー村について一つ忘れてない?」


雅彦「忘れてるもの?なんだ?」


比呂「あそこ、石炭の採掘が可能じゃん。ってことはゴーレムが坑道から出てくるんじゃない?


前回は出てくる前に逃げたから会わなかったけど、今回はさすがに出てくるでしょ?


まあゴーレム対策は考えてるからいいんだけどさ。


対策は皆に共有しておかないと、いきなりあんなモンスターが目の前にでてきたらパニックになるぜ」


雅彦「ゴーレム対策はユンボのアームの先端をドラゴンスレイヤーに変えたり、高速徹甲矢砲(エアバリスタ)なんかを考えてたけど、高速徹甲矢砲(エアバリスタ)の効果は未知数、ユンボによるドラゴンスレイヤーは今回は間に合わない。


ユンボをあそこまで運ぶキャリアーの準備が間に合わないよな」


比呂「レンタルでもいいから借りれないかな?そうすればひとまずユンボを先頭に突撃することが出来るんだけどなぁ。


今回、親父が関所の前でユンボによるドラゴンスレイヤーアタックを披露したらしいじゃないか。


今度はクロンパキーで披露したいね」


雅彦「まあ、今回のゴーレム対策はオレに考えがあるから、試してみるぜ」


…こうして夜はふけていくのであった。

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