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ヴィルマの過去

前話の終わりで守衛をしていたヴィルマという女性から「私に婚約(プロポーズ)をしておきながら他の女の話をするなんて許さない」と驚きの言葉を伝えられた雅彦。



「えっ?婚約??」


ヴィルマが見せたスマホの翻訳文を見て凍りつく雅彦。


えっ?どゆこと??


この世界では女の子をクルマに乗せた瞬間に婚約したことにでもなるような恐ろしい文化でも存在するんか?


などと答えの出ないことをグルグル考えていたが、目の前のヴィルマの表情を見ていると冗談で言っていることではなさそうだった。


いやいや、いくら綺麗な人でも婚約とかありえんし。


今はそんなことしてる暇ないし、ここはなんとか誤魔化して後でゆっくり誤解を解けばいいんじゃないか、と考える雅彦であった。


「結婚はさすがにまだ早すぎるから、もう少しお互いのことをよく知ったあとで婚約のことは決めよう」


そう、言葉を一応選んで彼女に伝えた。


「うん、わかりました。だけど無条件で待つわけじゃないんだからね」


と、返事してくるヴィルマ。


いやいや、リアルでツンデレキャラそのままじゃん!と心の中でツッコミを入れる雅彦だった。


…………………………


ヴィルマは今の時点では21歳の独身で子供は居なかった。


二年前までは何をしていたのかというと、普通に家事をしたり、村の前にある畑で作業をしたり、森に入って山菜などの採取をして生活していた。


スピスカ=ノヴァという村は以前は砦があった場所で、村は元々は城の居住区をそのまま使っていた。


村の隣にある丘はその砦の天守閣?とも呼べる建物が昔はあったそうなのだが、今では遺構が少し残っているだけであった。


砦としての機能が残っているのは村の周囲の壁くらいなのだが、少し離れた村から外界に出る狭くなっている場所などには以前は関所が置かれていたそうだ。


ヴィルマには幼い頃から許嫁(婚約者)が居た。


性格の明るい男で彼はこの関所の跡地で簡易的な柵を作り、そこで守衛の仕事をしていた。


ここ数年、盗賊団と思われる商人に偽装した連中が村の近隣を襲っているという情報が入るようになり、万が一のことがあったらマズいだろうということで守衛を置くことになっていたのだ。


ヴィルマの婚約者も腕っぷしを買われ、村の男たちが交替で守衛をすることになっていたのだ。


だが、事件が起きてしまう。


ヴィルマがいつものように村で共同で飼っている鶏の世話をしていたら、関所に置かれていた危険を知らせる鐘が鳴り響いたのだった。


今までそんなことは無かったので、村は騒然となった。


村の男たちは武器を取り門に向かい、女たちは子供と老人を集め、隠されている裏口から村の裏に広がる避難所に彼らをまず送り出したのだった。


女達の一部は男たちに混じって武器を持って応戦した。


ヴィルマも成人していたこともあり、慣れない武器を手に取り戦いに加わった。


その結果は目を覆うばかりのものとなった。


当初、ただの強盗団だと思われていた集団は鎧兜で完全武装した騎馬兵たちだったのだ。


その真っ黒の騎馬兵たちは男ども達が組んだ隊列をあっという間に食い破ったのだ。


ここから先の事はヴィルマはあまり覚えていない。


ただ、村の中を逃げ惑い、複数の男たちに囲まれて乱暴されたことだけはうっすら覚えていた。


気を失っていたヴィルマが目を覚ますと全裸のまま転がされていて、周囲には誰も居なかった。


建物の外にふらふらと出ると、村の建物の多くは破壊され、略奪された跡が残されていた。


避難していた老人たちが戻ってきていて、裸で立ちすくむヴィルマに服を着させてくれた。


ヨロヨロと村の外に出たヴィルマは悲惨な光景を目にする。


大量の村の男たちの死体の山であった。


ここでヴィルマは守衛をしていた婚約者のことを思い出し、裸足のままで村の関所に走っていった。


そこには原型を留めないくらい酷く損傷していた元婚約者の亡骸があったのだった。


初めて絶叫するヴィルマ。


彼女はそこで一晩、元婚約者の亡骸の前で泣き続けたのだった。


ふと気がつくと彼女は自分の家で寝かされていた。


後から聞いた話によると彼女は血塗れで元婚約者の前で気を失っていたのだという。


起きることが出来なかった彼女は三日間寝込んでいたが、痛む身体をおして起き上がり外に出た。


村の中と外は略奪の後は残されていたが、死体の山などは消えていて、男たちは全て村の外れの墓地に埋葬されたのだという。


彼女はその墓地に行き、土下座をしながらこう言うのだった。


「必ず仇は取ります、だからゆっくり休んで下さい」


村では大半の男性が亡くなったことで感傷や悲しみに沈んでいる暇はなかった。


残された女たちは必死で村を立て直そうと働いた。


ヴィルマは元婚約者のあとを継いで守衛となった。


槍は持ったことがなかったが、老人に訓練法を教わりながら、なんとか少しずつ槍の使い方を覚えていった。


守衛にはもう一人、イングリットが就いた。


ヴィルマとイングリットは元々姉妹のように一緒に育った仲で、ヴィルマが守衛になるのを聞きつけて自分も守衛になることを熱望したのだった。


彼女たちは暇さえあれば2人で槍の稽古をし、一緒に走り込みをし、一緒に食事をとり、そして一緒のベッドで寝た。


ヴィルマは例の件以降、一人で寝ると夜中に目が覚めて泣き始めることがあったので見兼ねたイングリットが彼女と一緒に寝るようになったのだった。


久々の安息を得たヴィルマ。


彼女の心にポッカリと空いてしまった穴を埋めたのはイングリットだった。


そんなある日、いつものように彼女と守衛の仕事をしていたら、丘の上から見慣れない髪の色をした男性が駆け下りてきた。


その服装はこれまた見慣れない貴族の正装?のようにも思えるもので、その男はヴィルマに対して満面の笑みをたたえて話しかけてきた。


言葉は全く分からなかったが、武器と思われるものは全く持っていないし、敵意も全く感じられなかった。


あの一件以降、男性がとりあえず怖いと感じていたヴィルマであったが、不思議とこの男に対しては恐怖を感じなかった。


彼はヴィルマに対してポケットの中から何やら小さな食べ物を取り出して差し出した。


エッ、と一瞬たじろいでしまったのを見た彼は、まず自分で食べてみせて大丈夫だと示してくれた。


彼から手渡されたその食べ物は今まで食べたことがない、少し酸っぱくてそして甘い不思議な食べ物だった。


隣で同じ様に食べているイングリットも感動している。


次にその彼がした行為は驚くべきものだった。


なんと薔薇の花束を取り出し、ヴィルマに差し出したのだ。


ヴィルマは薔薇という花を見るのは初めてだったが、村に度々やってくる商人や領主が派遣してくる役人などから、そのような可憐な花が貴族の間で特に珍重されていると聞いたことがあった。


薔薇というのは特に王族が好むとのことで、通貨にはこの薔薇が刻印されているものもあった。


今、目の前に差し出されている花は正にそのコインの裏に刻印されている花と同じものだった。


えっ?このひとは何?


貴族か王族?でも現れたのは丘の上だったし、そもそもこの国の人なの?


分からないけど彼が差し出す花束を一瞬躊躇したのちに受け取った。


この世界では婚約をする際に花束を贈るのが慣習とされていた。


それも赤色が最も良いとされていた。


手に取った花束は王族や貴族を表す薔薇、しかも真紅。


ヴィルマは過去に経験したことがない強烈な感情が沸き起こってくることを感じた。


ポーっとしてしまいこの直後の事は正直覚えていない。


ふと気がつくと「彼」は数々の綺麗な容れ物に入った化粧品を出してきて、真っ赤な口紅をヴィルマの唇に塗り始めたのだ。


あまりの出来事に心臓の音が相手に聞こえるのではないかと思えるほどドキドキした。


気がつくと自分たちの周囲には村の女性たちが集まってきており、その名前も知らない「彼」が贈り物を渡したり、あろうことか自分以外の女の顔に化粧を施しているではないか。


一瞬ムカっとしたが、ここで「彼」は村長のエマと何やら会話を始めた。


よく分からないが、どうやら丘の上から来たなどと言っていたらしい。


帰って行く「彼」を見送ったヴィルマは、村長のエマに「彼は何者だったのでしょうか?」と聞いてみた。


「分からない」と返答するエマ。


だけどひとまず敵ではないみたいね、というエマだったが、でも警戒は続けてね、と念を押されたのだった。


が、すぐ彼女たちが手に持ってある薔薇の花束を見て「えっ、どうしたの、それ?まさか…」と言葉を詰まらせた。


ヴィルマ「はい、私たちプロポーズされたんです」


彼女の言葉に凍りつく村人たちであった。


丘の上に帰っていった彼らを追っかけていた男の子たちが戻ってきたが見失ったという。


それを聞いたエマは、「丘の上に残されている建物の残骸の陰にでも隠れているんじゃないか?」と男の子たちに問いかけたが、隈なくさがしたがどこにも男たちの姿はなかったと言う。


丘の上から先は何もないのでもし丘を越えて向こう側に行ったとしたら見つかるだろうし夢でも見たんじゃないだろうか、とおもった。


エマ、ヴィルマ、イングリットの三人は丘の上にまで登ってみたが当然誰もいなかったが、丘の頂上付近であるものを発見した。


何やら鎖か何かを地面に押し付けたような痕が数本ぐるっと回りある地点で消えていた。


彼女たちは見たことがなかったが、それは雅彦たちのランクルのタイヤの轍のあとだった。


その轍が突然消えている場所まで行ってみたが特に何も起こらなかったのだが、「やはり先ほどの出来事は夢ではなかったんだ」そう思うヴィルマであった。


その唇には真っ赤な口紅が塗られていた。

ツンデレキャラのヴィルマの壮絶な過去話でした。


彼女がなぜ守衛をしていたのか。


なぜ村には男たちがほとんどいないのか。


彼女がなぜ雅彦からプロポーズされたと思ったのかこれで理解できたかと思います。


では、次回もお楽しみに!


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