カレー教と生卵、そして異世界剣道
貴史「ここって日本語、通じないの?」
先程まで流暢な日本語を話していたエマたちが突然、聞き慣れない言葉を話し始めたので少々めんくらったのだ。
貴史がこの世界に来て、最初に会った異世界人はエマとアレクシアだったのだが、彼女たちはこのわずかな時間でかなり日本語が堪能になっていた。
彼女達が普段使っているのは、いわゆる「ドイツ語」なのだが、お陰でインターネットが繋がる場所では日本から持ち込んだ同時翻訳機が使えて言葉に関しての不便さはそれほどない。
だが、当初からこの世界にやって来ていた日本人三人組は、ドラゴニアの侵攻を撃退しないといけないということもあり、ほぼ休みなく動き続けたということもあり、現地語(ドイツ語)の習得はそれほど進んでいなかった。
その反面、エマやアレクシア、ヴィルマやイングリットという、日本人の誰かと常に行動を共にしていた人は日常会話程度なら日本語を使うことが出来ている人も出始めていた。
スピスカ=ノヴァの住人たちも夜遅くまでアレクシアを中心に日本語の勉強会を開いていたりしていて、かなり日本語が話せるようになっていた。
だが、日本人たちが居ない場所や、現地人同士の難しい内容の会話は、当然のことながら現地語が使われていたのであった。
戦いがひと段落して、夕食は宿屋の一階にある食堂で日本人と村人の約半数が一緒に食べるようになったのであるが、夕食後は食堂の一角にあるテーブルに日本人たちが集まり、酒などを飲みながら話し合いをするというのが定番となっていた。
村の女の子たちは半分に分かれて食事をとるわけだが、彼女たちの興味は毎回、色々と違うタイプの日本から持ち込まれてくる食事に向けられていた。
ある日、日本人の国民食といっても過言ではないカレーが出されたのであるが、これは最初はかなりの拒否反応があった。
匂いに関しては問題ないというか、逆に好評だったんだけど、盛り付けられて出てきた物を見て、大半の村人はドン引きしてしまった。
理由はカンタンで「見た目がモロにアレ」だったからだ。
日本人は配膳してもらえるのだが、村人たちは自分たちで食事を机に持ってこなければならない。
いつものように並んで盛り付けられた食事を取ろうととした処で混乱が発生した。
「何これ?見た目がまるで『ピー』じゃない?!」
「えー?!これはさすがに食べれない…」
このような娘たちが続出した為、急遽、別の物を用意してご飯を食べる人が出たのだった。
ちなみに日本人のソウルフード「ご飯」は当初から異世界でも大好評であった。
特にドラゴニアとの戦時中は、前線に張り付く傭兵隊のなかでオニギリは非常に好まれた。
なお、戦争も一時的に収まり、飯は自分たちか元奴隷だった女の子たちで自炊出来るようになってからは、主にパスタが彼らの主食となっている。
「カレーを食べたい!」と言い出したのは実は比呂で、その日は珍しく厨房に入り、カレーの作り方をカンタンに女の子たちに教えていた。
事前に比呂から「日本の国民食を食べさせてあげる」と聞かされていたアレクシアは喜んで手伝ったわけだが、煮込んだ玉ねぎやジャガイモなどにカレーのルーをぶち込んだあたりから村の女の子たちの顔色が変わってきた。
カレーを異世界へ導入することについては、秀明が「ヤバいかもよ」と言っていたのを思い出した。
日本人はカレーを見て「アレ」を連想して食欲がなくなる人はかなりレアだが、現代ヨーロッパでもカレーは滅多に見かけないのだそうだ。
以前、秀明が長期出張でヨーロッパの田舎を巡った時、どうしてもカレーが食べたくなるので日本からレトルトカレーを持ち込んで食べていたら、現地人がドン引きしてたという話をしていたことがある。
「多分、壮絶な抵抗があると思うけど頑張れよ」と言われていたので彼女たちの反応はある程度はあるだろうとは思っていたが、さすがに「これはさすがに食べれない」という反応までは想像できなかった。
「これはなんとしてでも、カレーをスピスカ=ノヴァの名物にしてやる!」
比呂はそこで、見た目をなんとかゴマかすことで、まず彼女たちに一口食べてもらい、匂いと味からカレーの魅力を体験してもらう戦術に変えた。
まず手始めに行ったのが、「カツカレー」を作ることであった。
今現在、厨房で使う火は薪を使うカマド以外は日本からわざわざ持ち込んできたガソリンを使うバーナーなのだが、試しにレシピ通り作ってみたらこれは割と好評であった。
「トンカツの魅力は見た目の抵抗感を駆逐する」ということは分かったが、これはプロパンガスなどを導入した後でないと村人全員に行き渡らないことが分かり却下。
次に、ぶち込む肉と野菜をわざと大きく切ることで、グチャグチャな見た目を少しでもスッキリするように工夫して試食してもらった。
だが、これも手間の割にあまり好評とは言えず却下。
そこで、比呂は作戦を根本から変えることにした。
まず彼が行ったのが、「似た食品で慣れさせて、最後にドロドロの日本風カレーに到達させよう」という物であった。
比呂は食品の発注で、業務用のドライカレーを大量に用意して、それをまず村他人たちに何度か振る舞った。
これは大好評で、この後も定期的に「ドライカレー食べたい」という要望が上がってくることになる。
次に比呂が行ったのが、「ドライカレー&スクランブルエッグ」という組み合わせであった。
スクランブルエッグというグチャグチャな食べ物に慣れてもらおうという作戦である。
こちらの世界では、そもそも「卵」自体がかなり希少なのだが、戦闘の終結とともに少しずつ村人や日本人たちも生活に余裕ができていたことから、こうして少しずつ手のかかる料理などを試してみることができ始めていたのだ。
このスクランブルエッグの評判は非常に良いものだった。
もちろん、評判の良い物を二つ組み合わせたドライカレー&スクランブルエッグの組み合わせも評判が悪くなるハズもなく大好評であった。
何度かこれらのメニューを出した後に比呂は万全の体制で「カレー&スクランブルエッグ」の組み合わせを出してみることにした。
最初はあれほど拒否反応をしていた村人たちも、これには大喝采を送った。
ただ、カレーは星の王○様なみに甘いカレーにしていたので、日本人にはやや不評であった。
そこで、村人用 超甘カレーとは別に、日本人用 そこそこ辛いカレーの二通りを用意して食べていた。
雅彦などはカレーに生卵をブチ込み、食べるのを好んでいたのだが、それを見た異世界人は驚愕することになる。
「生卵なんか食べると腹を壊すどころか場合によっては死ぬことすらある」からだ。
まぁ生卵は現代のヨーロッパでも食べてはいけない食材なんで、分からないでもないのだが、「カレー」の布教に成功した今となっては、今度は「生卵」を異世界でも布教を始めようと思う比呂なのであった。
さて、貴史がこちらの世界に初めて来た日の夕食はそのカレーが出されたのであったが、貴史も雅彦と同じように当然のように生卵をカレーにぶちこんで食べ始めた。
今回、話し合いによって運良く貴史の隣に座ることを許された女の子は、生卵をそのまま食べようとする雅彦や貴史に対してドン引きした。
ヴィルマあたりも目を丸くしていたが、こちらは「正妻」としてのプライドがあるのかどうか知らないが、多少のことでは驚かないよ、という雰囲気を醸し出していた。
…ただ、まださすがに生卵を食べる勇気はなかった。
比呂「あ、そうだ。ター君にもこれを渡しておくわ」
比呂が取り出したのは同時通訳機であった。
貴史「お、これがあればこちらの女の子とも話が出来るんだな」
比呂「使い方は簡単なんですぐ覚えられると思う。
ただ、ネットが繋がらない処では使えないから、暇があればこちらの世界の言葉を勉強した方がいいと思うよ」
貴史「やっぱりその方がいいか?
昔から体動かすのは得意なんだけど、頭を動かす方は苦手なんだよな」
比呂「隣に座ってる村の女の子たちなら日本語を学ぼうとしてくれてるので、なんとか話すことは出来るかもしれないけど、今は村の外にいる傭兵たちや元奴隷の子たちはまだ全く日本語を話せないので、彼らと話そうとするのなら、やっぱり現地語は必要さ」
雅彦「おう、せやで。
ター君とか、今でも剣道やってるんだろ?
あの傭兵たちと戦ってみたら面白いかもしれないで?
剣道の防具や竹刀をこちらに持ち込めば、アイツ達の訓練にも使えるかもしれないからな。
今度、防具を大量に買ってみるか?
なんなら、ター君が選んでくれたら助かるわ」
貴史は今でも秀明が昔いた道場に顔を出しているし、機動隊などに混じって稽古をしてたりもするので、実際かなり強い。
彼は親父である秀二に似ていて、正統派な剣術を使うので、秀明や影山氏みたいな「邪剣」は使わないのであった。
真正面から敵に向かい合い、技のキレとパワーと気迫で敵を圧倒するタイプである。
秀明や影山が「先鋒」や「次鋒」タイプとするなら、貴史は明らかに「大将」タイプであった。
一番後ろに控え、どんな敵と戦っても必ず勝つ、そんな安定感のある剣士なのだ。
実は秀明と影山でも少し、剣士としてのタイプは違う。
秀明は姑息な技は使うが、基本的には瞬発力とスピードで敵を倒す先鋒タイプ、影山は姑息な技とトリッキーな動きで相手を撹乱し、初見の相手に特に強い次鋒タイプだったのだ。
まあ、秀明と影山はそんな違いはあるが、現役の頃は同じ先鋒にいることが多かったので、ありとあらゆる大会では泥試合を繰り広げていたのだった。
秀明や影山と貴史とは歳が30近くも違うし、戦ったことはないのだが、もし歳が近かったとしたら秀明たちでは貴史に全く歯が立たなかったであろう。
現に貴史と極めてよく似たタイプの秀二に、秀明や影山は勝てなかったので、秀二の現役時より更に強い貴史はなおのこと秀明たちでは歯が立たないだろう。
貴史「へー、傭兵たちか。これは面白そうやな。
試しに防具を数セット買うから金ちょうだい?」
なかなかガメツイ貴史であった。
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