金塊
安心したのか泣きじゃくるアレクシアを必死でなだめていた比呂であったが、少ししたらやっと収まってくれた。
そこで彼らは広場の明るいところに戻り、親父たちが座っているベンチの反対側に座ってもう少し話を聞くことにした。
まず、比呂が気になったのは金のこの世界での価値であった。
試しに彼女が今着ている、いかにも中世の町娘風の民族衣装?を買うとするなら金はいくら要るのか聞いてみた。
すると、これくらいという感じで指先で2センチくらいの大きさを表現してみせた。
ん??おかしいぞ。
仮に直径2センチの金の塊だとして、どう考えても20gほどはあるだろう。
金は比重がかなり重い金属なんで(化学は結構得意な比呂であった)、もしかすると50g程度もあるのかもしれない。
仮に20gで金の含有量が50%としても、その金の日本での価値はざっと7万円にもなる。
ちなみにこれは控えめな数字なんで倍くらいなる可能性もある。
え?服一着で7万円ってこと?
それはボッタクリ以外の何物でもないんじゃないか?
…いやいや、待てよ。
ボッタクリ価格で売りつけられているのではなく、「ここでは金がバカみたいに採れるから価値が低いのでは?」とも思った。
そこで比呂は彼女に「金は結構採れるの?」と聞いてみたら、「村の子供達がよく小川で集めてるけど、1日やったら、さっきの量程度は集めれるよ」との事だった。
やっぱりだ!
この世界ではおそらく我々の世界とは比べ物にならない程大量に金が採れるせいで特にこの村では価値が暴落しているのだ。
試しに「この世界のお金を見せてもらえる?」と言ってみたら、今は持っていないので家に取りに戻ってくる」と行って走り出した。
広場のベンチで待っていた比呂は、ベンチの手摺りの端に金の細工物が埋め込まれているのを発見した。
なんという贅沢な作りしてんだ?
金の量が多いため日本と比べて価値の暴落を起こしているってことは間違いなさそうだ。
数分もするとアレクシアは息を切らせて帰ってきた。
ゆっくり行って来ればよかったのにと思いながら彼女の出してきた布製の財布の中から出されたこちらの世界の硬貨を見せてもらった。
多くは茶色の水滴型の日本でいうと10円くらいの重さの硬貨で、銀色で円型をしたそれよりやや大きい硬貨などに混じり、明らかに金で出来た五百円硬貨程度の大きさの硬貨なども出てきた。
その金で出来た硬貨にはこちらの世界の誰か知らないが女性の横顔が刻印されていた。
アレクシアにその硬貨の価値を聞いたら、ちょうど先ほど彼女が言った服が買えるほどなのだという。
ちなみにこの通貨の単位を聞いてみた「Phennig」だという。
発音を聞いてみたら「ペニヒ」なのだとか。
ドイツというとてっきりマルクだと思ったらそうではなかったらしい。
で、先程の500円硬貨と同じ大きさの金貨は「1万ペニヒ」なのだという。
先程、彼女が着ている服の値段が約1万ペニヒと言っていたから1円=1ペニヒだと考えたら分かりやすいかな。
日本で女性用の服を上下買ったら1万円くらいするだろう(適当)
仮にだ、日本で1万円出して服を買って、こちらの世界に持ち込んでそれを1万ペニヒで売ったら、この1万ペニヒ硬貨が手に入る。
この金貨は重さでいうと20g程度だと思われるので、仮にこれが24K(純金)だとすると、単純計算で約14万円の価値ってことになるのか。
…うーむ、あまりに凄すぎて考えがまとまらないので後で親父に相談してみよう。
…………………………
比呂がアレクシアから村やこちらの世界の情報を聞き出している間に、広場の真ん中付近ではヴィルマを後部座席に乗せた雅彦がゆっくりと火の周りを廻っていた。
初めて見る車の中からの風景に感動した様子のヴィルマ。
雅彦が運転しているこのランクル73という車は助手席が取り払われているため、後部座席に座るとダッシュボードまでやたらと広い空間が前方に広がっていた。
また、この車の色は白で、ボンネットの上には巨大な「W」の文字の真っ赤なステッカーが貼られていた。
これは親父の昔の知り合いが過去に乗っていた車をそのまま真似たものだった。
後部座席の左後ろに座っていたヴィルマは、雅彦にその文字の意味を聞いた。
「ヴィー」と彼女が連発するため、雅彦は当初なんのことやら分からなかったのだが、車を停めて彼女にスマホを渡して言いたいことを翻訳してもらって初めて意味が分かった。
ヴィルマの名前の綴りは「Wilma」でWから始まるため、この車にもその文字を大きく書いているのか?ということだった。
ん??どういうことだろう??
この文字はウォーン WARN というアメリカの有名ウインチメーカーのステッカーで、貼ったのもかれこれ三年ほど前だったので、当然ヴィルマとは関係ない。
「いや、これはWARNのWだよ」と翻訳したドイツ語を見せたら、彼女の表情はキッと変わって何やら厳しそうな言葉を雅彦に投げかけたと思ったら雅彦の頬を勢いよく張り飛ばした。
あまりの超展開に呆気に取られる雅彦。
心の中では「親父にも殴られたことがないのに!」とか思いながら、なんで怒っているのか聞き出そうとするが、ヴィルマはクルマから降りようと助手席のドアを内側からバンバン叩いて開けようとした。
まあとりあえず落ち着こう?となんとかなだめる雅彦。
暴れる彼女の両腕を掴み、ドアを叩くのはやめさせようと強引に彼女の動きを止めようとするが、弾みで彼女を抱きしめてしまう。
ハッと頬を赤らめ動きを止めるヴィルマと雅彦。
二人の顔はお互いの息づかいを感じられるほどの距離に近づいていた。
「やば!セクハラじゃん!!」と慌てて彼女をゆっくり優しく後部座席に戻した。
ひとつため息を吐き、雅彦は「何を怒っているの?」とスマホで翻訳した画面を彼女に見せた。
ヴィルマはそのスマホを受け取り「私以外の女の名前?」と表示したスマホを雅彦に見せた。
ああ、ウォーン社の名前を人の名前と勘違いしたのね、でもそれって怒るようなこと?
疑問に思っていたらヴィルマは再度スマホで翻訳した別の文章を雅彦に見せた。
そこには「私に求婚したのに別の女の話をするなんて許せない」と心臓が凍りつくような文字が書かれていたのだった。
異世界で豊富に存在している金を日本に持ち出すと大きな利益になるということが分かってきました。
一方で雅彦とヴィルマの間では想像の右斜め上の展開が起こっていました。
よもやの「プロポーズ」案件ですが、はてそんな事をいつしたんだっけ?と悩むことになります。
勘の良い読者の方はもうお分かりになっていることだと思いますが、
分からない方はバックナンバーにヒントがありますので是非読み返して下さい。
では次回をお楽しみに!
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