比呂のモチベーション
では主人公の源雅彦と、親父の小畑秀明の二人の過去について語ったので、もう一人の登場人物についても語ろうと思う。
源 比呂 20歳。
彼が産まれた頃はまだ両親の仲が良かった。
彼の最も古い記憶は秀明の運転するランクル70の後部座席に乗り、悪路を文字通りガリガリ走っている所と、クルマが体感的には真上を向いて止まっていて、運転席の前面に広がる雲ひとつ無い風景だった。
ある時はクルマがほぼ完全に横倒しになっているのにそれでもクルマは前に進もうとしている処とか、クルマの半分くらいの段差を下っていって、ジェットコースターなんか目じゃ無いような経験をしていた。
彼には5歳上の兄がいて、どこに行くのも常に彼の後ろを付いて行っていた。
普通、男の兄弟というとよく喧嘩したりするものだが、兄の性格が優しかったり、年の差が大きいこともあり喧嘩をしたことが全くなかった。
子供の頃は幸せな家庭で育っていたと思う。
それが突然変わったのは彼が小学生だった頃だ。
突然知らない街に連れていかれ、当然それまで仲良くしていた友人達とも別れさせられた。
引っ越した家では顔は知っているが親父ではない男が当たり前の顔をして母親と兄の雅彦と自分と一緒に暮らすようになった。
その男は比呂を可愛がってくれた。
また転校した先の学校でもなんとなく友人は出来て、女の子とも付き合うようになった、といっても彼が能動的に女の子に告白して付き合うようになったのではなく、気がつくと女の子が常に自分の隣にいたのだった。
誰かを特別好きになるということはなく、勝手に隣に来ては勝手に去っていく、そういう事が続いた。
そんなある日、突然兄貴が家を出ていった。
例の男の家からさらに引っ越して小さなアパートに移り住んだのもその頃だった。
家には自分と母親の二人が残された。
昔は優しかったイメージのある母親だったが、この頃から極端にイライラすることが多くなり家でもあまり会話することがなく、自分一人の趣味に没頭することが多くなった。
彼が興味をもったのは、化学、インターネット、陸上競技の3つだった。
特に陸上競技では短距離走に才能があって、県大会で上位入賞する位に成績を残すようになっていった。
ただこの頃から友人や親、先生達からは感情が薄いと言われるようになった。
正直、周りの人が何をしても気にならなかった。
友人や付き合っている娘はいるが深く付き合って心を開くことはなかった。
そんなある日、家を出ていた兄から急に連絡があった。
そして親父が乗っていたランクルとよく似たクルマで迎えに来た兄貴と一緒に向かった先は小さかった頃に確かによく来ていた親父の山だった。
それからはしょっちゅう三人で遊ぶようになり、昔のように三人でランクルに乗って親父の鉱山の難所を攻めたりするようになった。
ただ昔と違うのは、昔自分が座っていた親父のナナマルの後部座席はなくなっていて、彼は親父のランクルの助手席に座るようになっていたことだった。
その助手席は元々は兄貴が独占していて、彼が乗ったことがない場所であった。
家に帰ってからも親父とオンラインゲームで遊んだり、兄貴と会って遊んだりするようになった、もちろん母親には内緒で。
高校生活最後の大会で親父が初めて自分が走っている処を見に来てくれた。
感情が薄いと言われる自分だがそんなことはない。
嬉しい時は嬉しいのだ。
就職して地元の工場で働くようになっても走ることは続けている。
昔は誰も自分が走る処を観てくれなかったが、今は昔一緒に過ごした親父が見てくれている、背中を追った兄貴もいる。
そして更に今は、兄貴に連れられてゲームの世界で見たことがあるような異世界が自分の目前には広がっている。
白黒に見えていた風景が彼らといれば極彩色に輝いて見える。
どこまでも彼らを追っていきたい、そう思う比呂であった。
……………………………
結局、LANケーブルで長さが百メートルもあるものは電器屋では手に入らなかったので三本ほどケーブルを繋いで異世界に伸ばしてみることにした。
問題はコネクターの防水くらいかな?と思いながら二人が待つ親父の鉱山へと続く山道を飛ばすのであった。
いかがだったでしょうか。
正統派2枚目イケメン比呂の生い立ちと彼のモチベーションのもとになる出来事をなるべく簡単にまとめてみました。
次回からはまた「三人による異世界攻略」の続きを描こうと思います。
お楽しみに!
「面白かった!」「続きはどうなるんだ?」と思われた方はぜひ、ブックマークをお願いします!
あなたのブックマークと評価がわたしの執筆の活力の素です!
評価は下の「☆☆☆☆☆」から入れることができます。
また、感想も書いて頂けましたら、とても著者は喜びます(^^)
高評価、悪評、なんでも構いません。
評価や感想は今後の励みとなります。
是非とも宜しくお願いします!




