傭兵と元奴隷の女性たち
教会の中に作っている会議室での会談を終え、秀明、比呂、貴史たちは場所を宿屋の一階にある食堂へと移動した。
比呂「そろそろ兄貴もここへ帰って来ると思うぜ、と思ったらちょうど来たな!」
雅彦は最近入手したクリプテック迷彩(爬虫類迷彩)のタイフォンというタイプの戦闘服を上下身に着けていて、貴史を見つけて気安く声をかけてきた。
雅彦「う~い、ター君、こっちに来ると聞いていたけど早かったんだな!」
貴史「ウッス!久しぶりっス!
なんかすごい話になってますね」
雅彦「そだな、びっくりしただろ?
こっちの世界には金髪美女が多くて。
早速、作ってもらいたい設備が山のようにあるんで、頼むで〜」
傭兵隊の前ではなるべく威厳のある態度をしているのだが、彼らがいない所では相変わらず軽い男であった。
雅彦「それから、ここに足を踏み入れたということは、やってもらいたいことがあるんだよね。
俺の部下になってる傭兵たちにター君の仕事を手伝わせてノウハウを教えてやって欲しいんだよな。
今はまだ戦うことしか出来ない連中なんで女の子ばかりの村人と混ぜるのは危険なんだけど、少しずつでもいいから村の仕事を覚えさせて、同化させていきたいからね。
どうせ冬が終わるまで次の戦争はないだろうし、それまでにガッツリ村を近代化させておいて、オレら日本人にも快適な生活がこの村でも出来るようにしたいんだよねー」
貴史「村の中の工事で一番優先しないといけないのはなんだよ?」
雅彦「やっぱ、トイレかな?
食事の用意とか住居はまだなんとでもなるんだが、トイレばっかりはどうしようもないもんなー。
今更『ぼっとん便所』で耐えれるか?」
貴史「あー、そういうことね。
この村の水源はどうなってるんだ?」
雅彦「丘の向こうに小川が流れていたのは見た?
生活用水はあそこから汲み取ってきてるんだよ」
貴史「あー、それだと水道を引く工事から始めた方がいいかもな。
大型トラックとか通すのなら頑丈な物にしないといけないし、汚水の処理もどうするか決めないといけない。
今、汚物処理はどうしてるんだ?」
雅彦「村の南端あたりに共同トイレがあって、そこに汚物を入れたら溝を通して南の崖のある方に流れる構造になってる」
貴史「なら、水道をそこまでなんとか引っ張ってきて、共同トイレをガッツリ新築して、綺麗な水洗トイレを作ればいいんだろ?
今まで使っていた個別の家から集めてきていた汚物を投げ入れる処には強制排気ファンを取り付けて、さらに水を小川から直接流し続けてやれば、そこそこ綺麗になるだろ。
個別の家の水洗化は後回しでいいだろ?
人手が足りないわ」
雅彦「オッケー、とりあえずはそれでいいわ。
俺は村の東にある林道の先の防衛線でしばらく防御陣地の構築を傭兵隊を使ってあれこれしないといけないから、よろしく頼むよ。
村での工事は比呂や親父、村長のエマさんとかに相談してもらえればいいよ。
ゆくゆくは、この村を一大商業都市へと変貌させていきたいし、観光客も呼び込めるようにしたいんだよね。
この村の風情って最高じゃん?
中世ヨーロッパの街並みを再現したテーマパークとか、古い街並みがそこそこ残っている街はあるかもしれないけど、人が実際住んでる中世の街って観光地としてはとんでもない価値があるんだよね。
今はまだ無理だとしても、将来的にあちらの世界の人をこの異世界に招待するようになったとき、この街並みは大きな魅力になると思うんだよね。
あとはそこそこ中身を近代化させてやればいいんじゃないかな?
こちらの世界の価値って鉱物資源だけじゃないんだよな。
川北電機とかは軍事技術の開発にここを使おうとしてる。
他国の偵察衛星やスパイなどがいないこの世界には大きな魅力があるというわけさ。
また、このスピスカ=ノヴァの周辺だけでなく、この村が所属しているビスマルク王国ってのは金などの鉱物資源の産地だと言うし、調査すれば石油とかレアメタルとかの資源も出てくる可能性が高いよね。
また、うちと絶賛戦争中のドラゴニアという国には巨大な穀物の産地があったり、馬などの家畜を育てる牧草地や大草原とかもある。
戦争してるけど、それでも交易はできる可能性があると思うんだよね。
また、その国には奴隷達が大量にいるそうなんで、それらの人たちを解放して、うちの住人になってもらえば人手不足も解消されると思うよ。
日本から何人か連れてくるかどうかは任せるけど、将来的にはこちらの人にも仕事を教えてあげて欲しい。
どう?やってみるか?」
貴史としては断る理由は全くなかった。
そこへ食堂にヴィルマとイングリットが入ってきた。
食堂の奥では村の女性たちも出来た食事を運び、テーブルの上に並べ始めた。
さっき会議室に居た時いた村長のエマや娘のアレクシアも美女であったが、ここにいる村人たちも軒並み日本人基準では美女と言っていい女性が揃っていた。
そういうばエマやアレクシアは我々の世界でもよくみるビジネススーツを着ていたが、さっき入ってきた女性二人は全身真っ黒の戦闘服を着ている以外は、中世ヨーロッパで着ていたであろう民族衣装を着込んでいた。
貴史「マジで中世ヨーロッパそのままじゃん!テンション上がるわー!!」
とバカ騒ぎを始めた。
彼女達も「あ、新しい日本人だ。それもかなり若い」ということもあり、ウインクしたり、ニッコリと微笑んだりしてきた。
村の女性たちからしてみると、元々村にいた男性のほとんどは殺されてしまっていたので、多くの女性たちは「特に結婚適齢期の男性」を求めていた。
そんな時、「ニホンジン」なる異世界人が現れてきて、そのうちの一人(雅彦のことね)がヴィルマとイングリットに求婚する事件が起こった。
ヒデアキという日本人最年長の渋い男性は、エマがほぼ常時ベッタリ張り付いているし、何よりも狩人で特殊作戦隊のマルレーネが彼を強烈に慕っているという噂が流れていたので、村の女性たちもヒデアキに接するときは腫れ物に触る感じで非常に気をつかっていたのだ。
またヒロと呼ばれている若いイケメンは、そもそも女性に興味を示さないのか、挨拶しても色目を使ってもあまり反応がない。
それにこれまたアレクシアが常時ベッタリと張り付いているので、気軽に誘惑することが困難だった。
そんな中で現れたカゲヤマというニホンジンは、ヒデアキと同じ歳ということで、若い男性を好む女性以外には絶大な人気を獲得していた。
(本人は全く気が付いてないが)
また、最近マサヒコに投降し、配下となった傭兵部隊の面々は、食事どきを除きあまり接触する機会がない。
それに見るからに粗暴な雰囲気と凶悪な風貌の男たちが多いので、村の女性たちからは恐れられているということもあった。
そんな時、現れたのが貴史であった。
ニホンジンでしかも見るからに若い。
しかもマサヒコやヒロよりも長身でガッチリした体型。
しかも日焼けして声も低く、傭兵に混ざっても体格的には負けそうにない。
どちらかというと以前村に大勢いた男性にタイプが似ている。
ニホンジンと結ばれるということは、夢の玉の輿に乗ることが確実でいい生活が送れるようになることは間違いない!ということが常識となりつつあるこの世界で、貴史の存在は「サメの泳ぎ回る海に投げ込まれた羊」のようなものであった。
(閑話休題)
この頃になると村の中で食事をとっていた傭兵たちは、村の中央にある円形の広場でまとまって食事をとることが習慣となっていた。
彼らは村の女性たちが用意してくれる食事以外にも、自炊して飯を作ることが多かったのであるが、野宿が生活の基本である彼らは意外と食事の用意を手早く行うことができた。
彼らが好んで食べたのが、肉料理、チーズ、それとパスタだった。
彼らは毎回、日本から持ち込まれた冷凍肉などを炭で焼き、もはや彼らの標準調味料と化した「焼き肉のタレ」をあらゆる物にぶっかけて食べていた。
パスタでは特にミートソースを好む隊員が多く、一日で百キロ単位のパスタとソースと酒が消費されていたのだった。
今日も広場でいつものように火を起こしてバーベキューやパスタを茹でる作業が始まり、そこにビールやウォッカ、焼酎や日本酒などが加わり、宴会が始まるのであった。
前回の戦闘で保護した元奴隷の女性たちは当初は食堂で雅彦や村の女性たちと夕飯をとることにしていたのだが、彼女たちの希望でバイキング丸出しの傭兵隊たちと食事をとることになった。
この日も無骨で粗暴な雰囲気はあるが、まぁそこそこ優しい傭兵たちに混ざり、楽しい食事をとっていた。
秀明などはこの風景を見て「うーむ、あの無骨を絵に描いたような傭兵たちを上手く手懐けるとは、あの女の子たちも只者ではないなぁ」などと感想を漏らしていたことがある。
考えてみたらこれは当たり前のことで、奴隷として長年生きていた彼女たちは、周囲の空気を読むことに非常に長けていた。
日本人がこの村ではどういう扱いをされているかということは瞬時に見抜いていて、その日本人たちからも村の女性たちは大事にされているということを理解していた彼女たちは、この村でこれからも住んでいくには、自分たちの足場をキッチリと築いていくことを選んだのだ。
そのためには村の女性たちを敵に回すような真似はしないようにしようということにした。
また新しく加わったという異民族の傭兵たちが村の生活に溶け込んでいくための手助けを自分たちがすれば、自ずと自分たちも、傭兵たちも自然な形で村へ溶け込んでいけると判断したのだった。
肝の座った彼女たちはそう決めると行動が早かった。
朝は村の女性たちに負けないほど早くから目覚めて、村の仕事の手伝いを始め、彼女たちが日本語を学ぶ時間を捻出する手助けを始めた。
これまで村の女性や子供達がやっていた水汲みやトイレの掃除、その他もろもろの作業も積極的にかって出た。
そして夜はこのようにして、傭兵たちをいわば「接待」して暴動などが起こらないよう気をつけてくれている。
戦闘終了から一週間も経たないうちに彼女達はすっかり村の中で自分たちの足場を整えようとしていた。
これは人生経験豊富な秀明にとっても意外な出来事であった。
「彼女たちは想像していたより遥かに頭がいいし、容貌も良い。これは案外化けるかもな?」
そんな風に思う秀明であった。
一方、食堂では続々と村の女性たちや子供たちなどが集まってきていた。
全ての人が入ろうとすると溢れてしまうので夕飯は半々に分かれてとるようにしているのだが、それでもほぼ満席になるのであった。
雅彦の両サイドには当たり前のようにさっき入ってきたヴィルマとイングリットが座り、比呂の横にはアレクシア、秀明の隣にはエマが座った。
少し離れて座っていた貴史の横はまたまた空いていたので、村の女性たちが奪い合いを始めた。
それを見かねたエマが「貴女たち!何してるの?」と怒り始め、彼女たちを連れて建物の外に出て行った。
しばらくして戻ってくると、シレッと女性二人が貴史の横に座わり、日本人たちに次々と食事やお酒が出されていった。
全員が席に座ると、エマが食事前のお祈りをして、秀明たち日本人もそれに合わせて手を合わせてお祈りしていた。
どうしたらいいか分からない貴史はキョトンとしていたが、ここでやっと貴史はあることに気がついた。
「えっ?ここって日本語は通じないの?」
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