従軍奴隷の投降(回想)
貴史は日本に帰るとその足で会社へと戻り、社長である秀二に今回の話を報告に行った。
異世界と日本とでは時差が約3時間ほどあるので、あちらで夜になっていても、こちらに帰ってくるとまだ夕方なので家に帰らず会社に戻ったのだ。
貴史「親父、異世界のこと、黙ってたな?!」
秀二「まあ、なんだ。いきなり異世界の話を切り出しても誰も信用してくれないだろ?
直接、行ってみないと分からないだろ。
ところで、どんな話になった?」
貴史「あぁ、どんな工事をするか打ち合わせを軽くしてきたぞ。
優先順位は、
一位、丘の道
二位、トイレと下水道
三位、プロパンガスの調理設備の設置
四位、日本から電気と水道をミッテレルネへ引く
って処かな?」
秀二「どれも一人でやるには手に余りそうだな、どうするんだ?」
貴史「基本的には現地人を雇用して手伝わせる方向でいこうと思っている。
だけど素人だし日本語も通じないから苦労しそうだよ。
やっぱり、何人かこの会社から職人を連れて行きたいんだけどいいかな?」
秀二「ふむ…、まあそうなるかな。
妻帯者中心に、口の硬そうな職人を二、三人ピックアップしておく」
貴史「…妻帯者中心?!」
秀二「ああ、あちらの世界は綺麗な女性が多かったろ?
そんな所にチャラチャラした年代の若い奴をまとめて送り出したら、どんなことを起こすか分かったもんじゃないからな。
ある程度、腰の座った年代の腕がある職人の方がいいだろ。
お前自身も気をつけろよ。
女に手を出すなとは言わん、だがプロジェクトを完遂させるという目的は忘れるなよ。
俺はこちらをなかなか離れられないから、最も信頼出来るお前を送り出しているんだ。
あちらで話は聞いてきただろう、このプロジェクトは小国の国家予算規模の金が動く巨大プロジェクトになる。
我々はあの世界で建築関係の仕事を一手に請ける企業となる。
お前はその最初の一手になるんだ、くれぐれも軽率な行動は取らないようにしてくれ」
このようにして、建築関係のプロジェクトは着々と動き始めた。
…………………………
ここで話は異世界に戻る。
前回のドラゴニアの東部戦区、第二軍、第七中隊による襲撃で正規兵約千人の部隊に連れてこられていたのは、20人の女性奴隷であった。
彼女たちのような立場の人間はドラゴニア国内にはそれこそ掃いて捨てるほどいて、今回のような遠征軍には正規兵たちの性の相手として一定数が割り当てられ、軍に同行させられるのが常であった。
ドラゴニアは四方八方の近隣諸国に対して拡大政策をとっているが、北方についてはほぼ完全に停滞していて、軍を進軍させてもそもそも略奪できる村が残っていなかった。
ドラゴニアの北部戦区と敵対している北方諸国連合は、ドラゴニアに対しては焦土作戦を必ずと言っていいほど実行していて、国境線を超えて進軍したとしても強力な防御力を誇る城を包囲しても数年にわたって攻め落とせず、その周囲の村も最初からなくなっているので、補給は後方から送ることに頼らざるを得なかった。
長期間の包囲をしていると、必ずと言っていいほど強烈な冬将軍に阻まれて撤退を余儀なくさせられるという状況がもう何十年と続いていたのであった。
最近になってやっと停戦したのだが、お陰で侵略軍を派遣する際には性奴隷を現地調達することができなかったので、中央でかき集めた奴隷を遠征先に送る仕組みが発達したのだった。
秀明や影山の奇襲により壊滅した第七中隊は撤退する際に20人の奴隷のうち7人は軍と共に逃げたのだが、13人は鎖に繋がれていた関係でその場に残され、運良く日本人たちに保護されていたのだ。
奴隷たちの中でリーダー格の女性の名前をSofiaと言った。
彼女達 性奴隷は軍の中ではDienstmädchen呼ばれていた。
日本語に直すと「メイド」や「女中」だ。
「メイド」と呼ばれていることからも分かる通り、性的なサービスのみが彼女たちの仕事ではなく、どちらかと言うと食事の用意や、兵士たちの身の回りの世話などがメインの仕事をさせられていて、オマケとして兵士の夜の相手をさせられるのであった。
また、彼女たちは無償で働かされていたわけではなく、かなり安いが客からはお金を取ってサービスをしていた。
これは彼女たちのモチベーションを上げる目的と、兵士たちの欲望を全て叶えてあげていたら、メイドたちの数はいくらあっても足りないからだ。
「メイド」の中には少ない給金から貯めたお金で自分自身を身請けして奴隷の身分から抜け出す者もいたのだが、そこまで順調に抜け出せる者はむしろ少数派で、大半の女性は歳をとって性の対象としての価値がなくなると、より条件の悪い労働に従事させられる職場に送られるのであった。
そのため、メイドたちは自分の身は自分で守らなければならないので、統率力のある女性を中心にグループを作り、そのグループ内でまとまり、少しでも自らの労働条件を良くさせるように工夫するのだった。
ゾフィアは年齢は39歳と、メイドとして働ける限界はそろそろ来そうだったのだが、話術の上手さや姐御肌な気質もあって、彼女の周りには自然と多くの若いメイドたちが集まってきていたのだ。
ドラゴニアの奴隷の大半は外国人で、ゾフィアたちも例に漏れず外国人であった。
この境遇はゲルハルトたち傭兵部隊とも似ていて、ゲルハルト率いる傭兵隊の大半は北方諸国連合出身者の子孫であったが、メイドの13人も同じ国の民族の子孫が大半であった。
だから、ゾフィアたちとエマたちビスマルク王国の女性をよく見比べてみると、身体的特徴が少し違った。
まず身長はゾフィアたちの方が平均して5センチほど高く、エマたちが150〜160センチが多いのに対して、ゾフィアたちは160〜165センチが占めていた。
また目の色もエマたちはグリーン系や明るいブラウン系が多いのに対して、ゾフィアたちは明るいブルーが多い。
秀明などはこれを見て「エマたちはどちらかと言うと東欧出身者の末裔で、ゾフィアたちは北欧出身者の末裔なんじゃないか?」と思った。
この世界はまだスピスカ=ノヴァの周辺しか行ったことがないのと、外部の話は傭兵たちから聞く程度でまだ詳しく分からないのだが、少しずつ情報は蓄積していたのだった。
ゾフィアたち13人は、たまたま本営で食事の用意をするために残されていたため、鎖に繋がれていたので逃げ遅れたわけだが、屋外で他の作業に従事していた奴隷は、第七中隊の隊長や幹部士官が逃げたときに他の兵士たちに紛れて逃げていった。
戦場に取り残されて不安がる他のメイドたちを励ましていたゾフィアも内心では「これから先、どういう扱いをされるのだろうか?」と不安に思っていた。
ゾフィアは従軍経験も長く、他のメイドに比べるといろいろ経験していたのだが、さすがに軍が崩壊して逃げ出して取り残されたことはなかったのだが、
「大丈夫、大人しくしておけば、こういう時も悪いようにはされないから」
と他のメイドに言い聞かせるのだった。
そこへ現れたのが、見慣れない鉄製の戦車と二人の見たことがない民族の男性二人であった。
彼らは先程まで、本営周辺を馬もないのに高速で走り回っていて、それを見た他のメイドたちも「何あれ?」と不安がっていた。
見慣れない乗り物から降りてきた二人の男は、彼女たちの民族としては小柄な男性で、目には濃い色のサングラスがかけられ(もちろん彼女たちはサングラスなど見たこともない)、一人は緑と黒の縞々模様、もう一人は濃い青色でカクカクした図形の模様の初めて見る服を着ていた。
そして手には湾曲した細身の剣が握られていて、見るからに外国人の兵士だと思われたのだ。
その男たちは言葉が通じないようで、聞き慣れない言葉で会話していたが、クルマに戻って何やらガチャガチャいわせていたかと思うと、先が鋭くとんがっている金属製のタガネとハンマーを持ち出してきた。
「ヒイイイィ?!」と怖がるメイドたちをなだめるような身振りをしたかと思ったら、その男性たちは次々とメイドたちを拘束していた鎖をそのタガネで断ち切っていった。
全てのメイドの拘束を解いた男達は何やら会話をしていたが、またクルマに戻り、ガサガサいう包みを開いて何から黒っぽい塊を手で割って、メイドたちに手渡しして配ったのだ。
「えっ?!」という感じで固まっているメイドたちに気が付いた男は、その黒い塊を口に入れて食べれる物だということをアピールした。
恐る恐る、その黒い塊を少しだけ食べてみるメイドたち。
すると不安に満ちていた顔は一気に明るくなり、口々に「何これ?甘い?!」「えっ、これ何でこんなに甘いの?」という声があちこちで上がった。
その様子を見た男性は思い出したかのようにサングラスを外して帽子の上に引っ掛け、ニッっと歯を見せるのであった。
秀明たちがメイドたちに渡した食べ物は板チョコだったのだが、この出来事があったからなのか、後々までチョコレートを一番の好物に挙げるメイドたちが多くいたのだった。
「ひとまず私たちに危害を加えるつもりはないみたいだね」
ゾフィアはまだ不安な様子をみせるメイドたちにこう言って、逃げ出すより、彼らに従っていた方がいいとメイドたちに言った。
男たちはメイドたちを解放した後も、何かを待っているようだった。
辺りは暗くなり、彼らはクルマから何やら取り出すとその物体はカチッという音とともに真っ白な光を放ち始めた。
あっけにとられるメイドたち。
その光る物体を手に持ち歩いていた青っぽいマダラな服をきている男は、メイドの中に数名、腕や脚に擦り傷を負っている人を見つけた。
彼はまたクルマに戻り、バッグみたいな物を取り出してくると、中から消毒液みたいな物を出してきて、負傷者に治療を施し始めた。
真っ白なガーゼと包帯で傷を覆った男に対し、通じないだろうが『ありがとう』と言うと、その男は軽く頷くのだった。
さらに1時間ほど待っていると、村のある方向から一台のクルマが煌々とした灯りをともしながら接近して来た。
二人の男は彼らを出迎えると、クルマの中から数名の男女が降りて来たのだった。
男達は聞き慣れない言葉を話し始め、村の女性たちと思われる女の子も彼らと同じ言葉を話していた。
真っ黒な服に身を包んだ女性はメイドたちの元に近付いてきて、「貴女たちはドラゴニア軍の従軍奴隷ですか?」と聞いてきた。
そこでゾフィアが立ち上がり、「はい、私たち13人は従軍奴隷です」と答えた。
その黒ずくめの女性は「私たちはスピスカ=ノヴァの住人です。
私たちは貴女がたを解放します。
このまま逃亡しても構いませんが、我らに投降するのであれば、身の安全は保証します。
どうしますか?」
と聞いてくるのだった。
ゾフィアはしばらく考えた後に「私たちは投降します。
何でもしますので、食事や寝る場所などを提供してもらえるのですか?」
と聞き返した。
黒ずくめの女性は、それを聞いて今さっき来た、少し大柄な黒っぽいマダラの服を着た男性に何やら相談したが、
「貴女がたの生活の保証はします。
ひとまず村で保護しますので、このクルマに可能な限り分乗して下さい」
と言ってきたのであった。
こうして二台のランクルに総勢20人も乗せて、戦場を横切って村へと向かうのであった。
林道に入ると多くのドラゴニア兵が亡くなっており、それらを抜けると見たこともないような巨大な鉄の塊が湯気を上げて止まっていた。
橋を渡ると一気に開けた場所に出て、岩などでできた壁に囲まれた村が左手に見えてきた。
こうしてその日は村の中の建物に案内され、見たこともない素材で出来た寝袋を支給されて寝ることになったのだ。
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