小畑貴史の引き込みと村の近代化
秀明によってスピスカ=ノヴァに連れてこられた貴史は教会の中にある応接間を改造した会議室に案内された。
中で待っていたのは、村長のエマ、エマの娘のアレクシア、そして比呂であった。
貴史「ヒロ、久しぶりだな!」
貴史は比呂の隣に座っているエマのアレクシアの方をチラチラ見ながら言った。
比呂「まぁ、座って!アレクシア、悪いけど彼にコーヒーを入れてやってもらえね?」
さっき、日本で飲んだとは言えなかったので思わず「お願いします」と言ってしまう貴史。
秀明「エマさん、アレクシア、紹介します。
俺からしてみると甥っ子の貴史と言います。
先日、こちらにやって来ていた俺の弟の秀二の長男の小畑 貴史と言います」
貴史「よ、よろしくお願いします!」
貴史は作業着の胸ポケットに入れていた名刺入れから二枚の名刺を取り出し、エマとアレクシアに渡した。
エマ「この村の村長をしています、エマと申します。よろしくお願いします」
アレクシア「アレクシアと言います、よろしくお願いします」
二人は名刺を受け取り、ペコリとお辞儀をした。
何気に流暢な日本語を話しているが、もちろん日本語を学び始めてまだ二ヶ月と経っていない。
それだけ彼女たちが優秀な頭脳を持っているということなのだ。
そのままアレクシアは隣の部屋にコーヒーをいれに行ってしまった。
貴史はスッと比呂の隣に移動し、耳打ちをしながら小声で言った。
貴史「なんだよ、ここ。美人の巣窟か?」
比呂「まあまあター君、座ってよ。
ゆっくり説明するからさ。
まず、親父、どこまで説明してるの?また、俺らの時みたいに事前説明せず、いきなり連れてきたんじゃないだろうな?」
秀明「あ、いや、異世界だという話は黙って連れてきた。
いきなり異世界だとか話を切り出しても頭おかしいとしか思われないからなぁ。
実際、その目で見てもらった方が早いでしょ。
…ということで、ホイ、これ持っておいてくれ」
秀明が取り出して渡したのは日本刀であった。
貴史「これ…、本物の日本刀か?」
秀明「俺の道場の後輩なら居合いとかは多少なりとも訓練したことあるんじゃないか?
この世界はかなり物騒なんで帯刀しておいてくれ。
日本に帰ってコレを持ち歩いていたら、違法行為になるから鉱山の事務所に保管庫用意しとくから、そこに置いておくか、丘の上の俺のトレーラーハウスに入れて帰ってくれ」
貴史「これは俺にくれるの?ヤベッ、マジでテンション上がるわ!」
貴史は手慣れた様子で鞘から抜いてみせ、少し離れた処に行って手に馴染むか、少しだけ素振りをしてみた。
貴史「これは、マジで実戦用の日本刀だね!?
居合刀なら持ったことあるけど、これは刀身が厚いし、かなり重たいね。
本物は存在感が凄いなぁ…」
しばらく感動に浸っている貴史に対して秀明は言った。
秀明「タカシ、ここでの秘密はその日本刀にかけて守ると誓ってくれ。
もし、ここの秘密を誰かに漏らすようなことがあれば、俺はお前を殺さないといけないかもしれない」
秀明は後ろに置いてあったライフル銃を取り出し、ガチャっとレバー操作して、チャンバーに弾を送り込んだ。
珍しく鬼気迫る雰囲気を醸し出す秀明の気迫に押された貴史はゴクリと生唾を飲み込んだ。
秀明「この世界は、おそらく俺ら一族に行く末を任されているんじゃないかと俺は思っているんだ。
だから、あの「門」を自由にくぐることが出来るのは、俺ら川北一族だけに限られているようなんだよ。
おそらく、この世界を初めて見つけたのは俺の爺さん、つまり川北財閥の初代会長でお前にとっては曾祖父さんにあたる男だ。
この世界には大量の金や、その他多くの鉱物資源などが眠っている。
爺さんはおそらくここで摂れる金を利用して日本を代表する川北財閥の基礎を作り上げたんじゃないかな?
残念ながらこれは俺の勝手な推理かもしれないんだが、おそらくはそんなに間違ってはいないと思う。
俺ら一族はなんらかの神との『契約』でこの世界に自由に来ることが出来る。
この超常現象を説明しようとすると、そうでもしないと説明できないんだ。
俺らはこの世界を守る代わりに、富を日本に持ち出して川北グループ全体に還元する。
それで得られた力を更にこの世界を良くするために使う。
それを率いているのが雅彦、つまりお前の従兄弟だ」
貴史「その雅彦兄はどこ?」
比呂「もう少ししたら村に帰ってくるよ。
飯でも食べながら打ち合わせの続きをしよう」
アレクシアに出されたコーヒーをすすり、貴史は辺りを見回しながら言った。
貴史「それにしても話が急展開過ぎて理解出来ないよ。
で、この世界ってカンタンに言うとどんなの?」
比呂「現地の言葉ではMITTELERNEと呼ばれている世界だ。
英語だとMIDDLE EARTH、日本語だと『中つ国』って感じかな。
今のところ、魔法の存在は確認出来てないが、ドラゴンとかゴーレムみたいな大型モンスターは存在しているらしい。
親父たちはワイバーンという翼長18メートル程度の翼竜は見たそうだね、俺はまだ見てないけど。
この村はスピスカ=ノヴァと呼ばれていて、ビスマルク王国って処に所属しているらしい。
けど、すぐ近くまでお隣の軍事大国ドラゴニアが攻めてきているせいで、ビスマルク王国との交流は途絶えている状態だ。
先日もそのドラゴニアが一軍をこの村に差し向けてきていて撃退したばかりだ。
我々の味方は日本人も含めて100人ほど、敵は軽く10万人はいると思った方がいい」
貴史「おいおい、敵は10万人とかだって?
まともに攻められたらマズいじゃん?」
比呂「こちらに進出してきている地方軍が10万というだけなので、もっと多いだろうな。
ただ、望みがない訳じゃない。
こちらの世界の文明レベルは千年ほど前のヨーロッパ並みなので、火薬はおろか内燃機関もない。
それに、俺らの世界で蓄積してきた戦史の研究の歴史もない。
あまり大っぴらに出来ないから銃や火薬類や近代兵器の持ち込みは無理だけど、それでもあり合わせの物と知識と技術でこの劣勢はなんとか挽回できると思ってる。
現に親父はランクル一台で敵軍の後方に回り込んで敵将の首を刈ってきたしね」
秀明「あぁ、死にものぐるいだったけどな」
比呂「戦いが終わってから見に行ってビックリしたわ。
親父と影山さんの二人で敵の騎馬兵を百騎以上、屍にして転がしていたんだからねぇ」
秀明「まぁ、飛び道具も使ったけどな」
比呂「油断はできないけど、現有戦力でも何とかなる可能性があるわけだ」
貴史「ヒロは戦ったのか?」
比呂「今回、俺はほとんど直接戦ってないよ。
最初の襲撃ではクルマで体当たりしたり、ライフルで数名倒したけどね。
今回は後方で偵察してたよ。
最後の最後に何回か敵兵をなぐっただけだね」
貴史「後方で偵察?」
比呂「ああ、川北電機から軍用の偵察ドローンを供与されたから、それを使って広範囲に偵察活動してたよ。
次に飛ばすのは明日の朝なんで、飛ばす処を見ればいいよ」
貴史「軍用ドローン?自衛隊でも使っているってこと?」
比呂「みたいだね、主に海上の艦船用に作られているらしく、敵レーダーに捕まらないように海上スレスレを自動的に飛ばせられたり、無反動砲も装備出来るみたいなんで、海賊狩りにでも使ってるんじゃないかな?
よく知らんけど」
貴史「米軍のプレデターとかリーパー、だっけ?
あんな感じの飛行機型?」
比呂「いや、プロペラが四枚付いてる垂直離着陸機だよ。
だから滑走路が要らないので、そこらへんからでも離発着できるんだよ。
iPadみたいなタブレット端末ひとつで簡単に操作できるってのはマジですごいよ」
貴史「へ~、いろいろあるんだな。
戦いがあるってのは分かったよ、で、次の戦いはいつになりそうなの?」
比呂「もう冬が来そうなので、おそらく次の春まで本格的な侵攻はないと思うよ。
期間はおそらく、100日って処かな。
そこまではこの村の開発に専念できそうだよ」
貴史「わかった、話はまだまだ聞きたいことだらけだけど、ひとまず俺の仕事内容を聞こうか。
何から手を付ければいい?」
秀明「日本からやってきたとき、最初にたどり着いた丘があっただろ?
まずはあの丘から10トントラックや重機でも降りれるような道を作って欲しい。
ただ、日本から電線だとかLANケーブルなども引っ張って村などに引っ張るから、そのラインは道路に溝をあらかじめ掘っておいてほしい。
路面はアスファルトが望ましいが、たちまち無理ならコンクリートでもいいし、未舗装でしばらく運用してもいい。
今の状態だと草地でそこそこの傾斜がある斜面になっているので、二駆のトラックだと降りれても登れないんだよな。
だから丘をグルリと回り込む形の道が欲しい」
貴史「うーむ、舗装工事は俺らの専門外なんで別の業者に任せた方がいいかもな。
俺でもユンボ程度なら多少は使えるけど、専門の業者にやらせた方が効率いいだろ?」
秀明「それならば、機密保護の体制を整える必要があるな。
それはコチラでなんとかするわ。
うかつに情報を漏らしたら、ウチの傭兵部隊が刺客としてもれなくお届けされるようにすればいいので雅彦に編制をお願いするわ」
貴史「なんだよ、その傭兵部隊って?」
秀明「ああ、雅彦に忠誠を誓っている、ドラゴニア軍の元傭兵部隊で、何年も戦場を戦い続けてきた戦闘のプロたちだよ。
コチラの世界の住人は、おそらくだが千年前くらいにドイツか北欧辺りから流れ着いた人の子孫じゃないかと思ってるんだけど、傭兵隊の連中は見たらわかるけど、バイキングそのものの外観をした猛者たちだぜ。
まあ、貴史は剣道をまだ現役でやっているくらいだから舐められることはなさそうだけど、腕の太さが俺の太ももくらいあるヤツがゴロゴロしているから喧嘩売らない方がいいかもしれないな(笑)」
貴史「マジか?そりゃ、剣道をコチラの世界にも持ち込んで、ぜひそいつらと手合わせしてもらいたいな!」
あ、そうだった。コイツはいまだに機動隊員相手に稽古つけてもらっている現役の剣士だった。
全国大会の上位入賞の常連だったそうで、ここら辺も親父の秀二に似ているんだった。
貴史「そういえば予算はどのくらい使えるんだ?
そこら辺の話は、俺の親父と話はついてるのか?」
秀明「予算は基本的に上限なし、と思っておいてくれたらいい。
だが、条件がある。
この村が所有していた金塊はぶっちゃけ20億円分くらいにはなるのだが、戦争もしてるし村の住民の食料支援も日本から行っている状態なんで、20億円なんて端金はあっという間に溶けてしまうだろう。
だが、村の近くの金鉱にはまだ大量の金が眠っているらしいのと、ビスマルク王国の他の都市との交易路を復活させることが出来たら、通貨としての金貨も手に入るので一刻も早く、敵を退けて交易路を再開させたいと思っているんだ。
そうなれば、正に予算は無限となるかもしれないな」
比呂「今の処、最優先でしてもらいたい工事は、『丘の道路工事』の他にもこの村の建物を近代化させる工事や、浄化槽の設置、公共トイレの設置、調理器具の設置、日本からの大規模送電網の設置、などなどかな。
とりあえずやりたいことはてんこ盛りって感じかな?
ター君だけでは手が足りないだろうね?」
まったくその通りだ。
こりゃ帰って親父に他の社員もこちらのプロジェクトに参加させるようにしないといけないな、と思う貴史であった。
※ブックマークへの追加や評価をした上で読み進めていただけましたら幸いです。
評価は下の「☆☆☆☆☆」から入れることができます。
また、感想も書いて頂けましたら、とても著者は喜びます(^^)
高評価、悪評、なんでも構いません。
評価や感想は今後の励みとなります。
是非とも宜しくお願いします!




