今日は楽しい異世界バーベキュー
「開拓」という言葉には色んな使い方がある。
文字通り森を切り開き、荒地を開墾することや、新たな事業や販売ルートを増やしたり、新たな技を生み出すことにも使える。
また拡大解釈すれば村や都市を大きくして、都市と都市の間の物流を増やして文明レベルを高めることにも使えるかもしれない。
なにかと便利な言葉である。
ただ良い意味ばかりではない。
開拓といって俺がまず連想するのはアメリカの西部開拓であるが、アメリカの開拓史は現地民を虐殺した負の歴史でもあるのだ。
だから今のアメリカ人に謝罪しろとか罪悪感を持てという気はさらさらないが、もし俺たちがこれから異世界でしようとすることがソレに近いことになるのだとしたら話は別だ。
我々は異世界に現代日本の技術や武器、商品を持ち込もうとしている。
これは少なからずあの世界に変化をもたらすだろう。
出来るからといってなんでもしていい訳じゃない。
四駆だって護岸している河原の堤防を走ったり、閉鎖している場所に入って荒らしていい訳がない。
そういう奴らが後を絶たなかったというのも、四駆業界が廃れた原因になってるんだぞ、と。
異世界も同じだ。
例えば俺が持っているベネリのM3ショットガンなんか、あの世界の軍事の根底を覆すようなチート兵器だろう。
お前たちも使うことは将来的にあるかもしれないが、くれぐれも「強い力をもつ者にはその力に応じた責任がある」ということを忘れないでもらいたい。
…再び異世界に向かう直前、秀明は二人の息子の前でそう言ったのだった。
いつもは茶化した態度の二人だがこの時は静かに頷くのだった。
秀明「さあ、行こうぜ、異世界のお嬢様方が待っているぞ」
そう言って自分のクルマに乗り込み、異世界へつながる小道へと入っていった。
実は先日、鉱山の事務所から延々とケーブルを伸ばし、異世界側でもネット接続が出来ることを確かめていた。
異世界側には防水加工が施されたWi-Fiルーターが箱に入れて地面に置かれていた。
まだまだケーブルには余裕があるのでやろうと思えば村の中まで伸ばせそうだが、ひとまずはアンテナをアナログな方法で延長して4mほどの棒の先まで伸ばしたのでこれだけでもかなりの距離でネットが使えるだろう。
二台のランクルの荷台には、先日雅彦が買い込んできた食材や寸胴、調理器具などが満載されていた。
雅彦はクルマから降りると運転席には比呂が乗り込んだ。
「ボクちゃん、俺の車を壊さないでね♩」
「うるさい、早く行けよ兄貴」
にやにや笑いながら軽口を叩き合う二人。
またしても全身スーツに着替えていた雅彦は勢いよく村に向けて丘を駆け下りて行った。
村の門の前には守衛の子たちがいて、雅彦の姿を見かけると彼の方に歩み寄って来た。
ショートカットの子は満面の笑顔で、ロングの子はツンとした表情は崩さないがやや照れた表情で彼を迎えた。
雅彦は予め調べておいたドイツ語で彼女たちに挨拶をし、さらに「驚かないで」と彼女たちに話しかけ、何となくだが意味が伝わったのを確認した。
雅彦は丘の上に向かって大きく手を振った。
すると二台のクルマが這うような遅い速度でジワジワと丘を下ってきたのだった。
初めて見る物体に驚く二人。
ロングの子は目をパチクリしたままその場で呆然と見上げていたが、ショートの子は村の中に大急ぎで戻り村人を呼んだ。
二台のランクルが丘から下りきったころには以前みたいに村の半分くらいの人が門に集まっていた。
その中には例の美人村長さんもいて、驚きのあまり硬直している彼女に対し雅彦は覚えたてのドイツ語で挨拶した。
「Guten Tag!」(こんにちは!)
そう言う雅彦に対し、えっ?!という表情を彼に向けた村長のエマは同じく「Guten Tag」と返すのであった。
他の村人たちもそれに倣いあちこちから「Guten Tag!」の連呼が起こった。
いや、それにしても今 目前まで来ている見慣れない車は一体なんなんだ?と村人たちはハッと我に返った。
変わった形の荷馬車に見えるが肝心の馬がない。
それなのにドロドロとおかしな音を立てながら動いてきている。
子供達はワッと駆け寄ろうとするが、大人たちはそれを全力で阻止した。
「Kaine Sorge!」(心配しないで)とこれまた覚えたてのドイツ語で言ってみたが、村人たちは、あ?ああ、という感じで非常にあたふたしていた。
まぁそうだよなぁ。
日本人でもこんなボコボコのランクルみたら絶句する人がいるもんなぁと苦笑する雅彦であったが、そうしている間に二台のランクルは人々の直前に着いた。
エンジンを切って車から降りる二人。
二人ともカジュアルな普段着であったが、秀明は念のためにショットガンを背負ったままで車から離れた。
秀明は村長に向けて比較的流暢に「Ich freue mich,Sie kennenzulernen」と話しかけた。
意味は「初めまして」の丁寧な言い回しだ。
村長は驚いた顔をしたが、すぐ気をとりなおし握手をしながら
「Emma.Shon,Sie kennenzulernen!」と返してきた。
意味はおそらく「私の名前はエマです、貴方に会えて嬉しいです」くらいの意味だろう。
秀明と比呂はそれぞれ名前を名乗って、一応村人からは歓迎された雰囲気になった。
秀明でわかる独語はこの程度だったが、まあなんとか円滑に挨拶が出来て良かったとホッとした。
村の中まで来てくださいと手招きされた日本人一行は、門をくぐって村の中の広場までゆっくりクルマを進めていった。
村人たちも二台のランクルを囲むように一緒に歩き、広場まで移動していた。
その後ろでは門を裏から閉じて大急ぎで広場に向かう二人の守衛の娘がいた。
広場に着いた雅彦はエマに向かって、「お近づきの印に是非、我々の世界の食事を振る舞いたい」と伝えた。
もちろん、アイフォンの翻訳機能をバリバリ使っていた。
二つ返事で、もちろんオーケーですと答えるエマ。
それを聞いて「あー、OKはこちらの世界でもOKなんだ」と変なことに納得する雅彦であった。
はしゃぎ回る子供達に囲まれて荷台から大量の調理器具や食材を運び出す三人。
どうすればいいのかさっぱり分からないといった表情で他の大人たちは少し離れた場所で準備する様子を見守っていたのだが、日本人たちが取り出す見たことがないキャンプ道具やコンロなどに目を白黒させていたのであった。
長くなってしまったので楽しい異世界バーベキューの様子は後編へと続きます。
異世界ネタと言えば欠かすことの出来ない和食テロ!(笑
バーベキューが和食なんか?というツッコミはなしで。
次回もお楽しみに!
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