楽しい異世界バーベキュー 後編
雅彦と比呂はそれぞれ手持ちのコンロを取り出していた。
兄の雅彦は親父から譲られたコールマンのツーバーナー、レギュラーガソリンモデル。
結構大きいし、モデルとしてもかなり古いのでアチコチ痛みは激しいのだが、定期的にパッキンなどは交換しているし、詰まりやすいレギュレーターは極細のワイヤーで掃除しているのでまだまだ現役だ。
比呂の方はホムセンなどでよく売られている販売価格3000円ほどの安物カセットコンロを使っていた。
ただ彼らしいのはそんな安物を魔改造していることだった。
カセットボンベは寒さに極端に弱く風にも弱いので、お手製のカセットボンベの保温ブースターとアルミの板を使った風除けを取り付けていた。
最初から高性能機を買えばいいのに安物を魔改造して楽しむのは彼らしさが出ている。
古いものを徹底してメンテして使う雅彦と、魔改造をすることを好む比呂、こんなところにも兄弟の違いがある。
雅彦は寸胴に水を注いでいき、その間に比呂は二つのコンロの着火準備をした。
水も現地のものは日本人に合わない可能性があるので、クルマに備え付けているポリタンクから注ぎ、比呂は兄貴のコンロをポンピングしてタンクの圧力を上げていた。
比呂がしていることを不思議そうに見ていた村人たちであったが、先端が延長されたライターで点火すると大きな歓声が上がったのだ。
こちらの世界では火を点けることも結構面倒で、種火がない場合は綿花やおがくずなどを用意して火打ち石で火を起こさねばならない。
それが何やら小さい道具をもって人差し指だけでカチカチするだけで先端から火が着くのだから驚くのも無理はなかった。
それだけではない、金属の薄い板で出来た箱の中央からは大きな火が立ち上り、しばらくすると安定した青い炎となるのだった。
普段みている炎の色は赤とかオレンジっぽい色で、青い炎など見たことがなかった。
数名の娘達は積極的に覗き込むのであった。
その上に水を張った寸胴を乗せた雅彦はもう一つの寸胴の用意を始める。
比呂はというと、ランクルから折りたたみ式の机とまな板、包丁などを取り出して肉や野菜をバシバシ切り始めた。
そうかと思うと少し離れた所で親父の秀明がドラム缶を縦に切ったお手製のバーベキュー用のコンロに大量の炭を投入して火を点け始めた。
彼はカセットボンベ二個を取り出しそれにバーナーをそれぞれ付けて点火して炭の中にバーナーのノズルを炭に直接突っ込んだ。
するとその場を離れ、比呂の切った食材を寸胴に洗いながら投入していく手伝いをする。
…こんな感じで三人は見事な連携作業でみるみる調理していく。
これは彼らが昔から何百回となく屋外でバーベキューやら鍋を作ってきたからこその手際の良さなのだが、日本人の中では彼らくらい屋外料理に慣れた人も多いだろうが、異世界の彼女たちからしてみるとまるで魔術でも見ているように思えた。
バーベキューコンロの炭の火が起きてきたのを確認した秀明は厚さ10mmの全長1.5m、幅40cmの長細い使い込まれた鉄板をランクルの荷台から「どっこいしょ!」と気合いを入れて取り出しコンロの上に乗せた。
「おー!!」と今日イチの歓声を上げる村の女性と子供たち。
この鉄板、元々ギャグで知り合いの鉄工所で作らせた物で柄が取り付けられており、ちゃんと剣の形になっていた。
秀明「それは鉄板というにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。」
そう、これこそ彼の「屋外料理の最終兵器」とも呼べる「ドラゴンスレイヤー(龍殺し)」と名付けたバーベキュー用鉄板であった。
(刃は付いてないよ)
以前はよくバーベキューで使って笑いを取っていたのだが、今回久しぶりに持ち出してきたのだった。
よく見ると剣の根元付近に平仮名で「どらごんすれいやー」と溶接機で書かれていた。
普段、あまり笑わない男であったが、このときはめずらしく「ふっふっふっふ…」と笑っていたのをエマは隣で見ていた。
あ、親父がまたアホなことやってると呆れる雅彦だった。
鉄板が熱せられると手早く油をひき、秀明は両手に真っ赤に焼き付け塗装を施した秀明専用トングを握り、二刀流で物凄い勢いで肉を焼き始めた。
比呂は村人に紙の小皿を配り、エ○ラ焼肉のたれを注いで回った。
ハシは使えないだろうから100均で大量に仕入れたフォークを配り、焼けた肉を次々とその皿の中に投じていった。
あちこちで歓声が上がり、言葉は分からないが明らかに喜んでいる反応が伝わってきた。
「やるなぁ、エ○ラ」などと言いながらさらに多くの肉と野菜を龍殺しの上に乗せていく秀明。
彼が時間を稼いでいる間、二つの寸胴はそれぞれ別のメニューが完成しようとしていた。
一つは「おでん」、もうひとつは「豚汁」であった。
おでんの方は筋など煮込むのに時間がかかるものは入れない代わりに、ソーセージ(ヴルスト)を入れていた。
スーパーなどでよく売られている半完成品をどちらも使っていたので、20分ほどでこちらも完成した。
早速、やや深めな紙皿を取り出し、村人たちに振舞っていった。
こちらも大好評で、あっという間に殆どの食材が完売となった。
辺りはすっかり暗くなってきていたので、日本人は折りたたみ椅子と電池ランタンを取り出して自分たち用に取っていた豚汁を食べた。
村の広場では村人たちが何やら歓迎の宴をしてくれるような雰囲気となっていて、広場の中央の一段高くなっている処に丸太を組んでキャンプファイヤーを始めた。
ここでも点火は親父がバーベキューで残った炭と着火剤などで一気に火を点け、村人たちの歓声を浴びていた。
それを見ていた雅彦は「やっと親父は昔のように笑うようになったな」と隣で残飯を漁っていた比呂に言った。
比呂も「ああ、良かったよな」と彼らしい短い感想を言うのだった。
飯テロ回、いかがでしたか?
中世の文化レベルの場所に日本の食材を持ち込むのも反則ですが、キャンプ用品や調理器具を持ち込むのも反則でしょう。
異世界モノでは料理ネタはよく見るのですが、キャンプ道具などを細かく扱ったものなどはあまり見たことがない。
アレなども経験を積んでいる人とそうでない人との間は物凄く差があります。
手際のいい人や使い込まれた道具などを見るのも楽しいものです。
また機会があれば「キャンプネタ」なども取り上げていきたいと思います。
次回をお楽しみに!
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