助けを乞う少女
少女の様子がただならぬことを察した比呂は、周りの目もあるのでその子を広場から外の人気のない場所に連れて行くことにした。
肩に軽く手を置き、親指でアチラに行こうと誘う比呂。
うん、と頷き比呂の後をゆっくりついていくアレクシア。
広場から出た所でアレクシアは比呂を呼び止めてスマホを貸してくれるようジェスチャーで伝えた。
スマホを受け取った彼女は歩きながらポンポンと打ち込んでいく。
すっかり使いこなしている様子を見て、こちらの子は皆 頭がいいのかな、と思うのだった。
アレクシアは比呂に是非見てもらいたいものがある、と伝えてきた。
比呂がうんと頷いたのを確認すると、スタスタと歩き始めた。
広場から奥に進むと村の中では比較的大きな建物があり、アレクシアはその建物の裏に比呂を案内した。
裏には倉庫と思われる小さな建物があり、アレクシアは鍵を取り出し、カンタンな造りの錠を開け、比呂を中に案内した。
比呂はポケットから懐中電灯を取り出し灯りをつけた。
中は倉庫になっているようで、左右にある棚には何やら道具や紙などが雑然と積まれていた。
アレクシアは倉庫の中に入っていき、おもむろに床の一部を手探りし始めたかと思うと、ガチャ!と床板を外し、下に抜ける階段を見せた。
そして比呂の方を一瞥して先に地下室へと降りていった。
比呂も流石に警戒しながら彼女のあとをついて行く。
地下室は大きさは六畳程度の小さな部屋だったのだが部屋の隅に置かれた布が被らされた木の箱が置いてあった。
「おいおい、マジかよ?」
普段、感情が薄いと言われる彼だったが、さすがに驚きの表情を隠しきれなかった。
布の下に隠されていたのは、大量の「金」であったからだ。
いや、違うな「金に見える物質」と言った方が適切なのかな?
そもそも見ただけで金かどうか分かるわけないし、ここには調べる方法もない。
調べるとなると日本に帰って調べてくれる所を探さねばならない。
比呂はそれらを手にとってしばらく観察していたが、それらは加工されている物は極端に少なくて、ほとんどは砂金の状態のものや、小石のような塊の物が多かった。
粒の形状も角が取れて丸みを帯びているものや、掘ったばかりのような角ばったものなど雑多な状態だった。
「これは何ですか?もしかしたら金ですか?」
試しにアレクシアに聞こうとした比呂であったが、ネットの圏外で翻訳も出来ないことに気づいた。
おいおい、ちょっと待てよ、金って日本だと1グラムでいくらで取引されていたっけ?
帰ったら早速、ネットで調べてみようと思ったが、アレクシアに試しに「ゴールド?」と聞いてみた。
するとアレクシアは「ヤー」とのことだった。
多分、通じたんだろう。(通じてます)
(後になって知ったのだが、独語で金はゴルトで英語と綴りは同じGOLDだった)
小さな塊を手にすると、それを指差して、さらに自分も指差して、「ヤーパン(日本)」?と言ってみたらアレクシアは頷いた。
比呂としてはこの小さな塊を日本に持ち帰りたいと伝えたつもりなんだが、通じたのだろう、多分。
上に上がろうぜ、とジェスチャーして、比呂とアレクシアは地下室から上の倉庫へと戻って行った。
ネットが繋がる場所まで戻りたかったので倉庫の鍵も元どおりかけてもらい、二人は広場とつながる道まで戻った。
ギリギリ電波が届いたので早速 比呂は先程の塊は金だったのかを聞いた。
やはり返事は金であるとのこと。
試しに金の相場を軽く調べてみたら、K24インゴット1グラム当たり、日本円ではなんと7200円もした。
ブッ!!と思わず吹き出す比呂。
さっき持ち出した塊はどう考えても500g程度はあるので仮に含有量が半分としてもさっきのかたまり一つで100万円程度もする。
さっき調べたサイトの下の方を見たら皇太子殿下の御成婚記念記念硬貨の買取が17万円となっているのでこの塊はその硬貨の何十倍も大きいのであながち100万円以上の価値があるとしてもおかしくないのだ。
「この金は一体どうやって集めたのか?」と聞くと「村の外の小川の中に砂金として結構採れる」とのことだった。
丸い粒が多かったのはそれが理由のようだった。
だが今手にしている物は明らかに掘り出した状態の物なので採取出来る場所が他にもあるのかもしれない。
アレクシアの話では、これらの金はこの村の特産品の一つで村ではこれらを行商人に売ることで食料品や雑貨、武器などを購入していたのだと言う。
だが、この村は隣国からの侵略に晒されるようになっていて、先日も襲撃があり村人に損害が出たのだという。
彼女は震える手で必死に覚えたてのキータイプを続けた。
あの金は全て持っていってもいいので、この村を守る武器が欲しい。
私たちをどうか助けて欲しい、そう涙を浮かべながら震える手でスマホの画面を比呂に見せるのであった。
…比呂は思った。
彼女は先程「村を守るための武器が欲しい」と言った「守って欲しい」ではなく。
つまり彼女たちは誰かに守ってもらうのではなく、自分で戦うことを選択しているのだ、と。
アレクシアからスマホを受け取った比呂はこう伝えた。
「わかった、できるだけの手を貸そう。ただアレを全てもらうことは出来ない」
するとそれを見たアレクシアの顔はサーッと青ざめて「あれで足りないのであれば、私を奴隷として売ってもいいし、自分を奴隷にしてくれても構わない」と彼に伝えてきた。
おいおいおい、誰も奴隷で売り飛ばしたりしないし要らないぞ!と思ったので再度、言い方を変えて伝えてみた。
「あそこにある金を全て貰うともらい過ぎだから、武器を用意するのに必要な分だけもらう。
とりあえずは今はこの金の塊一つあれば調べることが出来るのでコレを貸して下さい」
そう伝えた。
うんうん、分かったという感じで目をうるうるさせながら頷きまくる彼女を見て、比呂は優しく彼女の頭を撫でるのであった。
…………………………
その頃、雅彦は広場で多くの村人達に囲まれて質問ぜめに遭っていた。
質問が集中したのは彼らが乗ってきたあの鉄の荷車についてであった。
論より証拠だ、ということで彼はドアを開け、手を奥に突っ込んでシフトレバーのニュートラルを確認してからエンジンを掛けた。
「ガオッ!」という音と共に息を吹き返すエンジン。
彼のランクルは4.2リッター、直列6気筒ノンターボディーゼルであった。
ディーゼルエンジンの割に静かなアイドリング音であったが、彼はマフラーをやや太いステンレス製の物と交換していたのでアクセルを軽く煽ると「バオッ!!」という咆哮音が静かな村に響いた。
「やれやれ、下品なマフラーだな」とその様子を離れた所でエマと見ていた秀明はため息をついた。
雅彦の周囲には人だかりが出来ていて、クルマを興味深く遠巻きに離れて見ていた。
雅彦は自分のランクル73に乗り込み、火の周りをぐるっと廻ってみせた。
ゆっくり走らせるため、トランスファーレバーを操作してローレンジに入れて、ギアも一速に入れてギアを繋げたままで雅彦は車から降りた。
雅彦の車はゆっくり這うような使い方に特化しているため、トランスファー(副減速機)のギア比をノーマルの倍近く下げていた。
ノーマルだと人間が歩く程度の速度でゆっくり進むのだがこの車は亀が歩く速度程度の更にゆっくりとした走りが可能なのだ。
雅彦はドアを開け、ハンドルだけを外から操作して、その亀の這う速度で動くランクルの横を歩いていた。
これは四駆マニアの中では「四駆のお散歩」と呼ばれるお遊び芸の一つなのだが、ここでも効果は絶大で村の子供たちは大喜びでその這い回るランクルの後をついて行った。
ランクル73のギアをまたニュートラルに入れて車を停止させた雅彦は、今度は誰かをクルマに乗せて走ってやろうということで、助手席側のドアを開けて「乗りたい人はいる?」と翻訳して出てきたドイツ語を適当過ぎる発音で叫んだ。
すると、人混みの中からスッとヴィルマが出てきて、彼に手を差し出した。
後ろから、「えー?!」というような抗議の声が上がったのだが、彼女はキッ!と強烈に彼女たちを睨みつけ、圧倒的な迫力で周囲を黙らせた。
さらに雅彦に自分を乗せてくれるよう仕草で促すのであった。
あ…ああ、という感じでやや彼女の迫力に押された雅彦だが、彼女の手を取り、クルマへとエスコートするのであった。
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